そんなこんなで
一通り話し終えて、クロックは嘆息した。
「……人の記憶が見えるのも面倒だ。だからこんな辺鄙な場所で一人ですんでいるのだが」
その言葉からクロックの言葉に重なり見えた映像と感情に、エリオットはくらくらしながらも確認のように問いかける。
「……途中見えたのは……」
「お前の祖先の記憶だろう。……不可抗力だった事は分ったし、少しは溜飲が下がった。だが、またお前は我が魔王様を傷つけるのか」
「傷つけない、俺は、傷つけられてそれを癒してくれたディアにそんな事はしない」
エリオットがまっすぐにクロックを見据える。
それがクロックには気に入らない。
本当はここで諦めさせて、多少は善良そうなこのエリオットという勇者を追い返したかった。
だが現在の初代と同じ名を持ち、同じくらい力のある美しい魔王様は、このエリオットという少年を気に入っている。
だから、このエリオットに諦めさせたかった。
ついでに、罪悪感を抱かせたかった。
それも計算のうちだったのだがと思っていると、そこでカミルが笑い出した。
「あはははは、なーんだ、結局一番の敵は人間なんじゃないか」
その声にエリオットはカミルを見て、
「南の魔王……だが魔王の襲撃があったから……」
「人間が必死だったのもあるけれど、でも僕のときは違うんだよねー」
くすくすと笑ってソラの腕に纏わりつくカミル。
それを何処となく悲しそうに見つめるソラ。
それに気づくも、後もう少しだけと南の魔王はソラに優しげに微笑み、
「僕の場合は、呼び出されたソラの祖先が僕の元に戻っているときに瀕死の重傷を負ってね、それで力ない自分を呪い、そしてソラの祖先である勇者を守るために魔王になったんだ。ちなみに北の魔王もそうなんだよ?」
「だから、ソラが好きなのですか?」
「うーん、確かにソラの祖先は大好きだけれど、結局僕のものになってくれなかったし。でも傍でずっと抱きしめてくれていて、その末裔に僕は会えたから今のところは満足しているよ? 人間は嫌いだけれどね」
「でも今の話がディア達が、人を襲ってこない理由なのでしょうか」
人間に対して心を閉ざしてしまったから、ずっと東の魔王は人と関わらないようにしていたのか。
と思っていると、何故かクロックの目が泳いでいる。
「……東の魔王達が人間を襲わない理由は他に何かあるのか?」
「……何のことだ?」
「まあいいさ、どうせ俺はディアを奪う予定だし」
「ふざけるな! 我等がディア様に手を出そうと言う不届き者の人間が。だいたい魔様は昔から我ら魔族の憧れで誰もが求婚を繰り返す多忙な日々を送るものなのだ! そのレースに人間が割り込むなど……は!」
クロックはつい言ってしまったと顔を青くして、エリオットはもう魔王様自体、勇者との関係は色々過去のことになっているような気がした。
エリオットのように。
だからこそ再びディアと出会えて、ディアも自分に微笑んでくれているのだ。
そこで更にカミルが笑う。
「そういえば、僕たちの中で一番強くて綺麗なのがディアだったものね。おかげで自分達の王になってくれとあれだけの魔物達が、待ち続けたのだから……でもそのレース、相変わらず西の魔王が参加しているの?」
「はい、未だに」
「何度振られれば気が済むんだろうね……。そうすれば後は人間を滅ぼすだけなのにね」
そのカミルの言葉に、エリオットとソラがはっとしたようにカミルである南の魔王を見る。
「どういう意味だ?」
エリオットの警戒するような問いに、くすくすカミルは楽しそうに笑い、
「だって西の魔王は人間がだいっ嫌いだからね。それがまだこの程度で済むのは、東の魔王――現在はディアに嫌われたくないのもあるけれど、僕達の中で魔王としての力が一番強くて、敵わないからだよ、力でね」
つまりディアが敵に回れば西の魔王に勝ち目がない、そして西の魔王が人間を攻撃するのも止められる可能性がある。
よし、また一つディアを嫁にするいい訳が出来たぞとエリオットが心の中でガッツポーズをとる。
それをクロックが微妙そうな目で見て、
「……人間が滅ぼされるかもしれない不安は無いのか?」
「大丈夫だよ、いざとなったらディアに泣きつくから」
「……お前の冒険をここで終わらせておいた方が良いのかもしれないと思うのだが、どうかな」
「お断りだな。それに……悔しいが、西の魔王に向かったリアネーゼは、俺の幼馴染は……強いぞ」
酷い思いをさせられたけれど、その実力はエリオットが一番知っている。
そんなエリオットをクロックは見て、少し思案してからエリオットに問いかけた。
「あの、リアネーゼという勇者は何者だ?」




