ある城にて
馬車に揺られて、向かう次の目的地は、湖の畔にある怪しげな洋館だった。
美しい洋館だが、ぽつんと大きな建物が森の中に立っているその様子は不気味な事この上ない。
しかもその洋館へと向かう道は存在せず、その屋敷は森の中に埋もれている。
来るものを拒む不気味な屋敷だが、夜になれば煌々として明かりがカーテンの隙間から漏れるという。
なので住んでいる者はいるのだろう、という事で途中で馬車を降ろしてもらうと、またも馬車を操るおじさんに止められた。
曰く、あの屋敷に行って戻ってきたものはいない。
曰く、あの屋敷には魔物が巣食っている。
曰く、夜な夜な人の泣き声や悲鳴が聞こえる。
曰く、……。
といった御伽噺を延々と聞かされたエリオット達だったが。
「……それでも行かないと。大丈夫です、俺はこう見えても腕に自信がありますから」
と、エリオットが答えると、呆れたようにおじさんは嘆息してそのまま行ってしまった。
そして目の前の樹海を見ながら、エリオット達は獣道らしき場所を探してそこを歩いていく。
「やっぱりディアに今度僕は空を飛ぶ魔法を教えてもらおう。もうこんなところ歩くの嫌だ」
ポツリとカミルが呟いて、ソラがおぶるかどうか聞いたので大丈夫だと答える。
いつもよりもカミルに元気がないようにエリオットは思う。
思い当たる点は、あの眠っているはずの南の魔王が時折出てきたくらいだが……もしかしたならそれがカミルの負担になっているのかもしれない。
そう思いながらあるテイクと急に目の前が開けた。
森との境界を定める黒く、花の模様があしらわれた魔力を帯びた柵が見える。どこかに入り口があるのだろうと思うが、道もないのにそんな門があるのだろうとすぐにエリオットは気づく。
そして目の前の柵にも何らかの魔法を感じる。
おそらくは防御の魔法だろうが、それを壊して進むのはどうだろう、相手の機嫌を損ねないかとエリオットは考えていると、そこで、目の前そ柵がトロリととろけ落ちるように地面に伸びる。
金属の硬い柵がまるで熱したチーズの用に地面へと垂れ下がり人が通れる道となる。つまり、
「ここから入れって事か?」
「そうみたいだね、行こう、せっかく招待してくれたみたいだし」
「……罠かどうかは入ってみないと分らないか」
そう呟いてエリオットは柵を越えて中に入る。
同じく、カミルとソラも入る。そして次にどちらにいけば良いのかと周りを見渡していると、いつの間にか傍に一人の少年がいた。
赤い瞳に黒い髪。
ディアと同じ色だが、髪は短く、そして氷のように無表情だった。
そんな彼は三人に向かって一言。
「……部屋で、お話があります」
そう、感情の篭らない声で告げたのだった。
案内された部屋は、豪華な調度品に囲まれた客室だった。
その椅子に適当に座るよう促されてエリオット達は座ると、すぐに目の前の菓子と冷たいお茶が現れた。
「……ここまで来るのには大変だったでしょうから」
冷たい声で、感情もなく告げる少年。
エリオット達は顔を見合わせてから、
「俺は頂く」
「エリオット!」
カミルの制する声にエリオットは飲み物を口に含む。
香り高い紅茶は冷たくとても美味しい。
その様子を見ていた魔族の少年は大きく嘆息した。
「……見知らぬ、それも魔族の出した飲み物に疑いも無く口をつけるのか?」
「……ディアがが指定している場所だから、その人物も信用するさ」
「我が魔王様を呼び捨てにするな人間風情が。だがお前は思慮の足りない人間のように僕には思える」
「……実の所、俺にはそういった俺に害をなす魔法薬がどういうわけか一切効かないんだ」
その言葉に魔族の少年はしばし黙ってから、じっとエリオットを見て、
「それほどまでにこれが好きだということか。魔王様は昔から趣味が悪い」
「……これで悪かったな。こう見えて俺は一杯一杯で全力でディアにぶつかっているのに」
「そういう意味じゃない。だが、私の屋敷の中であるものを探してきたら、我々魔族がどうしてお前を拒むのかを教えてやろう。だが、私の気に喰わぬものを持ってきたなら、その時は……血を少量提供してもらう」
「それだけ、ですか?」
「ああ。だって私の役目はお前達に武器、防具を渡してついでに一晩の宿を提供する程度だ。その一晩の間に良さげなのを見繕ってくれ、ついでに試しても良いよと魔王様より言われているのだ」
「……弱体化させようとか、そんな事は考えないのか?」
「……人に素晴らしいものを渡すと思うか?」
そう、魔族の少年が笑い、暗に良い武器はここにないと言ったのだった。




