迎撃準備 2
「全くもって休む暇がない。仮眠も取れない・・・」
アルベルトが案内してくれた厨房で、既に下ごしらえがおわった
アップルパイの素材をつかって、私はアップルパイを作っていた
私は少し酸っぱいのが強い方が好きなのでジョナゴールドという
酸味が強いリンゴを使っている。酸味が強くて食感が良いので
個人的にはアップルパイに一番向いていると思っている
ま、レミリアが気に入ってくれればいいんだが・・・・
準備が終わったので冷蔵庫にあとは焼けばいいだけの状態で入れる
《アルベルト、冷蔵庫に出来上がったの入れといたので
そっちのインベントリにしまっといて
私が夕食に間に合うように焼き上げられる時間に帰れなかったら
アルベルトの判断でオーブンに入れて焼き上げちゃってね》
《畏まりましたレイラお嬢様。私が責任をおって御預かり致します》
《そっちのケーキはもう出来てるの?》
《既に焼き上げまして、インベントリに収納しております》
インベントリに入れた物は
まるで時間が止まったかのように劣化しない
暖かい物と冷たい物を同じ包装に入れてしまっても
どちらも暖かさと冷たさを維持するというとんでもない機能つきだ
インベントリが現実で実用化されたら、物流革命もだが
おそらく様々なスタイルの革命も起きるだろう
仕事机を持ち歩いて、好きな場所で仕事をするなんていう
どこでもお仕事スタイルなんてのも流行るかもしれない
いや、既にもうあるか? ノートPCとタブレットの発達で
それは既にもうおきている現象か?
そう考えるとこれがあったらどんなことが出来るんだろ?
・・・どもでも便座・・・だめだな、それはアグレッシブすぎる
・・・どもでもベッド? それは新聞紙とダンボールで代用可能だ
・・・どもでも墓参り? これは意外に需要あるかも
しっかし、私のインベントリの中って、死体とかも入ってんだよね
そこに一緒にはいってる食品とか酒とか、私も含めてみんなで
美味そうに飲食してるわけだ。よく考えると恐ろしい事だ
さてと、ここでの用は済んだ。上の状況でも確認に行こう
はぁ・・・寝たい・・・早くカタつけよ
避難施設から地上に出ると、大慌てで射撃陣地の構築が行われていた
そこいらに展開してもいいのだが、地均しをしたかどうかで
多少の命中精度と散布率に影響が出る。まあ、準備して損はない
私はインベントリからスポーツドリンクを出すと
ハラペコ小隊の面子のところに歩いていった
「ほい、差し入れ。どう? 上手くいってる?」
「あ、ランバートン様。差し入れ頂きます」
そういえば帰ってきてから顔も合わせてないし挨拶もしてなかった・・・
「私が不在中にユミアは特に問題なかった?」
「ただ銃もってバリケードの前で警戒して
そのあとご飯食べて仮眠して、また警戒配置ついてなので
なんか全然、仕事をしてた気がしないんですよ・・・それが申し訳なくって」
「兵隊なんてそんなもの。鉄砲撃つのは偶にしかないわよ
掃除して、訓練で運動して、偶に訓練で鉄砲撃って
何ヶ月かに一度、演習いってキャンプして
戦争が無ければ兵隊なんてそんなもんよ
ところがうちはほら、なんか勝手に必要な知識が流れてくるでしょ?
だから毎日の運動してれば最低限の戦力が維持できちゃうでしょ
そう考えると、結構楽できる職場かもね。今は給料でないけど」
「お給料はないですけど、美味しいご飯が出ますからね・・・
それに服とか装備も支給されますし、何より訓練後のお菓子が・・・・」
「まあ、この世界だと砂糖つかったお菓子は高価になるんだっけ?
それ考えたら高待遇の職場かもね。戦闘さえなければ」
「あの・・・ちょっとレミリアから聞いたんですが
王都で戦闘になって、レミリアが人を殺したって本当ですか?」
まあ、それ聞かれるだろうなとは思っていた
妹が殺人を犯したとか、姉としては出来れば事実であって欲しく無いよね
「事実よ。3人を即応射撃で射殺した
おかげでチェニス王子は無傷だったから、良くやってくれたよ」
「良かった! あの子、お役に立てたんですね!」
あれ・・・あれ??・・・予想してた反応と違う・・・・
「役にたったどころか・・・行きと帰りのヘリの操縦
あれレミリアだよやったの。着陸見たでしょ?」
「あれレミリアが操縦してたんですか!?
なんか私、どんどん妹に置いていかれてる気がするんですよね・・・」
「でもいいんじゃないの? どうせこの件が片付いたら
皆除隊して、好きなこと出来るんだから
別に戦闘とか操縦が上手くなる必要もないし
今のうちに料理とか野外作業とかの腕のほう上げたほうが得でしょ?」
「え?? 除隊って?? 私達クビですか????」
「いや、首でなくって、ほら、ワグナーはもう拘束されてるし
この襲撃しのげば、貴方達を直接狙う奴もいないし
チェニスにねじ込んで正式に貴方達の移住も許可出させるからさ
そしたら兵隊である必要はないじゃない?
やりたいことあるでしょ? そういう事していいわけよ
まあ、兵隊続けたいならそれでもいいけど、あまりお勧めしない」
あれ、いつのまにか全員集まってきてるよ?
てかレミリアとか、パジャマできてるよ??
てかなんで泣きそうなんだ全員????
「あの、私、何かやらかしましたでしょうか???」
「ランバートン様、除隊ってなんですか! 酷いです! あんまりです!」
「私達頑張って訓練も任務もしますから!」
「いや、あの、だから、本人が希望した場合はということでしてね・・・
別に強制除隊とか解雇とかではなくてですね・・・
職業選択の自由というものがありましてですねはい・・・・・・」
なんで私が悪いみたいな雰囲気なんだこれ!?
いや、兵隊なんて相手殺す血みどろの職業だよ?
結婚するとき、ご職業は? 兵隊をしております なんて言えるのか?
結婚して子供できて、ママは昔、いっぱい敵兵に弾丸食らわしたんだよ
とかいえねーだろ? なんでこんな包囲されて責められるモードなの???
「あのだね。助けてもらったから一生恩返しをするとかは止めて欲しい
兵隊ってのは、そういう覚悟でやられると、死に易いんだわ
だから、やりたいってならそりゃいいよ。ただなんで兵隊をしたいのか
そこがしっかりしてるならいいけど、そうじゃないでしょ?
それにさ、私の兵隊を続けるってことは、いずれ下手すればこうなるんだよ?」
私はコート代わりの外套と上着を脱いで
右袖のボタンを外して肘まで巻くって腕を露にする
まあ、これ見せたら気持ち悪がられるかな・・・と思いながら
彼女達を諦めさせるにはこれが一番か・・・と思ってコマンドを実行する
「右下腕部、簡易メンテナンスモード。アクセスパネル開放」
私がそう言うと、人工皮膚に切れ目が入り
何箇所かのアクセスパネルが開放される
金属や合成素材や人工生態素材のパーツが見えるようになる
目だけが、異様に見開かれた皆の視線が
開け放たれたアクセスパネルの中にある私のパーツを見つめる
「私の体は、脳と神経系以外はこういう人工物で構成されてる
食事を食べるのも本来はいらない
人間としての気持ちを維持するために
食べて、味をセンサーが感知して脳に伝えているだけ
食事をしてきた習慣や感覚、それに食べたいという本能は
脳は人のままだから未だに存在するからね」
長く開けて置くわけにもいかないので、アクセスパネルを閉じる
袖を戻してボタンを閉め、上着を着て外套をひっかける
「貴方達は兵士として成長すると、ランクアップという昇級が行われる
今は新兵、次が一般兵、その次が熟練兵、その上にエリート兵、
さらにその次が特殊兵。そしてここから厳しい戦闘経験を生き残れれば
サイバーというランクまで昇進することが出来る
サイバーになれば、戦闘能力向上のために、体の機械化が行われる
そうなればこういう体になる。体のかなりを機械に置き換えた体に
そんな体になる可能性がある未来が、皆の望みなの?」
全員が何も答えない、答えられるわけがない
なりたくない と答えれば私を否定することになる
なりたい なんて答えるやつがいるはずがない
だから最初から、答えなんて求めてない
ただこれが、この先に行き着く現実だと認識してもらいたかっただけ
「これが現実。これがあり得るべき未来
だから、恩返しの為にこんな未来を選んで欲しくないわけよ
もっと自分のしたいこと、やってみたいことを選んでさ
自分の人生楽しんで、いつか結婚して子供でもできたら見せに来てよ
私がこの世界に居る限りは掴めない幸せを見せにさ
貴方達は幸せを掴める状態になりつつあるんだから
それを捨てることはないわけよ。だからもう少しでいいからさ
してもらったこと、今この瞬間だけでなくって
自分の未来についてちゃんと考えて、それから結論出して。ね?」
そう言い放って、残りの人数分のスポーツドリンクを置いて歩き出す
建物入り口前に既に塗装済み、武装済みで停めてある
サンドキャットのドアを開け、運転席に乗り込みドアを閉めてロックする
そのまま目を瞑って、出撃の時間まで仮眠を取ることにする
《グーデリアン、強制深層睡眠モード20分 返事は不要、即座に実行して》
ま、わかっていたけど、元人間ってのを再認識すると中々にキツイもんだ
考えないようにしてた、向き合わないようにしてた
でも自分の口で他人に説明したから、嫌でも向き合う事になった
私の体は元の体じゃない。ゲームの中の私に変えられた。それが今の私
はぁ・・・地雷踏んだ。出撃前にやることじゃなかったな・・・失敗した
そんなことを考えていると、一瞬で意識が刈り取られ、私は眠りに就いた




