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「はうう。ご無体なぁぁ」


 夕御飯を食べた後、僕と姉ちゃんとアズサちゃんは居間とは別の部屋でお風呂を待っている間に話をする。日はとうに落ちているけど、天井では提灯蔓の実が優しく灯り、十分な光を与えてくれる。


「今日のソーラお姉様の食べっぷり。(あたし)、感激したですの」

「へっへー。任せてよっ!」


 って言っても、アズサちゃんは姉ちゃんにべったりしたまま。僕はなんとなくかやの外。

 それにしてもアズサちゃんの言葉にドンと胸を張る姉ちゃん。いったい何を任せろと言うんだろう。任せて無くなるのは僕のおかずくらいだなと、僕は言葉には出さずに苦笑いをする。


「あ、カイト。今、あたしに対して失礼な事考えてなかった?」


 突然姉ちゃんの目が僕の方に向く。

 僕はビクッと一瞬身を震わせて背筋を伸ばした。


「うえっ? か、考えてないよっ?」


 上ずる僕の声。危険を知らせるアラートが胸の高鳴りとなって僕に知らせる。


「ふーん……。まっ、良いけどね。でね、アズサちゃん――」


 首をちょこっと傾けたものの、視線をアズサちゃんに戻しておしゃべりをしだす。

 ……なんて無駄にするどいんだろう。

 僕は聞こえないように息をはいて、板の床に片手をついて胸を撫で下ろした。


「あれ?」


 僕は思うより先に口が出る。

 床についた手が暖かいことに気がついた。

 この季節の板の間ってすごく冷たいはず。

 姉ちゃんの狐耳がぴくっと反応すると、顔をこちらに向ける。


「どうしたの? カイト」

「姉ちゃん。今気付いたけど、この床ってなんだか暖かいね?」


 姉ちゃんはふむふむと改めて片手で床を触る。声には出さないけど気づいたみたいで、今度は両手でペタペタさわり出した。

 今まで座布団の上に座ってたりで床をあんまり直接触ることもなかったから気づかなかったなぁ。

 そういえば、床が暖かいせいか暖房器具はないのに部屋が十分暖かい。

 僕は床に直接転がってみる。

 ほんのりポカポカして悪くない。でも、ちょっと固いかな。

 そう思ってゴロゴロとしながら、天井で光る提灯蔓を見ているところに、アズサちゃんが僕の顔を覗き混む。


「これはトコナッツのおかげですの」


 アズサちゃんが得意気に説明してくれる。


「トコナッツ? ココナッツじゃなくて?」


 僕は寝転びながら聞き間違いかなと首をかしげる。でも、ココナッツだとしても床があったかくなるのはおかしいけども。


「カイトは知りませんの? トコナッツを。……まったく、しょうがありませんの」


 あきれるようにアズサちゃんがため息をつくとトテトテと部屋の外に行く。

 ……どうしたんだろう。トイレかな?

 そう思っていたらアズサちゃんが帰ってきた。

 アズサちゃんの方を見ると、リンゴより少し大きいサイズのこげ茶色の木の実を手に持っている。


「これがトコナッツですの」


 寝転がる僕の方にトコナッツをつき出すように見せるアズサちゃん。

 小さめのココナッツにしか見えないけどなぁ?

 僕は寝転びながら首をかしげる。姉ちゃんがなぜかクスクスと笑いだした。


「アズサってばカイトとちゃんと仲良くなったんだ。カイトに教えるために持ってきたりして」

「えっ! 違いますのっ! これは……、えっと……」


 なんだか慌て出すアズサちゃん。

 別にそんなに否定しなくてもいいんじゃない?

 僕は不思議に思いながら僕は再び仰向けになる。

 アズサちゃんがトコナッツを抱えたまま僕の方に来る。


「アズサちゃん?」

「これは……これはっ――!」


 僕の上でトコナッツを両手にもって振りかぶるアズサちゃん。


「ちょっ、ちょっとそれどうするつもりなのっ? ねぇっ、まずは冷静に話し合おうよ」

「えいっ!」

「ぎゃー」


 僕のお腹の上にトコナッツを勢いよく落とされる。


「こ、こうやってぶつけてやるためでしたのっ!」

「ひっ、ひどいっ……」

「ちょっとカイト。大丈夫? もう、アズサったら」


 アズサちゃんは座るとフンッとそっぽを向いた。

 代わりに姉ちゃんが僕の方へ来る。

 まぁ、正直姉ちゃんの攻撃に比べたら優しい方だったりする。言わないけど。それに、トコナッツわりと柔らかいし……

 え? 柔らかい?

 お腹の上に乗っかったトコナッツを両手で抱える。なんだかプニプニと弾力のある不思議な実だ。それにとても暖かい。


「大丈夫だよ、姉ちゃん。それにこれこんなに柔らかいし、ポカポカする」

「えっ? ほんと?」


 姉ちゃんが指先でトコナッツをツンツンつっつく。

 ぷにぷにとした感触を確かめると、おーっと感心するような声が姉ちゃんから漏れた。


「これ不思議な実だねぇ?」

「トコナッツはナツの木の中でもトコナツと言う種類から採れる実ですの。トコナッツから採れる油から蝋を作ってそれを床板に塗る事で冬でも暖かく過ごせるんですの」

「すごい実なんだねぇ」


 僕の漏らした感想にアズサちゃんは一瞬だけ僕を顔を見ると、またプイッとそっぽを向いたまま話し出す。

 へーっと僕はアズサちゃんの言葉に頷きながら身を起こす。

 姉ちゃんはぎゅっと目をつぶって頬を綻ばした。そしてアズサちゃんの方に駆け寄る。


「アズサぁっ!」

「みゃっ! みゃあっ!」


 姉ちゃんが後ろからアズサちゃんに抱きつく。アズサちゃんはビックリしたのか妙な悲鳴を上げた。 


「もうっ! アズサったらかわいすぎなんだからっ!」

「は、はわわ。ソーラお姉さまっ?」

「カイトにトコナッツをぶつけて照れ隠しとかもうっ! これが、ツンなんとかなのねっ! カイトにそんな態度を取ったりするけど。トコナッツを持ってきてあげたりちゃんと説明したりするんだからっ」

「誤解ですのっ! わ、わたくしは別にツンデレなんかとはっ! ……わ、――あたしがデレるのはソーラお姉さまだけですのっ」


 姉ちゃんの腕の中でわたわたと焦るアズサちゃん。

 おそらく姉ちゃんは良くわかって無いからツンなんとかって濁したけど、ツンとかデレとかアズサちゃんは良く知ってるんだなぁと、僕は口を真一文字にして感嘆した。


「誤魔化したりなんかして。んっふっふ。そんな所もかわいいんだからっ」

「べ、別にごまかしてなんかぁ――。きゃっ、きゃあっ! ソーラお姉さま何をなさいますの」

「んふふ。アズサの照れたかわいい顔をあたしに見せてごらん」

「はうう。ご無体なぁぁ」


 顔を真っ赤にして両手で顔を塞ぐアズサちゃん。姉ちゃんは後ろから抱きつきながら顔を塞ぐアズサちゃんの手をとろうとする。

 頑なに塞いだ手を動かさないアズサちゃん。痺れを切らした姉ちゃんはついに禁じ手に出る。


「あたしに逆らう素直じゃない子はこうだっ!」

「ふえ? あ――。あはははははっ! ダーメーっ! ソーラお姉さまぁっ!」

「こちょこちょこちょお」


 楽しそうに尻尾を横に振りながら、くすぐり攻撃に出だす姉ちゃん。これにたまらず笑いだすアズサちゃん。もう、手で顔を隠そうとせずにくすぐり攻撃を防ごうと必死に姉ちゃんの手を掴む。しかし、それで姉ちゃんがびくともするはずもなく。姉ちゃんはアズサちゃんの身体にしっかり抱きついたまま床へ倒れ込むと、足でアズサちゃんの腰をしっかり蟹ばさみしてくすぐり攻撃を続ける。

 ああなったら地獄だ。姉ちゃんのあの攻撃から抜ける事のできる人は僕は今まで見た事がない。誰もが等しく姉ちゃんが早く飽きるのを祈るしかないんだ。

 僕は姉ちゃんに抑え込まれてくすぐられ続けるアズサちゃんに両手を合わせると、ナムナムとお祈りの言葉を唱えた。



 ◇◆◇



「ぜひー……、ぜひー……」


 しばらくして姉ちゃんから解放されたアズサちゃん。涙目で大の字になって天井を向くと、大きく息を荒らす。胸だけが大きく上下するけど、時折くすぐりの揺り返しが来るのかピクンと体が動く。


「あははは。あー、楽しかった」


 そのそばでご満悦な表情でアズサちゃんのそばに座る姉ちゃん。


「あれ? カイト。式紙見てどうしたの?」

「うん。ちょっとね」


 僕はと言うと、姉ちゃんとアズサちゃんの攻防の中には混ざれそうになかったから母さんからもらった式紙を見ていた。

 この式紙はあのカカロの攻撃を受けたものだ。

 すっかり忘れてたんだけど、この式紙はあの攻撃で結界が割れなかったから、あの後勝手にお守り袋の中に戻っていたらしい。

 賢いなぁって思うけどもね。


「でもこれ、あの時破れなかったけど。……大丈夫なのかなぁ?」


 呟きながら僕は首をかしげる。

 一度攻撃を受けた式紙が、また同じ攻撃を受けた時はちゃんと守ってくれるんだろうか。それともダメージを受けた分、今度は結界が薄くなるんだろうか。

 何か見た目で分かるところがあるのかなとも思って眺めてみるも、特に何ら変わったところがあるようにも見えないかった。

 母さんからは、危ない事があった時に守ってくれるから持ってなさいとしか言われていない。

 はてさて――。


「……カイト。お守りの結界出るような危ない事したの?」

「ねっ、姉ちゃん……」


 姉ちゃんがただならぬ雰囲気と共に、少し低い声で僕に声をかける。

 ヤバイ。なんかよくわからないけどすっごくヤバイ気がする。


「あ、危ない事なんかしてないよ。ちょっと塀の上に登ってる時に、雪に滑って転げ落ちて頭から落ちそうになった時に結界がね」


 僕はとっさに誤魔化してしまう。

 酔っ払いの冒険者の前に飛び出したって知られたらすっごく怒られるかもしれないって言うのが、なぜか直感的に僕は感じたからだ。


「十分危ない事でしょうがっ!」

「わひぃっ! ごめんなさいっ!」


 姉ちゃんがガーっと僕を頭から齧り付きそうなほどの勢いで怒る。体を縮めて身をすくませる僕。

 確かに嘘とは言え自分でも言ってて、すごく危ないと思った。姉ちゃんを怒らせるのも仕方がないのかも。

 姉ちゃんは大きく息を吐いた。


「ふー。もう、危ない事しちゃだめよ? カイトはどんくさいんだから」

「ど、どんくさいは余計だよう」


 そう言うものの、姉ちゃんなら塀から滑って落ちてもくるっと翻って何事もなく着地しそうだなっと思った。


「へぇ……、これが喜樹の東紙を使った……」

「あ。アズサちゃん」


 いつの間にか復活したアズサちゃんが四つん這いでこっちまでくると、ちょこんと僕の目の前に座って式紙をしげしげと眺めた後に、目を閉じて手を翳す。


「まぁでも、確かに法力が消耗されてるから、このままじゃこの式紙の力は少しばかり目減りしてますの」

「そうなの? って言うかそんな事よくわかるね」


 僕は目を丸くしてアズサちゃんに尋ねる。


「あら? 法力開放してその式紙に手をかざしてみたらわかるんですの」


 アズサちゃんいつの間にか法力開放してたのか。言われてみればアズサちゃんの周りに展開されている法域に気付く。姉ちゃんみたいに風が吹き出る感じはないけども、たまにポコッ、ポコッと水から出た泡が割れるようなものが見える。

 法域は僕よりいくらか大きい気がするけど、尻尾はまだ増えないみたいだった。


「へぇ、そうなんだ。……えっと、どうしたらいいの?」

「理屈は簡単ですの。減った分の法力を込めれば良いだけですの。カイト以外がね」

「……え? なんで僕はダメなの?」


 アズサちゃんの片眉だけがちょびっとあがる。

 一瞬こんな事もわからないんですの? とか言われちゃうのかと思ったら、アズサちゃんは指を立てて説明しだした。


「この式紙の式の起源は、もともと祈る人から遠くに赴く祈られる人に対して、無事でありますようにって言う願いを込めたものだからですの。つまり、私に代わってこの人をお守りくださいね言う式だから、法力を込めた術者自身が持ってたら意味がないんですの」


 僕も姉ちゃんもへーっと頷く。

 確かに、僕の代わりに僕を守ってって言ってもなんともおかしいと思う。


「じゃあ、やっぱり母さんに言った方がいいのかな?」

「……別に(あたし)も出来ますの」

「ほんとっ?」

「……仕方ないですの。カイトがどうしてもって言うから仕方なくしてあげますの」


 アズサちゃんは口を尖らせて僕から顔を少し背けながら言う。

 僕は別にどうしてもなんて言ってないけどなぁって思ったけれど、アズサちゃんの白いフカフカ尻尾が左右に触れているのが僕の目に留まった。


「じゃあ、お願い。アズサちゃん」

「カイト、何を笑ってますの……」

「おっと」


 僕はとっさに口を押さえる。

 アズサちゃんの表情と尻尾の動きが一致していないことに、つい可笑しくなって笑っていたみたいだ。


「まっ、いいですの。じゃあその式紙をここに置いてですの」


 アズサちゃんは正座する自分の少し前の床を指差す。

 僕はうんと頷いて式紙を床にそっと置く。

 アズサちゃんは式紙に両手をかざす。


「役目を負いしきのとよ。きのえの声に応じよ」


 式紙に書かれた式がポウとほんの少し緩く白く光る。

 そしてほんの少し式紙が浮かびあがり、正座するアズサちゃんの膝のあたりまで浮かぶ。


きのえきのとに与える。きのえの法力を纏い、役目を果たす糧とせよ」


 アズサちゃんの法力がわずかに乱れる。それは小さい渦を作り出す。渦の中心はグルグルと回転をさせるほどに、渦の中央から根を伸ばす。伸ばした根が式紙に到達すると、渦は加速的に大きくなり、式紙へとアズサちゃんの法力が流れ込む。


「あっ……」


 アズサちゃんが声を漏らした。その途端に渦が消え、式紙は光を失いはらりと床に着地した。

 アズサちゃんの法域が消える。僕は直感的にそう感じた。


「法力切れ? わたくしの法力だけじゃ足りなかった? さすがは喜樹の式紙ですの。容量を見誤るなんて……」

「えっと、アズサだけじゃ足りなかったって事? じゃあ、あたしがやったら満タンになる?」

「ええ、もう一息で満タンになるとは思いますの」

「よっし。じゃあ、あたしもやってみる。法力開放っ!」


 姉ちゃんはぺろっと一回舌を出してから印を組むと、手早く法力開放をする。

 姉ちゃんの青と白が反転する。姉ちゃんの足元から風のように巻き上がるような法力は、姉ちゃんの白くなった長い髪をわずかにたなびかせる。


「ソーラお姉さまが白に……。ステキ……」


 変身したとも言える姉ちゃんの姿に、見惚れるアズサちゃん。

 姉ちゃんはそんなアズサちゃんに特に反応するでもなくマイペースに床で寝そべる式紙に手を翳す。


「んーと……」


 姉ちゃんがそのまま止まって小さく唸る。たぶんどうすればいいか姉ちゃんはド忘れしちゃったんだろう。


「役目を負いしきのとよ。きのえの声に応じよ。だよ、姉ちゃん」

「もうっ! カイト、わかってるわよっ! タイミングを計ってただけなんだからっ。役目を負いしきのとよ。きのえの声に応じよ」


 やっぱり図星だったんだろうか、少し頬を赤くする姉ちゃん。その姉ちゃんが式紙に問うと、式紙はさっきと同じように式を仄かに光らせて浮かび上がる。


きのえきのとに与える。きのえの法力を纏い、役目を果たす糧とせよっ! ……あれ?」


 アズサちゃんと同じように言葉を紡ぐ。だけど、姉ちゃんの法力が動いたようには感じなかった。


「アズサ。どうしたらいいの?」

「……普通の式紙を使うように法力を注ぎ込めばいいですの。……ああ、絹のようなソーラお姉さまの髪なんて素敵なんですの」


 アズサちゃんがどこか虚ろなまま答える。


「まだ母さんからそれは教わって無いよね?」

「うーん。よっし、てきとーにやってみるわ」


 姉ちゃんが僕の方を向いて自信のある瞳で頷く。

 姉ちゃんの周りの法力が何となく動き出すと、突然勢いよく式紙に流れこむ――。と言うより、法力をぶち当てていると言う方が正しいかもしれない。


「え? ソーラお姉様っ、ダメっ――」


 アズサちゃんが叫ぶ一瞬先に、式紙の式が激しく光り出す。

 それと同時に、式紙が僕たちの頭の上あたりまで浮かびだす。


「ああ、もう手遅れ。伏せるんですのっ――」


 アズサちゃんは一人頭を抱えてうずくまるように伏せる。

 僕と姉ちゃんがそんなアズサちゃんの反応についていけず、顔を突き合わせて首を傾げるもつかの間。式紙の式の光が一瞬失せ、再び力強く光る。

 はち切れ破れる式紙。


「う、うわあああっ!」

「きゃあああっ!」


 ズンと屋敷中を震わせるような低い振動とともに僕と姉ちゃんが吹き飛ばされる。強すぎる衝撃は、提灯蔓の実を大きく揺さぶり、光を失うと実を落とした。部屋はとたんに暗闇へと引き込まれる。


「何事だっ! 大丈夫かっ!」


 横滑りの扉が勢い良く開く音がすると、エボシ伯父さんの声が飛び込む。


きのえは光。道を照らす標』


 無機質な声が部屋の真ん中から響く。ぽうっと提灯蔓よりも力強い光が部屋の真ん中で浮かぶ式紙から放たれる。

 ひっくり返っている僕と姉ちゃん。一人伏せてたアズサちゃんが顔を上げる。

 

「うはー、ビックリしましたの……」

「あらあら、ソーラ、カイト。ひっくり返ってどうしたの? ――って。ああ、これね」


 母さんが部屋に入ってくると、僕と姉ちゃんのちょうど間にある、びりびりに破れた式紙の切れ端を一片拾い上げる。


「法力の補充をしようとしたの? まだ、式紙を扱うところまで教えてないのに無茶をして……」

「あ。チハヤ叔母さま。……あの、……えと、……その」


 耳と尻尾をペタンと倒すアズサちゃん。


「いいのよアズサちゃん。どうせソーラが適当にやったんでしょ」


 まるで見ていたかのように答える母さん。さすがは母さんだった。



 --- 図鑑 ---


 《トコナツの木》

 植物。

 トコナッツという果実を付ける木。トコナツと言う名とは違い、別にトコナツの木が生えているところが常夏の地域と言う事ではない。

 木自体は特に特筆すべき事はないが、驚くべきはその果実であり、ココナッツに良く似た形をしているトコナッツは規格外の保温効果を持っており、夏の間に貯めた熱気を冬の季節でもずっと保ち続ける事が出来るため、寒い季節に触るととても温かい。トコナッツは野生の動物や、魔物の間でも利用されており、良く巣穴に持ち込む姿が確認されている。

 巣穴に持ち込まれたトコナッツはその巣穴の主が居なくなった時に、芽を出しトコナツの木へと成長する。そのためトコナツの木の生えている場所の近くには巣穴があった形跡がよく見られる。

 人の子の世界では古来より湯たんぽ代わりに利用される事があったが、近年このトコナッツから蝋を作る技術が確立され、これをワックスとして床に塗る事で床全体にトコナッツの保温効果がもたらされるのではないかと言う事が考えられている。

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