41.ひとりあるく
今回は短いです
俺とお姫様は手を組むことを決めてから、腰を落ち着けてしばらく話し合った。
とは言ってもメインはお姫様から説明を受けることだ。
たとえば、試合結果や俺のことはどのように認識されているか、とか。
今回の召喚には魔王から妨害があったということにしたらしい。
邪魔が入ったせいで本来呼ばれるはずのないハズレが召喚され、そのハズレである俺に残留していた魔王の力が俺を狂わせ、四ノ宮を殺そうとした。
だが、試合の一件で魔王の力を浄化し、ハズレの勇者も正気に戻ったという筋書きだ。
魔王ですら召喚を恐れるほどの力を持った勇者ということになり名声も上がったとか上がらないとか。
俺が四ノ宮に報復をしようとしていることについても話した。
どうせ、日野さんとの会話は盗み聞きしていたのだろう。でなければあんなタイミングで部屋に乱入なんてできっこない。
お姫様的には死なない程度ならむしろ歓迎、お膳立てまでしてくれるそうだ。
説明以外にもいくらか話をしていると、いつの間にか夕方になっていた。
俺は日野さんに顔を見せに行くと言ってお姫様の部屋を後にした。
半日なんて経っていないが、万が一にも日野さんに暴走されると困る。
お姫様との会話は特段焦る必要もない。これからはいくらでも機会がある。事情を話すと「では、また」と見送ってくれた。
これでお姫様と話すことは不自然ではなくなった。
外の話や国の動向、送還の進捗などを聞きやすくなった。
お姫様が何を考えているのか、どうしようとしているのか。この城で一番理解できるのは俺だろう。顔を合わせるのは俺が適任だ。
夕日の光が差し込む廊下をひとり歩く。
少し、足が軽くなった。腕の痛みもほとんど無視できるくらいに和らいでいる。
悪くない気分だ。
「それにしても、可笑しいよなあ」
思わず呟く。鏡を見ずとも自分の口角が上がっているのが分かる。
本当に可笑しい。バカじゃないのか。
お姫様と俺が同じ? 似ている?
確かに特別な身内と比較される凡人という立場は同じだろう。育った境遇には似ている部分があるのだろう。
だが、それだけの話だ。それ以外はまるで違う。
置かれた環境の一部が同じだからといって人間性まで同じなはずがない。
俺もお姫様も、欠けた才能を足りない頭で補おうとしている。
その点は同じだ。
けれど、逆を言えば同じなのはそれだけ。それ以外は同じと言えないし、何より居る場所が違う。
俺はお姫様の前にいるが、お姫様より下にいる。
お姫様は俺より上にいるが、俺の後ろにいる。
特別を得るために足掻くお姫様の方が志は高いが、それはまだお姫様は俺が通った場所を通っていないからだ。
このままお姫様が進んだとして、俺より高い場所にいられるかどうか。
少なくとも、俺を理解できると得意げに語れるうちは無理だ。
話を聞いて分かった。お姫様は俺を理解なんかできていない。
たまたま似た部分が見えていただけだ。
そもそも、俺はあんな気持ちを誰かに理解されたいと思ったことはない。
お姫様は理解者を求めているようだが、俺はあんな惨めでみっともなくて情けない気持ちを誰かに知られたくなんかない。
似ている部分があったことは否定しないが、それは主に過去の話。
抱くとしても、親近感より同族嫌悪。
俺は昔の自分が嫌いだ。それこそ反吐が出るほどに。
「本当にバカだよ、お姫様」
お姫様は俺が通った場所にいる。
それゆえに、ほんの少しだけお姫様のことが理解できてしまった。
思惑も、その理由も。大まかにではあるが予想できてしまう。
抱く感情は嫌悪や憎悪だけではなくなった。
加わったのは嘲りと憐み。
くだらない企みはきちんと叩き潰してやろう。
苛立ち紛れの中途半端は無しだ。速やかに帰してもらえるなら受けた仕打ちは忘れてもいいと思わないでもなかったが、そんなぬるい考えは捨てる。
二度とバカな望みを持たないように、手に入る寸前で台無しにしてやる。
どうせ手に入れてもすぐに破綻する。
ならば、先に結果を突きつけてやろうじゃないか。
自分だけで足掻くならむしろ応援した。
しかしお姫様は他人を巻き込んで、利用しようとしている。
他人を巻き込むということは他人に阻まれる可能性が大きくなるということでもある。
先達として、復讐もかねて、そのあたりを教えてやる。
「そんなことをしても、もっとみじめになるだけなのに」
感想欄があらぶっていました。予想していたのでダメージは少なめですが、否定の感想が並んでいるのを見るのは結構精神を削られるので、前回分は返信をさぼらせてもらいます。
姫様NTR展開を期待された方もいるようですが、申し訳ありません。
基本テンプレ、適度に逸れる程度を目指しておりますゆえ、あれだけ貯めたヘイトを放置はしません。さすがに。




