9、バター効果
ローイさんと、さっきのお姉さんがいた。
「私は、クレアよ。座ってちょうだい」
「はい」
私たちは前の席に座った。二人は立ったままだ。私は聞いてみた。
「トミーたちはどうなりましたか?」
「警備署の兵に来てもらって引き渡したわ」
「……そうですか」
「あの子たちと会った時のことを話してちょうだい」
「はい」
ルイスが返事をして話し始めた。トミーたちがポーションを飲みながら三層目にいたことなど、自分の見解も話した。話し終わると、ローイさんが頭をかいた。
「みんなやってるだと!? なんてこった! あいつ、引き渡して正解だな」
「今回のことは、無理をしたせいなのね……。
これは問題だわ。本来ならポーションが切れた時点で、自分が活動できる範囲が分かるようになっていたのに……」
協会は活動範囲を強制するようなことはしていないけど、そういうことなんだ……。
「トミーはポーションをかけたから、元気だったのかも……。
あの二人は、初めからポーションを持っていなかったんじゃないかなと思います。同じように、その場で調達しようとしている人が他もいたと思います」
ルイスは重い口調で付け足した。なるほど! ポーションは高価だからな……。それを聞いて、クレアさんとローイさんは顔を見合わせた。
「そうね。ありがとう。貴重な意見が聞けて良かったわ。トミーはもう冒険者にはなれないから安心して。
あなたたちはいいパーティだって、ダリアが言ってたわよ」
『ありがとうございます』
パーティを褒められてほっとした。トミーのことも……。ルールを守らない者は、もう冒険者にはなれない……。
『……あの二人は無理だと思う』
ルイスが言っていたことを思い出した。きっとこういうことだったんだ。——そういえば、
「ミサたちは二層目にいたんですけど、帰りましたか?」
「ああ、トミーの奴は手前にミサたちがいることを知っていたから、ミサたちに職員を呼びに行かせたんだ」
「そうだったんですか!」
ローイさんはトミーから聞いたことを話してくれた。
クムンは素早く来たホーンモンキーに息を吹きかけられて、瘴気を吸い込んでしまったそうだ。
私もホーンモンキーに会ったときに、息をかけられていたら危なかったんだ……。思い出してゾッとした。
クムンが倒れると、ホーンモンキーは逃げたそうだ。モンスターも逃げるんだ! トミーはクムンを置いて、ミサたちのところへ行った。ミサたちは採取したものを置いて慌てて呼びに行き、閉鎖することを聞いたので、また戻って片付けると帰ったそうだ。良かった。
私たちも話が終わったので協会の外に出た。とぼとぼと歩く。私は下を見ながら言った。
「悲しい事件だったね」
「そうだね……。いやな思いをさせてごめんね」
「うんん、もう大丈夫。明日は休みだからゆっくりしよう」
「うん」
私たちはほほえみ合った。明日は土曜日だから子供ダンジョンは休みだ。他の子が監査が入るって話してたな……。
「そうだ。ジョンソンパンに行こうよ。バターを届けて買い物をしよう!」
「うん」
私たちはジョンソンパンに行くと、ルラさんがカウンターにいた。
「ユミちゃん、ルイス君いらっしゃい」
『こんにちは』
ルイスもパン屋に来るのは三回目だと思う。この辺に住んでいる人はみんなジョンソンパンに来る。一昨日一緒に行ったときに、ルイスをルラさんに紹介した。
厨房にいたナンシーは私たちに気がついて窓越しに手をふった。私たちもニッコリして手をふり返す。
「今日はアイテムのバターを持ってきました」
「え!?」
ルラさんは突然のことに驚いた。
「おいしいって聞いて。今日はたくさん取れたのでおすそわけです」
「わあ、ありがとう! じゃあ、パンを持ってっていいわよ!」
「え!?」
今度は私たちが驚いた。
「アイテムのバターはとても高価だもの。二人で二〇個は持って行きなさいよ」
『えー!?』
「アイテムバターっていくらなの!?」
「あら知らないの? 最高級品なのよ。お店で買うと六〇ルトぐらいするわよ」
「えー! 知らなかった」
ルイスと顔を見合わせた。あの恐ろしいサルのバターだけど……さすがアイテム! ルイスが言った。
「多分、換金だとだいぶ安いだろうね」
「そうだね」
私たちは休み二日分のパンをもらった。ルイスが一二個で私が八個だ。
『ありがとうございます!』
「いいわよ。今日はもう店じまいね」
残っていたパンがほとんどなくなってしまった。土日はジョンソンパンも休みだ。
ジョンソンパンでは残ったパンを店の者で分けたり、明日開いている店に持って行って委託販売してもらう。次の日が営業のときは、その日のパンが焼けるまで早めに店を開けて安売りしている。本来の開店時間は十一時からと遅い。それ以後のものは、貧しい人たちに分けるフードバンクの人が回収しにくる。
この国では食料を無駄にしないようになっている。ジョンソンパンでは渡すパンがないときでも、長い焼き立てパンを一個渡すようにしていた。
ナンシーは休み明けの仕込みが済んで、片付けをしていた。魔法袋と同じで、保管庫に保存用魔法石を置くと、そのままの状態で保存が可能だ!
モンスターがドロップした魔鉱石は、魔法使いがいろいろな魔法付与の加工を施して、誰でも使える魔法石になるのだ。魔法すごい!
「じゃあナンシーも、もう上がってもらおうかな」
ルラさんはそう言うと、厨房に入っていった。しばらくしてナンシーが出てきた。ナンシーは残ったパンを三個紙袋に入れて、カバンの中にしまった。いつも三個まで持って帰っていいのだ。いい店だ!
私たちは店を出ると、今日あった出来事を話した。ナンシーも驚いた。
「なんかひどい話だね」
「うん、私もそう思った」
「ユミが悲しい思いをすると私もつらいよ。話してくれてありがとう」
「うん。聞いてくれてありがとう」
ナンシーに話を聞いてもらえてスッキリした。
「ナンシーにもバターがあるよ」
「本当に!? 楽しみ!」
「帰ったら渡すね」
「うん」
楽しい気持ちで帰れて良かった。私はナンシーに言った。
「今日はララさんに私がパンを渡すね」
「うん」
そういえばララさんの分のバターを忘れた。
寮に帰るとララさんに、もらったパンを二個と私の分のバターを渡した。ララさんも驚いて喜んでくれた。
「まさかアイテムバターが食べれるなんて! 食べてみたかったのよ。ありがとうね!」
なんだか、みんなに喜んでもらえてすごくうれしい! サルのバターすごい!
階段を上がって、部屋の前でナンシーにバターを渡して別れた。ルイスにも渡すと、ルイスは受け取ろうとしなかった。
「さっきは、ユミが自分の分を渡したからびっくりした。俺の分を半分こしようよ」
「うん! ありがとう。私も食べてみたかったんだ! 後で持って行くね」
「うん!」
食べれるから良かった! 私は鍵を開けて部屋に入ると、バターを半分にしてルイスに持って行った。
今日のご飯が楽しみだ!




