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真・烈怒龍 第一幕 ”希望”【レドラスタジオ・アーカイブス】  作者: 彩条あきら


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第二十一話 『レドラ』

「ひゃははははは! ざまーみろ! 人間なんか守ってっから、そんなことになんだよ!!」

 

 暗黒の中で、“彼”はただ一人そう言って笑った。地上から遥か遠くに離れたその場所で、誰も応じるもののいないまま、永劫まで空虚だけに満たされた空間を“彼”は支配する。

 もう間もなく、その願望は達されようとしていた。ただそこにあっただけのものたちに己の意思を分け与え、思いのままに使役したことで。『正義』と『悪』を共有し、自分の願望を遂行する『仲間』を作ったことで。

 “彼”が滅ぼしたいと願っている者のひとつは、その翼をもがれた状態となっていた。

 地上のソレが目に飛び込んできたとき、“彼”の心は歓喜に踊った。

 それから“彼”は、まるで自分自身に確認させるがごとく大げさに宣言してみせた。

 

「そろそろくたばれや……悪いのはてめーらなんだからよぉ!!」

 

 高度な機器類で満たされた、空虚な箱の中一杯に、呪いの言葉が吐き出されて溢れた。

 

* * * * *

 

「マズイなぁ……こりゃあ」

 

 自宅を兼ねた居酒屋の二階から、マスターは窓越しに町の様子を眺めながら呟いた。その視線の先には勝ち誇ったように叫び声を上げ続けるデスジラスと、二枚の翼を切り裂かれ大地に倒れ伏したレドラの痛々しげな姿とが並んでいる。

 マスターは窓の桟に手をかけると身を乗り出し、自分が今いる場所から店の建物全体の様子を眺め回してみた。

 

「こりゃいよいよ……この店と心中することになっちゃうのかな。出来れば死にたくないけど」

 

 するとマスターは突然顔を上げ、ぶつぶつと遠くに向かって何か独り言を呟き始めた。

 

「……レドラさん、どうせなら負けないで下さいよ。他人のためにそこまで体張ったのに、それじゃ勿体無さ過ぎる。せっかく名ばかりじゃないってのに……」

 

 そこまで言ったとき――ほんの一瞬であった。

 ほんの一瞬のことではあるが、マスターのその顔に憂いの色が浮かんで消えた。

 

「……あなた、正義の大怪獣でしょ?」

 

* * * * *

 

 小さな男の子の泣き喚く声が、川沿いの遺跡を駆け巡り人々の耳を貫いた。竜宮川に架けられた橋を渡ってすぐの所にある、町の東に横たわった遺跡周りの道々では、町から避難してきた人々が揃ってその端々に立ち尽くし、自分たちの故郷を舞台に激しく立ち回るレドラとデスジラスの様子を見守っていた。

 彼らの目には、つい今しがた両翼を奪われ追い詰められたレドラの姿が飛び込んできていた。

 

「くそっ、このままじゃあ……!」

「なんとかならねぇのか!?」

 

 大人たちの興奮混じりの叫び声が飛び交う中、その一角では小学生ぐらいの男の子が怪獣同士の生の戦いに怯えたのか、はたまた場の熱気に圧倒されでもしたのか天を仰いでびぃびぃと泣き叫んでいた。

 その傍に、母親と思しき女性が駆け寄ったかと思うと、抱き締めなだめ始める。

 

「大丈夫……大丈夫だから、ドラゴンさんは負けないから」

 

 そう言って彼女は顔を上げ、遥か彼方でやられそうになっている守護神の姿を見やった。

 きっと大丈夫だ。

 あの龍が負けるはずがない。何故なら彼は――。

 

* * * * *

 

「おいおいおい、ヤベェぞこりゃあ!」

 

 吉田は今や完全に冷静さを失い、幾つもの建物の向こう側に見える怪獣バトルの現況に焦燥感を抱いている様子であった。 

 今すぐにでも迫ってくるかもしれない自分たち三人の命の危機に、吉田は即座に立ち止まっているべきではないと考えた。自身の傍らで歩みを止め、じっと怪獣たちのいる方向を見つめている水岡と新星に声を掛けようとして、吉田は二人の方を振り向いた。

 

「――なぁ、アイツ、俺たちを守って戦ってくれてるんだよな?」

 

 水岡がいきなりそう言った。話しかけられたらしい新星が、落ち着いた様子でそっと水岡の方を見返す。

 吉田は思わず口をつぐんでしまった。

 水岡と新星の表情は、何故かひどく落ち着いた様子であった。吉田には、二人が何を考えているのかが分からず、掛けるべき言葉が見つからなかった。

 そうしていると、水岡は今度は吉田の方も見て言った。

 

「……どうして、守ってなんかくれるんだろう?」

「……さぁな」

「それが、レドラなんです」

 

 そう返したのは新星であった。水岡も吉田も、つられるようにして彼女の方を見る。その表情はどこか、確信を抱いているといった感じであった。

 

「レドラ……?」

「ずっとずっと昔にも、人間が襲われていたときには、レドラは命懸けで戦ってくれたんです。理由は分からないけれど……」

「人間のことが好きなんだろ、あの怪獣は」

 

 吉田は、思いつき半分にそう言ってみた。

 それよりも吉田が驚いたのは、意外にも新星がこの土地の『烈怒龍伝説』に詳しいということだった。考えてみればこの少女が通っているのは、仙台市内にある文化系の大学だったハズである。ならばそこの講義で、レドラのことが紹介されていても不思議ではないのかもしれない。

 

 水岡は新星の話に黙って耳を傾けていたが、突然、

 

「…………だったら、アイツは怪獣じゃねえ」

「なに?」

 

 吉田には、水岡の言葉の意味がよく分からなかった。

 それを確かめようとする前に、水岡は吉田から離れて一歩前に進み出ようとした。しかしまだ傷が痛むのか、すぐによろけて倒れそうになり、吉田と新星二人に慌てて支えられる。

 無茶するなと吉田は言いかけたが、その前に水岡が大きく息を吸い込んだのを見て、また再び口を閉じる羽目になった。

 そして実際、その判断は正しかったのだということが分かった。

 

 それは、罵声以外では初めて聞かされる、水岡の心の底からの叫びであった。

 

「勝てぇぇぇぇぇ!! レドラーーーーーッ!!」

 

* * * * *

 

 レドラの眼が力強く見開かれた。

 

 次の瞬間、金色に光り輝く無数の『龍』がレドラを見守る人々の中から溢れ出して、彼の元へと町の空を埋め尽くすようにして殺到していった。

 

 今一度レドラが立ち上がると、その周囲を『龍』たちが渦を巻くようにして対流した。

 

 レドラが咆哮するのと同時に全ての『龍』はその体内へと吸い込まれるようにして消えていき、代わりにレドラの翼の千切れ目から同じ金色の光が噴き出し始めた。

 

 光は大きく展開し、やがて何千万もの粒子となると瞬時のうちに掻き消えた。

 

 そしてその下から姿を現したのは、なんと傷ひとつない、デスジラスに切り裂かれる前と寸分違わぬ二枚の紅色の翼であった。

 

 レドラは、巨大に咆哮した。

 

挿絵(By みてみん)

 

* * * * *

 

「なにいいいいいいいいっ!?」

 

 “彼”は思わず叫んだ。

 馬鹿な、とそう思った。この時代でもまさか、まだレドラの方が強いというのだろうか。

 

 “彼”にはとても信じられなかった。

 自分が未だレドラに劣っているなどとは認めたくもなかったのだ。

 

 “彼”は怒り狂った。

 それからもう一度、悔しさと呪詛の混じった声を上げて叫び、悶え狂った。

 

* * * * *

 

 果てが見えぬほどの圧倒的な光の渦を見せつけられて、デスジラスは半ば怯えたようになって後ずさりしていた。キンキンとした鳴き声はやや尻すぼみ気味になり、ゆっくりと後退していくその様は、レドラの翼を切り裂き追い詰めていた先程までの態度と比較すると、大分憐れなようにも感じられる。

 すると左右の翼を再生させたばかりのレドラは一気に姿勢を前のめりにし、まるでその怯えた態度を挑発するかのように大きく吼え猛った。

 それを受けた途端、デスジラスは自らのプライドを刺激されたといわんばかりに、対抗するかのように仰け反って天に向かって吼え声を上げると、当初と同じく前傾姿勢になり猛スピードで走り出し、レドラ目掛けて突進を開始していった。

 

 だがしかし、それこそがレドラの思う壺であった。

 

 レドラはその右腕を大きく後ろに引いて身構えると、デスジラスの接近を待ち受けた。近づいたデスジラスが数メートルもあるカマのような爪を振り下ろしてくると同時に、レドラも自身の右腕を繰り出して、刹那のうちにすれ違う。

 それは時間にして、たった数秒の出来事であった。

 

 バキン、という何か硬いものの折れるような音がした。それから気がついた時にはデスジラスの右腕が肘関節ごと寸断され、地面に落下しながらバラバラ崩れ落ちていった。レドラの爪にはかすり傷ひとつなく、デスジラスがまた異様な声でもがいているだけであった。

 レドラは間を空けずに振り返ると、目の前に若干持ち上がってきていたデスジラスの尾を即座に両手で掴まえ、そのまま全身全霊を篭めて引っ張った。300トン以上あるデスジラスの全身がゆっくりとだが空中に浮かび上がり、デスジラスはじたばたと抵抗を見せたものの結局何の効果も現れなかった。

 レドラが下半身に力を篭めて腰から上を回転させると、たちまちのうちにデスジラスはレドラの周りを何回もぐるぐると振り回される羽目になった。

 

 やがて急にレドラがその手を離したとき、遠心力によってデスジラスの体は言語を絶する速度で打ち上げられ、海側の上空に向かって何百メートルもの高さまで飛んでいった。デスジラスの悲鳴ともいえる声が、あっという間に聞こえなくなっていく。

 一方レドラは敵を投げ飛ばした直後から立て続けに両脚を大地にめり込ませると、バサッと音を立てて両翼を最大限まで展開させた。見る見るうちにその皮膜全体が金色に光り輝き始め、口内にも黄金の光が集束していった。

 

 それから僅かもしないうちに、投げ飛ばされたデスジラスが重力に囚われ、レドラ目掛けて墜落してきた。その気になれば空を飛んで離脱することも出来たはずだったが、翼が再生したことも含めて先程から畳み掛けるように劣勢に追い込まれていたためか、アクションが間に合わず何も出来ないまま落下してきたようだった。

 悲鳴を上げながら落ち続けるデスジラスを、レドラはその目で確かに捕捉した。瞬く間に翼全体で起こっていた発光が、付け根の方目掛けて吸い込まれるにして消えていき、逆に口内の発光はそれまでにないほど強力なものへと変わった。

 

 少しの静寂があった。

 

 レドラの口内に溜まっていた黄金の光は解放されるのと同時に、それらは螺旋回転しながら直進する巨大な光球へと変じた。それは抵抗する隙も与えないまま殆んど一瞬のうちに空中のデスジラスを飲み込むと、その体の内側に入り込みごく微細な部品の一片に至るまでも余すことなく焼き尽くしていった。

 光はやがて、デスジラスの体内に隠れていたあの赤い球体にも到達した。


 それは今までずっと、裏で糸を引いてきたものだった。

 影からモノを操り、使いたいように使い、自らはずっと物陰に隠れて安全でいたものだった。

 だがそれも、今日でお終いだった。

 

 

 

 悪意は、跡形もなく、音も立てずに砕け散った。

 

 

 

 浜辺の上空で大爆発が起こり、熱風と黒煙が青空の下で何処までも広がっていった。微かに形をとどめた黒焦げの部品たちは、炎上しながら海上や、砂浜の上に落下していって崩れ去る。

 レドラは敵の爆発に背を向けると、勝どきの如く天に向かって吼え上げた。

 勇壮なる雄叫びは、人々の心に歓喜の声となって轟いた。

 

挿絵(By みてみん)

 

* * * * *

 

 水岡たちがハッキリと状況を飲み込めたのは、その場にヘリの音が聞こえてきてからだった。ふと気がつけば、レドラの姿はそこになかった。


 飛んでいったハズはない。歩いて海に帰っていった訳でもない。ただいつの間にか、風に乗って光の粒が流れていくだけで、後には真紅の守護龍の面影など何処にも見当たらなかった。

 それでもレドラのいた事実だけは確かに証明されている。

 何故ならばそこに、デスジラスの姿はなかったからだ。

 悪魔は粉微塵となり、町には平和が訪れた。今に、町の人々も帰ってくることだろう。

 

「終わった……のか」

「……みたいだな」

 

 それだけの会話の後、吉田は新星と示し合わせて近くに転がっていた大きめの石の上に水岡を座らせると、ようやく楽になったと肩をぐるぐる回す。

 新星も、いよいよ心の底から安堵できた模様であった。水岡の脇にしゃがみ込み、大きく息をつくと、彼女は水岡と吉田の方を見上げて嬉しそうに言った。

 

「本当に良かった……吉田さんも、ありがとうございました」

「礼ならいらねぇよ。あぁ……汗かいちまった。ちょっと向こうで涼んでくらぁ」

 

 吉田はワザとらしくそんなことを言ったかと思うと、一人でどこかその辺にいなくなってしまった。水岡たちに気を遣っているのは明白であった。

 新星はその後ろ姿を見送った後、少し躊躇いつつも水岡の座っている隣にそろりと腰掛けた。水岡はというと、そちらをちょっと見た後であさっての方向を向き、それからずっと黙っていた。

 しばらくの間、二人とも何も言わなかった。

 最終的に沈黙を破ったのは、驚くべきことに水岡の方であった。

 

「――ありがとな」

「え?」

 

 小さな声でそう言った水岡に対し、新星は内容を知りつつもあえて聞き返してみる。しかし水岡はすぐに何も言わなくなってしまった。

 新星はその横顔を眺めていたがすぐに、ふふ、と笑みを溢した。

 そして最後に、自分自身も小さな声で言う。

 

「……どういたしまして」

 

* * * * *

 

「――――また、助けられたか」

 

 山積みになった瓦礫の上に立つ、その少年は何処か遠くを見つめるようにして呟いた。

 少年の長身は上下とも赤い服装に包まれていた。その顔は純粋そうであり、また何処か賢そうでもあった。

 そんな少年は憂いを含んだ表情で天を仰ぐと、そのまま静かに言った。

 

「生きてくれ水岡。祖先が何者かなど関係ない……君は、君だ」

  

 それから少年は踵を返すと、殆んど音も立てずに瓦礫の坂を下りていった。気がつけば、よく目立つはずの少年の姿は影も形もなかった。

 

 

(エピローグへ続く)



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