表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/21

000 千年刑務所


 「アルディス……ッ」

 

 塔の最上階。

 アドガードはその男と対峙していた。

 

 肩で大きく息をするたび、鉄錆に似た血生臭い匂いが肺の奥深くまで侵し、汚していく。

 

 せり上がってくる吐き気を奥歯で噛み殺し、鋭い牙が音を立てる。

 アドガードはただ一点を睨み据えた。

 

 視線の先

 ――はるか上空。

 

 見慣れた白銀のローブを翻し、その主――アルディス・ルナ=ゼノラートは、無関心に窓の外の月を眺めていた。

 

 アドガードの足元には、巨大な爪で切り裂かれた遺体が山を成している。

 

 どろりと血に濡れた床を強く踏み締める。

 

「――アルディス!!!」

 

 獣の情動を剥き出しにした咆哮が、静寂に包まれた塔を激しく揺らした。

 怒りに逆立った濃茶の体毛が、アドガードの体躯を凶々しく膨れ上がらせる。

 

 ゆっくりと振り返ったアルディスは、その端正な顔に冷徹な笑みを浮かべていた。

 月光を弾いて、頬を伝う一筋の雫。

 それが涙だと気づくまでに、アドガードは数秒を要した。

 

「アド……」

 

 優しく名を呼ぶ声とは裏腹に、瞳には一切の温度がなかった。

 

「君は『月聖二百人殺し』の裏切り者として、これから千年の時を過ごすんだ。老いることも、死ぬことも許されない暗闇の中で。たった一人、生きていくんだよ」

 

 アドガードの目がわずかに見開き、唇を噛んだ。鋭い爪が掌に食い込み、自らを傷つける。

 その表情が苦痛に歪む。

 

「なんでなんだ?!」

 

 アドガードが床を蹴り、アルディスに飛びかかろうとした瞬間。

 

 翡翠色の光が弾け、身体を包み込んだ。

 

 不可視の圧力が四肢を縛り、抗う間もなく血塗られた床へと叩きつけられる。

 

 アドガードの眼前まで、アルディスが音もなく降り立った。

 

 差し出された白皙(はくせき)の掌。

 そこに展開された緻密な法術陣(ほうじゅつじん)が、残酷なほど美しい光を放つ。

 

「アルディス……お前……!!」

 

 牙を剥き、唸り声を上げても、腕一本動かせない。

 

 アルディスは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

 

「ーーおやすみ、アドガード」

 

 その声は、ひどく穏やかだった。

 

「覚えていたら――千年後に、また会おうじゃないか」

 

 次の瞬間、光がすべてを呑み込み、暗闇の牢獄へと沈んでいく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ