第零話「時代の変化」
少女は、底の知れない謎の空間へと吸い込まれていく。
視界の先、どんどん離れていく少年の姿が、彼女の瞳に焼き付いていた。
「待って――!」
必死に声を張り上げる。しかし、少年が振り返ることはなかった。
「生き延びてくれ」
その言葉を最後に、少女の意識は深い闇へと沈んだ。
一方、その少年は――とある「男」と対峙していた。
どちらの身体も、すでに限界を迎えた満身創痍。
男は不敵に笑い、血を吐き捨てる。
「残ったのはお前と私だけだ」
少年は静かに、男を見据えた。
「結構お前とは仲良かったつもりなんだよ、同じ立場に立つ者同士でな。グレイ、残念だ」
――これが終わりの始まりの光景。
ここから語られるのは、星が辿った流転の歴史である。
西暦2364年。地底を支配していた「古の賢者」率いる軍勢が日本に侵攻。それを迎え撃ったのは、日本に住んでいた現人神――「星神」と呼ばれる7人の存在だった。
激闘の末、両勢力は相打ちとなり戦争は終結する。しかし、代償は大きかった。日本の土地は完全に崩壊し、その余波は隣国へも波及。それまで隠されていた「妖」や「神」の存在が、人類の知るところとなったのである。
その後、世界各地で発見された謎の「黒い結晶」と「白い結晶」。
人類が100年の歳月をかけて解析したそれは、かつての戦場に満ちていた未知のエネルギーを秘めていた。人はそれを『魔力』と定義する。
元々人間に備わっていた微弱な魔力(かつて霊感と呼ばれたもの)は、戦争を境に爆発的な進化を遂げた。いつしか、魔力を持たない人間の方が少数派になるほどに。
西暦2579年、人類は魔力を用いて不可思議な現象を起こすことに成功。のちに『魔法』と呼ばれる技術の誕生である。この大いなる力が、完全に崩壊していた日本をわずか300年で復興へと導いた。
西暦3042年。魔法は日常の学問となり、一般市民が洗濯などの家事に当たり前のように使う時代が到来した。かつての結晶は、世界の極一部の特権階級が握り、圧倒的な権威の象徴となっている。
だが、光が強まれば、影もまた深くなる。
あの戦争以降、世界中で不自然な変死体や行方不明者が急増し、今なおその数は増え続けていた。人の力が強くなり、人外からの興味の対象となってしまった。
強者はこれに対抗すべく、『妖擊士団』を設立。世界の裏側で、一般市民に牙を剥く闇を葬り続けている。……もちろん、平和を享受する大衆はその事実を知る由もない。
さあ、舞台は整った。
この物語を紡ぐのは、第3の神の視点を持つ者。
すべてを知る者は、ただ流れに身を任せる。それはまるで、激しく移ろう川の流れを、岸辺から静かに傍観するかのごとく――。




