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「なんとっ!」

「この子がもう一人のリックの子のカイトか……。なかなか手厳しい子のようだな」


 大きいひとが何とも渋い顔をしながら頭をわしわし掻いて立ち上がる。


「クックック。それにしても久しぶりだなぁ、まぁ二人とも上がってくれよ」


 父さんはそう言うと二人を家に上げた。

 大丈夫なんだろうか……。僕はとっさに父さんの後ろに隠れながら二人を見つめる。

 緊張で心臓の音がやまない。


「リックさんにしがみついて。かわいい坊やださ。」


 父さんにカリンって呼ばれていた背の高いお姉さんが、僕の前にしゃがみ込んでニコッと笑った。 

 頭のてっぺんに小さな角が一本付いてる。

 たしかこれは、直角(じきつの)族の人だ。


「坊や、飴玉は好き?」


 飴は好き?

 そう聞かれたら僕は首を縦に振る事しか知らない。


「……う、うん」

「じゃあ、これをあげるさね」


 そう言ってお姉さんは僕の手を取って何かを握らせた。

 ……飴玉だっ!


「ありがとうっ!」

「いい笑顔する子さね」


 お姉さんが僕の頭をぐりぐりと撫でまわす。

 ちょっと力が強いけど、いい人そうだ。


「良かったな、カイト」

「うんっ! カリンさんは良いお姉さんだね」

「あっはは。そうさね、アタシはいいおねえさんなのさ。でも、あっちのおじさんは悪者さ」

「なんとっ!」


 カリンさんが大きいひとを指さしてそう言うと、大きい人は目をかっと見開いてこっちを振り向いた。

 その後に腕を組んで何かを考えだした。


「むぅ……、そうか。我も飴玉を持っている。それをやろう。そうすれば――」

「ほんとう?」


 僕は思わず身を乗り出した。

 飴玉をくれるなんて、この人は良い人なのかもしれない。


「あー、ライガさん持ってるのハッカだろ?」

「あ、ハッカは飴玉じゃないです」

「なんとっ!」


 僕はそう断言をすると、手を前に突き出してお断りのポーズをとった。

 あぶない、危うくハッカを食べさせられるところだった。

 あんなスースーするものを食べさせられてはたまらない。

 なんて恐ろしい。やっぱりこの人は悪い人なんだ。

 飴玉をくれるって言っても人を簡単に信用してはいけないんだね。


「飴玉なんだがなぁ……」

「まぁまぁライガさん。子供にゃ辛いさね」


 がっくり肩を落とす大きい人。その人の肩をポンポンと叩いてカリンさんが慰める。


「だな。――まぁ、カイト。そろそろ許してやってくれ。この人はライガさん。俺とパルが昔一緒に

旅をしていた仲間だ。何回か名前は聞いたことあるだろう?」


 ライガさん?

 ……はっ! そうか。


「ライガパンの人だっ!」

「そうだっ、その通りだぞカイトっ!」


 うーん……。でも。


「――やっぱり違うっ!」

「えー?」


 僕は断固として認めません。

 父さんが抗議の声を上げても認めません。


「ライガパンはもっとこう。……おいしそうだったっ!」

「いやカイト。あれはパンだからよ……」


 僕ははっと息を飲んだ。

 そうだ、人がおいしそうっておかしいもの……

 ……あれ? 父さんが隠し持ってた本には女の人を見て男の人がおいしそうとかいってるのがあったっけ?

 いや、たぶんこれは気のせい。


「俺をモデルにしたリックパンなんかも俺のカッコよさが半減してただろ?」

「そういえば……。そうだね」


 それもそうだと納得してうなづいた。

 なるほど。確かにパルさんの手にかかると、父さんもおいしそうになってたもんね。


「だろ? まっ、二人ともそこに座って楽にしてくれよ」

「うむ」

「ふーん。ここがリックさんの家なんさね」


 父さんに促されて二人は椅子に座ると、カリンさんが物珍しげに家をキョロキョロと見回した。


「どうしたの? 何かそんな珍しいものでもある?」


 僕も二人と向かい合うように席に着いてカリンさんに尋ねた。


「めずらしいもめずらしいさね、天井とか蔦とかからんで実とかなってるし。外なんかおっきいタンポポあったし」

「ああ、チョウチンカズラとスイドウタンポポか。確かにあっちにゃねぇもんなぁ」


 そう言いながら父さんが二人に飲み物をコップに入れて渡す。

 アンシェちゃんとラークくんみたいな反応だ。

 父さんの仲間ならライガさんはこの森出身の獣人はずだけど、カリンさんは森の外から初めてきたんだろう。


「それにしても、ライガさん水くせぇじゃねぇか。一言くらい言ってくれたっていいのによ」

「……ふむ? 何がだ?」


 そう聞き返しながらコップに口をつける。


「何がって、今日来たのは結婚したっていう挨拶まわりなんだろ?」

「ぶっ」


 父さんが聞いたとたんにライガさんが吹き出した。


「な、何を言ってるっ! そんなわけないだろうっ」

「え? だって二人で来てるんだろ? ……じゃあ、そう言う事だろう?」


 ほほぅ。そう言う事になっちゃうのか。

 ……どういう事だろう?

 僕にはよくわからなかったけども、ライガさんがものすごく取り乱してるのがわかる。


「ちっ、違うっ! カリンも言ってやれ!」

「ええ、実はそうなんさ」

「なっ!」


 カリンさんが頬に手を当てて恥ずかしげに頭を振る。

 それをみたライガさんが顎が外れんばかりに口を開く。


「やっぱりな。でも、さすがライガさんだぜ。十年前からそうなる気はしていたぜ」


 十年前と言うと、父さんと母さんが結婚する前か。

 ……あれ? ライガさんは父さんより年上なのはいいとして、カリンさんはいくつなんだろう。

 背が高くて美人さんだけど、良く見たら三丁目のお姉さんとそう変わらない歳のような。


「カリンさんっていくつなんですか?」

「ん? アタシは十九さね」

「って事は、十九から十引いてえっと……」

「ああ、アタシは九つの時からライガさん好みに育てられたんさ」

「えっ?」


 九つって言うと、姉ちゃんがもうそろそろ八つになるから。姉ちゃんとあんまり変わらない歳からそういう事に?

 僕はびっくりしてライガさんの顔を見る。


「カリンっ! 我はどんな鬼畜だというのだっ! ち、違うぞっ! 誤解するなカイトっ! 旅をしていたら、冒険者の街って言われているウエルズに寄る事が多い故に会う事は会ってはいたが、我好みに育てるなどと言ったような事は決して――」


 大きい体に似合わず勢いよく早口で説明してくるライガさん。


「あっはは。ライガさんったら必死になってかわいいさね。カイト、今言ったのはアタシの冗談さ。十年前から会ってたのは本当だけど、アタシはちゃんと母ちゃんに育てられたんさ。そんな目でライガさんを見るのはそろそろやめて上げてほしいんださ」


 カリンさんがカラカラっと笑いながらそう言ってきた。

 そっか、冗談だったんだ。

 僕はうんと一度頷いた。


「そういやフウリンさんはどうしてるんだ?」

「ああ、腕の腱をやっちゃってね。握力が前の半分も無くなっちゃったから冒険者は引退だよ」

「そっか。……弓の名手だったのに残念だな」

「今はきままに飲み屋を開いてるんださ。客に酒を飲ましてるのか自分が酒を飲みたいだけなのかどっちかわからない事になってるんだけどね」

「カッカッカ。フウリンさんらしいや」


 昔を思い出すかのように少し目をつぶって笑う。

 その後に片目だけを開けてライガさんを見た。


「しかし、今日は本当にどうしたんだ? 旅の途中に寄ったのか? ライガさんが俺に会いに来るためだけに来るってのもなんだろうし。それはそれで嬉しいんだけどな?」

「……まぁな。だが、今回ここに寄ったのは一応の挨拶をしようと思ってな」

「ほぉ? 改めてだな? 結婚の報告の挨拶以外をきくとは思わなかったぜ? 一体どういうこった?」

「なに。そろそろ獣人最強の称号を引き継がせてもらおうと思ってな」

「……マジか」


 ライガさんの発言に父さんも少し緊張したように目を見開いた。


「って事は」

「うむ。ヴォルクス翁にはここらで引退してもらおうかと思う」


 大きい人――ライガさんは不敵な笑みを零しながら父さんにそう言ったのだった。

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