「えーっと、ツーっ!」
森の方から一角馬が飛び出してくる。
そしてライガさんの事を見ると、足を止めてこちらをジッと見だした。
一角馬は見た目は青白いけど、普通の馬によく似ていた。
違うのは馬の足元から湯気みたいなものがたっている事と、たまに首から下が半透明になって後ろの景色が透けて見える事。
そして、額から一本鋭く長い角が生えてい事。
一角馬は一度いななくと、何度か足踏みをした。
それに対してライガさんは両腕を軽く広げると、少し腰をおろして構えた。
「お母さんから離れちゃダメよ」
母さんは僕たちにそう言いながら、式紙をいくつか出すと僕たちの周りを囲うようにに浮かべた。
式紙にかかれた式はほんのりと青い光を走らせる。
「法力開放」
僕も続けて法力開放をする。
僕の周りの空気が透きとおるのを感じる。
ざわざわと木々の葉っぱの擦れる音がよく聞こえてきて、それが少し心地よかった。
「あれれ? なんでカイトまで解放してるの?」
姉ちゃんが首を傾げてこっちに目だけをちらっと向ける。
「なんかね、集中できる気がするんだ」
実際に法力開放している間はまわりの音が良くきこえてくるし、良く見えるようにもなる。
「ふーん? あたしはそっちに一生懸命になっちゃうけどなぁ」
「それはソーラが法域を保つのがまだ自然できるようになってきていない証拠ね。カイトの方は順調に東法術が馴染んできているみたいね。えらいわ」
思わぬところで母さんに褒められた。
えへへ、嬉しいな――
おっといけない。気が緩んで崩れちゃうところだった。
集中、集中っと。
「あら? ふふ」
乱れたのが母さんに気付かれたみたい。
笑われてしまった。
「むー。法力はあたしの方が強いのに?」
「力の強さだけが強さじゃないのよ――」
不満げに言う姉ちゃんを母さんがしたためる。
しかし、直後にもう一度一角馬のいななきが聞こえてきたので僕たちはそちらに集中をする。
「来るぞ。カイト良く見ておくといい」
ライガさんが僕にそう言った瞬間、一角馬がライガさんめがけて動き出す。
初めは歩くような感じで。
だけど、すぐに駆けだすとぐんぐんスピードが上がってくる。
一角馬の青い目がギンと光った気がすると、頭を下げて角を突きだしてきた。
ライガさんは動かずジッとしている。
どうして動かないんだろう。
西魔術士なのに珠を出す様子もない。
あのままだとあの長い角で貫かれてしまう。
……僕は嫌な予感がした。
「うおおおおおおおっ!」
一角馬がまじかに迫ってきた時、ライガさんが雄たけびを上げる。
そしてライガさんの方から駆けて行った。
危ないっ!
思わず目を覆いそうになった瞬間。
一角馬の鳴き声と共に地面に何かが叩きつけられる音が聞こえてきた。
少しして土煙りの匂いがしてくる。
「……あれ?」
僕はライガさんの方を向き直すと、ライガさんは構えたままで一角馬だけが地面に不自然に這いつくばるような形になっていた。
一角馬が一瞬だけぴくっと動いた。
「せええいっ!」
ライガさんはそのまま一角馬の角の端を持つと、根元に手刀の形で叩き付ける。
一角馬の角がぽきんと折れた。
一角馬はカッと目を見開くと、そのまま力なくいななきながら角を残して体は消えてしまった。
「……あれ? 一角馬なんで地面に……?」
「カイトってば見てなかったの? ライガさん角を左手でさばきながら一角馬の頭に回し蹴りをして、そのすぐ後にかかと落としをしたんだよ?」
……え?
……西魔術は?
「カイト。参考になっただろうか。あれが一角馬のもっとも効率的な倒し方の一つだ。まぁ、敵が一匹だから出来る事ではあるが――」
「えっと……。あれ? ちょっとやり直してもらっていいですか?」
「なんとっ!」
僕の返事にライガさんが手にしていた一角馬の角をぽろりと落とす。
「いや、だって西魔術……。あ、そっか、僕の勘違いだったんだ。ごめんなさい。ライガさんが格闘家だって思わなくて……」
「いや……、しかしあれが一対一の対一角馬では効率良くてだな。我はちゃんと西魔術だって――」
僕は黙って首を横に振る。
あれを見た後ではとても信じられないよ。
ライガさんには西魔術は必要なかったんだ。
ドライ先生が光線とか言ってたけど、きっとあれはライガさんの光線のようなパンチとかの事だったに違いない。
「なるほどのぅ。カイトは西魔術をみたかったんじゃな。確かに、あんな力任せなのでカイトの参考にするのは無理中の無理無理じゃな。」
「いやしかし翁よ。一角馬は魔術への抵抗が高いので効率が……」
「ライガというやつはは効率効率と。もっとみせるという事を知らん」
「ふむ、なら仕切り直しと言う事で次は――」
「待て待て、次はワシじゃろ? ワシが西魔術のなんたるかをカイトに見せてやろう」
「えーっ!」
ヴォルクス様がむふんっと鼻を鳴らしたところで姉ちゃんの抗議するような声が上がった。
「あたしヴォルクス様の剣を見たいっ!」
「ふぉっふぉ。ワシ人気ものじゃな。よしよし二人のニーズに答えてみせよう」
ヴォルクス様は髭を一度だけ撫でると、白と黒の珠を出して混ぜる。
「光で紡がれし白き紐、我が剣をこの手に引きよせよ」
ヴォルクス様はそう詠唱ると、地面に転がっていた二本の大きめの剣に対して両手から光の紐を当てる。
すると剣が手に引き寄せられるようにひとりでに動くと、するっとヴォルクス様の手に収まった。
「……おや? バスタードソードの二刀?」
ライガさんが首を傾げる。
ヴォルクス様の戦ってる姿は見た事ないけど、≪幻双剣≫っていう二つ名があるくらいだから二刀なんじゃないだろうか。
あれ? でもラークくんは剣が一つだけだったような?
そう考えていると、次の一角馬が出てきた。
今度の一角馬は出て来るなりこちらに向かってきた。
「ほほっ。じゃあいくぞい。ふんっ! ヴォルクスソードっ!」
ヴォルクス様が二本もっていたうちの一本を一角馬に投げる。
剣はものすごい勢いで白い尾を引きながら真っすぐ飛んでいく。
え? 投げちゃうの?
はっ! そう言えば、アンシェちゃんとラークくんのお母さんのセナさんはヤカンを西魔術で飛ばしてたっけ?
「さてはあれがヴォルクス様の西魔術――」
「いや、あれは力いっぱい剣を投げただけだ」
「えっ?」
すかさずライガさんの解説が入る。
じゃああれが幻双剣?
そう思っているところで、ヴォルクス様の真っすぐ投げられた剣は一角馬に難なく避けられると、避けられた剣は地面にさくっと突き刺さった。
「ヴォルクスソード……。えーっと、ツーっ!」
一瞬悩みながらそう叫ぶとヴォルクス様は続けざまにもう一つの剣を一角馬に向かって投げた。
これもまた難なく避けられてる。
一角馬がトップスピードにのってヴォルクス様に向かって一目散に近づいてくる。
……二本とも投げちゃってヴォルクス様どうするの?




