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異世界でも海を愛したい!  作者: 海産物でタイマンする←ちょwおまwオモロすぎンゴwww←ぽまいもなwww←ぽまいら最高やwww←ぽまいらケコーン汁wwww
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第1話 いつもの朝

目覚ましが鳴る三分前に目が覚めた。

遠足の日の子どものようで少し恥ずかしいけれど、今日ばかりは仕方がない。ずっと待っていたタコの産卵床の調査の日だった。


台所に降りると、母がもう味噌汁を温めていた。


「あかり、あんた朝から顔がにやけとるよ」

「だって今日、マダコの産卵床が見られるかもしれんとよ。先生が、今年は水温がちょうどよかって言いよったと」

「はいはい。弁当、カバンに入れとるけん。お昼に食べり」


卒論のテーマはマダコの産卵場所の選択で、三年の終わりに研究室へ入ってから、イカやタコの話ばかりして家族に呆れられている。食卓の端では弟の健太がパンをかじりながらスマホを見ていて、足元では犬が弁当の包みに鼻を寄せていた。


「姉ちゃん、また海? 溺れんなよ」

「こっちは水産学部やけん、溺れんよ。お土産にタコ持って帰ろうか」

「生きとるやつはいらん」


笑って玄関を出た。自転車で漁港まで二十分ほどで、道の途中の信号で止まるたびに、防波堤の向こうの海が目に入る。玄界灘の朝の海は、青というより灰色に近い銀色をしている。小学生の頃から父に連れられて釣り糸を垂れてきた海で、水族館の飼育員になりたいと思うようになったのも、あの海のせいだった。


漁港の岸壁には、研究室の後輩の日向ひなたがもう来ていた。二年生で、実習のたびに私の後ろをついて回ってくる。


「あかり先輩、おはようございます! ライフジャケット、先輩の分も持ってきました」

「ありがとう。日向、酔い止めは飲んだ?」

「飲みました。でも先輩、昨日のメッセージ、タコの絵文字だけで三十個くらい来てましたよ」

「楽しみすぎて」

「知ってます」


今日乗るのは、漁協から借りている小さな調査船だった。

操船は長年この海で漁をしている船長さんが引き受けてくれていて、私たちはもっぱら採集と記録の係になる。船長さんは「今日は凪いどるな」と空を見上げ、「落ちんごと気をつけろよ」といつもの調子で言った。


港を出て三十分ほど走ると、島影の手前に目当ての磯が見えてきた。エンジンが落とされて船が止まる。私は船縁に身を乗り出し、水中カメラのケーブルをゆっくり下ろした。モニターの中を、ゆらゆら揺れるホンダワラと小魚が流れていく。


「先輩、あそこ。壺、並んでません?」

「ほんとだ。かかっとるかもしれん」


漁師さんが仕掛けたタコ壺の列を、日向と二人でモニター越しに追っていく。何個目かの壺の口で、褐色の腕が一本のぞいているのが映った。


「いた!」と声が重なって、日向が私の腕をつかんで揺らした。私は水温と水深を野帳に書き込みながら、顔がゆるむのをどうにもできなかった。

こんな朝が来年も、その次の年も続くと、そのときは疑っていなかった。


エンジンの音に気づいたのは、記録を取り終えて顔を上げた時だった。


最初は船長さんが機関を回したのかと思った。けれど音は後ろの、島の岩場の陰になって見えない側から、どんどん大きくなってくる。船長さんが振り返って何か叫んだが、聞き取れなかった。


岩の陰から白い船体が飛び出してきた。


プレジャーボートだった。速度がまるで落ちていない。舵を握っている男の頭が大きく傾いているのが見えて、まっすぐこちらへ向かっていた。


「うそやろ――」


足がすくんで、体が勝手に後ろへ退いた。そこへ船が起こした波がぶつかって、船が大きく傾いた。濡れた船縁に手を伸ばしたけれど、掌は何もつかめなかった。


視界が空から海へ回って、冷たい水に包まれた。


水の中で上と下が分からなくなり、泡の向こうに白い船底が見えた。あれが来る、と思った時にはもう、体のすぐ下で重い音が回っていた。


脚に何かがぶつかった。


痛い、というより、熱かった。冷たい水の中なのに、触れたところだけが焼けるように熱い。次の瞬間にそれが痛みに変わって、脚から腰へと、削られるように上がってきた。自分の体がだんだん短くなっていくのが、はっきりと分かった。叫んだはずなのに、口から出たのは泡だけだった。


痛みが膨らんで、頭の中が真っ白になって、それが一番高いところまで来たあとで、急に静かになった。


もう痛くなかった。熱さも冷たさもなくなり、体が重いのか軽いのかも分からない。ただ水の音だけが、ずいぶん遠くで鳴っていた。


誰かが腕をつかんでいる。


ぼやけて赤い視界の向こうに、日向の顔があった。船縁から身を乗り出して、ライフジャケットのまま片手を私に伸ばしている。船長さんが後ろから日向の腰を抱えて引き留めているのが見えた。日向は目も鼻も真っ赤にして、声にならない声で私を呼んでいた。


「せんぱい、先輩、あかり先輩っ!」


ああ、この子、私を助けようとして飛び込む気だったんだ。飛び込んだら、日向までやられてしまう。


ごめん、と思った。


先に逝くことも、日向をこんな目に遭わせることも、母さんの味噌汁も、健太への土産のタコも、全部ごめん。


それでも、最後に見たのがこの子の顔でよかったと思った。


ええ後輩、持ったな。


日向の声が、水の音にほどけて遠くなっていった。私はそこで、手を放した。

3話以降は水曜日に週1投稿です

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