「えっ? そうなの? てっきりこっちのはそういうもんだと」
改めて西魔術を使おうと、アズサちゃんに回していた腕を離す。アズサちゃんは何かに気がついたように僕から少し離れて顔を向かい合わせる。
「そう言えば一瞬目を開いたときにお父様やリック叔父様たちの様子が見えましたの」
「どうだった?」
「まだ家に居てるみたいでしたけど、ずいぶんな重装備の準備をしていましたの」
「じゃあもうすぐ来てくれるんだね」
僕の声には自然と期待がこもった。
この悪天候では足の速い父さんもあっというまにここまで来るって事は難しいかもしれない。でも父さんはプロの冒険者だ。準備をしているってことはきっとここに来てくれるはず。
だけどアズサちゃんが少し眉をひそめて首をかしげる。
「それもすぐ私たちが見つかればですの……」
神妙な顔つきをしながら言う。
確かに、この吹雪の中で僕たちを探すのはすごく難しいだろう。鼻が異常に良い父さんでも、天気が悪いとあまりうまく働かないらしい。
けど、そこは母さんが居る。千里眼を使って見つけてくれていると思んだけど。
「え? えっと、母さんも千里眼だよ? アズサちゃん知らなかったかな?」
「いいえ。その事についてですの。私も実際使ってわかったのですけど、この目はその見たいものと、そのある程度の周りの風景と、そのあるもののある程度の方向がわかるんですの」
「ふんふん」
それはすごいんじゃないでしょうか。
真剣にそう思った。
でもそれだけわかって何が足りないんだろう。
「つまり、そのものは私たちとして、私たちの周りは吹雪で覆われてますの。吹雪の中に居る私たちは千里眼をもってしても視界が悪いですの」
「そうなんだ」
「まあ、さっきも言った通りある程度の方向はわかりますの。天気もすぐによくなるかもしれませんの」
「……そうだね」
話終わるとアズサちゃんがまた抱き付いてくる。
僕は頭をポンと軽く撫でてあげると尻尾をフリフリと振りだした。
思ったよりはうまくはいかないようだ。
アズサちゃんに気付かれないようにため息を吐いた。
外の吹雪はやむ気配どころか勢いを増している気さえする。
その強さはカマクラの入り口にふわふわ浮かぶ雪だるまを作るほどだった。
――また冷えてきたかな。
視線を戻して、温まろうと珠を出す。
「火四――」
「こらこら人の子よ。なんぞ不思議に思う事は無いですじゃ?」
「誰ですのっ?」
アズサちゃんがバッと振り向きながら僕から飛び退いた。
「へー、すごいな。こっちって雪だるまも話せるんだね」
「な、なにのんきなこと言ってますのっ! そんな事ありえませんの」
「えっ? そうなの? てっきりこっちのはそういうもんだと」
「くふふ」
アズサちゃんが慌てながら僕に怒鳴る。
背丈が僕の半分くらいの浮かぶ雪だるまは楽しげに笑う。
どうしたって言うんだろう。
「じゃ、この子なんなの?」
「私にもわかりませんけど、恐らくは魔物の類いですの」
身構えるアズサちゃん。
魔物? って雪だるまの魔物って事? ヒーとかホーとか言ってないのにっ?
……なんの事かわからないけど。
「ぶっぶーっ! はーずれですじゃっ」
雪だるまは陽気な声でそう言うと、くるくる回転し出す。
「なに? 何をするんですの?」
怯えたような声。雪だるまの回転が勢いを増す。
そして勢いが最高潮に達した時に雪だるまが弾けた。
「きゃあ」
粉のような雪のつぶてがいくらかこっちに飛んできてアズサちゃんが悲鳴をあげる。
自爆?
そう思いながら目を細めて目をそらさずにそこを見る。
中に緑色のなにかが居る?。
「じゃん。正解はわし、樹よ――うわっぷ」
なにか言い出した瞬間に吹雪にあおられる。
そこにはまた雪だるまが居た。
空中でうなだれる雪だるま。器用だなと思うも、なんとなく雪だるまには哀愁が漂っていた。
「じゅようわっぷ? それは信用なりませんのっ!」
「……アズサちゃん、何を言ってるの?」
うわっぷは違うよね。
だけど、アズサちゃんは気にもとめずになおも警戒をする。
うーん、悪そうな人じゃなさそうなんだけど。
「あの雪だるまさん。魔物じゃないんですよね?」
「あっ。……なんかすまんですじゃ。わし樹妖精なんですじゃけど、見ての通り雪に降られると雪だるまになってしまうんですじゃ。寒くてかなわんから、わしらも中にいれて欲しいんですじゃけど……?」
申し訳なさそうに話す雪だるまさん。なるほど一瞬緑色が見えたのは樹妖精だからか。よく見ると背中にはシイ様やエリンちゃんみたいな樹妖精の羽が飛び出ている。間違いないだろう。
広いとは言えないカマクラだけど、僕より全然小さい樹妖精ならなかに入れてあげても良いんじゃないかな。
「そうなんだ。雪だるまになっちゃうなんてちょっと不便そうですね。ねぇ、アズサちゃん。入れてあげようよ」
「カイト、騙されては行けませんのっ! マッシュ様以外に樹妖精は見たことないですのっ! だから居るはずないですのっ! 」
その理屈でいくとアズサちゃんが見てないウルブ村は無くなっちゃうんだけど。
……ああ、そっか。びっくりして混乱しているんだ。
「落ち着いてっ! 樹妖精はウルブ村の近くにも住んでるんだよ。喜樹にシイ様とエリンちゃんが住んでるんだから」
「え? ……ああ。確かにそうでないとキュービ村以外で東紙もらえませんですの。これはうっかりですの。じゃあ別に入ってもらって結構ですの」
アズサちゃんが自分で頭をコツンと軽く叩く。
よかった、落ち着いてくれたみたい。
僕は雪だるまさんの方に振り向きながらどうぞと手招きをする。
だけど、今度は雪だるまさんが考え込んでいるようなそぶりを見せる。
「樹妖精のマッシュ……。はて?」
「えっと、入らないの?」
「おお、入るですじゃ。ありがたい、さすがシイ殿のお墨付きを受けた子ですじゃ。辿ってきて正解ですじゃ」
雪だるまさんがうんうんと頷く。
シイ様の事知ってるんだね。シイ様は顔が広いなぁ。
それにしても辿るって何をだろう? 匂い? 僕そんなに臭いんだろうか。
そう思いながら自分の服をクンクンと嗅いでみる。
……うーんとね。わかんないっ!
「おーい、みんな入ってもええって言ってくれてますですじゃ」
カマクラの外に向いて叫ぶ雪だるまさん。
「え? いっぱいいるのっ?」
「大丈夫ですじゃ。嵩張らん連中ですじゃ」
嵩張らないと言っても限度があるんじゃないだろうか。いくらちっちゃな樹妖精でも三人も四人も入れそうにはない。
かといって見捨てる事は出来ないし……
頭をひねっているうちに、ふわふわ真ん丸の雪玉みたいなのが三体来る。
雪玉はエリンちゃんよりもずいぶん小さい。僕の手のひらより少し大きいくらいだ。樹妖精の子供のエリンちゃんでももっと大きいのに……。
ご飯食べてないんだろうか?
じーっと見ると雪玉は恥ずかしそうにもじもじしだす。
確かにかさばらないけど……。ほんとに樹妖精?
「よいっしょっ! ふぅ……」
雪だるまさんの雪が弾けると中からちゃんとこげ茶色の瞳に、短めの緑色の髪の樹妖精が出てくる。エリンちゃんよりも少し大きくて歳は十歳になるかならないかくらいの人に見える。
「わしは樹妖精のマンネですじゃ。中に入れてくれてありがとうですじゃ」
マンネさんに丁寧にお辞儀をされる。僕も反射的にお辞儀をし返した。
「僕は青狼族のカイトです。このカマクラを作ったのはほとんどアズサちゃんの東法術のおかげだけどね」
「ほー、その年でこれを作るほどのを? すごいもんですじゃ」
「すごいんですよっ。ねっ、アズサちゃん。……アズサちゃん?」
答えないアズサちゃんを見ると、アズサちゃんはぽかーんとしていた。
「……マッシュ様に似てますの」
「そりゃ、樹妖精で男の子だから似てるんじゃない? でもほら、名乗ってくれてるんだから返さないとマンネさん……えっと、マンネ様? に失礼だよ」
「ああ、いいですじゃいいですじゃ。わしまだ人の言葉には不自由ですじゃけど、わしも樹妖精では子供のほうですじゃ。そんな様なんてつけなくてもいいですじゃ。なんなら親しみをこめてセンパイでも結構ですじゃ。むしろそっちのほうが――」
親指で自分を指さしてなんだかとても良い顔をするマンネさん。
「えっと、じゃあマンネさんで」
「がっくしですじゃ」
露骨に肩を落とすマンネさん。
センパイって響きに何か思うところがあったんだろうか。僕にはよくわからない。
「まぁ、そっちの子はアズサって言うんですじゃな」
「あっ、白狐族のアズサですの」
「しばらく世話になりますですじゃ。ふむ、さっきの警戒しとった時もそうですじゃけど、アズサはなかなか整った顔立ちですじゃ」
「まぁっ、見る目がありますのっ」
しげしげとアズサちゃんを眺め出すマンネさん。
「うんうん、将来イケメンになりそうな面構えですじゃな。いよっ、この女泣かせっ」
「私は女ですのっ!」
「へぶっ!」
アズサちゃんに横殴りにはたかれてカマクラの外まではじき出されるマンネさん。
フワフワ浮かぶ雪玉たちがおろおろと外を見る。
「まったく、失礼しちゃうですのっ! 私ほどの美女を捕まえて男と間違えるなんてっ! カイトっ! 塩でも撒いて下さいですの」
「塩なんてないよ……」
髪の毛が短くなっちゃったから間違えられちゃったのかな?
それより大丈夫だろうか。僕は心配していると、マンネさんが雪だるまになって帰ってきた。
「ほ、ほんの樹妖精の冗談ですじゃ。整った顔って言うのは本当ですじゃから勘弁してくれですじゃ」
「言ってもいいものと悪いものがありますのっ! マッシュ様ならこんなデリカシーのない事言いませんのっ!」
「……そのマッシュって言うのほんとに樹妖精なんじゃろうか」
目をつむって腕を組むと、プンプンと怒るアズサちゃん。
確かに、少ししかあって無いけどマッシュ様はあんまり冗談とか言うようなタイプでもなさそうだった。
それはそれとして。
「ねぇ、僕はどうですか? かっこいいイケメンになりそうですか?」
「なるなる――あ、そうそう。こっちの紹介がまだでしたですじゃ」
マンネさんは雪玉たちの方に顔を向ける。
あれあれ? 今、適当に流された?
「って、そなたらなぜに雪玉のままなんですじゃ?」
三者……ならぬ三玉三様に体全体を左右横に振る。
わかりにくいけど嫌がっているようだ。
「なに、じーっと見られたら恥ずかしいって? せっかく雪よけの宿に入れてもうたのにそれじゃ意味ないですじゃ。ほらほら」
マンネさんはそう言うと雪玉達の雪を払い落しだした。
まず右に居る雪玉の雪がおとされる。中から出てきたのは赤くて真ん丸の体に狐の尻尾にも見える炎の尾を持つ火の精霊だった。
「わぁっ、火の精霊っ! 暖かくなったっ」
カマクラの中が少しあったかくなった気がする。
次に真ん中に居た雪玉の雪がおとされる。中には白いまん丸の体に一直線に伸びた螺旋の角を額から生やす光の精霊。ちょっときつめの凛々しい目が印象的だ。
「光の精霊ですのっ! 明るくなりましたのっ」
光の精霊から放たれる仄かな光がカマクラの中の闇を押しのける。
最後に残った雪玉の雪がおとされる。最後は黄色いまん丸の体に楕円形の鼻見たいなのを付けた土の精霊だった。
「土の精霊だっ! えーっと」
……特には何も起こらなかった。
「雪玉たちは精霊たちだったんですね」
「くふふ、カイト。今がっかりしたみたいですじゃの?」
「してないっ! してないよっ!」
「おやおや、図星だったようですじゃ。どうですじゃの? 土の精霊殿よ」
土の精霊が不満げにほっぺを少し膨らませる。
精霊怒らせちゃったっ! どうしようっ!
どう弁明しようかと慌てていると、土の精霊が鼻をきゅっと少し上に向ける。
「うわわっ!」
足元に異変を感じて少し避ける。アズサちゃんも同じみたいだ。
少しずつカマクラの中の地面の一部が少し盛り上がる。そして僕たちの膝くらいまで来ると盛り上がりは止まった。
な、なにこれ? 僕は土の精霊を恐る恐る覗く。
土の精霊は満足げな顔でドヤッとでも言いたげな表情をする。
えっと、どうすればいいの?
「なになに、椅子を作ってやったんですじゃって?」
「まぁっ! そうなのですのっ!」
「土の精霊もすごいねっ」
僕とアズサちゃんは土の椅子に座ってみる。確かに高さもちょうどいいし、土で造ったはずなのに座ると少し沈んで柔らかい。確かにこれはすごいものだ。
でも……
「ちょっと、ここでは狭いかもですの」
「……そうだね」
ただでさえあまり広くないカマクラだ。それに今は人数も増えている。普通精霊は触る事が出来ないから、重なるように居てても問題ないんだけど、そこに居るってわかってたらそれもどうかと思うし……
そう思っていると、土の精霊はがっかりしたように鼻の先を下に下げる。
土で出来た椅子はズズズっと元に戻っていった。
「す、すごかったよ。がっかりしないでっ」
僕は触れないのはわかっているけど、土の精霊を撫で撫でしてみる。
「でも、こんな力があったら自分で雪避けくらい作れそうなものですのに……」
アズサちゃんが首をひねる。確かにそれもそうだ、土をこのカマクラみたいにするとか崖に横穴を掘るとかできそうだ。
「この吹雪じゃ、ここの精霊たちは力が出せんですじゃ。あれで喜ぶのは水と風と闇の精霊らはあの通り大喜びなんですじゃけどな」
マンネさんがカマクラの外を指さす。僕たちは外を目を凝らしてよく見てみる。
風の強さで斜めと言うより横向きに飛んでいく雪。それに紛れて水の精霊と緑の丸い体に羽の付いた風の精霊が、ダンスを踊るようにすごいスピードで飛んでいくのがいくらか見る事が出来た。
黒い闇の精霊は暗い外ではちょっと見えなかった。たぶん同じようにいるんだろう。
「なるほどですの……」
「火には寒いし、光には暗すぎるし、土は雪に埋もれてるからだね」
精霊達はうんうんと頷く。
精霊の声を聞く事は出来ないけど、たぶんそうだそうだって言ってるんだろう。
あれ? でも前に一回聞く事が出来たような……? あれはなんで――
グゥゥゥゥ
「はうっ!」
アズサちゃんがお腹を押さえる。
「くふふ、美女のお腹が鳴ったようですじゃ」
「う、うるさいですのっ! 今のはカイトのおならですのっ」
「やめてよっ! してないよっ! てか、なするならせめてお腹が鳴ったのをそのままなすってよっ!」
「ぶほっ! アハハハハ」
アズサちゃんが顔を真っ赤にして言い訳をする。僕のほっぺも熱くなる。
はー、もう。恥ずかしいのはこっちだよね。
僕は顔を手で仰いで熱を冷ましていると、マンネさんは吹き出して空中で笑い転げていた。
「ひー、ひー。カイトのおならは変な音ですじゃ」
「違うよっ!」
「くふっ、わかっとるですじゃ。お詫びにその音を止めるいい物をあげるですじゃ。二人とも手を出すのですじゃ」
言われるままに手を出す。
マンネさんは両手を腰の後ろにやって何かごそごそする。すると、どんどんと細長い形の木の実を乗せてきた。
「ドングリですの?」
「んー、まぁその中の椎の実ってやつですじゃ。さらに言うと妖精の祝福付きですじゃから旨さはお墨付きですじゃ」
「わあ、すごいですのっ! ありがとうですのっ。食べてもよろしいんですの?」
「まぁ、待て待てですじゃ」
アズサちゃんがものすごく顔を輝かせながらマンネさんを見る。尻尾はぐるぐると激しく振られている。でも、待てを受けた瞬間に尻尾と顔がしゅんとしなだれる。
この状況でお預けってマンネさん、意地悪すぎる。
僕も口の中がよだれでいっぱいになるのをこぼれないように我慢する。
「そのままでもいけますじゃけど、人の子的には火を通した方がいいと思いますですじゃ」
「でも、火なんて……」
「そのための火の精霊ですじゃな。雪よけの宿の恩返しにこれくらいはさせてもらえるそうですじゃ」
火の精霊はうんと頷くと、僕の前にふわふわ飛んでくるとゆらゆら揺れる。炎の尻尾から火の子が手の上の椎の実に落ちる。
うわっ! 熱いってほどじゃないけど、ほかほかになった。
アズサちゃんの方にも同じようにしてくれる。
「うわー、温かいですのっ! もう食べてもいいですの?」
「まだ、ダーメですじゃ。くふふ」
「あーうー」
たまりかねたような声をアズサちゃんが漏らす。
この状況でまだお預けなんて……。
ほんのりホカホカ湯気の立つ香りが鼻にかかる。
た……、たまらないぃっ!
「さらにここでもうひと手間ですじゃ。土の精霊が汚名挽回する番ですじゃ」
土の精霊が顔を横に振る。大きな鼻が大きく横に動く。
うん、確かにそれは違うよね。
「あ、名誉挽回ですじゃね。じゃ、お願いしますですじゃ」
うんと一度だけ頷く土の精霊。
今度は土の精霊が匂いを嗅ぐように実の上に鼻を寄せると、スンスンと鼻を動かす。
気のせいか手のひらの実が土の精霊が鼻を動かすたびに煌めき出す。
あれ? 土の精霊なのに光らせてるの?
そう思ってみるも、それも違うようで。よく見ると光を反射させるような粒が椎の実に付いているようだった。
「え? なにこれ、なにこれ?」
「くふふ、さあ。召し上がってみてのお楽しみですじゃ。どうぞですじゃ」
「「いただきますっ!」」
僕とアズサちゃんが同時に一粒口の中に入れる。
目をまん丸にするアズサちゃん。
「おいしいーですのっ!」
「すごいねっ。おいしいねっ! なんだか塩味も聞いてるし。……え? 塩?」
なんで普通の木の実に塩味が効いてるんだろう?
そう首を傾げてると、土の精霊がむんっと鼻を上にあげて高くする。
なるほど。土の精霊がおかげなんだね。
「くふふ。満足してくれてなによりですじゃ」
「うん、大満足だよっ! ありがとうっ!」
こんな時に食べ物があるだけでありがたいのに、こんなにおいしいのが出てくるなんて。あの丸薬をずっと口にしてたから余計においしくて涙が出そうだ。
「はひはほうへふほ(ありがとうですの)」
アズサちゃんはほっぺが膨らむほどに頬張りながらお礼を言う。頬張りすぎだよって思うけど無理もないよね。
マンネさんもそんなアズサちゃんを見て満足そうに笑った。
「……あっ。アチャー」
マンネさんは何かに気が付いたように片目をつぶると、おでこに手を当てた。
「どうしたの?」
「いや、カイト用の最後の仕上げを忘れとったですじゃ」
「え? 僕用って?」
聞き返すとマンネさんは一粒椎の実を取り出す。
「なに、カイトの尻からの音らしいからこれを詰めんと――」
「お下品っ! 食べてる時にやめてよっ!」
「ぶふっ! んーっ! んーっ!」
アズサちゃんが、吹き出しそうなのを必死に手で押さえる。肩が震えてるから笑ってみるみたいだ。
「アハハハハハ。確かにですじゃ」
マンネさんはふわふわ浮かぶとお腹を抱えて笑いだした。火の精霊と土の精霊も一緒にふわふわ踊っていた。
まったくまったくっ! 食べてる時は勘弁してほしいよねっ!
そう思いながらも椎の実のおいしさには逆らえず、黙々と食べる僕。
光の精霊だけは目をつぶってジッとしていたのだった。




