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切り札

今回ストーリーが黒めです

 宿にどうにか戻ってこれたエリオット達は、早々に部屋に引きこもる事にした。

 本日は、二つの部屋を取る事が出来たため、ソラはカミルと一緒の部屋に、エリオットは一人の部屋に泊まることになった。


 宿に戻ってきてもカミルはまだ意識を戻さない。

 どれくらいいつもかかるのかと問えば、明日には元に戻るとソラに言われた。

 そして疲れたので今日は夕食は無しで寝るとソラは告げて、部屋に引っ込んでしまう。

 また、エリオットも色々有り過ぎて疲れきっていた。

 なので部屋に来てすぐにベットに横になる。


「ディアともっといちゃいちゃしたかったのに。はあ、邪魔がどうして入るんだろうな」


 今回の戦いで適役となる竜の魔族がエリオット達を別な意味で狙っていたのは別にいい。

 あの程度なら倒せるから。

 問題の一つは、エリオットはドレスまで着せられた事だ。


「確かに俺はディアに愛されていると非常に自覚できた。でも、あれは流石にないんじゃないかな……ディアは確かに可愛いし似合っていたし。だが他の人たちもディアが一番可愛いって言っていたし」


 それでなんであんな発想に行くのかなと思う。

 そうディアの事を考えているのが一番エリオットには幸せだった。

 けれどそろそろ幾つかの事を考えないといけない。


「勇者の末裔がソラで……はあ、しかも、俺がディアを泣かすって?」


 それはディアを悲しませるから? 泣かせるから? 約束を破るから? 裏切るから?。

 どれだろうと思うも、そのどれもがエリオットは自分としてディアにするとは思えない。

 なのに警告されて、そしてエリオットも酷く罪悪感を覚えた。


「この力で力ずくでディアを奪ってしまう……でも、そんな事をしたらディアに嫌われるだろうな」


 手を伸ばしてもまったく届かないのなら、略奪するしかない。

 けれどこうやって切欠があって、ディアも待っていてくれて、だからこそエリオットはこういった行動を取らざる負えないのだ。


「そう考えるとディアは中々策士だなと思えるが、本当は俺の事を嫁にしたいんだよな……なんか苛立ってきた」


 そう小さく呟いて、エリオットはディアが嫁だと心の中で思って、思えば面白いことになったと思う。

 幼馴染二人に裏切られて、こんな事になってしまったが……あの二人は今どうしているだろうか。

 幼馴染のもう一人の勇者は、エリオットが体調が悪かったからとはいえ、装備も良かったし実力もある。


 西の魔王の領土へと何処まで行ったのだろうか。

 エリオットに最後にはき捨てた彼らの言葉は、嫉妬と憎しみと、嘲笑に満ちていた。

 それは彼女の方もそう。

 あの時ずっと大好きだった彼女が酷く醜いものに見えて、そして幼馴染の勇者も矮小な存在だと思わせられた。

 昔は仲良く遊んだりしていたのに、それもまた演技だったのだという彼ら。

 けれど今思えば幼馴染の彼は野心家だったように思う。

 エリオットはそういった事に興味がなく、ただただ剣が好きで夢中になって、そして運がいい事に才能があって、しかも勇者の末裔だった。

 それを考えるとそれらのエリオットが持つ多くががない彼は、随分と凄い事だろう。


「……だからって許せるわけじゃないけれどな」


 そしてエリオットは瞳を閉じたのだった。






 魔王城にて。


「いかがいたしますか、レイト様の花嫁姿」

「く、くう……もう一声」

「流石にこれ以上のお値段では……」


 竜族のフリードが、レイトの写真を“白の人”フィエルがよだれを今にも出しそうに見て、値段交渉をしていた。


「じょ、上司へのこう、ゴマすり的なものはないのか! お前達には!」

「ただで差し上げてもかまいませんが、これ以降そういったものを手に入れてもフィエル様にはお渡しできませんね……」

「う、うぐ……仕方があるまい。では……」


 そこで黒い影が二人の背後に迫る。


「何をやっている……しかも人の写真を」

「レ、レイト……いいじゃないか。別に!」

「……そんなものにかまけている暇があるなら、ディアを取られないようにする対策を話し合おう」


 レイトが無表情に言うも、フィエルもまた同じような表情で、


「ああ、そうだな。だが、どうせあのエリオットも近いうちに呼び戻されるだろう、レイト」

「……既にもう一人の勇者のパーティが全滅しかかっているからか?」

「そうだ。途中で何人かまた仲間を補給したらしいが、もう既にあのエリオットの幼馴染の女も死んでいるし。まったく嬉々として死ににいくようなものの気がするが、それをどうして自分から望むのか。勇者の力を持たないものなど、やはりその程度だというのに」

「逆だ、フィエル。切り札だから寄せておいたのだ。そして温厚な東の魔王との戦いに投じさせ実践の経験を積ませる。どんな形であれ好都合なのだよ、人の王にとっては」


 レイトは淡々というも、事の重大さにフィエルは聞き返す。


「つまりもう一人は使い捨てか?」

「それもあるが、使えれば良いし使えなければそれまで。欲望を上手く利用している。とはいえエリオットをまだ投じないのは切り札ゆえに、温存しておきたい思惑もあるのだろう」

「我々よりもよほど狸だ、人の王は」

「だから侮れない。それも含めて物凄くディアがエリオットに絆されかけているので何とかしたいから、今日はみなに集まってもらったのだ」


 その言葉にフィエルは、


「他の三人も来たのか? よく集められたな」

「首輪をつけて引っ張ってきた。部下も快く送り出してくれたしな」

「首輪プレイか」

「私を変態のように言うな、着いたぞ」


 そこで、一つの部屋にたどり着く。

 中には、五傑のうちの三人が既にそろっていたのだった。

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