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躍動⑥

 王城の使用人通用口。

 其処に詰めている兵士は、奇妙な一行を見て首を傾げていた。


「確かにモニカさんだね。しかし、王女様とお出かけされたのではなのですか?後ろの・・・方達は見たことがない使用人ですね?」


 長年王城に勤めで、人の顔を覚えるのが得意。気さくに使用人達にも声をかける兵士・ショーン。

 しかし、今日ばかりは対応に困っていた。


「ええ。そうでしょうとも。最近来られた方達なの。身元は私が保証するわ。だから、お願い!何も言わずに、通してもらえないかしら」


 困り切った顔で懇願するモニカのお願いを、聞いてやりたい気持ちはあるが。不審者を入れるわけにはいかない。

 最悪、不審者にモニカが脅されている可能性もあるのだ。

 ここで、「はい、どうぞと」二つ返事で中に招き入れたら、何のための門番なのか。


 何かあれば即連絡するように、傍らの相棒に目配せをする。


「分かってるわ。考えてることも、言いたいことも分かってる。けれど、どうか信じて。何かあれば私が責任を持つわ」


 だからここを通してとモニカは頭を下げる。

 モニカの後ろに居るメイド三名と従僕の格好をした男性一名。どう見ても怪しい。

 城に使える者達は皆、所属が分かるブローチを付けている。それは、城で働いている証であり、出入りに必要な身分証となる。

 そのため、城から支給されたブローチを紛失することがあれば、罰則すら在るのだ。それを、後ろの四人は持っていない。ばかりか、見覚えすら無い。


 そんな者達を、門番の責務として城に入れるわけにはいかないのだ。


「モニカさん。頭を上げて下さい」


 ショーンは優しく声をかける。

 しかし、兵士の顔のまま彼女に告げる。


「やはり、お通しするわけには行きません。身分を保障すると言われるならば、城へ使いの者を出し、問い合わせをします。四名のお名前を教えて頂けませんか?」


 門番としては当然の対応だ。

 職務に忠実で素晴らしい兵士であると褒めるべきだろう。


 しかし、王女一行はそうはいかない。

 敵の目を欺いてようやくここまでたどり着いたのだ。

 早く城に入って安全を確保したい。城に使いをやって身分の照合をして貰っても構わないが、その場合、王女の誘拐未遂が起こったと触れ回るような物だ。

 できれば、それは避けたい。例え、両親や兄に怒られることは必須だとしても。できるだけ、外部へは漏らしたくないのだ。


 だが、このままここで時間を取られているわけにも行かない。


「少し、よろしいかしら」


 ブランカ・フェアリー・フィンドル王女は声を上げた。

 兵士ショーンの目を見て綺麗なカーテシ-を見せる。その洗練された姿に、ショーンは息をのむ。


「あなたの忠誠に敬意を払います。私はフィンドル王国の王女。ブランカ・フェアリー・フィンドルと申します。分け合って、このような姿で城に帰ることになりましたが、どうか私を信じてここを通して下さい。そのことで、あなた方に咎めは無いことを誓いますわ」

 

 彼女の言葉と態度に嘘偽りはなく、門番として信じるべきだとすら確信した。

 それだけの威厳を放っていた。

 何より、モニカが真面目な顔で頷いている。王女付きの侍女として彼女が従うのは、ブランカ王女だけなのだから。


「・・・分かりました。私、ショーンの判断として、この場をお通しいたします。無事のご帰還、なによりです」


 ショーンは敬礼で王女を迎え入れた。



「よかったわ。ちゃんと帰れて」


 使用人通用口を無事に通り抜けて、みんなほっと一息ついた。

 コウリンちゃんなんて終始、顔が青ざめていたし。

 それはそうだ。わざわざこんな格好をしてまで、城に入り込もうとしたのだ。もしかしたら、捕まって牢屋に連れて行かれてもおかしくなかった。


「いやー。さすがにハラハラしたよ。でも、良かったのかい?これなら、私たちがついてこなくても城に入れたと思うんだけれど」


「そんなことはありません。使用人通用口も見張られていたのですから、この人数でなければ、たどり着く前に囲まれていました」


 もにかさんの言うとおり、見張りが三人はいたし、ばれる可能性は高かった。門番とは、もめることになったから緊張したけれど。

 世間話で立ち止まっていたと思われたらいいなぁ。


 けれど、変装して念のため魔法で顔を変えていたのも良かった。さすがに、誘拐しようとしている王女の顔は知っているだろうし。

 僕も覚えられているだろうから、ユーリテとコウリンちゃんがついてきてくれてよかった。

 でも、お城に入る前、使用人通用口とお城までのこの道の途中でもいいから、変装を解きたい。この服、窮屈で動きづらい。それに、お城には入りたくないなぁ。


「さて、無事に入れたことだし、私たちはここまでだね。変装を解いて、正門から出たらいいのかい?」


「もしよろしければ、お礼をしたいのですけれど」


「いや。別にいいよ。成り行きでこうなっただけだからね」


「え?お店のことはいいんですか?」


 ユーリテとぶらんかさんの話に割り込んでしまった。けれど、ユーリテのお店を再開する力になってくれそうなのに、どうして言わないのだろう?


「クウキ!余計なことはいいんだ。これは、私たちの問題だから」


「?でも、せっかくですし。好意を受け取っても損にはならないですよ?」


「いや。君ね・・・」


 ユーリテががっくりと肩を落とす。どうしたんだろう?

 借金も出来てどうしようと、悲嘆に暮れていたのに、せっかく助けてもらえるのならお言葉に甘えてしまえばいいのに。

 借金の他にも、生活に必要な金銭すら危うい状況で、どうして助けを求めないのだろう?


「お店がどうされたのですか?」


「そういえば。先程、お邪魔させて頂いたとき、閑散としていましたが、何かあったのですか?」


 ぶらんかさんともにかさんも、そう声をかけてくれる。きっと、お金なり援助なりしてくれる。


「あ。その、ですね・・・」


 ユーリテが今更な敬語でしどろもどろに話す。

 あ。本人の口からは、言いづらいのかもしれない。お店が泥棒に入られて、なにもかもめちゃめちゃにされたなんて、言いにくいか。

 それなら、僕が。


「あの!実は先日、泥棒に入られまして、お店の中の商品を全て駄目にされてしまいました!騎士団の方に捜査してもらっていますが、お店自体が営業できない事態でして、もしよかったら、助けて頂けないでしょうか!」


 今まで黙っていたコウリンちゃんが、決死の覚悟をした表情で一息に話した。

 どうか、お願いしますと、深々と頭まで下げて。


 それに、ユーリテは天を仰ぎ、ぶらんかさんともにかさんは目を丸くした。




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