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【番外編】Everyday 焼肉(後)

「くっ……悔しい……けど……キャベツとデミドラゴン合う!!」


キャベツを巻いたドラゴンの肉をタレにくぐらせ、それを食べた彼女が口惜しそうに言った。


聴いたサタナティアは、般若面の下で密かにほくそ笑む。


麺料理以外を食べさせよう作戦は見事成功した様だ。



この焼き肉パーティーが開催されるに至った、そもそもの発端は、「そう言えば、女の家の食卓では、ほぼ麺しか出てこないのではないか?」と、相棒が言い出したことだった。


「いやいや、おれらが行ってるときにたまたま麺だったってだけだろ……お〜いイルセ〜」


「なに?」


「お前、最近ほぼ彼女の家に行ってるよな?昨日、なに食べた?」


そこでサタナティアは彼女の家に入り浸りの勇者に確認を取ってみたのだが……。


「そうめん……だったかな?あぶらあげ?としいたけ?の乗ったやつ」


勇者自身は、食べた物の情報を今一つ理解出来てはいないようだったが、『そうめん』の名前だけで、サタナティアには解る。それは間違いなく麺だ。


「一昨日……は、おれも居たし具の入ってないあんかけ焼きそばだってわかってるから、その前」


「じゃーじゃーめん?」


「……じゃあ、その、前の前」


「キノコとしらす?の乗ったカペッリーニ」


「……その更に前」


「びーふん」


何だか自分たちのいる日と勇者だけの日に、若干のグレード的な差があるような気がしないでもないが、それはさておき。

直近の食事は、すべからくメインディッシュが麺類で占められている。


「……………………………………………………じゃあ、1ヶ月と12日前!」


「まーぼー」


「よし、きた!」


「はるさめ」


「くっ……惜しい……あと一歩だった……」


ほぼ出会いの頃まで遡って確かめてみたが、結局、そのメニューの内容から麺類の存在が消える事はなかった。


(というか……あの人のレパートリーは無限の製麺機か……)


よくぞそんなに麺ばかりメニューに思い浮かぶ……と、逆に感心してしまうほどの、麺料理のオンパレードだ。

きっと、彼女の体は麺で出来ているに違いない。……と、サタナティアは思った。


あと、絶対、初期の頃にサタナティアたちが言った『安い味』を、未だに根に持っている。


それは、ともかく。


(こうなったら、あの人の食生活を改善しちゃる)


サタナティアは誓った。


せっかく出会えた異世界の滞在場所だ。

宿主(やどぬし)には、きちんとした栄養をとってもらい、末長く健康的な生活を営んでもらうに限る。


それから、こちら側に提供される食事のランク改善も計りたい。


(先ずは一食ずつ、メニューを麺以外に置き換える!)


そんなサタナティアの決意の元。この度の、食生活改善焼き肉パーティーは開かれることと相成った。


最初のメニューに、焼き肉が選ばれた理由は、『実はこっそりネット通販で手に入れていたホットプレートを使いたかった』という事情がある。

プレートを入れ替えると、たこ焼きやワッフルも焼けるという優れものだ。


それと、単純に、サタナティアが肉料理を好きだからというのもある。

お肉大好き……は、魔族の性質(サガ)だから、しょうがない。


ただ、恐らく彼女のほうも焼き肉が好きであろう事は、冷蔵庫に大事に仕舞われていた秘蔵タレの存在と、先達ての熱弁により明白であろうと思われた。


ともあれ、これで、一先ずは麺の存在を忘れてくれているだろう……と、サタナティアは安心していた……の、だが……。


「イルセイドさん、さっき買ってきた袋持ってきてください。焼きそば投入しましょう!焼きそば!」


「……」


その言葉に、サタナティアは絶句した。

彼女は、麺の事を忘れていた訳では無かったらしい。


「焼き肉の、〆は焼きそばでしょう!焼肉風味で高級焼きそば!!」


こちらの世界の食について調べた際。鍋物の〆に、ラーメンやら、うどんやらを投入する事があるという知識は得ていた。

しかし、焼き肉の〆に焼きそばを持ってくるとは、盲点だ。

異世界贔屓を自称しているのに、調べが甘かった。サタナティア痛恨のミスである。


それから、もう一つの誤算があった。


「イルセ!」


サタナティアは、彼女の言葉で席を立った勇者を振り仰ぐ。


今回の計画にあたり、勇者には彼女の食生活改善案を伝えていたはずだった。

……のにも関わらず、その勇者が、ストッパーとして一切機能していないとは、どういう事か。


「なぜ麺を買わせた?」という抗議の意味を込めて見た訳なのだが。見られた勇者のほうはその意味を理解できず、邪気の全く無い顔で首を傾げただけだった。


「……やっぱ、いい」


サタナティアは般若面の奥で密かなため息を吐く。


(というか、イルセ……彼女と二人で買い物に行ったのが楽しくて目的を忘れたな……)


サタナティアは人選を誤った……いや、彼女を買い物に出した時点で、負けは確定していた。


結局、この部屋で食事をする限り、麺料理の呪縛からは逃れられないらしい。

今回は、焼き肉という副菜?で、一応の栄養バランスが図れているだけマシだと思うしかなかった。



そして、余談であるが。これ以降、サタナティアたちに提供される麺料理の内容も多少グレードが上がったので、まあ、この焼き肉パーティーも意味はあったのかもしれない。

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