外の世界
いきなりご両親とのご挨拶が始まり、エリオットはとりあえず傍にあったテーブルに二人を勧める。
そして据付のポットに魔力を注いでお湯を作り、紅茶を入れる。
丁度三つカップがあって良かったとほっとしながら、そこでお茶菓子がない事に気づく。
どうするんだ、俺、ディアのご両親と……エリオットは緊張のあまり混乱していた。
とりあえずお茶を出して、
「すみません、お菓子が無くて」
「ああ、いいよ。こちらが勝手に押しかけたわけだし。というか私達もお菓子を持ってきたんだ。ほら、人魚の村名物“魚のサブレ”」
と、焼き菓子をエリオットに渡してくる、ディアの父。
確かに血が繋がっているのを感じさせる風貌をしているが、こちらの方が凛々しい雰囲気がある。
一方母親は、柔らかな栗毛の髪を短く垂らした美女だった。
どちらも年若く見えるが、それよりも気になったのは。
「お母様は、人間ですか?」
「ええ、そうです」
「ディアの雰囲気は母親譲りなのですね」
「そうなのですか? そうですか……」
嬉しそうに、けれど何処か切なそうにディアの母親は呟く。
そういえば、生まれた時から行方不明といっていたが、彼らは今まで一度もディアと会っていないのだろうか。
けれどディアと似ているといわれたときの母親の表情は嬉しそうだった。
会いたい息子を思い描くように。
だからエリオットは問いかける。
「ディアに、お会いにならないのですか?」
「会いたいのは山々だが、あの子を守るためなのだよ」
「守る……ディアを? 魔族では最強ではないのですか?」
「魔族ではね。けれど、神々には今のディアでは勝てない」
「神々?」
おかしな事を言うとエリオットは思う。
だって、ここにはもう神は全て魔王になってしまったから。
そんな首をかしげるエリオットに、ディアの父は小さく笑って、
「君は昔の話をクロックから聞いたのだね?」
「はい、今日、ですが」
「そうか、それならば丁度良い。人間が何処から来たか知っているね?」
「降って来た、と」
「そう、この世界の外から。そしてそこに人々と、神々が住んでいる」
今まで聞いたことのない話に目を丸くするエリオット。
そこでディアの母親が、
「私も、その世界で姫をしておりました。ここで、この人に出会ってお互い一目惚れをしてしまったので留まっているのです」
「そうなんですか」
「なので外の世界の事も、兄達と文通をしてとてもよく知っているのです。そして、この世界を、外の神々が奪おうとしている事も」
にこやかに恐ろしい話を口走るディアの母。
その時エリオットは自分がどういった顔をしているのか分らなかったが、そんなエリオットにディアの父は、薄く笑い、
「そう、下手するとディアは殺されてしまうかもしれない。今のままではね」
「そんな! でも……どうすれば……」
「簡単な事だ。君の力を、元々は東の神が持っていた全てをディアに戻せば、かつてのように東の神は蘇る」
ディアの父は簡単な事のように言うが、けれどそれでは。
「……それは、今でないといけませんか?」
「できるだけ早い方が良い。かの神が、西の魔王を唆して、手を結んだのだから」
「その神が、もうこちらに来ているのですか!」
バンと机を叩いて立ち上がってしまったエリオットは、すぐに恥ずかしくなり椅子に座る。
けれどそんなエリオットにディアの父は、
「それで渡してもらえるかね? その力はとても強いからそれ相応のとはいえないが、別の力を君に渡そう」
「……後数日でディアと戦う権利を得られるのかどうか分ります。だから、全てが終わってからでは、駄目ですか?」
「……数日ならば、大丈夫だろう。分った」
頷くディアの父。
ディアが危機に瀕しているのなら、この力がそれで守られるのならばそれで良いとエリオットは思う。
そんなエリオットにディアの父は笑って、
「私達が嘘をついているとは思わないのかい?」
「……騙されて酷い目にあったので、嘘かどうかくらい分ります」
「私達は装うのが上手いのかもしれない」
「お二人ともディアにそっくりです。だから信じられると思いました」
その答えに、ディアの両親は笑い出した。
「そうか、私達がディアに……ディアはよほど良い子に育ったのだろう」
「はい、俺が夢中になってしまうくらい、魅力的で優しい、最愛の魔王様です」
そう幸せそうに呟くエリオットに、ディアの父は少し考えてから言った。
「信用できそうだから君には話しておこう。君の幼馴染のリアネーゼという勇者は、外の世界の神だ」




