2、勇者の悩み
ナンシーがひそひそと話してきた。
「ライルとは違った、カッコイイ子だね」
「うん」
ライルは、一つ年上の女の子たちの間でアイドル並みに人気がある冒険者だ。アイドルは若い人の職業で、歌ったり踊ったりしてショーをする人たちのことだ。
目の前の男の子は、ライルと違って大人しい控えめな感じの子だ。引っ越してきたばかりだからかな。ララさんが紹介してくれた。
「この子はルイス。お隣のユミンスと、ユミンスの向かいのナンシーだよ。話しやすい子たちだから、街のことを聞くといいよ」
「ユミンスです。よろしく」
「ナンシーよ。ジョンソンパンで働いてます」
「……ルイスです。よろしく」
ルイス君はなんだか疲れて見える。ここまで来るのに、長旅だったのかもしれない。
「聞きたいことがあったら、何でも聞いてね」
私がそう言って帰る動きをすると、ルイスは軽く頭を下げて部屋に戻った。ナンシーはまたひそひそと話した。
「勇者っぽくない、大人しい感じだね」
「そうだね。疲れているのかも」
「じゃあ、二人ともよろしくね」
「分かりました」
私が返事をして、ララさんは戻っていった。なんか拍子抜けな感じになったな。ナンシーが肩をすくめて言った。
「じゃあ、私たちも帰ろっか」
「うん」
私たちも解散した。明日、また話しかけてみようっと。
でも、翌日になってもやっぱりまだ早いかなと思って声をかけなかった。そのうち一週間が過ぎてしまった。
ナンシーと帰り道で会ってその話がでた。
「あれからルイス君と話した?」
「うんん」
私は首をふった。ナンシーもしょぼんとしていた。
「そっか。私も」
「なんかやっぱり男の子だし、話しかけにくいよね」
私たちも男の子の友達はいない。寮にいる男の子たちとは挨拶するぐらいだ。
「そうだよね。ララさんに聞いてみようよ」
「うん」
寮に帰るとララさんにルイス君のことを聞いてみた。
「それが、私も三日ぐらい前に会ったっきりだね」
「そうなんだ」
冒険者協会には行ったのかな?
「他の子にも聞いてみるよ」
「分かりました」
私たちはララさんと別れた。とりあえず様子を見よう。
翌日、仕事から帰ってララさんに聞いてみる。
「他の男の子たちにも聞いたけど、私が会った日以降、見た子はいないみたいなんだよ」
「え~!? どうしたんだろ。私、様子を見てきます!」
たまたま見た人がいないのかもしれないけど、なんか心配だ。私はそのままルイス君の部屋に向かった。ノックをすると、しばらくしてドアが開いた。
良かった!
「誰?」
中から出てきたルイス君は毛布をかぶって、ゲッソリしていた。え?
「どうしたの? 痩せたよね?」
「ああ、……しばらく何も食べてないから」
「えー!! 食べ物がないの?」
「……食欲がなくて。家族が持たせてくれたからお金はあるけど、買いに行ってないんだ」
ルイス君は斜め下を向いて、私とは目を合わさなかった。
「ちょっと待っててね。何か持ってくるよ!」
私はそう言うと自分の部屋に戻って、パンと果物を袋に入れ、スープの入った鍋を持って出てきた。
ルイス君の部屋に入れてもらうと、中はカーテンが閉まっていて薄暗かった。台所でスープを温めた。ルイス君にテーブルの椅子に座わってもらい、持ってきた食べ物出した。ルイス君は急いで食べ始めた。私も向かいの椅子に座った。
お腹減ってたんだ……。
「ルイス君と会わないから、ナンシーと心配していたんだ。一回外に出たんだよね?」
「うん。冒険者協会に登録しようと思って行ったんだ。でも、やめた」
「何で!?」
ルイス君は黙った。
「あっ、うん、話しづらいことなのかな……。大丈夫だよ話しても」
「ありがとう……」
ルイス君はしばらくしてから話し始めた。
「俺、聖剣を持っているんだ」
「え!? 聖剣? というと、あのレアアイテムの?」
「うん。それで、協会にいた大人が、パーティに入らないかって誘ってきたんだけど……聖剣のアストールが嫌がったんだ。
聖剣は鞘がないから、布にくるんで目立たないようにしていたけど、周りの大人はみんな聖剣を見てた」
ルイス君は険しい顔をした。聖剣は国宝級の超レアアイテムで、この世界に何本か存在しているらしい。
聖剣は人を選ぶから、持ち主以外は売るしかない。金貨千枚ぐらいだという話も。それだけあればもう、一生遊んで暮らせる。だから大人たちは狙ってるんだ……。
「俺、勇者になんか、なりたくなかったんだ」
「え? どういうこと?」
私なら泣いて喜ぶのに。ルイス君は心底嫌そうだった。
「俺の村には、森の中の岩に刺さったアストールがあったんだ。それは前から知られていて、よく挑戦者が来ていたけど、抜けなかった。
ちょっと前に、挑戦したい友達二人に付いていったんだ。俺は全く興味がないから近づかなかったけど、見たときになんか嫌な予感がした。聖剣がこっちをジトッと見ている気がしたんだ。俺はもちろん挑戦しなかった。
友達二人が挑戦して抜けないから帰ることにしたら、後ろから音がして振り返ると、剣が赤い光をまとって勝手に抜けてたんだ。
俺は驚いて走って逃げたんだけど、剣は友達を通り越して俺にぶつかってきた。俺はそのまま転んだ……」
えー!! そんなことあるの!? なんか剣が怒って追いかけてきたのかな? 剣がぶつかるなんて危ないな。でも、聖剣だから大丈夫か……。
「俺は、聖剣の持ち主になるしかなかった。村は大喜びで、俺は自動的に勇者になった。それから、モンスターを狩るために村を出されて、一番近いダンジョンがあるこの街に来たんだ。
俺はずっと村で暮らすつもりだったのに、聖剣のせいで勇者になるしかなかったんだ……」
「うわ~……」
ルイス君は下を向いて暗い顔をしていた。なんかかわいそう……。村から情報が伝わって来たから、協会の冒険者たちは知っていたんだ。
聖剣は布にくるまれて、壁に立てかけてあった。今は光ってはいない。
「こんな話してごめん。女の子には興味ないだろうけど」
「そんなことないよ! 私だったら、勇者になりたいもん!」
「え?」
「私、ダンジョンオタクなんだ。でも何のスキルもないから、冒険者にはなれないの。最初はパーティに入らないといけないでしょ。でも、何もできない私と組んでくれる人はいないから……」
私もしょんぼりして言った。ルイス君は黙ってあっけに取られていた。
「……それならさ。俺とパーティを組まない?」
「え?」
ルイス君はもう暗い顔をしていなかった。




