警戒に当たらないもん
西の魔王の城にて。
西の魔王テイルが、くすくすと笑いながら遠くの景色を魔法で見ていた。
ディアは気づいたらしく、何を企んでいるのだかという顔をする。
そのディアの表情に、西の魔王テイルは気づいてもらえたのが嬉しいのか機嫌よさげに、
「リアネーゼ、君の大好きな勇者は凄いね。仲間がいるとはいえ、五傑のうち三人を倒しちゃったよ」
「それで、後二人か」
「リアネーゼは不安を覚えたりしないのかい?」
「あいつの強さは俺が一番知っている。……後からぽっと出た東の魔王ディアに渡すものか」
そう冷たい声音で告げると今度は西の魔王テイルが、
「……ディアに手を出したら、お前といえど許さないぞ?」
「許さない? 勘違いするな。俺は自分に都合が良いからお前と手を組んでやっているだけだ」
「相変わらず凄い自信だね。ただの人間なのに」
「……まだ分っていないようだが、俺はいつだってお前を殺せるんだぞ?」
そう嘲笑うかのように告げてやればテイルは頬を膨らました。
「何でリアネーゼはそんなに僕に意地悪なんだ」
「……お前は話を聞いていたのか?」
「勇者だから? リアネーゼが」
「そうだ」
即座に頷くリアネーゼにそこで、テイルが一笑した。
「嘘、リアネーゼは勇者なんてやるつもりもないじゃないか」
「今ここでお前を殺せば、勇者としての役目は果たした事になるが?」
「怖いなー。でも、無傷でいられると思う? もしかしたなら僕、リアネーゼを殺しちゃうかも」
相変わらず笑みを浮かべて、テイルはリアネーゼのその恫喝に臆することなく答える。
確かに今まで全力を見せた事がないから当然かとリアネーゼは思う。
一応妙に力がある所を、リアネーゼは見せ付けていなかった。と、
「僕だって、リアネーゼが力を隠しているのは分っているんだよ? 人間にしては過ぎた力を、ね」
まるで考えを読むように告げるテイルに、リアネーゼはふんとそっぽを向いた。
多少は分るようだが、リアネーゼの全ての力を見抜いているわけではない。
だからこんな風に軽口が叩けるのだと思っていると、そこでリアネーゼにテイルが甘えるように抱きついてくる。
そのまま、リアネーゼの胸に顔をこすり付けて、随分と心地が良さそうだ。
その様子を見たリアネーゼは幾度となく思った疑問を口にする。
「人間は嫌いなんじゃないのか?」
「うん、大嫌いだよ」
「ならば、どうして俺にどうして抱きつくんだ?」
「うーん、気持ちが良いから。光の気配が純粋で」
そう幸せそうにとろんとしているテイルにリアネーゼは、
「無防備に近づいて、こんな風にされれば簡単にとどめがさせそうだな」
「分かってないな、リアネーゼは。抱きつかせている時点で、一番近い場所に僕が入り込んでいるんだよ?」
「!」
「そういうこと。だからリアネーゼは黙って僕に抱きつかれていれば良いんだよー」
そう言って、テイルはべたべたとしてくる。
とはいえ、上手く返されたのが癪でリアネーゼはどう意趣返しをしてやろうかと思い、気づいた。
「びくっ」
「頭を撫ぜてやっているだけなのに、随分と警戒しているんだな。西の魔王様は」
「……その程度、警戒に当たらないもん」
と答えつつ、リアネーゼをちらちら見るテイル。
けれどすぐにそれも気持ちが良いのか体の力を抜いてリアネーゼに抱きつく。
その可愛らしいテイルの様子に、この魔王は飼ってもいいかなとリアネーゼは再度思ったのだった。
東の魔王城にて。
五傑全員が集まっていた。
ちなみにディアは現在魔王城の台所でお菓子作り中だ。
そこで、“緑の人”レイトが嘆息するように、
「もうすでに三人倒されたわけだが」
「すまない」
「申し訳ありません」
「ごめんなさい」
素直に謝る負けた五傑の三人だが、そこで、レイトが、
「いや、こうなってくると我々で勝てるかどうか分らない」
「! 確かに」
「“白の人”フィエル、お前はどうだ? 一番魔王に近いお前でも、勝てるか?」
「無理でしょうね、あのエリオットの仲間は、南の魔王がついていますし」
そこで、全員が大きく溜め息をつく。そしてレイトが観念したように、
「では、我々が負けた後、全員であの魔法を使うことにしましょう」
本当はもう少し穏便な手を取りたかったが仕方がない。
そう五人は頷く。
そして、一応形だけでも勇者を迎える準備をしようという話になり、話し合いをしている五人にディアがお菓子と紅茶を持ってやって来るのは、それから少し後の事だった。




