砂糖が噴出
「いちゃいちゃ?」
そう反芻して首をかしげる魔王ディア。
そんなディアにエリオットは切実なように、
「いつも簡単に会えない恋人同士なのに、何でディアは他の二人とばかり話しているし……」
「そ、そうだな。……それで、その……いちゃいちゃ、か?」
「はい」
「どうやればいいのだろう。いや、意味は分るのだが、いざしようとするとどうすれば良いのかわからな……エリオット?」
エリオットの顔が、魔王ディアの顔に近づいてくる。
ゆらゆらとゆれる金色は淡く光を放っているようで、その青い瞳は何処までも吸い込まれてしまいそうな広く高い空の色をしている。
その瞳が、僅かな時間、魔王ディアをじっと見て、そらされて……ディアの額にキスをした。
額に感じた柔らかくて温かい唇の感触に、ディアはその場所から熱が広がっていくようで、事実、顔を真っ赤に火照らした。
そんなディアを、唇を離したエリオットは見て、おかしそうに優しげに微笑んだ。
「この前は貴方からキスをしてくれたのに、どうしてそんなに恥ずかしがるのですか?」
「……自分からするのと、されるのでは違う。それに、なんだか改まった感じでそれが……緊張するというか、恥ずかしいというか……ああ! そうだ。その、私の事を“貴方”と呼ぶな。出来るだけ!」
「? 何故ですか?」
不思議そうに問いかけるエリオットに、少し赤みの引いたディアの顔に、再び朱がさして、
「……エリオットには、私の事を名前で呼んで欲しいから」
口に出した瞬間、ディアの頬が更に赤くなる。
そんな初々しい恋人の姿に、エリオットはこんな経験が初めてなために、頭が破裂しそうになる。
「ディア、愛してる!」
「エ、エリオット……うん、私もエリオットを愛してる」
ディアに愛していると叫んで、エリオットはディアを強く抱きしめる。
そんなエリオットの行動に、はじめは顔を赤くして焦ったディアだったが、抱きしめて服越しに触れ合う場所からエリオットの暖かな体温を感じて、酷く幸せな気持ちになる。
ここ二日徹夜であったため疲労が堪っていた事もあって、ディアはそれが酷く心地よく感じる。
それ故に、無意識の内にエリオットの背に手を回して、胸に顔をこすり付けていた。
そのすがる様な求めるような、そして幸せそうなディアの様子に、エリオットは理性の糸が切れそうになる。
今すぐ押し倒してしまいたいという衝動に駆られて、ディアを抱きしめる手が小刻みに震える。
けれどこんな行動をディアが取るのは、エリオットを信頼してくれて、愛してくれているからだと分っているので、ここで信頼を失うようなまねを慎むべきであると、エリオットは必死になって自分に言い聞かせた。
言い聞かせながら、いつも以上に可愛らしい仕草のディアにエリオットは苦悩する。
そこで、ディアが何かを思いついたようにエリオットを見上げて微笑み、そのまま体を離す。
それがエリオットには残念なようなほっとしたような、複雑な感情を湧き上がらせる。
もっとも実の所、その時のエリオットは、好きなものを取り上げられたような子供のような、何処かふてくされた様な顔をしていた。
そんな子供っぽい様子も、ディアには可愛らしく、そして愛おしく見えて胸がときめく。
だから、先ほど額にキスをしてくれた御礼として、ディアはエリオットの額に軽く自身の唇を触れさせた。
まさかそんな事をされるとは思っていなかったエリオットは、油断していたがために、理性の糸がとうとう切れた。
そのまま荷馬車の荷物にディアの体を押さえつけて、驚くディアの唇にエリオットは自身の唇を重ねて、貪るように吸う。
「んんっ」
予想外の行動に戸惑ったのであろうディアのうめき声。
けれどそんな事を気にする余裕もなく、エリオットはそのままディアの唇に舌を忍び込ませた。
くちゅっと音がして入り込んでくるエリオットの舌。
それに驚いたディアが、必死に口を閉じてエリオットを拒もうとする。
だが、唇を求めるように幾度となく吸われ、その度に体にじんとした熱が唇から走って、ディアは体が熱く火照り、力が抜けて、瞳に涙がたまる。
そんな獲物が少しずつ弱ってその身を投げ出そうとする感触をエリオットは感じながら、自身のうちにある獰猛な感情にほんの少しその身を任せて、ディアの唇を二つに割り、舌を挿入していく。
エリオットの舌が、ディアの舌に微かに触れたその時、ディアは小さく体を震わせた。
それと同時にディアの舌がこわばるのを感じて、エリオットは優越感を感じる。
今、ディアは、エリオットだけを感じて、エリオットにその身の全てを支配されているのだ。
そう思うと、更にエリオットはディアが愛おしく感じられて、舌を絡めて、ディアの舌を吸い、軽く歯で軽くかんでやる。
初めての割には上手く出来るものだなと思いながら、エリオットはディアの舌をたっぷりと堪能した。
エリオットの与える刺激の一つ一つに、ディアは力なく体を震わせて目の焦点が段々とぼんやりとしてきて、エリオットが口を放す頃には、ここの所の疲労もあって意識が朦朧としており、そのままふらりとエリオットへと倒れこんだ。
「ディア!」
やりすぎたのだろうかと、顔を真っ青にして、エリオットがディアの様子を見ると、すーすーと、穏やかな寝息を立てていた。
その様子に、エリオットは安堵して……そこで、観客が二人ほどいるのを思い出した。
うっかりディアの可愛さにキスをしてしまったが、そういえば人前だった。
エリオットはその恥ずかしさから、おそるおそるカミルとソラを見た。
二人は顔を引きつらせたように笑っていた。
「あ、う、今のは……」
「エリオット、大丈夫。うん。あまりに甘すぎて口から砂糖が噴出するかと思ったけれど、大丈夫」
そうエリオットにカミルが答えると、ソラもとなりで頷いた。
何が大丈夫か分らなかったが、エリオットはとりあえず大丈夫そうなので良かったと、論理のとんだ思考をしてほっとしていた。
けれどエリオットの腕の中には、無防備に目を瞑るディアがいて、その寝顔は何処か幼げで、優しげな雰囲気をかもし出していた。
それが更に愛おしさを感じて、エリオットはディアの額にキスをする。と、そこで気がつくと馬車が止まっており、
「……一人余分に料金を払ってくれ」
そう、背を向けていたために魔族とばれていないディアの分の料金を、荷馬車のおじさんはエリオットに要求したのだった。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。




