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バイオハザードシナリオゲーム

黒木美津子はバイオハザードシナリオゲームに参加する。

研究所から感染が徐々に広がっていく様子、ワクチンを投与し人間に復活させようと美津子は奮闘する。

昼には狙撃ミニゲームが行われる。

第十四話 シナリオゲーム

<― 前夜 ―>

 明日は龍崎プロデュースのシナリオゲーム――。

 黒木美津子は、自室の床に広げた装備を一つずつ確認しながら、小さく息を吐いた。

 サバゲーを始めて数年。定例会、耐久戦、廃墟戦、夜戦……様々なゲームを経験してきたが、“シナリオゲーム”はまた別物だと聞いている。

 ただ撃ち合うだけではない。

 役割があり、物語があり、参加者全員がその世界の住人になる。

 今回は映画やゲームで有名な『バイオハザード』をモチーフにした大型イベントだった。

 関東某所。

 市街地エリアと森林エリアが混在した、一万坪規模の広大な特設フィールドを一日貸し切り。

 参加人数は百人規模。

 単なるサバゲではなく、一つの戦場体験。

 そう案内ページに書かれていた。

「……本当に好きよね、私も」

 美津子は苦笑しながら、プリントアウトしたフィールドマップを広げる。

 廃病院エリア。

 住宅街エリア。

 森の中の研究所。

 地下通路。

 中央道路。

 マップを見ているだけで想像が膨らんだ。

 彼女はマーカーで重要地点に印をつけ、折り畳んで腕に装着するマップケースへ差し込んだ。

 こういう準備時間も、サバゲの楽しみの一つだった。

 銃を手に取る。

 愛用のL96。

 重く長いボルトアクションライフル。

 スコープのレンズをクロスで磨きながら、美津子は静かに目を細めた。

「明日は活躍できるかしらね」

 続いてFAMAS。

 近接戦用として使い慣れたブルパップライフル。

 CQBでも取り回しがいい。

 マガジンを差し込み、セレクターを確認し、空撃ちする。

 最後にシグP226。

 ホルスターから抜き、スライドを引いて確認。

 問題なし。

 迷彩服は今回はデザートパターンを選んだ。

 いつものウッドランドではない。

 砂色主体の迷彩。

 ラクーンシティという設定に合わせたわけではないが、何となく今回はこの装備の気分だった。

「久しぶりね、これ着るの」

 パンツを履き、腹回りを確認する。

 まだ大丈夫。

 鏡の前に立つ。

 デザート迷彩。

 ブーニーハット。

 ホルスター。

 プレートキャリア。

 そこに映るのは、普通の四十七歳の女性ではなかった。

 釈由美子に似ていると言われる顔立ち。

 年齢より若く見える輪郭。

 だが目だけは、長く生きてきた人間の疲れと静かな覚悟を宿している。

「お母さん、今回はいつもの迷彩じゃないね」

 リビングから息子の声がした。

 成人した息子は、スマホを見ながら美津子をちらりと見上げる。

「それ似合ってるじゃん」

「あら、ありがとう」

「何かあるの?」

「バイオハザードのシナリオゲームなんだって。砂漠っぽい特設フィールドらしいのよ」

「へぇー。じゃあタイラントとか出るのかな」

「さぁ? そこまでは聞いてないけど……」

 コーヒーを一口。

 タバコに火をつける。

 紫煙が換気扇へ吸い込まれていく。

 タイラント――。

 巨大な怪物。

 もし本当に出るなら、ロケットランチャーが必要ね。

 そんな馬鹿げた想像をして、美津子は少し笑った。

 だが、胸の奥では奇妙な高揚感が渦巻いていた。

 ただのゲーム。

 そう分かっている。

 それでも、この年齢になって“非日常”へ飛び込めることが、少し嬉しかった。

 夜は静かに更けていった。

 翌朝。

 快晴だった。

 高速道路を走る車窓から見える空は青く、春の陽射しが柔らかい。

 渋滞を抜け、山間部へ入る。

 フィールドへ近づくにつれ、参加者らしき車が増えていく。

「みんな好きねぇ……」

 美津子は笑いながらハンドルを切った。

 到着すると、既に大型テントがいくつも並び、駐車場には数十台の車が停まっていた。

 受付を済ませる。

 参加証代わりのリストバンドを受け取り、セーフティゾーンへ向かう。

 長机と椅子が整然と並び、その周囲では既に参加者たちが銃を並べて準備を始めていた。

 荷物を置き、美津子は周囲を見回す。

「……多いわね」

 ざっと五十人。

 いや、時間が経つごとにさらに増えていく。

 M4系。

 AK系。

 MP5。

 ショットガン。

 中にはガスマスク姿の者までいる。

 皆、この世界観を楽しみに来ているのだ。

 美津子は早めに準備を始めた。

 レンジでゼロイン調整。

 三十メートル基準。

 数発撃つ。

 着弾は安定している。

 問題なし。

 周囲の銃声と笑い声。

 ガスガンのブローバック音。

 BB弾の弾着音。

 サバゲフィールド独特の空気が広がっていた。

 一時間もすると、参加者はほぼ揃ったようだった。

 百人以上いる。

「こんなに集まるなんて……」

 シナリオゲームという特殊イベント。

 それでもこれだけ人を集める龍崎の影響力。

 やはり普通ではない。

「美津子さーん!」

 聞き慣れた声。

 振り向くと、渡辺未来が手を振っていた。

「おはよう」

「Ragdollも参加なの?」

「ううん。私達はスタッフ手伝い」

「あら、大変ね」

「まぁ師匠のお守りよ」

 二人は笑った。

 未来はスタッフ用の腕章をつけている。

 忙しそうだ。

「今日は凄い人数ですね」

「百人超えたって龍崎さん言ってたよ。みんなバイオ好きなんだね」

「みたいね」

 すると、拡声器の音が響いた。

「参加者の皆さん、中央エリアへ集合して下さい!」

 ざわついていた空気が動き出す。

 参加者たちが続々と中央へ集まっていく。

 その中心に立っていたのは龍崎だった。

 相変わらず威圧感のある男だ。

 鋭い目。

 低い声。

 ただ立っているだけで周囲の空気が締まる。

「皆さん、本日はご参加ありがとうございます」

 龍崎の声が響く。

「参加者は百十八名」

 ざわめき。

「これよりバイオハザード・シナリオゲームを開始します」

 一気に空気が変わった。

 誰もが真剣な顔になる。

「設定はラクーンシティ。皆さんにはクジで“アンブレラ軍”と“RPD”に分かれていただきます」

 スタッフが箱を回し始める。

 美津子は紙を引いた。

 RPD。

 警察側だった。

「森の中の研究所では、人体実験が行われています。だが実験中、細菌が漏洩。一部研究者が感染しました」

 参加者の間から小さなどよめき。

「感染者は簡単には倒れません。頭部を撃たれた場合のみ無力化となります!」

「おお……」

「さらに――」

 龍崎は一拍置いた。

「感染者に触られた場合、皆さんも感染者側になります」

 場がざわついた。

「感染者は研究所へ戻り、感染者として復活して下さい。もちろん銃の発砲は可能です」

「銃を持ったゾンビってことか……」

 誰かが呟く。

「要するに、感染が広がれば広がるほど敵が増えます」

 その説明だけで恐怖感が増した。

 普通のサバゲではない。

 倒した敵が、さらに増えて戻ってくる。

「ただしRPDにはワクチンがあります。感染者の背後からワクチン投与が成功すれば、人間側へ戻せます」

 ゲーム性が高い。

 単純な撃ち合いでは終わらない。

「感染者以外のヒットは、RPD警察署へ戻り復活」

 龍崎はさらに続けた。

「そして最後に――」

 少し笑う。

「エキストラとしてタイラントがいます」

 一気に盛り上がる参加者。

「倒す方法は研究所内にあるロケットランチャーのみ」

「うわ、マジか!」

「絶対やべぇ!」

 笑い声と歓声。

 だが美津子は静かに息を吐いていた。

 本気だ。

 龍崎は本気で“世界”を作っている。

「制限時間は十六時半。核ミサイル投下までに感染を制圧できなければ、人類敗北です」

 空気が張り詰める。

「質問はありますか?」

「休憩時間とかあります?」

「十二時半から一時間は昼休憩。それ以外はノンストップです」

 周囲から笑いが起きた。

「では皆さん――」

 龍崎は周囲を見渡した。

「健闘を祈ります」

 午前九時半。

 ラクーンシティ壊滅まで、あと七時間だった。


<シナリオゲームスタート>

 黒木美津子は、スタート地点となるRPD警察署へ足を踏み入れた。

 木造を模した二階建ての建物。

 入口には「RACCOON POLICE DEPARTMENT」の看板が掲げられ、内部には古びた机やロッカー、書類棚まで再現されている。

「凝ってるわね……」

 思わず呟く。

 単なるサバゲのフィールドではない。

 ここはもう“ラクーンシティ”だった。

 署員待機室へ入ると、既に二十人ほどの参加者が集まっていた。全員が青地に白文字のRPD腕章を装着している。

「よろしくお願いします」

「どうもー」

「女性隊員助かります!」

 軽い挨拶が飛び交う。

 美津子も軽く頭を下げながら空いた椅子へ腰掛けた。

 中央のテーブルには、小さな透明ボトルが並べられている。

 ワクチン。

 感染者を人間に戻せる唯一のアイテムだった。

 美津子は一本手に取り、ベストのポーチへ慎重にしまう。

 軽いプラスチック製の小道具。

 だがこのゲームでは、これ一本が戦況を左右する。

 やがて即席の作戦会議が始まった。

「我々RPDは少数です。無理に前線へ出るより、感染者を人間へ戻す役割に徹した方が良いんじゃないですか?」

 眼鏡の男が地図を広げながら言った。

「いや、積極的に撃ちに行って感染源を潰した方が早いと思う」

「でも感染者に近づくの危なくない?」

「研究所を封鎖できれば終わるんじゃ?」

 次々と意見が飛び交う。

 だが誰も正解を持っていない。

 このゲームは全員が初体験なのだ。

 最終的に、二十人は二つに分けられた。

 前線で感染者と接触するアルファーチーム。

 後方支援とワクチン投与を担うブラボーチーム。

 美津子はブラボーチームに入った。

 L96による後方狙撃と支援を期待されたからだ。

 その時――。

 署内スピーカーから突然ノイズが走った。

『――こちら司令部! 研究所で感染症発生の模様!』

 室内の空気が一変する。

『全隊員は直ちに現場へ急行! 感染者を隔離せよ! 繰り返す――』

 誰かが叫んだ。

「よし、出動だ!」

「おおっ!!」

 一斉に椅子が引かれた。

 ライフルを掴み、建物を飛び出す。

 美津子もFAMASを背中にL96を構えながら仲間たちと共に走り出した。

 春の森。

 木々の隙間から陽光が差し込む。

 その奥に研究所エリアがあった。

 途中、アンブレラ軍の部隊と合流する。

 迷彩服にフル装備の兵士たち。

 人数は三十人近い。

「RPDか!」

「研究所を包囲する! 軍が先行突入する!」

 頼もしい声。

 誰もがまだ、この状況を“ゲーム”として余裕を持っていた。

 軍の兵士たちが研究所へ突入する。

 次の瞬間。

 内部から激しい銃声が響いた。

 バラララララッ!!

 フルオートの轟音。

 怒号。

「クリア!」

「右だ!」

「撃て撃て!」

 外で待機していた美津子たちは、固唾を呑んで建物を見つめる。

 すると――。

 研究所の扉が乱暴に開いた。

 一人の兵士が飛び出してくる。

 だが様子がおかしい。

 腕には赤い“感染者”腕章。

 しかも銃を構えたままだ。

「うわっ!?」

 兵士たちが反応するより早く、その感染兵士が撃ち始めた。

 BB弾が飛び交う。

「感染者だ!」

「撃て!!」

 一斉射撃。

 だが感染兵士は止まらない。

 通常ヒットでは倒れない。

 頭部に当てなければならないのだ。

 しかし動く相手の頭を撃ち抜くのは、想像以上に難しい。

 感染兵士は撃たれながらも前進し、至近距離まで迫る。

「うわっ!」

 兵士の肩に手が触れる。

「感染!!」

 触られた兵士が悔しそうに笑い、赤腕章へ付け替え始めた。

「えっ、増えた!?」

「やばいぞこれ!」

 場の空気が一気に変わった。

 誰もがようやく理解する。

 これは簡単なゲームではない。

 感染者は“増える”のだ。

 研究所から次々と感染兵士が現れる。

 撃ちながら迫ってくる。

 しかも頭以外は無効。

 正面からの撃ち合いでは圧倒的に不利だった。

 美津子たちブラボーチームは後方から状況を見ていた。

 前線が崩れ始めている。

 ヒットされた兵士が復活ポイントへ戻り、感染兵士が増えていく。

「これはまずいわね……」

 美津子はL96を構えた。

 スコープ越し。

 感染兵士の頭を狙う。

 呼吸を止める。

 撃つ。

 パシュッ。

 BB弾が木の幹へ当たった。

 外した。

 相手は動いている。

 しかも周囲では味方が入り乱れている。

 誤射の危険もある。

 援護したい。

 だが撃てない。

「ワクチン行ける人!」

「無理! 近づけない!」

 アルファーチームの隊員たちが右往左往している。

 感染兵士に正面から撃ち込んでいる間に、別の感染者が横から接近してくる。

 研究所へ入ることなど到底不可能だった。

 なにしろ向こうは復活地点だ。

 倒しても、また出てくる。

 まるでゾンビ映画そのものだった。

「後退! 一旦下がる!」

 誰かが叫んだ。

 ブラボーチームはじりじりと後退する。

 研究所から距離を取ると、感染兵士たちも散開し始めた。

 密集が崩れる。

「今よ!」

 RPD隊員の一人が側面へ回り込む。

 感染兵士の背後へ近づき――。

「ワクチン投与!」

 肩を叩く。

「回復!」

 赤腕章が外される。

「助かったー!」

 歓声。

 ようやく人間側へ戻せた。

 だが喜びも束の間。

 別方向からまた感染者が現れる。

 午前中は終始、一進一退だった。

 押しては感染。

 戻しては増殖。

 制圧どころか、感染兵士は三十人を超えていた。

 参加者たちの顔から、最初の余裕は消えていた。

「これ終わるのか……?」

「無理じゃね?」

「感染者側楽しそうだなオイ!」

 そんな声すら聞こえる。

 そして気づけば、昼食休憩の時間になっていた。

 セーフティへ戻る参加者たち。

 誰もが汗だくで、しかし妙に興奮していた。

「頭狙うの難しすぎ!」

「ゾンビ側、撃たれまくるけど超楽しい!」

「マゾゲーだこれ!」

 笑い声が上がる。

 確かに撃たれても倒れない感染者役は、全身にBB弾を浴び続ける。

 だがそれすら楽しさへ変わっている。

 美津子はテーブルに腰掛け、おにぎりを頬張った。

 春風が気持ちいい。

 汗ばんだ頬を冷やしていく。

 身体は疲れている。

 だが不思議と充実感があった。

 映画やドラマの世界へ入り込んだような感覚。

 ただのサバゲではない。

 全員で“物語”を作っている。

 美津子はL96を横に置きながら苦笑した。

「頭への狙撃、三割くらいしか成功してないわね……」

 静止目標なら問題ない。

 だが動き回る相手の頭部だけを狙うのは別次元だった。

「美津子さーん!」

 渡辺未来が近づいてきた。

 スタッフ用腕章を揺らしながら笑っている。

「どうでした?」

「うん、楽しいわね」

 美津子は素直に答えた。

「なんか、本当に映画とかドラマの中にいる感じ」

「でしょ?」

「感染システムって成立するのかなって思ってたけど……」

 美津子は苦笑した。

「案外どんどん増えて、ちょっとビビったわ」

「午前中でこれだからねぇ」

 未来も笑う。

「核ミサイルまでに制圧できるかな?」

「難しそうね……」

 だがその“難しさ”こそが、このゲームを面白くしていた。

 誰もが本気になっている。

 勝ちたい。

 生き残りたい。

 感染を止めたい。

 そんな空気がフィールド全体を包み込んでいた。

 美津子は残ったコーヒーを飲み干し、遠くの森を見つめた。

 午後から、さらに地獄になる。

 そんな予感がしていた。


〈ミニゲーム〉

 午後一時。

 昼休憩が終わり、午後のゲーム開始までの空き時間を使って、参加自由のミニゲームが行われることになった。

 射撃レンジ前には既に人だかりができている。

 内容はシンプルだった。

 四十メートル先を左右に高速移動する標的。その頭部にBB弾を命中させるまでのタイムを競う。

 ただし、的は絶えず動き続ける。

 しかも頭部は人間の拳ほどしかない。

 簡単そうに見えて、実際はかなり難しい競技だった。

 スタッフ用腕章を着けた渡辺未来が前に立つ。

「はい、参加者募集しまーす!」

 だが、参加者たちは顔を見合わせるだけで、なかなか手が挙がらない。

「いや、難しそうだな……」

「四十メートルで動くヘッドはキツい」

「しかもタイム制だろ?」

 ざわつく空気。

 その中で、ようやく四人が名乗り出た。

 未来は周囲を見回し、ニヤリと笑う。

「あと一人欲しいなぁ……」

 そして視線が止まる。

「美津子さん、出ません?」

「えっ、私?」

 一瞬、観戦者たちがざわついた。

「女性スナイパーか……」

「できるのか?」

「いや、昔から女性の方がスナイパー向きって話もあるしな」

「なんか大会で上位だったって聞いたぞ」

「スナイパートライアルで七位らしい」

 勝手に噂が広がっていく。

 美津子は苦笑した。

「運試しね。やってみるわ」

 未来が嬉しそうに拍手する。

「よし、五人揃いました!」

 射撃ラインの前。

 参加者たちが並ぶ。

 四十メートル先には、人型シルエットの頭部ターゲット。

 レール上を左右へ高速移動する仕組みになっている。

 スタッフがタイマーを確認した。

「では始めます!」

 一番手の男が射撃位置へ立つ。

 電動M4を構え、スコープを覗き込む。

「シューター・イズ・レディ?」

「レディ!」

「スタンバイ――」

 ブザーが鳴った。

 同時に標的が右から左へ高速で滑り出す。

「うわっ、速っ!」

 観戦者から声が漏れる。

 射手が慌てて追う。

 パシュ!

 BB弾は標的の後ろへ逸れた。

「あーっ!」

 左端へ到達した標的が反転し、今度は右へ戻る。

「今度こそ!」

 パシュ!

 肩へ命中。

 だが頭ではない。

 その後も撃ち続けるが、焦りから弾は散る。

 やがて一分経過。

「タイムアップ! 失敗です!」

 周囲から苦笑混じりの拍手。

「難しすぎるだろ……」

「思ったより速いな」

 二番手が前へ出る。

 M4に倍率スコープを載せた若い男だった。

 周囲も少し期待する。

「この人いけそう」

「構え慣れてるな」

 ブザー。

 標的が走る。

 パシュ、パシュ!

 二発外す。

 だが左端で反転した瞬間――。

 パシュ!

 カンッ!

 頭部へ命中。

「おおっ!!」

 歓声が上がった。

「四十六・〇八秒! 暫定一位です!」

 未来が叫ぶ。

 男はガッツポーズ。

「よっしゃ!」

 三番手。

 肩や胸には当たる。

 だが頭へ入らない。

 五十六秒。

「難しい……!」

 額を押さえて苦笑する。

 そして四番手。

 ドラグノフ狙撃銃を抱えた男だった。

「お、ガチ勢だ」

「ドラグノフ渋いな」

 彼は伏せ撃ち姿勢を取る。

 静かにスコープを覗く。

 ブザー。

 標的が走る。

 パシュ!

 パシュ!

 三連続の素早いボルト操作。

 二発目。

 カンッ!

 頭部命中。

「うおおおっ!!」

 観客が沸いた。

「三十六・九二秒!」

「一位更新でーす!」

 未来が興奮気味に叫ぶ。

 ドラグノフの男は照れ臭そうに笑った。

「いやー、運良かった」

 そして最後。

「では黒木美津子さん!」

 視線が集まる。

 美津子はゆっくり前へ出た。

 L96を構える。

 重いボルトアクションライフル。

 スコープへ目を合わせる。

 周囲のざわめきが遠くなる。

 動く標的。

 四十メートル。

 追い撃ちでは間に合わない。

 この速度なら、撃つ位置を先に決めるしかない。

 “そこへ標的が来る瞬間を撃つ”。

 決め撃ち。

 美津子は静かに息を吸った。

「シューター・イズ・レディ?」

「レディ」

「スタンバイ――」

 ブザー。

 標的が動き出す。

 スコープ右端へ標的が入る。

 今――!

 トリガーを絞る。

 パシュッ!!

 一瞬遅れて。

 カンッ!!

 頭部へ完璧な命中。

 観戦者が一瞬静まり返る。

 次の瞬間。

「うおおおおっ!!」

「早っ!!」

「一発!?」

 歓声と拍手が爆発した。

 未来がタイマーを見て叫ぶ。

「十八・五六秒!! 優勝です!!」

 美津子自身も少し呆然としていた。

 当たった。

 しかも一発で。

「すげぇ……」

「やっぱ本物だ」

「女性スナイパーかっけぇ……」

 周囲の視線が変わる。

 美津子は少し照れ臭くなった。

「まぐれよ、まぐれ」

「いやいやいや!」

 未来が笑いながら小さなトロフィーを差し出す。

「優勝おめでとうございます!」

 さらにスポンサー提供品として、大きな箱が渡された。

「こちら、最新型M4RSです!」

「えっ、本当に?」

 会場がどよめく。

「豪華すぎる!」

「いいなぁ!」

 美津子は思わず笑顔になった。

 こんな高揚感、いつ以来だろう。

 子供みたいに嬉しい。

 箱を開ける。

 最新モデルのM4RS。

 軽量ハンドガード。

 最新型電子トリガー。

 剛性の高いレシーバー。

「……綺麗」

 思わず呟く。

 早速レンジで試射することになった。

 箱出しそのまま。

 三十メートル。

 パシュ!

 弾はほぼ狙点通りへ吸い込まれる。

「おお……」

 五十メートル。

 再び撃つ。

 カンッ。

 標的へ綺麗に命中。

 周囲から感嘆の声。

「精度ヤバくない?」

「箱出しでこれ?」

「最近の電動ガンすげぇ……」

 美津子も驚いていた。

 正直、L96より安定している。

 リコイルショックが心地よい。

 連射も安定している。

「これは……凄いわね」

 彼女はしばらくM4RSを眺めた後、決断した。

 L96からスコープを外す。

 そして新しいM4RSへ載せ替えた。

「午後はこれで行こうかしら」

 未来が笑う。

「美津子さん、それ絶対似合いますよ」

 美津子は新しいM4RSを肩へ当てた。

 重さもリアルだ。

 構えやすい。

 午後のラクーンシティ。

 感染者との戦い。

 まだゲームは終わっていない。

 だが今の彼女には、不思議な自信が生まれていた。



ゴーストスナイパーの原点に戻り様々なサバゲを通して黒木美津子が成長していく姿を描きます。

読者もバイオハザードゲームは周知かと、バイオをモチーフとしたシナリオゲーム。

黒木美津子はどう戦うのか、核ミサイル投下まで時間が迫る。


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