花嫁衣裳
魔王ディアがごねた。
「何で私に花嫁衣裳を着せる!」
「似合っているから良いではないですかディア」
「ふざけるな! そんな事を言うレイトには……カミル、彼に似合いそうな花嫁衣裳を寄こせ!」
「いいよー、魔族の皆さんは美人さんが多いから楽しい……うへうへ、じゅるり」
不気味な笑い声を上げて涎が出てきたらしいカミルが、それを拭いながら、新しい獲物であるレイトに焦点を定める。
レイトは顔を蒼白にさせて、
「ま、待ってください、私は……」
「レイト、お前だけが逃げられると思うなよ? カミル! 押さえておいてやるから早く脱がして着せるのだ!」
「はーい」
カミルが嬉しそうな声を上げてわきわきと手を、宙を着かんで揉むような仕草をする。
今すぐにその服を脱がせてやるんだぜといったその様子に、レイトは焦って、
「や、やめろ人間! わ、私は高位の魔族で……」
「と言っていますがディア、どうしますかー(笑)」
「私が許す、やれ」
「ディアの薄情者! 酷い、酷いです魔王様! うぎゃああああ」
「はーい脱ぎ脱ぎしましょうね♪」
そんな楽しそうな様子の三人を竜族の魔族は、こそこそ写真を撮ったりしており、ついでにレイト様の女装写真は高く買ってくれそうな人が居るんだよなとにまにましていたのだが、それは良いとして。
そこから離れた所で、ソラとエリオットが居た。
ちなみにエリオットは、花嫁衣裳を完璧なまでに着せられて、現在、体育座りをしてどんよりとしていた。
エリオットは、先立って壮絶な笑みを浮かべてあたかも今すぐに、好物の獲物を料理をしようかというような笑みを浮かべたディアに、問答無用で着替えさせられてしまったのだ。
「可愛い、エリオット……」
うっとりするように囁かれたディアの言葉に、エリオットは今すぐ押し倒してやろうかと思った。
頬を赤らめて熱っぽくエリオットを見つめるディアが可愛かった事については反論しない。
しかしエリオットを襲いたいという劣情が垣間見えて、それがエリオットにはいただけない。
エリオットだって男だし人並みに欲望だってある。
だから押し倒して、自分が“男”だという事を教えてやりたい気がする。
何が可愛いだ。
可愛いのはディアじゃないか。
なのにこんな格好をさせられて、俺は何をやっているんだろうといった憂鬱な気持ちに苛まれてエリオットはポツリと呟いた。
「……実家に帰ってやる」
「……エリオット、すまない」
「いや、いい。ソラは悪くない」
「……俺は、カミルが嬉しそうで、幸せであって欲しいんだ」
そんなまるで愛おしい恋人に向かって言うような台詞に、エリオットはソラを見上げた。
ソラの表情は、複雑な感情に揺れている。
以前恋人同士じゃないかと聞いた時に、当たり前のように友達同士の関係だと言っていたが、ただ単に嘯いていただけではないかと思い当たる。
けれどそれを問いかけるには、ソラはまだ決めかねているようにも思えて、エリオットはその問いかけを飲み込んだ。
ついでに、ソラが勇者の末裔である事も聞きたい衝動に駆られたが、敢えてエリオットは黙る。と、
「エリオットに聞きたい事があるのだが、いいか?」
「ああ、何だ?」
「エリオットが魔王ディアの事を好きと言っているが、最近俺には友達同士の好きに見えて仕方がないんだが」
「……愛の形は其々だ。あの竜の魔族がお前達の事を好きなのは友達同士の好きに見えるか?」
「すまない」
「分ってくれればいい」
頭が痛くなったエリオットはそう答えた。
そうか、友達同士の好きと恋愛の好きの区別がただ単についていないだけなのかと、エリオットはソラについて嘆息した。と、そこで、
「エリオット、レイトとお揃いにしてみたぞ!」
「いいだろう、人間」
ディアの無邪気な声と、レイトの勝ち誇ったような声。
同じ服を着たのを見せ付けるかのようなレイトに、エリオットはイラッとした。
そしてそれを喜んでいるディアとか、何で俺までこんな服着ているんだとか、よくも嬉々として着せたなというディアへの恨みが体を駆け巡り……エリオットはディアの手を捕まえて引き寄せる。
そしてそのまま顎を掴んで唇を重ねた。
レイト達魔族が固まり、カミル達はおあついですねー、と目を輝かせた。
「んんっ……突然何をするのだ」
「ディアが俺の事を放っておくのが悪いんだ。相手してくれないなら帰ってやる……」
「ま、待って、行かないで」
とそこで、そんなやり取りを見ていたレイトから殺気があふれ出した。
「貴様、よくもディアに……」
「キス位で目くじら立てるな。そのうち最後まで頂くつもりだからな」
「き、貴様……今すぐ、ここで、こ、ころ、ころ……うううんっ」
レイトは怒りのあまり、顔を真っ赤にしてそう告げて、そのままふらりと倒れてしまった。
怒り過ぎて気絶したらしい。
それをディアが抱きとめて様子を見て、大丈夫な事を確認してから、
「エリオット、あまりレイトを怒らせないでくれ」
「……ディアが相手をしてくれないからいけないんだ。さっきからカミルとばかり遊んで……」
「……可愛い、それは嫉妬したという事だな! 相変わらずエリオットは可愛いな! 本当にお嫁さんにしたい……」
そう目を輝かせるディアに、エリオットは本当に実家に帰るかどうか迷った事を付け加えておく。




