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真・烈怒龍 第一幕 ”希望”【レドラスタジオ・アーカイブス】  作者: 彩条あきら


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第二十話 激闘

 砂風が吹きすさぶ死の町の真ん中で、真紅の龍と鋼鉄の龍が距離をとって対峙しあい、互いに隙を窺って身構えていた。先程から呼吸で上半身が微妙に上下しているレドラに対し、殆んど微動だにしないデスジラスの様は、いかにも生あるものと無いものの差を物語っているかのようである。

 それぞれの視線が交差する中で、今にも飛び掛からんと待ち構えているその光景は、さながら西部劇の大決闘であった。その違いは使用する武器が銃か己の肉体か、決闘者がカウボーイハットを被った等身大の人間か身長20メートルを越す怪獣かということである。

 己の誇りと存続を懸け一対一で向かい合った二体の巨獣は、今まさに決戦のときを迎えようとしていた。


挿絵(By みてみん)

 

 やがてレドラの尾が僅かに浮き上がり、その背後の地面を叩いて揺れを生じさせた。ソレに連れられ、近くで崩れかかっていた家屋の二階部分にあるベランダが、バランスを崩してゆっくりと地上に落下する。

 その瞬間、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 レドラとデスジラスがほぼ同時にお互いを目掛けて突進し始めると、これまた同時に前方へと跳躍し、すれ違いざまにその切れ味鋭い爪と爪を交叉させた。激しく火花を飛び散らせ、両者はそれぞれの爪を振り切ったまま着地すると、ガリガリと足元の土を削り取りながらスライディングして停止した。

 自身らの翼や尾が当たって周囲の家々の屋根瓦が吹き飛んでいく中、それにも構わずに怪獣たちは相手側を振り返ると、また再び猛烈な勢いで突っ込んでいった。

 レドラは敵に衝突する寸前で突然立ち止まったかと思うと、自らの尻尾に走っていた時の速度を乗せながら横方向に振り回し、前回の戦いで敵がやっていたように鞭と化したソレをデスジラス目掛け叩きつけた。

 ところがデスジラスは、脇腹にきた尻尾を真正面から受け止めると、長大な爪を供えた両手で掴んで踏みとどまってみせた。自身の体重が大幅にかかっているハズのその部位を押さえ込まれてしまって、レドラはバランスを保てなくなり、よたよたと横方向に足を移動させた。

 デスジラスはその状態を見てキキィと甲高く叫びを上げると、己の全重量を足一本に集中させることで敵の体を持ち上げ、力任せにレドラの体を空高く放り投げた。

 

「グゥオオオオオッ!」

 

 レドラは苦しげに唸りながらも、さも身軽そうに空中で体の向きを反転させると、まるで爆弾でも落ちたかのような音を立てつつ大地に降り立った。それからグワッと一気に立ち上がると、敵を真っ直ぐに見据えてその口を開け放つ。

 次の瞬間、口内から青白い輝きと共に灼熱の火球が撃ち出された。直径1メートル近くもある巨大なプラズマの塊だ。

 ところが今回ばかりは、全てを焼き尽くす必殺の一撃とはならなかった。青白い火球は標的に命中するかしないか、という寸前のところで急に真っ二つに切り裂かれたかと思うと、デスジラスの背後にあったそれぞれ別の建物に着弾して爆発し、思わぬ火災を巻き起こしたのである。

 その左手から伸びる長爪で火球を真っ向から寸断したデスジラスは、前傾になった体勢から静かに目の前のレドラを見上げると愉快そうに笑った。一方でレドラは、眼前のまがいもの相手に自身の武器が通用しなかったことで驚き、いささか怯んでいた

 

 そんな動揺を見透かされたのか、デスジラスはひと声叫ぶとレドラに向かって両腕を向け、尾を大地に叩きつけるとその全身を一定の姿勢のまま固定して、それからあらゆる一切の身動きをとらなくなった。するとその途端、デスジラスの腕や足、胴体といった全身各所から数え切れないほどの数の砲塔が、金属のきしみ合う音と共に次々とせり出してきた。

 恐るべき光景にレドラが後ずさりしかけていると、間髪入れずに全ての砲口から光が溢れ、瞬く間に嵐のような銃撃が開始された。両腕に組み込まれた機関銃から5.56ミリの弾丸が、胸部から突き出た無反動砲より84ミリの榴弾が、脇腹から140ミリもある対戦車ミサイルが、休む間もなく撃ち出され、雨あられとレドラの体表に着弾しては無数の爆発を引き起こした。

 

 反撃する暇も与えられないほどの凄まじい物量攻撃に、さしものレドラも悲鳴のような吠え声を上げ、がっくりと膝を突いてしまった。

 苦しさを表現するかのようにレドラが息を荒くしていると、不意にその傍にデスジラスが接近してくるやいなや、鋼鉄の脚部を体の内側にめり込ませられた。胴に鈍い衝撃が走り、レドラは何の抵抗も出来ないまま仰向け状態に引っくり返されてしまった。

 地面に倒れたレドラが手足をじたばたさせていると、その上から先ほどと同じ鋼鉄の足が打ち下ろされてきた。レドラの腹部を突如として何十トンもある金属製の足が踏みつけ、大地にまでその余波が響き渡った。

 苦痛に吠えている暇もなく、その超重量でのしかかってきたデスジラスは、容赦なく右手から伸びる爪を足元のレドラ目掛けて振り下ろしてきた。サッとかわした頭の真横に数メートルはあろうかという金属製のヤリが突き立ち、デスジラスが悔しげな声を上げる。

 もう一方の爪を振り下ろそうとしたデスジラスを前にして、レドラはもう一度その口を開け放ってみせた。その中に今一度、青白い光が集束していく。火球を放とうとしているのだ。

 数日前の戦いの際には、現在と同じ体勢からの火球によりデスジラスの片腕を奪い去ることに成功した。今回も狙いは同じだった。レドラはその口から灼熱の塊を解き放った。

 

 が、そう易々とはいかなかった。

 

 レドラが口から火球を吐き出し終えるその寸前、突如としてデスジラスが全身を仰け反らせたかと思うと、とても鋼鉄の集合体だとは思えぬような素早さと身軽さで、その身を跳躍させたのである。焼き尽くす対象を見失った青色の火球は、一人虚しく天空へと飛び去っていった。

 敵の拘束を何とか退けたレドラは即座にその場に起き上がると、煩わしげに首から上を何度も横向きに振った。見上げてみれば、町の空にはなんとその巨大な翼を展開したデスジラスの姿があった。レドラの烈火球を急速に回避せしめた、飛行能力の発現である。

 だがしかし、その金属製の巨体を持ち上げるには翼だけでは明らかに不充分であった。ただでさえその布製の皮膜には、あちこちに裂け目があるのである。

 果たしてその能力の真相は、胸部の周囲、というよりはむしろ体内で光り輝く赤熱色の球体の周囲から、無数の部品の隙間を縫って噴出する謎のエネルギー場であった。球体とほぼ同じ色に光り輝くそれらが推進力となり、デスジラスの巨体を宙に浮かばせているのである。

 人の常識を平然と乗り越えてくる、悪魔の力がそこにあった。

 

 今までにない力を発揮してみせたデスジラスを、レドラは少しの間黙って睨みつけていた。レドラの牙の隙間から、怒りに満ちた唸り声が漏れて出る。レドラの巨大な口が、再び解放された。

 町の上空に青白い尾を引いて、幾つもの炎の塊が宙を舞った。

 ところが思った以上にデスジラスの機動力は高く、放たれる火炎の全てはほぼ寸前のところで回避されてしまって、一向に命中する気配を見せなかった。それを見たレドラはついに業を煮やしたのか、自らもその背中に生えた翼を急速に展開すると、大地を蹴って勢いよく空中に跳び出していった。その鱗の隙間からは、いつの間にか金色の粒子が噴射されている。

 

「ゴアアアアアアアアアッ!!」

「キキキキキキィィィィィッ!!」

 

 レドラとデスジラスは互いに叫び声を上げながら、エネルギーの噴射で頻繁に加速を繰り返しつつ、竜ヶ守の空を文字通り縦横無尽に飛び回った。レドラが上昇すればデスジラスも上昇し、すれ違うたびにその鋭い爪でもって切り結ぶ。

 空を舞いながらも、レドラは火球の発射を止めなかった。それでも尚、デスジラスの動きは異様に素早く、青白い弾丸が標的に命中することはない。

 デスジラスも負けてはいなかった。レドラがその射線上に入るたび、両腕から機関銃とレーザーを浴びせかけたのである。だが、それらもまた命中することはなく、むしろその背後にある家屋や海面を薙ぎ払うことによって余計に被害を拡大させていった。

 

* * * * *

 

「きゃっ!?」

 

 すぐ近くの道路にデスジラスの発射した銃弾の雨が飛来し、路上にあった車が一台、鋭い音を立てて破砕された。その音を聞いた新星が驚いて飛び上がるのと同時に、吉田が水岡と新星を引っ張って咄嗟に建物の影へと飛び込んだ。

 幸いにもそれ以上近くで破壊音のすることはなく、吉田は水岡の肩を支えたまま不安げな表情で物陰から顔を出し、町の上空を覗き見た。そちらでは再び、レドラがデスジラスを追って空高く飛び上がっていくところだった。

 

「くっそ……俺たちまで巻き込もうってのか!?」

「おい、あれ……!」

 

 吉田の悪態に続くかたちで、水岡が空を指し示して驚愕の声を上げた。

 そこではなんと、とうとうお互いの動きを封じあうような体勢になったレドラとデスジラスが、空中で複雑に絡み合ったまま地上目掛けて落下してきていた。落下予想地点は水岡たちのいる場所からは多少離れてはいるものの、あんな大質量のものがそのまま地上に激突してきたら無事で済むとはどうにも思えなかった。

 吉田も水岡と同じことを思ったのか、珍しく狼狽した様子になって叫び声を上げた。

 

「やばいやばいやばい、急げ!」

 

* * * * *

 

 そこに建っていた古本屋を蔵書と本棚ごと跡形もなく叩き潰しながら、レドラとデスジラスは地上に落下した。無数の木屑と砂ぼこりにまみれながらも両者は立ち上がると、殆んど顔のぶつかりそうなぐらいの距離で改めて対峙しあう。

 すると二体の怪獣は何を思ったか、殆んど同じタイミングで相手に向かって体当たりを仕掛け、そのまま地上で体ごとぶつかり合い、殴り合い、まるで巨大なプロレスと言わんばかりの壮絶な戦いを始めた。

 レドラの爪が振り抜かれるごとに、デスジラスの頭突きが胸元に命中するごとに接触した箇所から次々と火花が散り、その肉体が少しずつ砕け散っていく。しかしそれでも一歩も退くことなく両者は格闘を続けた。

 

 そのとき彼らの元に、どこか遠くの方からかジャイロの回転する音のような凄まじい爆音が聞こえてきた。徐々に接近してくるそれに興味を引かれた二体の怪獣は、戦いの手を休めはしないものの、傍らでその音の発生源を探って頭を左右に動かしていた。

 やがて怪獣たちの目に、町の北の方から飛来するひとつの小さな機影が飛び込んできた。その正体は陸上自衛隊が所有する多用途ヘリコプターUH-1Jであった。直径14メートル強もある回転翼に吊られた迷彩柄の機体内部には、パイロットをはじめ数名の自衛隊員たちが乗り込んでいる。

 その中には、あの大河原の姿もあった。

 

 それを見たデスジラスが突然、グゲゲと気味の悪い唸り声を上げた。そして突然レドラを突き放したかと思うと、その尾を振るって更に遠くへとレドラを弾き飛ばし、自分は近づいてくるヘリの方を向いて両腕を持ち上げ、その姿勢を固定した。

 

* * * * *

 

「まずい……回避だ!」

「え?」

 

 ヘリの後部座席から、町のど真ん中にいるデスジラスがこちらを向いて何らかの構えを取った様を見て、大河原は咄嗟にパイロットに指示を出した。あの体勢は危ういのだ。おそらく、次に起こる出来事はもう決まっている。

 しかし当のパイロットはといえば、出された指示の意味がよく分かっていない模様であった。それを見た大河原は慌てた様子で、珍しく声を張り上げて言った。

 

「早く旋回しろ、敵の攻撃が飛んでくるぞ!」

「は、はいっ!」

 

 しかし時すでに遅し、であった。ヘリが急速にその脇腹を見せかけた瞬間、デスジラスの両腕から順番に白煙が上がり、続いて一発ずつTOW対戦車ミサイルが発射された。八枚の安定翼を備えた、マッチ棒のような形状の誘導弾である。

 時速数百キロのスピードで迫り来る二発のミサイルを前に、攻撃用でもないヘリになす術などなかった。あっという間に眼前に現れたミサイルの姿を見ながら大河原は、かつて怪獣を倒すために使用されるはずだった兵器が今では当の怪獣によって使役され、自分の命が奪われるという状況に一抹の皮肉と、悔しさとを感じ取っていた。

 だがもう何も抗うことなど出来なかった。自分の戦いはここで終わりなのか、とそう諦めかけていた。

 次の瞬間、視界いっぱいに白い閃光が溢れ、鼓膜を引き裂くかと思うような凄まじい音がした。

 全てが、終わったように感じられた。

 

* * * * *

 

 何かが、おかしかった。

 おかしいと感じられることがおかしかった。自分は、まだ生きている。それが不思議だった。

 大河原はハッとした。

 

 自分は死んでなどいなかった。乗っているヘリも爆発の衝撃で揺さぶられはしたものの、機体が引き裂かれたりなどは一切していない。完全に無事であった。

 思えばヘリのすぐ外に、何か巨大なものが立ち塞がっていた。何が起こったのかと疑問ばかりが浮かび上がり、大河原は口を聞くのも忘れて急ぎヘリの窓に近づくと、そこから外部の様子を覗き見た。

 そこには、まさしく想像だにしなかったものの姿があった。

 

 こちらに背を向け翼を最大限にまで広げたレドラが、爆炎に包まれながら地上目掛け落下していっていたのだ。

 

 すぐに地響きが聞こえ、レドラの体が地面に衝突するのが分かった。空中では先程から爆煙と土煙が拡散し続け、まるでその下に横たわったレドラを火葬しているかのように見える。それら一部始終を呆気にとられて大河原が見守っていると、遥か向こう側にいるデスジラスの金切り声に応えたかのようにレドラが再びその場に立ち上がった。真紅の龍が、再び敵に向かって吼え猛った。

 

「ウオオオオオオオオオ!!」

 

 見方によってはデスジラスに負けず劣らぬほどの恐ろしさを発揮するレドラの咆哮であったが、今の大河原には何故かそのような感情は沸いてこなかった。

 むしろ、奇妙でさえあった。

 つい先程まで目の前のこの怪獣は、デスジラスを挟んで町のずっと向こう側にいたハズなのである。少なく見積もっても500メートルは離れている。デスジラスが間に立ち塞がっていたことから考えても、位置関係としてこのヘリとレドラとの関連性は皆無であった。

 ところがどういう訳なのか、レドラはこのヘリの眼前にてデスジラスの放ったミサイルに被弾していた。周囲の建物の様子などが変わっていない以上、これはレドラがヘリの眼前まで移動してきたと考えるのが自然である。

 だとすれば尚更奇妙であった。

 あんなに遠い距離から、ヘリの目前にわざわざ移動してくる必然的理由など、レドラにはあろうハズもない。そうでもなくとも事前にデスジラスの攻撃を受け、地面に倒れていたのである。このタイミングで現在の位置に飛び込んできたのだとしたら、それはもはやミサイルに当たりにきたとしか考えようがなかった。

 

 ヘリの目の前で立ち上がったレドラは、再びその巨大な翼を広げていた。両足を肩幅に広げて大地を踏みしめ、腕を左右に大きく伸ばしているその様子は、どう見ても、

 

「まさか、我々を守っているというのか……!?」

「一時、空域を離脱します!」

 

 パイロットのそんな説明も、今は耳に入らなかった。大河原はそれからずっと、窓越しにレドラの背中を見守り続けていた。

 

* * * * *

 

「クエエエエエエエッ!!」

 

 デスジラスの甲高い叫び声が、再び半壊した竜ヶ守の町に木魂した。彼の目には、遥か彼方で自分の攻撃を喰らい墜落した、愚かな“守り神”の姿が映っていた。よたよたと立ち上がり今一度人間の盾になろうとする敵の姿を見て、デスジラスは傍目には見えない強烈な嗜虐心をむき出しにした。

 デスジラスの全身から突き出た何十もの砲塔がまたも火を噴き、遠く離れた場所に立つレドラの全身を余すところなく焦がし尽くした。加熱された鉛の弾丸が、ロケット推進する鋼鉄と爆薬の塊が、生身で立ちはだかった怪獣の全身各所に着弾し、その肉を焼いていく。

 体中を打ちのめされ、レドラは悲鳴のような声を上げながらよろめいた。

 

 すると間髪入れずに緑色の光線が二筋、デスジラスの両腕から迸ると同時にレドラの左右の翼を貫いて、その支柱と皮膜を下から上の方へと一瞬にして突き抜けていった。

 その後僅かに遅れてレーザー光線の通過していった部分が勢いよく炸裂し、瞬く間にレドラの両翼がその付け根の部分から千切れ飛んで地面に落下した。

 レドラが苦痛にもがきながら大地に倒れ伏す光景を、デスジラスは愉快そうに眺めた。

 

 

(第二十一話へ続く)


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