悩ませる案件
集まったうちの三人の一人、“赤の人”クリムゾンが机の上に足を乗せながら、レイトにげらげらと笑う。
「それであれだ、俺達のディアに手を出そうとしている不届きものだったか。そいつを○ればいいのか?」
赤い長い髪は時折血の色に見えると評判の彼は、評判どおり口と手が同時に出るタイプだった。
そしてそれもレイトの頭をちょくちょく悩ませる案件だったのだが、いつもの事なので怒る気力もなく、代わりにレイトは、
「……クリムゾン、どうして貴方はこうも短絡的なのですか」
「一番簡単な方法だ。横恋慕をする奴らを消して、そうすればディアの心の行き場はなくなるだろう? 大体小難しく考えすぎなんだ、レイトは」
「貴方みたいに短絡的に考えられるほど軽い頭はしていませんし、ディアが幸せに手に入る方法を模索して何が悪いのですか」
そうレイトが睨みつける様子に、随分ストレスがたまっているようだなと思いつつクリムゾンは、
「もちろん俺だってディアが幸せに越した事はないさ。だが時として欲しいものは力ずくで、どんな手を使っても手に入れなければならない事だってあるだろう?」
「それは……」
「大体何を気にしているんだよ。まさか本気でディアが人間の勇者ごときを相手しているわけじゃあるまいし……なんだ全員、俺の顔を見て」
クリムゾンのその言葉に、皆が分ってしまった。
相変わらずこいつは話を全然聞かないと。レイとは既に話を何度も何度も伝えていたのだが、クリムゾンは分かったとその時はいつも何かをやりながら適当に聞いていたと、レイトは思い出して頭痛がした。
そこでパンと手を叩いた人物が一人。
穏やかそうでにこにことした、温厚そうな黄色い髪をひとつにまとめた人物だった。
「それではこのお馬鹿は放っておいて、ディアに関してですが……」
「おい、“黄の人”ロウズ、どうしてお前は前から……」
そこで、“黄の人”ロウズはクリムゾンの耳元で何事か囁くと、クリムゾンが顔をさあっと青ざめさせて、ぶるぶると震えながら、
「……この温厚ドS」
「おや、今何か言いましたか? 言いましたね……では後でゆっくりとお話しましょうね、クリムゾン。夜は長いですからね……」
クリムゾンは完全に凍りついた。そこで話を戻すようにロウズが、
「それで、ディアに手を出そうとする勇者の人間が、その昔東の魔王を裏切ったあの勇者の末裔でしたね」
クリムゾンがえっと声を出したので。ロウズがさりげなく、首筋に手刀を入れて気絶させていた。
起きていると話が進まないと判断したのだろう、なのでレイトもその件については何も言わず、
「そうです。そしてその勇者をディアが愛しているようなんです。それを何とか切り離したいのですが」
「その勇者、確かエリオットでしたか、彼に男でも女でもあてがうわけには行かないのですか?」
「心底ディアに惚れているので、そんな事は出来ない」
「まあ相手がディアなら仕方がありませんよね。あれほど綺麗で聡明で優しくて……少しお茶目な方ですからね」
「そのお茶目さが問題なんです。何で自分から勇者に会いに行くんですか……はあ」
レイトがうんざりと言ったように嘆息して、そばの水差しからコップに水を注ぎ一気に飲み込んだ。
それから熱を沈めるように時間を置いて、もう一杯レイトは水差しからコップに水を注ぎつつ、
「それで、できればディアを悲しませないで追い払いたいのです。何か妙案はありませんか? こちらは玉が出尽くした感があります」
そのレイトの言葉に“白の人”フィエルが付け加えるように、
「ちなみに私の配下で特に強い……竜族のフリード達を投入したが、エリオット達は見事勝利した」
その言葉に今まで余裕ありげなロウズが、表情を消して、
「冗談でしょう?」
「事実だ。だからそういった意味で対策を練る必要がある」
フィエルの表情から嘘を探そうとしたロウズは見つけられず、そこで、それまで黙っていたもともと無口な方の“青の人”アオイが口を開いた。
「だったらする事は一つ。僕達が直接迎え撃てば良い。負ければ、勝つことが出来ないと見せ付ければ、意気消沈して帰るだろうから」
「そんな大人しい人物ではないのですよ、アオイ」
「……僕は、彼に自分と同じ匂いを感じる。だから間違っていない。そして、だからこそ、負けられない」
大人しいアオイが珍しく自分の主張を言い切った。
そういえばこのアオイも引きこもり的なところがあったなとレイトは思い出す。
とはいえ、五傑が直接対決となると場所を選ぶ必要がある点も含めて、他に代案がないかレイトは思案し、
「五傑でエリオットを迎え撃つ。ここで悪戯に時間を引き延ばしても事態が悪化するだけの気がしますから。それに負けてしまえばすんなり人の王に呼び戻されれば従わざる終えないでしょうから……それで行きましょう。追って、ディアに上手く言い訳をして、そういった形に組みます」
レイトのその言葉に、四人――一人は気絶をしているが、が頷く。
そこで誰かがやってきた気配がして、コンコンと音がした。
そこでレイトは後で、お茶と菓子を持ってくるよう頼んだことを思い出す。
「入ってくれ」
レイトはそう言ってすぐにどうしようかと眉を寄せながら考えて……入ってきた人物に気づいて固まった。
ディアが割烹着を着てお茶とお菓子を持ってきたのだ。
「「「ディア!」」」
特に久しぶりなロウズとアオイ、そして先ほどまで眠っていたはずのクリムゾンが飛び起きた。
そんな三人の幼馴染に、
「久しぶりに全員がそろうから、何を悪巧みしているのかという様子見と、一堂に幼馴染が集まって嬉しくなったので果物のタルトを作ったぞ!」
「俺達が戻ってきたのよりも、悪巧みの方が重要なのか、ディア」
拗ねたように言うクリムゾンに、ディアはくすくすと笑って、
「ここの所ずっと避けられていたから、この程度は意趣返しの範囲だ。それに嬉しくなってお菓子まで作ったからな、私は」
「わぁ、綺麗だな。また腕上げたか、ディア。というか上手そう……早く喰おう!」
「クリムゾンは相変わらずだな、ん、アオイ?」
そこでアオイがディアの服を引っ張り、自身のポケットから一枚の紙を取り出した。それは押し花のしおりだった。
「ディアが好きなんじゃないかと思って、花のしおり」
「ありがとうアオイ! 綺麗な花だな……でも初めて見る花なのに、何処か懐かしい感じがする」
それにアオイは答えず他の面々もただディアを見守るだけ。そう、今はそれで良いのだから。
そして全員が、久しぶりにディアと一緒に揃って紅茶を楽しんだのだった。
所変わって、エリオット達の泊っている宿にて。
「ここかな」
一人の少女がやってきたのだった。




