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【番外編】Everyday 焼肉(前)

「え〜、今から焼肉パーティーを催したいと思いま〜す」


突然に、大荷物を抱えて炬燵からやって来た般若が言った。


「なぜ唐突に焼肉ですか……」


ちょうどテレビを視ながらミカンを口にしようとしていた彼女は、その一口目を食べようとした姿勢のままで停止して、言う羽目になる。


「いや、だって、キミさー…」


言いながら般若は、布に包まれた山のような荷物を炬燵の上に置いた。

そこには、巨大な山脈が築かれ。更に、若干モノが天板からはみ出している。


「……なんですか、それ?」


嫌な予感がして恐る恐る訊ねたら、とんでもない名称が返って来た。


「コカトリスにデミドラゴンにヒッポグリフにクラーケンの肉かな」


「ワンモアプリーズ」


「コカトリスにデミドラゴンにヒッポグリフにクラーケンの肉……鶏肉、馬肉、蛸の身だと思ってくれれば問題ないよ」


「問題しかない!前半のやつの名前がどう考えても、後半の身近な生物には聴こえない!」


全力で訴えたが、般若は微塵も聞き入れてくれる様子はなく、続けて言う。


「後からイルセとカルーが野菜とか持ってくるからその辺は心配ないよ〜」


「誰がそんな心配を……ちなみに、持ち込みを予定しているお品物のラインナップをお聞かせ願ってもよろしいですか?」


「ユグドラシルの葉にマンドレイクの根、ヴルトゥームに知恵の実だね」


「スーパーでキャベツとニンジンと玉ねぎとカボチャ買ってきま〜す!」


考える余地もない。

食の安全への追求が、彼女をつき動かした。


「いやいやいや!マジで美味いんだって!騙されたと思って食べてみてよ!」


「そう言われて騙されて来た人間が、世の中にはたくさん居るんですよ!」


「何してるの?」


そうして彼女たちがやいのやいのしていたら、炬燵の中からひょっこりイルセイドが現れて、のほほんとした声で言う。


勢い良くそちらを向いた彼女は、即行で手持ちの荷物を下ろさせた後、その腕を掴んでぐいぐいと引っ張った。


「イルセイドさん!荷物持ちにご協力ください!一緒にスーパーへ行きましょう!安心安全確実な野菜と肉を買いに!!」


「大丈夫だって言ってんだけどなぁ……」


「大じょばない!お宅の基準は一ミリたりとも油断できない!」


「何の話?」


「肉と野菜の話しです!」


「肉と野菜?」


彼女が現状に至るまでのあらましを説明したら、何かに思い至ったのか、イルセイドは「ああ」と頷いてから言う。


「それ、こっちの世界でもあんまり食べない肉だよ。俺も、昔、トアに言われて初めて食べたんだ。懐かしいな」


「…………よし、トア・モラさん!後でこの件については、腹を割ってきっちり話をしようか!」


そう宣言して彼女は財布を掴み、イルセイドをしょっぴいて、買い物をするために、勢い良く玄関から飛び出した。


「あー…お気をつけて〜」



そうして買い物に出た彼女が戻った時には、熱された鉄板に焼かれた肉(仮)と野菜(仮)がしっかりと用意されていた。


「お……恐るべきことにちゃんとした焼肉に見える……!」


買ってきた正規の肉や野菜は、彼女とイルセイドの手の内にある買い物袋にまだ絶賛待機中なので、焼かれているのは確実に『あの』肉である事に相違ないはずだが。焼いている機材がこちらの世界のホットプレートだからか、こちらの世界の焼き肉を焼いているように見える。


「というか……うちにホットプレートなんてありましたっけ?」


目の前にあるのは、一人暮らしに似つかわしくない立派なホットプレートだった。

そのホットプレートには一切の見覚えがない。


「え、これ?買った。ネットの通販で」


「左様ですか……」


般若が、彼女の愛機であるパソコンを指しながら言った。


自分のお金で買ったもので、放置せず自己管理するなら、別に彼らが何を買おうと文句はないが……。

注文したのは、部屋でネットを使っている姿を目撃した何れかだったとしても、商品を受け取った段階を彼女は見ていないので。いつどのように受け取りをしたのか確認するのを、後ほど腹を割って話す項目に追加しておいたほうがいいかも知れない。


あと、購入資金になっている金銭の調達経路も訊いておかねばならない……と、彼女は思った。


非合法だった場合は考えたくないが……合法であった場合はネット利用料の折半を議題に挙げたい。


そして、それとは別に、気になる点がもう一つあった。


「カルーヴァさん、現在、焼肉をお召し上がりになる際に使っていらっしゃるタレはどちらから調達しましたかね?」


「これか?貴様のところの冷蔵庫からだが」


「やっぱりかっ!やっぱりうちの買い置きMY(マイ)タレを使ってたかっ!」


異世界から来た住人たちの間に置かれている、焼肉タレの瓶のラベルには見覚えがあった。

某焼肉店が出している、オリジナルタレのラベル。


これをかければ、モヤシもキャベツも豆腐もなんとなく高級な焼肉になる。エブリデイ焼肉気分を味わえるという彼女の大事な置きタレだ。


「カルーヴァさん。話し合い強制参加決定で」


彼女は決意した。


この件もきっちり落とし前をつけておかねばならないだろう。

逃がしはしない。


しかし、それはさておき。


「イルセイドさん……とりあえず、買って来た材料を一緒に出しましょうか」


先ず優先すべきは、腹ごしらえだ。

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