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ひずみ

 去っていくディアに、エリオットは悔しさを覚える。

 何であっちに行ってしまうのだろう。

 このまま奪い去って、手に入れたならどうだろうと思って、エリオットは何故かとても怖い感覚を覚える。


 そう、とても怖い。

 ディアが泣いて、嘘つきと、約束が違うと……いや、違う、ディアじゃない、けれど。

 愛おしい人だった。

 分っている、その人が自分のことなど相手にしていない事は分っていた。

 寂しかったから傍にいて欲しかったから自分を傍に置いただけだ。

 優しくて綺麗で、きっかけは醜いものだったけれどそれでも、この出会いは愛おしかった。

 だから、その人の信頼を得て、そして……裏切った。

 約束が違うと、泣くあの人をじぶんは……。


「エリオット、どうしたの? そんなにディアがいなくなるのが悲しいの?」


 声をかけられて、エリオットははっとする。

 今のはなんだろうと思って、けれどとても胸が締め付けられた。

 そんなエリオットの様子に、カミルは少しだけ目を瞬かせて、


「……ふーん、そんなに、今回も、東の魔王が好き?」


 その問いかけが、カミルらしくなくてエリオットはカミルを見返す。

 いつものようにカミルは笑っている。

 嘲るように、エリオットを見て嗤っている。

 けれどその瞳は黒々としており、深遠を覗いている様だった。

 その闇の深さに、恐ろしさと共に、今すぐ襲いかかり、排除してしまいたい衝動に駆られるもエリオットは必死で抑える。

 そこで、カミルをソラが後ろから抱きしめた。


「この辺で、お願いします」


 余裕のある笑みではあったが、ほんの少しだけ戸惑いの表情でソラを見上げて、カミルは面白そうに、


「……そんなにカミルが好きなのか?」

「……カミルは親友です」

「親友のままで良いのかな?」

「…………カミルがカミルのままなら、それで俺は満足です」


 その答えに、カミルではない彼は、初めて嬉しそうに笑った。

 後ろから抱きしめるソラの腕に自分の手を重ねて、


「今度は、起きている僕と一緒にいようよ。ね?」

「カミルと一緒に、迷惑をかけられたりするのが、俺も楽しいです」

「残念。まあ、いいやあ。久しぶりに出てこれたし、それに……また、東の魔王を泣かせる勇者に会えた事だしねぇ」


 その笑みとその言葉に、エリオットは聞き捨てならず、


「俺は、ディアを泣かしたりしません! そして、あの人を必ず手に入れます」

「分っていないな、君は。手に入れようとするから、東の魔王は泣くんじゃないか。君の事を、ずっと、愛しているから」

「そんな分けの分らない感情で、俺はディアの事を好きになったのではありません!」

「でも、血は覚えているよ?」

「血がなんですか! 今の俺は、俺です。たとえどんな事があろうとも、ディアと出会って、救われて、そして、もう一度求めて、手を伸ばしたいと思ったのはこの俺です!」


 エリオットは熱弁するように言い切って、それをカミルでは無い彼は、


「……まあいいや。今度は上手く行くといいね。面白そうだからもう少し眠っている事にするよ。まあ、こうやって出れたのは、東の魔王が随分と昔に近いからなんだけれどね? でも、ソラ、今すぐ僕を東の魔王と関係のあるエリオットから引き離そうなんて思わない事だよ」

「駄目ですか?」

「だめだ。もう少し様子が見たいから。これはソラのお願いでも聞けない。あいつに似て愚直なまでに誠実で優しい君でも、ね?」


 そうカミルはソラに妖艶に微笑んで、そのままふらりとソラの腕の中に倒れる。

 それを抱きとめて、ソラは深々と嘆息した。


「まさかいきなり出てくるとは思わなかった」

「ソラ、今のは?」


 その問いかけにソラは少し黙ってから、


「まだ、話したくない。すまない」

「いや、ソラが嫌なら無理に聞き出そうとは思わない」

「ありがとう、エリオット」


 そう答えてソラは、倒れたカミルを抱き上げて複雑そうに眺めて、一度目を伏せているのを見てエリオットは、


「これで、とりあえず今回の戦いは終わりだから宿に戻ろう。荷物を持つのを手伝う」

「助かる。カミルが、こうなると暫く起きないんだ」

「……さっきの話だと、ディアがいないとでてこないみたいだったが……けれど、ソラの事を昔から知っているみたいだったが」

「……満月の夜は魔物動きが活発になる。その時に時々出てきて、俺に怖い話をして喜んでいたんだ。まさか、あれだとは思わなかったが、俺の事を気に入っているらしい」


 そしてそれからソラは言葉を切って少し黙ってから、


「カミルがカミルであればそれで良い。俺はそれ以上望まない」


 そう言って黙ってしまう。


 けれどその言葉は、エリオットにはソラのカミルへの愛の告白のように聞こえたのだった。






 久しぶりにエリオットに会えてご機嫌だった魔王ディアに、レイトがぶすっとして、


「ディア。これから大量に仕事がありますから」

「うむ、分った」

「なので、暫くまたエリオットには会えません。よろしいですね?」

「ええ! だが……」


 けれどそれを無視してレイトは歩き出し、ついでに他の五傑と今後の対策を一回話し合おうと決めたのだった。

長くお休みしており申し訳ありませんでした。完結まで頑張ります (*´∀`)ノ

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