懐かしくて
そこは、豪奢だけれど人の気配のない寒々とした部屋だった。
けれどそんな事はどうでもいいというかのように、リアネーゼはまるでそこの主であるかのように座っている。
銀色の髪に青い瞳。
見目麗しい彼だが、何処か不機嫌そうで傲慢そうな雰囲気を醸し出して人を寄せ付けがたい雰囲気を醸し出していた。
と、そこで人影が一つ。金髪に赤い瞳の、黒い服を纏った幼さの垣間見える顔の少年。
彼はくすくすとリアネーゼを見て笑いながら、
「機嫌が悪そうだね、リアネーゼ」
「当然だ。……エリオットが東の魔王の討伐……もとい、東の魔王に恋をしたらしいからな」
その不機嫌そうな声に更にテイルは笑う。
「仲間を追い返して僕と取引するくらい、リアネーゼは、その勇者の人間が好きなんだね」
「……それで、何のようだ」
「エリオットだっけ。わざわざ危険な僕を倒しに自分から行くくらい、大事にしているんだね」
「それで、何のようだ」
声を荒げるリアネーゼにテイルはくすくすと笑って、リアネーゼの座っている肘掛に腰を下ろしつつ、耳元で囁いた。
「なんでも、東の魔王の部下である五傑が、エリオットと戦うらしい」
「なんだと! 早すぎる!」
「五傑が苛立ったみたいで、でも東の魔王ディアが様子見しているし仲間もいるから大丈夫かも」
「仲間なんて役に立たない。だから全員俺が送り返す羽目になった」
役立たずが、とリアネーゼは小さく呟くも、すぐにテイルの言葉に意識を向けて、
「それでエリオットは、いつ頃魔王ディアと戦いそうなんだ?」
「うーん、数日後かな。順当に行けば、ね」
「そこで、魔王ディアをお前と一緒に攫ってくればいいんだな?」
何とでもないことのように言うリアネーゼに、テイルは頷く。
「うん。そうだよ。ディアは僕よりも強いから手出しがそう簡単に出来なかったんだけれど、君の力があれば大丈夫だからね」
「随分と俺を買ってくれているんだな」
「君が何者かを問わない程度にはね」
相変わらずにこにこ笑うテイルに、逆にリアネーゼは警戒して、
「……何処まで分っているんだ?」
「君が何者かなんてどうでも良いよ、この前も言ったとおり、君はエリオットという人間が欲しくて、僕はディアという東の魔王が欲しいんだ」
「……まあいいさ」
その方が都合がいいと、随分と平和ボケしているなと西の魔王テイルをリアネーゼは心の中で笑う。
どの道、ばれていようがいまいがリアネーゼにはどうでも良かった。
する事は変わらないのだから。
それよりも、エリオットが心を奪われた魔王ディア、という存在自体がリアネーゼには許せない。
エリオットはずっと思い続けた、自分だけのもので、他の誰にも渡さない。
そのために今まで動かなかったのだから。
だからいざとなればテイルとの約束を反故にして、その東の魔王ディアを殺す事も、いとわない。
否、殺してしまった方が良い。
一番強い元神である魔王。全てにおいて、リアネーゼにはもっとも目障りだった。
存在自体が許せない存在。
だから消す。
そう会った事もない東の魔王に憎しみを抱きながら、リアネーゼが心の中で呟いていると、そこで西の魔王のテイルがぎゅっとリアネーゼに抱きついてきた。
「? どうした?」
「なんだか光の気配が懐かしくて、心地がいい」
「……昔、神だったから懐かしいのか?」
「わからない。でもリアネーゼの執着は、僕にも覚えがあるからね。それで共感しているのかも」
「東の魔王、ディアか?」
「うん」
頷いて、心の底から嬉しそうに微笑んで、リアネーゼに抱きつく。
その様子が、リアネーゼを苛立たせる。
テイルの孤独も執着も身に覚えのある感情で、そしてテイルがエリオットと同じ金髪だからだろうか?
そんな彼もまた東の魔王、ディアを求めている。それが気に喰わない。
けれど苛立ちを見せ付けるのも嫌で、抱きついたままのテイルの頭を軽く撫ぜてやると、驚いたようにテイルはリアネーゼを見上げた。
「……子ども扱いするな」
「ならやめようか」
「……止めるな」
そう言ってリアネーゼの胸にテイルは再び顔を埋める。
その仕草を見ながらリアネーゼは思う。
このテイルは、生かして、手元においておくのもいいなと。
初めて会ったときは気に喰わなかったが、こうしてみると見た目も仕草も可愛いのだから。
そんな事を考えながら、リアネーゼは時を待ったのだった。




