実はね
突如として現れたディアを、エミがじっと見て、
「誰? この人。綺麗な人だけれど」
「……東の魔王、ディアだ。小娘。そしてエリオットから離れろ」
威嚇するように睨み付けるディアに、エミは顎に一本指を当てて少し考える。
そして、更にエリオットにぎゅっと抱きついた。
「こらあああああ、どさくさに紛れてなんて事を、離れろ!」
「えー、だってエミはエリオット君が好きだし、エミ可愛いし、エリオット君もエミの事大好きだったから良いじゃん」
「今は、エリオットは私の恋人だ!」
そう叫ぶディアをミアは見つめて首をかしげた。
「そうなの? でも決めるのはエリオット君だよね。エリオット君は、どっちが良いの?」
首をかしげて、更に体を密着させて問いかけるエミに、エリオットは、はわわわ、と心の中で焦りながらも、不安そうに見つめるディアと視線がぶつかる。
こんな顔させたくなかったのに。
自分であるのに自分でないような深い悲しみが、エリオットに流れてくる。
けれど今のエリオットは、ディアに愛されていて、そしてエリオットもディアを愛している。
相思相愛なのだから、何を不安に思う必要がある?。
それに、そんな愛してくれているディアを裏切るようなまねなんて、エリオットは出来ないから。
だから、優しげに笑ってエリオットはエミに、
「俺は、エミの事が好きだったよ」
「エリオット君!」
ディアが、それを聞いて泣きそうになるも、エリオットは更にエミに諭すように続けて、
「でも、もう終わった事なんだ。俺の今の恋人は、愛している人はそこにいるディアなんだ」
「……でも、その人魔王なんでしょう?」
「関係ないよ。俺が好きな人だから、俺は……ディアじゃないと駄目なんだ。魔王とか、そんな言葉で諦めきれないくらい大好きなんだ」
「エリオット君……」
「だからエミのその想いに僕は答えられない。ごめん」
「そっかー……エリオット君、本気なんだ。エリオット君がねー」
そう、何故かエミはうんうん頷いてそして、エミはエリオットに唇を重ねた。
「んんっ」
突然の事に、エリオットは反応できない。
そしてそんなエミを、ディアが引き剥がす。
「ふざけるな! エリオットの唇は私のものだ!」
「良いじゃんキスくらい。減るものじゃないし」
「減る! エリオットは私だけのものだから、よって、キスして良いのは私だけだ!」
よく分らない論法を掲げるディアに、エミはくすっと笑って、
「そういえば魔王様も綺麗な顔をしてるねー」
と言って、エミはディアに抱きついてそのままキスをした。
何故、とか、どうしてとか、ディアは顔を真っ青にさせながらキスされて、エミが今度はエリオットに引き剥がされた。
「あ、エリオット……んんっ」
ディアの言葉に返すまもなく、すぐに消毒代わりにエリオットはディアにキスをする。
もちろん舌を入れてたっぷりとねっとりとディアを味わいつくしてやれば、それだけでディアは頬を染めてぐったりとして、それをエリオットは唇を放して優しげに抱き住めながらエミに、
「俺に手を出すのはまだ良いがディアに手を出すのは許さない」
「えー、いいじゃん。魔王様にキスできる機会なんて今くらいしかないし」
「だからどうしてこんなキス魔何だお前は」
「キスは愛情表現の一つだよ。エミは可愛くて綺麗なものが好きだし」
「もういい加減にしてくれ……まさか、俺をからかいに来たって落ちじゃないだろうな」
「半分そうだよ。でも半分はエリオット君の方にしようかなと思って」
「エミ……」
頭が痛くなったようなエリオットに、エミはそこで初めて悲しげに笑った。
「だって、リアネーゼ君、何時だってエリオットが?、エリオットが?、って、私と一緒にいる時だってそんな話ばかりでつまんないし」
「そんなに、あいつは俺の事を憎んでいたのか?」
「エリオット君の前ではそんな素振りあんまり見せなかったけれど、いっつもエリオット君の話ばっかりリアネーゼ君しているし」
「……そうか」
「エリオット君は誰に対しても愛想良くて良い人で、俺もその他大勢の内の一人なんだなって嘆いていたし」
なんだか変な話しになってきた気がして、エリオットは黙った。
そしてディアが、今の話で嫌な予感を覚えた。
そんな二人にエミはにっこり笑って、
「多分リアネーゼ君が本当に好きなのはエリオット君だと思うよ」
「……ならなんで俺にひどいことをするんだ」
「『憎しみで満たせば、ずっと俺の事で一杯だよな、エリオットは』って言ってたし」
「……冗談だろう?」
「冗談だったら良かったんだけれどね……私、リアネーゼ君の事、本気で好きだったんだよね、あはは」
「エミ……」
「それと、リアネーゼ君が西の魔王に気に入られているって言ったけれど、もしかしたなら何か取引をしたかも」
「取引?」
「エリオット君関係で」
エミは笑いながら話しているが、詰まる所、
「……それを俺に伝えようと?」
「まあ、悪い事しちゃったからね。それに幼馴染だし、だから伝えておこうかなって」
そう笑ってエミは大きく溜息をついた。
「ま、失恋ついでの嫌がらせもあるのだけれどね、いうことは言ったしもう帰るわ」
「え? でも……」
「これからゆっくりと失恋の観光めぐりを一人でしようと思っているの。だからほうっておいていてくれないかな?
それともエリオット君は私の恋人になってくれる?」
それにエリオットは首を横にふり、エミは微笑んでからディアにエミは向いて、
「エリオットの事、よろしくおねがいします。ああ見えてヘタレですから」
「分った」
何だその評価はとエリオットが言い返そうとしたらディアが即答したので、エリオットは少しいじける。
そしてエミは軽やかな足取りでその場を去っていったのだった。




