朝です
カーテンの隙間から零れ落ちる朝の光に、ディアはうっすらと瞼を上げた。
そして、目の前にエリオットの顔があった。
もう一度言う。
目の前にエリオットの顔があったのだ。
幼げな眼差しに、けれど少年が大人になりかけた危うげな色気がほんの少しかもし出されて……魔王ディアはどきどきしてしまった。
見てはいけないものを見ているようなそんな気がしながら、服の隙間に見える鎖骨に気づいて、ディアは更に顔を赤くする。
そこで、エリオットが服を着ていることは何も無かったんだなと、ようやく気づいた。
そして自分の服も、確かに眠っていた関係上少し乱れているが、それほど問題は無い。
そこまで考えて、エリオットの手が抱き寄せるようにディアの体に回されている事に気づいた。
正確には抱きしめられながら、ディアは眠っていたのだ。
そう思った途端、ディアはエリオットに触れている場所から伝わる熱の温かさに気づいて、胸が跳ね上がる。
同時に昨日のディアの最後の記憶が、エリオットとの深いキスだった事に気づいて、更に顔を赤くした。
そんな風にディアが焦っていると、そこでようやくエリオットが目を覚ました。
「……ディア? ……わぁああ! す、すみません!」
慌ててエリオットが弾かれたようにディアから体を放した。
昨日は確かにお互い背を向けて眠っていたはずだった。
なのに今朝起きた時には、まるで抱き寄せるようにエリオットは、ディアと眠っていたのだ。
けれど不可抗力とはいえ、そういう事をしてしまったのは事実で、
「その、ディア、ごめんなさい。昨日、宿がダブルベットの部屋しか空いていなくて」
「ああ、それで私はエリオットと眠っていたのか。すまない、つい、その……エリオットとのキスが気持ちよくて、疲れのせいかそのまま眠ってしまった……迷惑をかけた」
「いえ、全部俺のための……」
「だ、だからもうこの話は止めよう! 思い出すと、私も恥ずかしくなってくる」
そんな恥ずかしそうに顔を赤らめて顔を背けるディア。
その可愛さにいてもたってもいられず、エリオットはディアを抱きしめたのだった。
そうやってエリオットがディアを抱きしめていると、カミル達が朝食を食べに行こうと呼びにきたのだが、ディアに気づいて、室内に持ってきてとる事になった。
パンにスクランブルエッグとベーコン、サラダの朝食だった。
それらを食べ終わってから、エリオットがディアに聞いた。
「それで、ディアはいつ城に戻るんだ?」
「いつでもかまわない。基本的に私がやるべき事は終わったし、後はいつもの暇な日常に戻るだけだ」
「……魔王様のお仕事は」
「基本、五人衆がやっているから、私には仕事が回ってこないし、彼らも最近は私を避けることが多くて」
「ディアを? なんで……」
そこではたとエリオットは気づいた。
このディアを一目見ただけで、エリオットはのぼせてしまったのだ。
そんなディアに魔族達が懸想しないはずが無いと、エリオットは気づいて、
「ディア、その五人衆達は……」
「ん? ただの幼馴染だ、昔からずっと一緒にいる……前には話さなかったか?」
「いえ、いえ……なんでもないです」
変なエリオットだなと笑うディアを見ながら、その幼馴染が貴方の事を狙っているかもしれませんなんてエリオットは言えなかった。
正確には言いたくなかった。
それに気づいて、ディアが彼らに聞いたならば、彼らは本気になってディアを口説くだろう。
今何も出来ないのは、どちらにディアが転ぶか分らないからかもしれない。
だったらわざわざ恋敵を増やす必要が無い。
そう思いながら、エリオットは朝食の牛乳を、もっと背が高くて男らしくなりますようにと念じながら、飲み込んだのだった。
食後、ディアが地図を取り出した。
「それで、この赤い丸の場所が、うちの魔族の住んでいる場所だ」
「一つ、ここに近い場所がありますね」
そうカミルが指差す。
山の中腹に、赤い丸がある。
けれど道らしきものは見えないので、エリオットがそれを尋ねると、
「基本的に魔族は、転移魔法が使えるからな。もっとも、ある地点とある地点を結ぶもので、私みたいある程度自由には動けないからな」
「流石は魔王様という事ですか」
「ふふ、凄いであろう」
と、ちょっと得意げなディアだが、そこでカミルが、
「では、僕達はどうやってそこに辿り着けばいいのですか?」
その問いにしばし魔王ディアは悩んで、
「……考えていなかった」
そうポツリと呟いたのだった。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。




