バイオハザードシナリオゲーム その2
バイオハザードシナリオゲームの続き。
お昼のミニゲームで美津子は新型のエアガンを褒賞で貰った。
M4RS RSはリコイルショックという意味だ。
これで午後のゲームへ突入する、バイオハザードゲームらしく簡単なロールプレイングゲームへ向かう美津子は果たして・・・
第十五話(バイオハザードシナリオゲーム その2)
午後一時を告げるブザーが、RPD警察署のコンクリート壁を震わせた。
黒木美津子は待機室の薄暗い一角で、新しく手に入れたM4RSのグリップを握り直した。
掌に吸い付くような質感。
軽量化されたレシーバー。
そして新品特有のオイルの匂い。
彼女はマガジンを叩き込む。
カチン――。
続けてチャージングハンドルを引いた。
シャコンッ!
乾いた金属音が室内に響く。
「……いい音」
思わず呟く。
箱出しとは思えない完成度だった。
午前中、L96での狙撃に徹していた時とは違う。
今、彼女の手にあるのは機動戦向きのライフルだ。
感染者との距離が近づく午後戦では、こちらの方が生き残れる。
待機室には、疲労の色を隠せないRPD隊員たちが集まっていた。
誰もが汗を流し、額に土埃を付け、弾切れ寸前のマガジンを詰め直している。
美津子は周囲を見回した。
「あれ……アルファーチームの人、少なくない?」
午前中は十人近くいたはずだ。
だが今、残っているのは五人だけだった。
無線機を弄っていた若い隊員が苦笑する。
「他の人は……ゾンビになりました」
「えっ……」
思わず声が漏れた。
感染したプレイヤーたちは、今頃研究所側で“敵”として復活している。
つまり、午前中まで共に戦っていた仲間が、今は銃を構えてこちらへ襲いかかってくるのだ。
「ワクチン持ちが減るの、かなりまずいですね……」
別の隊員がため息混じりに言う。
「しかも、俺たちアルファーはもうワクチンをほとんど使い切りました。だから午後はブラボーチーム中心で感染者を戻してほしいって」
美津子はポーチの中を確認した。
ワクチンボトルは一本。
残り使用回数は、あと三回。
「いや……でも」
女性隊員が不安げに言った。
「あの撃ってくるゾンビの背後取るの、厳しくないですか?」
その言葉に、室内の空気が重くなる。
感染者たちは頭以外ヒット無効。
しかも普通に銃を撃ってくる。
正面戦闘では圧倒的に不利だった。
誰もが、それを午前中に思い知らされていた。
だが。
「やるしかないわね」
美津子が静かに言った。
全員の視線が向く。
彼女はM4RSを肩に掛けながら続けた。
「感染者を戻さない限り、数で押し潰されるだけよ」
誰かが小さく頷いた。
その時、スピーカーから警報音が鳴り響く。
『午後のゲームを開始します。各チーム、配置についてください』
緊張が走る。
参加者たちは次々と立ち上がった。
「行くぞ!」
「RPD出動!」
「今度こそ研究所を押さえる!」
叫び声と共に、隊員たちが警察署から飛び出していく。
美津子もそれに続いた。
外へ出ると、午後の日差しが森を黄金色に染めていた。
だが、その美しさとは裏腹に、フィールドの空気は戦場そのものだった。
遠くでフルオートの音が響く。
パパパパパパッ!!
「接敵してる!」
「右から回れ!」
軍チームと感染者が既に交戦を始めているらしい。
美津子は走りながら地図を頭に浮かべた。
研究所正面は危険だ。
感染者の復活地点に近すぎる。
ならば――。
「裏から回る」
彼女は単独で森側へ進路を変えた。
ブッシュを掻き分ける。
湿った土の匂い。
枝が装備に擦れる音。
M4RSを胸元で構えながら慎重に進む。
やがて、研究所から少し離れた開けた場所に出た。
そこではアンブレラ軍と感染兵士が激しく撃ち合っていた。
「撃て撃てぇ!」
「頭を狙え!」
「うわっ、近づいてくる!」
フルオートの弾幕が飛び交う。
だが感染兵士たちは止まらない。
頭以外は無効だからだ。
胸に何発当たろうが、腕に当たろうが、平然と前進してくる。
その異様さが、プレイヤー達の恐怖を煽っていた。
美津子は低いバリケードの裏へ滑り込んだ。
そこから様子を窺う。
感染兵士が一人、木陰でしゃがみ込み、アンブレラ軍へ射撃していた。
背中が無防備だ。
「……いける」
彼女はゆっくり回り込んだ。
足音を殺す。
距離五メートル。
三メートル。
感染兵士は前方に夢中で気付かない。
今だ。
美津子はポーチからワクチンボトルを抜き、背中へタッチした。
「ワクチン投与!」
感染兵士役の男性が驚いて振り向く。
「あっ!」
スタッフが叫ぶ。
「人間復活です!」
周囲から歓声が上がった。
「やったー!」
「RPDナイス!」
男性は腕章を付け替えながら笑う。
「助かったぁ!」
美津子も思わず笑みを浮かべた。
この瞬間がたまらない。
ただ撃ち合うだけではない。
状況を読み、近づき、救出する。
シナリオゲームならではの面白さだった。
だが。
問題は、感染速度の方が遥かに早いことだった。
無線が騒がしい。
『東側で三名感染!』
『中央通路制圧されました!』
『研究所前、維持不能!』
次々と味方がゾンビ化していく。
「これじゃ……」
美津子は唇を噛んだ。
ワクチン一本で救えるのは五人まで。
だが感染者は既に三十人を超えていた。
完全に押され始めている。
その時。
「接敵!」
左側から怒号が飛ぶ。
振り向いた瞬間、黒い腕章を付けた感染兵士が二人、こちらへ向かってきた。
パパパパッ!!
BB弾が木に弾ける。
「っ!」
美津子は咄嗟に伏せた。
土埃が舞う。
M4RSを構え返す。
セミオート。
パンッ!
パンッ!
一人の頭部を掠めた。
「ヒット!」
だがもう一人が止まらない。
しかも距離が近い。
まずい。
美津子は横へ転がり、バリケード裏へ飛び込んだ。
心臓が激しく脈打つ。
「落ち着いて……」
息を整える。
相手の位置を読む。
感染兵士は右側へ回り込もうとしている。
ならば。
美津子は逆側から飛び出した。
M4RSを肩付け。
視界に黒い腕章。
トリガー。
パンッ!!
だが。
「うわっ!」
相手も同時に反応した。
BB弾が飛来する。
頬の横を掠めた。
そして次の瞬間。
パシュッ!
胸元に衝撃。
「ヒットー!」
美津子は両手を上げた。
感染兵士が笑う。
「ナイスファイト!」
悔しい。
あと一瞬だった。
彼女は額の汗を拭きながら笑い返した。
「やられたわ……」
復活ポイントへ向かって歩き出す。
その途中。
研究所方面から再び銃声が轟いた。
午後戦は、まだ始まったばかりだった。
〈地下への足音〉
ヒット判定を受け、美津子はRPD警察署の復活ポイントへ戻った。
額に浮いた汗をグローブの甲で拭き、ヘルメット代わりのブーニーハットを脱ぐ。肺が熱い。ゲームとはいえ、森と市街地を走り回り続けた疲労が確実に蓄積していた。
部屋の中では、復活待機中の参加者たちが水分を取りながら騒いでいる。
「くそっ、頭当たんねぇ!」
「ゾンビ側、強すぎだろ!」
「研究所前、地獄だぞ!」
誰もが興奮していた。
美津子は壁際のテーブルに腰を下ろし、ペットボトルの水を飲む。
その時だった。
机の端に、誰かが置いたらしい紙切れが目に入った。
油性ペンで乱暴に書かれている。
『研究所2階 絵画』
「……何これ」
美津子は紙を摘まみ上げた。
単なる落書きか、それともゲーム進行のヒントか。
龍崎のことだ。
ただ撃ち合うだけのシナリオで終わらせる男ではない。
美津子は無意識に唇の端を上げた。
「2階、ね……」
研究所内部は、今や感染者側の復活拠点になっている。正面から近づけば、ゾンビ兵士たちに袋叩きにされる危険地帯だ。午前中の戦闘で、その恐ろしさは嫌というほど味わっている。
だが――。
だからこそ、誰も奥まで探索していない可能性が高い。
「行ってみる価値はあるかも」
美津子は立ち上がると、FAMASではなく新しく手に入れたM4RSを手に取った。重厚だが、取り回しがいい。狭い屋内戦にはこちらのほうが向いている。
マガジンを確認。
残弾良し。
ポーチにはワクチンボトルが一本。
残り使用回数は二回。
深呼吸を一つして、再びRPDを出た。
外は午後の日差しに包まれているが、研究所周辺だけは妙な緊張感が漂っていた。森の木々が風に揺れ、その隙間を迷彩服姿の参加者たちが走り抜けていく。
遠くで銃声。
パンッ、パンッ――。
そしてゾンビ兵士役の怒号。
「感染者接近ーっ!」
美津子は木陰を利用しながら研究所裏手へ回り込む。
途中、一人で徘徊している感染兵士を発見した。腕章は赤黒く染められ、まるで本物の感染者のようだ。
美津子は低姿勢のまま接近する。
相手は前方の銃撃戦に気を取られている。
今だ。
背後から素早く近づき、ワクチンボトルで背中をタッチ。
「ワクチン投与!」
「あっ、くそ! やられた!」
感染兵士役の男性が笑いながら腕章を外した。
「助かったー!」
「前、気をつけて!」
短く言葉を交わし、美津子はさらに研究所の裏側へ進む。
そこで彼女は足を止めた。
「……裏口?」
木々に半ば隠れるように、古びた鉄扉があった。
しかも、わずかに開いている。
正面は激戦区だ。
誰もこちらを使っていないのだろう。
美津子は周囲を確認してから、ゆっくり近づいた。
薄暗い入口。
内部から冷たい空気が流れてくる。
M4RSを構え、ハンドライトをFBIモディファイドで点灯した。銃とライトを別に持ち、必要最低限だけ照らす近接技術だ。
白い光が闇を裂く。
埃っぽい廊下。
壁の剥がれた塗装。
古びた薬品棚。
反応はない。
「……よし」
美津子は素早く中へ滑り込んだ。
ドアを静かに閉める。
外の喧騒が遠ざかった。
研究所内部は、不気味なほど静かだった。
ブーツ音を殺しながら通路を進む。
やがて階段脇に到着した。
その瞬間、奥の広間から複数の声が聞こえた。
「復活入りまーす!」
「次、出ます!」
ゾンビ兵士たちの復活ポイントだ。
美津子は壁に身体を押し付け、そっと覗く。
広間では感染者役の参加者たちが腕章を付け直し、次々と前線へ戻っていく。誰も裏通路には注意を払っていない。
正面の戦闘が激しすぎるせいだ。
「今なら……」
美津子は階段へ向かった。
一段ずつ慎重に上る。
ギシッ――。
古びた木が軋む。
思わず動きを止める。
下から誰か来る気配はない。
再びゆっくり進み、二階へ到達した。
薄暗い廊下。
左右に並ぶ部屋のドア。
空気が妙に重い。
まるで本当にバイオハザードの洋館へ迷い込んだようだった。
「雰囲気作り込みすぎでしょ……」
小さく苦笑する。
だが鼓動は速い。
美津子は手前のドアノブを回した。
開かない。
次も。
その次も。
「鍵……?」
四つ目のドア。
左側中央の部屋。
ノブを回す。
カチャ。
「開いた」
ゆっくり押し開ける。
ギィィ……。
嫌な軋み音。
室内へライトを向ける。
そこには古い調度品と、大きな油絵が飾られていた。
「……絵画」
メモの意味はこれだ。
美津子は部屋へ入り、絵を見上げた。
赤い椿を描いた油絵。
特に変わった様子はない。
「何のヒントなの……?」
額縁を調べる。
裏側も見る。
だが何もない。
視線を落とした時だった。
右下のサイン。
『1964』
「……数字?」
美津子の脳裏に直感が走る。
もしかして。
部屋をもう一度確認するが、他に手掛かりは見当たらない。
美津子は廊下へ戻った。
奥へ進む。
突き当たりに電子ロック式のドアがある。
「これか……」
試しにテンキーへ『1964』を入力した。
ピッ。
一瞬の沈黙。
そして。
ガコン。
ロック解除音。
「うそ……!」
思わず笑ってしまう。
「ここまで凝ってるの!?」
ドアを開ける。
中は窓のない小部屋だった。
書斎のような作りで、机と本棚だけが置かれている。
美津子は急いで机の引き出しを開けた。
「……あった!」
中にはワクチンボトル。
しかも新品が三本。
「凄い……これ、本当にゲーム?」
説明カードまで入っている。
『研究所内隠しワクチン 使用可能』
完全に公式アイテムだった。
美津子は慌ててポーチへ押し込む。
これで感染者をさらに救える。
RPD側にとって大きな戦力になるはずだ。
「龍崎さん、本気すぎるわ……」
感心しながら部屋を出る。
そのまま戻ろうとして、ふと隣室が気になった。
「……一応見るだけ」
ドアを開ける。
そこは事務室のようだった。
古いデスクトップPC。
乱雑な資料。
薄暗い室内。
美津子はPCの電源ボタンを押した。
当然反応はない。
「まあ、動くわけないか」
苦笑した時。
デスク脇に違和感を見つけた。
「……鍵?」
テープで貼り付けられている。
手に取る。
銀色の小さな鍵。
タグにはこう書かれていた。
『BF105』
「BF……?」
美津子は眉をひそめた。
二階の部屋番号は全部『2』から始まっていた。
なら――。
「地下、一階……?」
背筋が少し冷える。
この研究所、まだ先がある。
遠くから銃声が響いた。
パンッ!
パンパンッ!
そして誰かの叫び声。
「感染者増えてるぞーっ!」
美津子は鍵を強く握った。
地下へ行けば、さらに重要な何かがある。
だが。
そこは感染者の中心地かもしれない。
それでも。
知りたい。
このゲームの核心を。
美津子はM4RSを構え直し、静かに階段を下り始めた。
薄明かりしかない地下階段を、美津子は慎重に下っていった。
地上の銃撃音は既に遠く、聞こえるのは自分のブーツがコンクリートを踏む微かな音だけだった。
M4RSを片腕で保持し、もう片方の手でハンドライトを照らす。
白い光が狭い地下通路を切り裂いた。
壁は打ちっぱなしのコンクリート。
ところどころに黒い染みがあり、湿った地下特有の匂いが漂っている。
「……雰囲気あり過ぎでしょ」
小さく呟いた声が反響する。
まるで本当に秘密研究施設へ潜入しているようだった。
美津子は息を潜めながら廊下を進む。
突き当たり。
右へ曲がる。
さらに進む。
また突き当たり。
再び右。
ライトを向けながら慎重に歩くが、景色が変わらない。
「……あれ?」
違和感。
数秒後、美津子は立ち止まった。
「一周してる……?」
どうやら地下通路は四角く繋がっており、中央に大きな部屋が存在する構造らしい。
つまり、自分は外周をぐるりと回っただけ。
中央へ入る道を探さなければならない。
ライトを左右へ向ける。
すると、一箇所だけ金属製のドアがあった。
「……これね」
美津子は近づいた。
古びた鉄扉。
その上にはプレート。
『BF105』
「やっぱり」
試しにドアノブへ手を掛ける。
ガチャ。
開かない。
「鍵必要ってことか」
美津子はポケットから先ほど拾った鍵を取り出した。
銀色の小さな鍵。
タグには同じ番号。
『BF105』
鍵穴へ差し込む。
ゆっくり回した。
カチャリ――。
「開いた」
美津子は無意識に息を飲む。
M4RSを構え直し、慎重にドアを押した。
ギィィ……。
重たい音を立てて扉が開く。
その瞬間だった。
パッ――。
突然、室内の照明が点灯した。
「っ!」
美津子は思わず身を引いた。
どうやらセンサーライトらしい。
だが、その光景を見た瞬間、美津子は言葉を失った。
「……なに、これ」
部屋の中央。
巨大な円筒形の培養ケース。
内部には緑色の液体が満たされ、その中に“何か”が立っている。
二メートルを超える巨体。
異常なまでに盛り上がった筋肉。
灰色がかった皮膚。
黒いコートのような装備。
そして、無表情な顔。
「タイラント……!」
バイオハザードで見た怪物そのものだった。
「ヤバ……」
思わず後退する。
ここまで作り込むのか。
龍崎の執念に、美津子は半ば呆れ、半ば感心した。
まるで映画セットだ。
いや、それ以上かもしれない。
培養ケースには赤い警告灯が点滅している。
『T-103 TYPE』
プレートまで貼られていた。
「本当にラクーンシティじゃない……」
美津子は恐る恐る近づいた。
巨大なタイラントは微動だにしない。
ただ、液体の中で静かに立っているだけ。
「さすがに動かないわよね……」
その時だった。
ギュイィン――。
突然、ケース内部から低い機械音が響いた。
「え……?」
タイラントの瞼がゆっくり開く。
赤い目が光った。
瞬間。
ズン――ッ!
培養ケースが内側から叩かれた。
「うわっ!!」
美津子は飛び退く。
巨大な手がガラスを叩く。
ゴゴゴ……。
ケース全体が震える。
そして。
タイラントが口を開いた。
『……STARS……』
「えっ!?」
低く、機械で変調された声。
『STARS……』
「ちょ、ちょっと待って! 動くの!?」
美津子は完全に腰が引けた。
タイラントがゆっくり首を動かし、美津子を見ている。
赤い瞳。
異様な威圧感。
作り物とは分かっている。
分かっているのに、恐怖で身体が硬直する。
次の瞬間。
ガコンッ!!
ケースのロックが外れる音が響いた。
「うそでしょ……!」
培養液が排出され始める。
白い蒸気が噴き出す。
そして。
巨大な影がゆっくり前へ動いた。
ズシン――。
床が揺れた気がした。
美津子は完全に後ずさった。
M4RSを構える。
だが、相手は二メートル近い怪物。
ゲームだと理解していても、本能が危険を告げていた。
『STARS……』
タイラントが一歩、前へ出る。
重低音の足音が地下室へ響いた。
美津子とタイラントの戦いが始まる。
筆者は実際にサバゲーでシナリオゲームを幾度も企画実行してきた。
本作品に近い企画も行ったことからリアル感は出せてると思う。
誤字、脱字、用語の間違えなどありましたらコメントで教えて下さい。
また感想もよろしくお願いいたします。




