殲滅
20分後、驚く程意識がすっきりして目が醒めた
Call to Storm時代の強制睡眠モードは
シングルエリアという他のプレイヤーが入れないマップで
時間を強制的に経過させるためだけの機能だった
しかしこの世界では、きちんと通常の睡眠より高い効率での
休息という効果も追加されているようだ
すっきりした頭で戦術リンクから情報を拾い
特に睡眠中に問題が発生していない事を確認する
アルベルトにバルロイとチェニスをこちらに遣してくれと伝え
サンドキャットのエンジンをかけて武装をチェックする
サンドキャットは元はアメリカの一般販売されてる普通自動車だ
これをイスラエルの軍需メーカーが改造して、軍用車として再設計した
さらにこれがアメリカのメーカーに開発権が移行し再々設計されたのが
今私が乗っているサンドキャットという車両になる
元々が民間用で広く普及したベストセラーのピックアップトラックで
これを改造して4人乗りの装甲SUVのようにした車両だ
Call to Storm時代から愛用しているが、元が普通自動車だっただけあって
運転がしやすくて乗り心地がいい。それでいて防御力もそれなりにある
自動車なんて乗り物になれていないバルロイとチェニスを乗せるのであれば
そこらへんも考慮しなければならないと、ブラックホークで学んだ
念のために、RWSという武装プラットフォームを追加装備した
RWSはRemote Weapon Stationの略で、車内から操作できるリモコン機銃だ
取り付けられる武装は幾つかあるが、今回はゴブリン退治の時につかった
Mk48SAWを搭載している。この武装なら通常歩兵相手なら十分な火力だろう
窓をコツコツと叩く音がしてそちらを見ると、バルロイの姿があった
ロックを解除してドアを開けろといってみるが、開け方が分からないらしい
ここまで同伴してきたアルベルトがドアを開け、二人が車内に乗り込む
シートベルトをつけてやってくれとアルベルトに指示して
二人のベルト装着が終わるのを待つ
「どうした、なんかあったか?」「ううん、別に何もないよ。寝起きなのよ」
妙に勘が鋭いバルロイの質問に、適当に茶を濁した回答をする
バルロイは そうか とだけいってそれ以上追及してこなかった
アルベルトがドアを閉めたので
二人に発進することを伝えてギアをDレンジに入れてサイドブレーキを解除する
そのままゆっくりと加速して、村の入り口から出て非舗装路の街道を進む
「だいたいそうだね・・・30分くらいで奴らが休憩してる場所につくよ」
「これは馬車よりも快適な上に、圧倒的に早いな」
「これでも速度は制限してるよ。バルロイが吐くと困るから」
「悪かったな。馬車とかこういうのは乗りなれてないんでね・・・」
「まあ、それに道も悪いしね。余裕はもって出発したし
焦って速度出して事故おこしても馬鹿みるだけだからね」
「もっと速度が出る物なのかこの乗り物は?」
「そうだね、倍は出るよ。今時速40km.弱だから
平地で道路がよければ100km.くらいは出るんじゃないかな」
「ランバートン殿の持ち物は、本当に驚異的だ・・・世界が変わるな」
「この後、もっと酷い衝撃を受ける事になるよ
もし、敵が降伏を拒否するようなら、今回は一切の配慮をしない
越境行為の上に完全に制圧するつもりの兵力投入だからね
50人の村人に対して500人の兵隊の投入だ
いい訳は出来ないし、レイドック家への完全な敵対行為だよ
だから今回は、戦闘になったら、理不尽な程の力を使う
チェニスには私を利用しようとして怒らせるとこうなるぞ って
釘刺す意味でもそれを見せるよ。チェニスにこの力を使う事が無い様に願うよ」
「どうしたレイラ? なんかお前らしくないぞ
不機嫌とでもいえばいいのかなんと言うのか・・・
チェニスは味方だ、それに敵になることはない。どうしたんだ一体?」
「ごめん、ちょっと機嫌悪いのかもしれない
チェニス、言い過ぎた。謝罪する」
「いや、何も問題はない
それにランバートン殿の言っていることは正論だ
私がそれを正しく陛下に伝えて、ランバートン殿が利用されることを阻む
これが私にとっては大事な使命だということを再認識した。逆に感謝する」
その後の車内は誰も言葉を発せずに、ただ無言のまま時が過ぎた
30分程の移動で、敵が休憩をしているエリアに近づく
丘を越えると敵が見えるという場所でサンドキャットを停車させ
全員で下車して丘を登る。登りきると、街道に面した平原に
展開して飯を食ったり、武器をおいて休みをとる兵隊の姿が見えた
「あの兵隊どもはワグナー伯爵家の所属?」
「間違いないな。旗や鎧、紋章は全てワグナー伯爵家の物だ」
「流石に全員がそれを偽装した人間なら分からないが
現状ではレイドック領に他家の紋章をつけた兵力がこれだけ無断越境している
この状態を私が確認した以上、先制攻撃をしても問題にはならんよ」
「じゃあ、最終確認をして、それから行動だ
グーデリアン、全センサー使用自由。射撃管制に必要な情報を送れ」
《了解しました!》
《アルベルト、今観測データを送った。そちらの準備状況は?》
《既に全車に射撃データを入力して、今頂いたデータで修正中です
こちらはいつでも発射可能で御座います》
《初弾は03式。次弾も同じ。3射目は通常榴弾
初弾は敵の後列。つまり西側のワグナー領側を確実に狙って
逃げ道から潰す。東側に逃げるように誘導して射撃してね》
《了解です。レイラお嬢様からの射撃指示を御待ちします》
最終的な攻撃の確認が終わったので
チェニスにここに残って屈んでみているように伝えて
バルロイと二人で兵が展開している方に歩き出す
チェニスから100メートル離れたところで、インベントリから
電子メガフォンを取り出して、バルロイに渡す
「こう握って、ここのボタンをこう指でぐってにぎると
んで、ここに口を近づけて、あ、くっつけちゃだめ
んで、喋ると、声が大きくなってあっちに届く
んじゃ、降伏勧告お願い」
バルロイに電子メガフォンの使い方を教えて、最終確認をする
「俺はレイドック男爵に仕える、Aランク冒険者の疾風のバルロイだ
お前達はワグナー伯爵の配下の兵隊だな?
お前達はレイドック男爵領に許可なしで越境している
これは王法により厳しく罰せられる行動である
直ちに、武器防具を除装し、大人しく投降せよ
繰り返す。直ちに武器防具を除装し、大人しく投降せよ」
突然、かなり遠くから、大きな声が聞こえてきたので
休憩をしていた兵隊たちは驚いて一斉にこちらをみる
200メートル程先に、私達二人しかいないことを認め
笑い声を上げたり、野次をあげたりと、油断しきった態度で警戒していない
そのうち兵の集団から完全武装の兜に羽飾りをつけた男が
こちらに向かって歩いてくるのが見えた
指揮官か、副指揮官あたりだろう
「私はワグナー伯爵の配下の第一歩兵大隊参謀のピレル男爵である
貴様らレイドック男爵家は、卑怯にもワグナー伯爵領で罪を犯した
犯罪者を匿い、尚且つ、その捕縛にむかった我等の騎士団の同胞を
殺害した可能性がある。ただちに我々の指示に従い、アルムの村への
調査を無抵抗で受け入れろ。そうすれば命は助けてやる」
げらげらと笑い声が兵の間から響きあがる
うん、もういい。殺そう
《アルベルト、決裂した。放て》
《畏まりました! 1号車か5号車までリンク射撃開始!》
バルロイから電子メガフォンを奪い取り、口上を垂れた馬鹿に向ける
「冥土の土産に教えてあげる。今朝早くに王都において
ワグナー伯爵とその配下の者が、王国への反逆罪で拘留された
また、ワグナー伯爵が帝国と内通していた事実を、お前達が
先にレイドック領に送った騎兵の一人が王室に対して証言した
お前達への攻撃は、既に王室によって許可を得ている状態だ
投降するチャンスは与えた。それを断った事を悔やみながら逝け」
何かが風を切る音が微かに聞こえたかと思うと、次第に音が大きくなり
その音が敵兵にも聞こえたのか、辺りを敵兵が見回し始めたその時
空中で小さな爆発が起きて、拳大の何か当たりにばら撒かれ降り注いだ
無数の轟音と閃光と黒煙。そして悲鳴と硝煙の香りと血の香り
無数の爆発が視界を埋め、元人間だった何かや、放り出された武器や
休憩のために脱ぎ捨てられていた鎧や炊事道具、運んできた荷物
土くれ、草、枝や倒木や石。着弾範囲にあった全ての物が吹き上げられた
《着弾修正データを送る。次弾装填と照準修正急いで》
《装填完了、修正値入力・・・・修正完了。発射》
バルロイに顎で合図して、二人でチェニスの方角に走る
二人ともかなりの速度で走れるので、すぐに安全圏まで抜ける
背後で一射目の着弾で無事だった参謀と名乗った男が
何が起きたのか理解できず起き上がりながら背後を見て
何かを叫んだり武器を掲げたりしている
その彼も、第二射の着弾で初弾で吹き飛んだ仲間の後を追った
《第三射待て。効果を確認する》
《了解です。装填して指示を待ちます》
煙が少し晴れたそこにあった光景は
無数の穴と元人間だった何かと
今では鉄屑としての価値しかない元武器防具だったもの
それと、破壊され美しさを失った草原だけだった
立っている人間は一人もいない。距離をとっていた参謀という男も見えない
10発の03式155mm榴弾砲用多目的弾は、その性能を如何なく発揮してくれた
《状況終了。装填した弾は抜いといてね
一応、いつでも撃てるように待機だけは続けておいて》
《畏まりました。このまま戦闘態勢で待機します》
チェニスの元にゆっくりと歩いていく
チェニスは無表情で、殺戮の跡地となった平原を見つめている
「これが私の戦争。これが貴方達が女神の使徒と呼んだ者の力」
「恐ろしくて何をどうしていいのかわからない。それが正直な気持ちだ」
「俺もここまでとは思ってなかったからな・・・
500人が最初の攻撃から1分も立たずに死んだ・・・」
「99式自走榴弾砲の発射速度は、毎分6発
10秒ごとに次が飛んでくるわけなのよ
5門でこれだ、大隊砲規定数ならどうなるでしょうってことよ
まあいいや、終わったし、帰ろう。もう私は疲れたよ・・・・・・・」
二人は無言で頷くと、私に続いてサンドキャットに乗り込んだ
帰りの車中では、誰も一言も口を開かなかった
修正履歴
2019年9月26日
使途 を 使徒 に修正。 ご指摘有難う御座いますm(_ _)m
お知らせ(解決済み)
2019年9月17日
PCが壊れて古いI5のPCで作業をしていたのですが
パーツが届いたのでメインPCを修理するため、2〰3日投稿が行えない可能性があります
ご迷惑をおかけしますが、何卒御理解のほどよろしくお願いします




