強い感情
散々魔族の子供達の遊び相手をさせられたエリオットは、引きこもりであった割りに息一つ乱れていない。
その様子に、更に魔王ディアの不安が増していると、
「ディアも一緒に遊ばないか?」
「え? 私もか?」
そんな驚くディアを引き入れると、魔族の子供は顔を赤くして、
「ゆ、勇者なんかに魔王様は渡さないんだから! お守りさせていただきます!」
何故か、その魔族の子供がディアを守る騎士のような雰囲気になってしまう。
そして、それに大人気なくエリオットがディアを奪いながら、遊んでいた。
やがて夕暮れ時になり、子供達は分かれて、近くの町まで戻ることになった。
「協力を感謝する」
「いえいえ、子供たちも久しぶりに思いっきり遊べて良かったようですので」
「そうか……それでは、もしまた何かあれば頼む」
「こういった事でしたら大歓迎です」
魔族の村長と、ディアが挨拶を交わして、そこで先ほどの魔族の子供が、
「ぜっつつたいもっと強くなって、お前なんか倒してやる!」
「楽しみに待っているよ」
そう余裕の返事をするエリオットに魔族の子供が怒る。
そして、そんなエリオットと疲れ果てたカミルとソラを連れて、ディアはその場を去り、近くの街道に出る。
そこで怪しい姿に再びディアが変装して、たまたま通りかかった乗合馬車に乗り、町へと急ぐのだった。
泊まった宿は、前回と同じだったのだが、今回はディアが城に帰るという。
「ディア、今日も泊まっていかないか?」
「流石に二日連続で無断外泊は出来ない。皆が心配している。……でも、エリオットの子供好きな面は、可愛いと思ったぞ?」
「子供の面倒を見るのは嫌いではないから。でも、負けられなくて」
それをクリアしないと、次の段階に進めないのだ。
だから大人気なく、エリオットは魔族の子供を負かしたし、ディアが見ている前だったが、取られるのが嫌で負かせてしまった。
それだけは、エリオットは譲れなかったから。
そんなエリオットにディアは、
「……大人気ないな、エリオットは」
小さく苦笑をして、エリオットに自身の唇を重ねてちゅう、と軽く吸う。
それに驚くエリオット。だが、がんばれという意味もディアにはあるものの、エリオットのその潜在的な才を見極めようとしてキスをする。
ずるりとディアの意識が、エリオットの中に入り込む。
何処か温かくて心地の良いそれに、ディアは好感を持ちながら探っていく。
やがて、光を見た。
けれどその光がディアには何処か懐かしくて、そして、酷く胸を締め付けられるような痛みを感じる。
……たのに。
……傍にいて、守ってくれるといったのに!。
嘘つき!。
「! っ!」
強い感情に押しつぶされそうになって、ディアは慌ててエリオットから唇を放した。
「ディア?」
それを心配そうにエリオットが見てくる。
けれど今ディアは、酷く恐ろしくて、怖くて……エリオットから逃げ出したい感情を覚えてしまう。
それでも、ディアは必死に感情を抑えて、努めてエリオットに気づかれないようにしながら、
「すまない。どうも酷く疲れているようだ。帰らせてもらう」
「……ああ。ディア、気をつけて」
その言葉にディアは頷き、瞬時に城に転移する。
消えてしまったディアを、いなくなってもみ続けるエリオットポツリと呟いた。
「……今度は、逃がさない」
その意味が、エリオットの中の何処か別の誰かも共に言ったように感じて、エリオットは奇妙な感覚を覚える。
けれど、気のせいだとかぶりを振り、エリオットはまたのディアの来訪を待ち望み、次は何処に向かうのかを地図で調べ始めたのだった。
戻ってきたディアは、すぐにベットにそのまま転がり込む。
酷く胸を締め付けられるようで苦しい。
溢れ出る憎悪と、愛おしさがない交ぜになり、自身の意識が壊されてしまいそうだった。
瞳から涙が零れでるのをディアは止められず、自身の顔を枕に埋める。
「うぐ……」
大好きなエリオットなのだ。
そんな彼とキスをして……彼の才を少し覗いただけなのに。
それが、ディアの心をとてもとても苛み、狂うような激情が体に駆け巡る。
それに必死で耐えながら、ディアはそのまま眠ってしまおうとする。
疲れのためか、その眠りはすぐに訪れる。
そんな戻ってきたディアの様子を、魔族の五傑、“緑の人”であるレイトはドアの隙間から見ており、胸騒ぎを覚える。
「……一度、そのディアの五中心の勇者の様子を見て方が良いかもしれない」
普通の勇者なら問題はないのだが、もしも、彼がかの者であったのなら。
また、魔王様は泣いてしまうかもしれない。
「……ディアを泣かせる者は排除してやる」
そう、別の理由からも、レイトはディアに近づけさせてはならないと思ったのだった。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。




