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勝利

 そんなこんなで、ディアは再びレイトに連れ戻されたが、それからすぐ後でまたエリオットの前に姿を現して、次の場所へとエリオット達三人を運ぶ。

 湖の中央にある大きな島が、対決の場所だった。

 ふとどこか遠くを見るような表情をするディア。


「どうしたんだディア」

「いや、何でもない。それよりも確か……」

 

そこで木の影から青い髪に、赤い瞳をした無表情な魔族が現れる。



「アオイー、勇者たちを連れてきたぞ」

「ディア!」


 それまで無表情だったアオイの顔が、突然花が咲いたように笑顔になる。

 その笑顔は、童顔で可愛らしく、何となくディアと一緒にいると絵になるような可愛らしさがあった。

 とはいえ、その魔族はエリオット達は眼中には無いが。


「この勝利をディアに捧げます」

「……エリオットが負けてしまうと、私は悲しいのだが」

「それは僕が負けても悲しくないと、ディアはそうおっしゃるのですか?」


 そんな風に悲しげに見つめられて、ディアは答えられなくなる。

 と、そこでアオイが傍にあった白い花を一本摘み取り、


「これは、始祖である東の魔王様がお好きだった花なのです」

「そうなのか? 以前くれたあの花か……とてもいい匂いがする」

「随分と数が減ってしまいましたが、ここにはまだ残っているのです」

「そうなのか……」


 どこかぼんやりとするディアに、そこでエリオットが不安を覚えて割り込んだ。


「それで、いつ戦えばいいんだ?」

「……ディアとの一時を邪魔するな、この人間の穢れた勇者が!」

「……早めにお前を倒してディアを俺のものにしたいから、早くしてくれ」


 敵対心をむき出しにするアオイに、エリオットは挑発した。

 あまりあの白い花の事を言われて、ディアの様子がおかしくなるのは避けたかったから。

 そして、アオイはすぐにぶちのめしてやると憎々しげに告げる。

 今回はアオイ一人なので、エリオットのみが相手をすることとなった。


「せっかくの俺の出番が……」

「次回よろしく、ソラ」


 勇者の力を試せると思っていたソラがどこか悲しげだった。

 そして、エリオットはアオイと対峙する。

 再び無表情になったアオイが冷たくエリオットを睥睨して、


「“青の人”アオイ。勇者エリオットを倒すものの名だ」


 そう告げたのだった。






 周りが水に囲まれていたのはこういうことだったのかと、エリオットは氷に阻まれながら駆けて行く。

 召喚した水ではその分魔力を使うが、周りが水ならばそれを使えばいい。

 大きい力で水面が叩かれて起された波が、エリオットの体に襲い掛かる。

 どうにかそれを食い止めるも服が濡れて、動きが鈍くなる。

 そのエリオットに今度は降ってくるのは氷の大きな塊や鋭く尖った氷である。

 それを打ち砕きながら進んでいくと、やがて島の端までエリオットはアオイを追い詰めた。

 けれどそのままアオイは湖へと後ろ向きに飛び込んだと思えば、水面を凍らせて流氷のようなものが現れ、そこにアオイは乗り込む。

 その氷は島から少し離れたところで止まり、そこまで行くには水をアオイの様に凍らせるか、この湖の中を歩いていくしかない。


 けれどそのどちらも現実的ではないように思えた。

 まず湖だが、この場所は特に深いらしく、アオイの場所まで歩いていけそうにない。

 次にアオイと同じように氷を使うだが、その場合動ける範囲が限定されてしまう。

 どうやって彼の元まで辿り着くかと、そう考えながら、氷の塊をエリオットは避けた。

 このままではアオイが一方的に安全な場所に居て、エリオットを攻撃できる事になる。

 いずれ体力が尽きるだろう事を考えると、こんな風にじわじわと消耗させられるのは良くないなと考えて、エリオットは湖に魔法をかけた。


 それは丁度アオイが波をエリオットに襲い掛からせようとした瞬間で、カマのように首をもたげた波が生まれたその瞬間に、エリオットの魔法が放たれる。

 アオイの視界を封じるかのような氷の波。

 そのために、波に隠れるように、予想外の方から現れたエリオットにアオイは油断をつかれてしまう。

 慌てて魔法を放とうとするも、その時にはエリオットの剣はもう迫っていて、アオイは鈍い衝撃と共に気絶する。


 そんなアオイをつれて、島まで戻って来たところで、氷の波が粉々に砕けて、日の光の中でエリオットの勝利を祝うかのように輝いたのだった。






 落ち込んだアオイを連れて、ディアが、


「次は私はこれない」

「どうして?」

「ん? エリオットを迎える準備があるからな、魔王として色々形式があるのだ。……楽しみにしているから」


 そう告げたディアの笑顔に、エリオットはふと胸騒ぎを覚える。

 けれど、もうすぐだからここで気を抜いてはいけないという事なのだろうと、エリオットはそう自分自身を納得させる。

 そしてディアに宿まで全員を送り届けてもらい、その日は皆、眠りについたのだった。

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