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閑話―王子ルートは○○ですか?(後編) side ジルベルト

エリザベスにふさわしい男になる。そう決意した俺は、先ずは迷惑をかけたであろう関係各所に謝罪して回った。


行く先々で、奇異の目でみられたり、あからさまに嘲りを受けたりもした。


父上達にも謝罪をし、心を入れ替えることを誓った。


母上は泣いているようだったが、父上と兄上は渋い顔をしていた。


以前の俺なら、「俺が謝罪しているのになんて態度だ!」と激昂していただろうが、今は違う。


皆の態度も、父上、兄上にそんな顔をさせているのも、全て俺が招いたことだ。


簡単に認められるなんて思っていない。俺はまだ何もしていないのだから。地に落ちた俺の評価を上げるのも下げるのもこれからの俺の行動しだいだ。


それからの俺は、ひたすら勉強をし、皆の声に耳を傾け、わからないことは兄上に教えを乞うた。


挫けそうな時は、こっそりエリザベスを見に行き、英気を養った。遠目から見ても愛らしい彼女に、愛しさが募る。


気づけば、俺の周囲からは俺の機嫌を取ったり、俺をちやほやする者はいなくなっていた。代わりに、時に厳しく時に優しく、俺を立派な王子へと導いてくれる人達で溢れていた。


父上も兄上も何も言わないが、俺を見る目が厳しいものから優しいものに変わっていた。


魔法学園に入学まで一年を切った頃には、時々兄上の仕事の一部を任されるくらいに、俺は信頼を取り戻していた。


残念王子の汚名を返上した俺には、貴族からの招待がひっきりなしにくるようになったが、愛しい人からのものはなかった。


公爵に家を訪ねたいと申し出ても、いつものらりくらりとかわされた。


エリザベスや公爵から見ると、俺はまだまだの人間らしい。それは愚か者だった俺が悪いのだ。一日でも早く認められるように、頑張るしかない。


けれど、俺の評価が高まり、俺がさらに頑張れば頑張るほど、公爵は俺の申し出を拒否する。初めの頃は、やんわりとした断りの文句だったものが、最近でははっきり「まだ早い」と拒絶されるようになった。


いったい俺はどうしたらいいのかと悩む日々が続いた。俺の頑張りが足りないのかと頑張れば、頑張るほど拒絶されるのだ。父上は俺とやり取りする公爵を、生温い目で見るだけで頼りにならない。


やはり兄上に相談しようと思った矢先に、フィリア嬢が病に倒れた。


兄上は治癒魔法使いを集める為に奔走し、集めた魔法使い達を王宮に監禁しだした。


さすがにそれは父上が止めようとしたが、兄上の気持ちが痛いほどわかるので、俺は兄上の味方をした。


俺だってエリザベスが病に倒れたら同じことをするだろう。


俺達兄弟二人を相手に、父上は為す術がなく彼らを粗雑に扱わないようにと言って折れた。


兄上が俺に感謝の意を伝えてきて、困ったことがあったら力を貸すと言ってくれたので、早速公爵がエリザベスと会わせてくれないことを相談した。


兄上はエリザベスが治癒魔法を使えることを確認すると、エリザベスを治癒魔法使いとして呼び出し、王宮に滞在させると約束してくれた。


俺は直ぐに、俺の隣の部屋を用意させようとしたが、父上がそれだけは公爵が泣くからまだ駄目だと懇願するので、一番良い部屋を用意することを条件に諦めた。


エリザベスが王宮に来る日を、指折り数えながら待っていたが、いざエリザベスが王宮にやって来ると、俺はエリザベスに会いに行くことが出来なかった。


よくよく考えれば、俺がジルベルトとしてエリザベスに会うのは初めてなのだ。下手に声を掛けて、彼女に嫌われたくない。是非とも好印象を持ってもらって、エリザベスにも俺を好きになってもらいたい。


どんな出会い方をしようか考えているうちに、治癒魔法使い達が頻繁に彼女と接触を持ちだした。


俺のエリザベスと親しくするなんて許せない。


俺は兄上に許可を取り、治癒魔法使い達に軽いお仕置きをした後、彼女に会いに庭園に向かった。


もう出会い方なんて考えている暇なんてない。そんなことを考えている間に、彼女に悪い虫が付いてしまう。大体、彼女は薄汚れた格好をした俺にも優しく接してくれた天使なのだから、今の俺を嫌うことはないだろう。


庭園のエリザベスのお気に入りの場所で、今か今かとエリザベスが来るのを待っていると、なんとエリザベスの方から俺の胸に飛び込んできた。


俺の心は歓喜で打ち震えた。


エリザベス、俺も君に会いたかった。君がこれ程俺に会いたいと思っていたことに気づかなくてごめん。


エリザベスに詫びようと思った時、体に痛みが走った。


不意とはいえ、愛する人を受け止めて怪我をするとは情けない。


だが、俺のエリザベスはやはり天使で、最大限の治癒魔法を俺にかけてくれた。そして俺はやはり愚か者で、エリザベスの俺への愛を見くびっていた。


エリザベスは愛する俺を治す為に、全力で魔法を使い、魔力切れをおこして倒れのだ。


目の前で倒れたエリザベスを見て、全身から血の気が引いた。


何が起きたのか理解が追い付かず、ただ呆然と、青白い顔をして横たわる彼女を見つめることしか出来なかった。


侍従が彼女の様子を見る為に、彼女に触れようとしているのを見て我に返り、慌てて彼女を抱き上げた。


駄目だ、彼女は誰にも触れさせない。彼女に触れて良いのは俺だけだ。


俺は侍従の制止を振り切り、彼女を自室に連れてきた。


治癒魔法使いに魔力回復薬を持って来るように命ずると、すぐに最上級の回復薬を持ってきた。


それを口に含むと、エリザベスの唇に重ねゆっくり注ぎ込んだ。何度か繰り返すと、エリザベスの頬に赤みがさす。


顔色が戻ったことで、ようやく安堵した俺は、エリザベスを抱きしめて眠りにつく。


きっと目が覚める頃には、彼女も意識を取り戻すだろう。


意識を取り戻した彼女は、抱きしめて笑いかけると、真っ赤になりながらも、俺に身を任せてくれた。


俺の腕にすっぽり収まり、愛らしい口を開け、俺が差し出す回復薬を飲み、幸せそうに微笑む姿に、得も言われぬ幸福を感じた。


幸せに浸っていると父上から呼び出しを受け、薬の影響で再び眠りについた彼女に後ろ髪引かれながらも、父上のもとへと赴いた。


そこには公爵もいて、父上は神妙な顔をして俺に臣籍に下る覚悟があるか問うてきた。


エリザベスを自室に連れ込んだ罰が、王籍剥奪。正直、厳しすぎるとは思うが、あの幸福の対価ならば仕方ない。


やっぱり馬鹿王子だったと項垂れる公爵を横目に、父上は公爵から俺を婿に迎えたいという申し出があったと言う。


公爵家に入るか判断は俺に任せる、ただ一度王籍を離れると戻すことは出来ない、どんな判断をしてもエリザベスとは結婚させるからよく考えるように言われて部屋に戻った。


未だ眠る彼女を抱きしめ考える。俺にとって大事なのはエリザベスだけだ。彼女が倒れた時、それは痛感した。


エリザベスが望むなら王籍なんて要らない。公爵家へ婿入りする。だけど、俺をここまで王子として成長させてくれた人達のことを考えるとそれが良いことなのかわからない。


悩む日々が続くが、兄上が婚約したことで事態が急変する。兄上が学園を共学から男女別学にすると言い出したのだ。


俺は我儘王子とも呼ばれていたが、兄上も大概だと思う。とは言え、俺もそれには賛成した。俺のエリザベスに男を近付けたくない。


だが、兄上の熱の入れようが強すぎて、このままでは俺とエリザベスも会うことが出来なくなる。それはぜったいに嫌だ。


俺は考えを巡らせ、エリザベスと結婚すればいいという結論にたどり着いた。そうすれば毎日一緒に居られる。


俺は公爵に婿入りすることを伝え、臣籍降下の決定と同時にエリザベスと婚姻を結ぶ約束を取り付けた。公爵は学園卒業後のことと思っているようだが、ふふっ甘いな。


すぐに父上にも公爵家婿入りを伝え、最短で手続きを済ませた。兄上の下で学んだ手腕は伊達じゃない。俺だってやればできる子なのだ。


驚愕した公爵が、せめて結婚は待って欲しいと懇願してくるが、俺の目的はその結婚なのだから、無理な話だ。


結局、住まいは公爵家、学園卒業までは白い結婚でいることを条件に、俺とエリザベスの結婚は認められた。


早くエリザベスに知らせようと、彼女が招待されているお茶会会場に乗り込むと、不穏な会話が聞こえてきた。


エリザベスの初恋。相手は俺では無いと言う。


全身の血が煮えたぎる気がした。


エリザベスが俺以外の男を好きになるなんてあり得ない。


いったい相手は誰だ?


そういえば、兄上が隣国の王子を排除するのに、エリザベスに手伝ってもらったことがあると言っていた。


まさかその時、隣国の王子を好きになったのか?


許せない。


頭の中を、どす黒い感情が駆け巡り、どうやって隣国を攻め滅ぼそうか考えている間に、彼女の口から出てきたのは意外な人物の名前だった。


「王宮建築士見習いのルー」


それは建築士に逃げていた頃の俺の呼び名。


建築士達は俺を、王子ともジルベルトとも呼べないから、ジルベルトから一字とって、ルー坊と呼んでいた。


エリザベスが名前を聞くから、ルーと呼んで欲しいとお願いした。


エリザベスの初恋の相手はルー、つまり俺のこと。


エリザベスが愛しているのは今も昔も俺・・・


先程までのどす黒い感情が嘘のように消え、喜びの感情が体中を駆け巡る。


うれしい、うれしい、うれしい。


エリザベス、俺も君が初恋で、君は最初で最後の愛する人だ。


エリザベス、俺は君にふさわしい男になっただろうか?


君の確認を取らずに、勝手に結婚を決めた俺を許してくれる?。


だって君を狂おしいほど愛しているんだ。


だから、あの時は言えなかった言葉で乞い願う。


「エリザベス・サファイア、俺の愛を君に捧げる。どうか、俺だけの宝石になってくれ」



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