何も知らないんですか
人間に酷い目に合わされた、と聞いて魔王ディアは首を傾げた。
「魔王に戦いを挑もうとすれば、当然魔族と接触するから、その魔族全員を昔のまだまだ弱い頃の人間が倒すなり何なりしたというのか?」
「そもそも昔は、魔族や魔王はいませんでしたからね」
「どういう意味だ?」
「……本当に何も知らないんですか?」
「そんなことを言われても、知らないものは知らないのだ。……レイトに聞けばわかるかな」
「レイトとは、五人衆の“緑の人”のレイトですか? 彼らにはあまり都合のいい話ではありませんからね」
「? そうなのか?」
「ちなみに、魔王ディア様のお父様とお母様は『この世界の神になる』とおっしゃっていたのですね?」
「う、うむ。そうだが……」
「そうなると人間にとって都合が悪いにもなるのですよね」
「……もったいぶった言い方はせずに、はっきり言えばいいのでは?」
「……状況がわからないので、保留ということで」
カミルがニコッと笑って話を終わらせた。
そんなカミルを魔王ディアは半眼で見て、そして黙って余裕が有るように見える、どこか顔色の悪いソラに目を移して、
「お前は知っているのか? 確かカミルとは仲がいいようだが」
「……いえ、魔王様に逆らうとかそんな事は一切考えておりませんので、カミル共々見逃して頂ければと思っております」
そんなものすごく低姿勢なソラに、そして相変わらず自信満々なカミルを見て、魔王ディアは気の毒に思い、
「……ソラ、お前も大変だな」
「そうでしょう! そう思うでしょう! こんな風に今まで意味深な事を言って挑発してその巻き添えに毎回、そう、毎回巻き込まれている俺の苦労がわかりますか!」
「ああ、うん」
そう、突然力説しだすソラに、魔王ディアは気圧されたように頷いて、そんな愚痴を聞いてもらえる相手ができた事が嬉しいのかそのまま、色々な意味で心を込めて話し始める。
「こうやって意味深な事を言った割に、実の所大した理由がなかったりするんです。それで反感かられたり怖がられたり……別にただ怖がられるだけならいいんです。それで逆に変なふうに被害妄想して、闇討ちとか……俺は一応、すぐに対応できるから構わないのですが、カミルはそういった事にそこまで慣れていないはずなんです」
そんなソラがカミルを心配して言うセリフに、魔王ディアは少しだけ険を和らげて、
「そうかカミルの事を、ソラは愛しているのだな」
と、微笑んだのだが、その言葉にソラは不思議そうな顔をして、
「……エリオットもそうだが、どうして魔王ディア様も俺達の事を恋人同士だと思うのですか?」
「え? いや……」
今の話を聞いていればどこからどう見ても恋人同士としか思えない……と思うのだが、と魔王ディアは考えこんでしまう。
そんなディアにさらに、ソラが、
「……友の心配をするのは当然でしょう? 一緒に遊びに出かけるのも」
「それはそうだが、んー、確かに言われてみれば……そう、か?」
行き過ぎた友情のような気もするが、確かにそうだからといって恋愛感情があると判断は出来ないような気がする……そう、魔王ディアが延々と悩みだした。
その一方で、カミルとソラは、何処からどう見ても友達同士なのにねー、とお互い顔を見合わせて話している。
なので余計魔王ディアの悩みは深くなる。
そんな抱きついている魔王ディアを見て、エリオットは嘆息した。
「……さっきから、ディアは俺の相手を全然してくれない」
「! い、いや……そういうつもりは無いのだが、予想外の難問をだされて悩んでしまっただけなのだ」
「そんな事、考える必要があるのですか? 確かに意味深な事を言っていますが、それこそディアが本気で調べれば分る事では? ……貴方は魔王で、そういった事を調べる事も、調べさす事もできる立場なのですから」
「そ、それはそうだが……」
そんな魔王ディアをエリオットはじっと見て、
「俺は貴方が会いに来てくれなければまだ会う事は出来なくて、貴方を力ずくで手に入れる事だって出来なくて、そんな俺の、ささやかな貴方とのひと時を、そんな話で潰してしまうのですか」
そんな事を口走るエリオットに、ディアはしばし悩んでから、
「……ごめん。エリオットがこんなに病んでいるとは思わなかった。よしよし」
そう、魔王ディアはエリオットの頭を撫ぜる。
そんなディアを、エリオットはぎゅっと抱きしめて、
「……暫く魔王様といちゃいちゃしたいです」
と、告げたのだった。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。




