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花嫁に逃げられた侯爵と花売り娘、辺境で無双する  作者: ユーコ
第二章 冒険者の集落の再生

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01.冒険者の集落の再生

 オズワルド達が魔境から戻って一週間後、後発部隊の百名が到着した。

 兵力が増強され、これでいよいよ魔境探索の準備が整った。

 目指すは冒険者の集落の再生である。

 魔境探索に不可欠な上級回復ポーションだが、館の資材管理担当のウォーレスが農地を拡大し、赤キュア草はさらなる量産体制を整えた。

 その他のポーションの材料も、近くの町と協力し、安定して入手出来ている。

 ポーション作りは順調だが、新たに思わぬ問題が発生した。

 ポーションを入れるポーション瓶の不足だ。


 ポーション瓶は一見ただのガラスで出来ているように見えるが、普通のガラスよりずっと頑丈で多少乱暴に扱った程度では割れない。

 あまり知られていないことだが、現在ポーション瓶は、国内は元より外国でも誰も作っていない。


 ポーション瓶を作るのは熟練の職人でないと難しいそうで、つまり、製作にはかなりお金が掛かる。そこで使い終わった後、瓶を回収し洗浄後に再利用している。

 オズワルド達も配給品としてポーションを受け取り、空き瓶だけ返すという運用だったそうだ。


 ポーション瓶自体は昔に作られた分が大量に残っており、壊れにくいため、それで『普通は』困らない。

 今までは王都でリリが買い付けていたポーションの空き瓶と、地元の町の医師から融通してもらった分で回していたが、予想以上に順調に上級回復ポーション量産体制が整ったため、このポーション瓶が不足してきた。

 なんとかポーション瓶を買い付けようと努力しているが、使う量が半端ないため、間に合わない。


 この問題は、一部は解決し、一部は未解決になった。

 都会ではただのポーションもポーション瓶に入れて売られている。

 その方が薬効を維持したまま長期に保管出来る。使い終わった瓶を店に持っていくと瓶代を返してくれるシステムだ。

 しかし田舎や都会の下町ではいちいちポーション瓶を店に返しに行けない人も多い。

 そのため、彼らはポーション液だけを購入し、水筒など適当な入れ物に入れてもらい、使う。

 この方法だとすぐに使用しないと劣化してまうが、逆に短期間で使用するなら問題ない。


 自分達で使うものはこの簡易運用でしのぐことになったが、売り物はそうはいかない。

 ポーション瓶の安定供給は急務である。何らかの手立てを打たねばならない。



 問題は多々あれど、魔境探索は概ね順調で、オズワルド達は冒険者の集落を再生するための建材を運び込んでいる。

 まず最初に作るのは、防衛のための壁だ。

 集落は最盛期、百名近い冒険者が寝泊まりする一大拠点だった。

 そのくらいの人数がいると魔物達も警戒して襲ってこないし、万が一襲われても対処出来たそうだ。

 今は放置されていた石と新たに搬入した石を使い、石垣を組んでいる最中だが、まだ着手したばかりで先は長い。


 そんな中、リリが満面の笑みでオズワルドに言った。


「閣下、そろそろ私も冒険者の集落に行きたいと思います」





 ***


「――却下だ」

 執務室に乗り込んできてそう宣言したリリにオズワルドは冷たく言い放った。

「えー、どうしてですか?」

 リリの質問にオズワルドは眉を上げる。

「どうして? 危険だからに決まっているだろう。なあに、三ヶ月か四ヶ月したら防御設備も出来上がる。君はその時行けばいい」

 話は済んだと言わんばかりに、オズワルドはリリに向かって手を振る。


「三ヶ月も四ヶ月も待ってられませんよ。私は、今、行きたいのです」

 リリはそう力説した。

 オズワルドは顔を上げてリリをにらみつけた。

「僕は危険だと言っている。上官の命令が聞けないのかね」


 そう言われると弱い。だが、リリも諦めるつもりはない。

「……閣下は冒険者の集落の防御壁を作っているんですよね?」

「そうだ」

 リリはにんまり笑った。

「だったらいいものがあるんです」

「いいもの?」

「ええ、いい感じに育ってますヨ」

 リリは絶好調にご機嫌な顔で微笑んだ。



 リリがオズワルドと共に向かったのは領主の館の領主夫人用の庭だ。

 執務室に副官のアンドリューも同席していたが、「お二人でどうぞ」と二人だけで行かされた。

 高貴な身分の女性が邸宅に自分専用の庭を持つのは珍しいことではない。

 貴婦人はそこでバラを始めとした観賞用の花などを育てている。『育てている』とはいっても本人が土いじりをするケースはほとんどなく、実際の世話は庭師が行う。

 貴婦人が愛でる美しい花々は繊細なので、大抵、庭のそばには温度管理のための温室が付いている。


 クリンプス領の領主の館では、これまで歴代の夫人はほとんど住んでないが、こういうのはお屋敷の『格』として取り払うわけにはいかないものらしい。

 有名無実とはいえ、きちんと手入れされ、存在していた。

 そういうわけで、ここはリリ専用の庭だ。

 リリはここを自分の実験室として使っていた。


 ――リリ様が領主夫人の庭で何かすごいものを栽培しているらしい。

 リリがやって来てしばらく経つと、館ではそんな噂が囁かれ出した。

 噂を補強するように、リリは「危ないから」と庭仕事が得意な兵士数名を専属の世話係に任命し、それ以外の人間の立ち入りを禁じた。

 担当になった兵士達から話を聞こうにも、「信じてもらえないよ」と首を振るだけで、積極的に話そうとはしない。

 ただ「本当に危ないので近寄らないでくれ」と彼らは口を揃えて言った。


 そうした噂はオズワルドの耳にも入っている。

 魔境探索以外に関心がないオズワルドは一向に気に止めていなかった。

 しかし。

 温室に近づくと、ガラスが緑一色になっている。

 なんだか分からないが相当な勢いで植物が生い茂っているようだ。

 さすがのオズワルドも驚いてリリに聞いた。

「おい君、何を育てているんだ?」


「色々デスねー」

 のんきに答えるリリだったが、温室のドアを開ける前に真顔でオズワルドを見上げる。

「閣下、中では私の許可なく植物に触れないでください」

 不穏な発言にオズワルドは眉を上げた。

「何か危険なものを育てているのかね?」


「いえ、最初はそこまで危険ではなかったんですが、今は危険ですね。まあ、ぐだぐだ言うよりお見せした方が早い。中に入ってください」

 そう言ってリリはオズワルドを温室に通した。


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― 新着の感想 ―
えええ!ここで終わる?! 何を育てているのー? そして、まさか新連載が始まっていたとは存じませんでした。 また、楽しみが出来ました。
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