22 Winter area=冬のエリア
千尋も太一もその音に対し目を瞑り、歯を噛みしめて堪えた。
通緒と京の反応を静かに待つが、頭の芯にまで響いた高音はしばらくの間耳鳴りを引き起こしていた。
「ノンタ、カンブのパソコンに反応はある?ノンタ?」
運転席で瑞希にコールし続ける千尋は反応のない隣の席に目線を投げた。
「ノ、太一君、大丈夫よ」
太一の頭を静かに撫で、千尋は優しく微笑む。
「僕が、もっと早く罠の可能性を伝えていれば・・・」
キーボードの上の太一の指が微かに震えている。
「大丈夫よ。それくらいみっちゃんはわかっているし、第一後輩連れて行って怪我させましたじゃ先輩としての威厳丸つぶれだもの。ねぇ」
「そーゆーこと」
イヤホンから咳き込みながら返事をする通緒の声が聞こえてくる。
「無事よね?」
威圧するような声音を発しながら瑞希へかけ続けるスマートフォンを握る手に力がこもる。
「Well, of course! (そりゃあもちろん)」
「じゃ、引き続き気を引き締めてね。もちろん、ナナピオもよ」
「ラ、ラジャーっス」
二人の無事を確認すると千尋はため息を一つ吐いてもう一度太一に瑞希のパソコンへのアクセスを指示した。
通緒は左手で自分と京のイヤホンのマイクを切ると京に笑いかける。
「大丈夫か?ナナピオ」
「あー背骨が痛いっス」
階段に座った状態の京に覆いかぶさったままの通緒は、悪いな、と謝罪を述べた。
京が九階のフロアに出ようとドアノブに手をかけた瞬間、通緒は京の左肩を力任せに引き階段に倒れこんだのだ。
手をかけていたドアは衝撃で十センチほど開き、ノブは階段の下へ転がり落ちている。
「思った通り、威力は大したないな」
身体を京から引きはがし起き上がるとドアの損傷具合を確認して通緒は尻の埃を払う。
「表に警察が来ることも予測済みってやつか。手、見せろ」
雑に京の右手首を握って持ち上げると京の表情が微かに歪む。
「あー大丈夫っス。捻った感じっスかね」
「あんなぁ、ナナピオ。ただカンブを迎えに来てるだけじゃねーんだぜ?現時点でここは敵陣だ。しかも相手の数も目的もわかんねーんだから、あんまりグイグイ行くな」
「はいッス!」
「カンブは七階って言ったか。まずそっちだな」
「え?この階はいいんスか?」
通緒がドアの爆発物がつけられていた位置を確認する横から九階のフロアを覗く京が不思議そうに尋ねる。
「この爆弾は囮だな。階段側からつけられてる。ってことはここでつけて下に行ったんだ」
そういうとマイクのスイッチを入れた。それに習い、今日も同じ動作を繰り返す。
「ノンタ、ロック外された形跡のあるドアはわかるか?」
「そこまではわかりません。今解除されてるのは全階の非常階段の扉だけです」
「寒ぅ」
ドアの隙間から顔を出して九階を覗いていた京はドアを閉めて身体を震わせた。すると通緒は咄嗟にもう一度ドアを開け一歩フロアに踏み込込む。
「太一!How long has it been since turned on the AC? (クーラーがついてからどれくらい経ってる!?)」
その怒鳴りつけるような声はフロアと非常階段に響いた。
「えっと・・・」
「How long, this building was hacked? (このビルがハッキングされてからどれくらい経つんだ?)」
「だいたい、一時間前くらいだと思います。何があったんですか?」
「みっちゃん、説明して」
千尋の声で一度深呼吸をしてから通緒は落ち着いた声で言った。
「ビル内が冷やされすぎてるんだ。こんな温度の中に一時間もいたら、下手したら凍死する」
全員の脳裏に一瞬で最悪の事態が過る。
「みっちゃん、退路はだいたい目星ついたから。カンブを救出したら教えて。すぐにそっちに向かうわ」
「どっかの部屋に敵全員閉じ込めちゃえればいいんスけどね」
通緒が降りていく後に続き、階段を駆け下りながら京がつぶやいた。
「エレベーターも動いてないから、どこかの階に閉じ込めることくらいならできるよ」
「まずは瑞希を見つけてからだな」
通緒はそのまま七階まで下りると躊躇せずにドアノブを撃ち抜いた。




