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「……しょうがないんだから」

「ほーら、カイトもうちょっとなんだから」


 階段をあと一息と言うところから姉ちゃんが振り返って声をかけてくる。まるで平地のように駆けあがっていく姉ちゃんに追いつこうと、必死に走った僕は三分の二くらい上ったところで体力がゼロになる。

 その後はもう地獄。一歩一歩踏み出す足が重い。本当はへたりこんでしまいたかったけど、それは負けたみたいで嫌だった。端にある手すりに手をかけて、息も絶え絶えで姉ちゃんに追い付く。


「よし、諦めなかったえらいよ。はいっ、ゴールっ!」


 姉ちゃんがニカッと笑顔を見せて僕のぐいっと手を引くと最後は一緒に上りきった。


「やっと……、着いた……」

「ソーラちゃん速いなぁ。カイトくんもいいガッツだったよ」

「えっへへ。まだお父さんには勝てないけどね」

「へっ、簡単には負けるわけにはいかねぇよ」


 膝に手をついて肩で息をする僕にエボシおじさんがニッとして声をかけてくる。父さんたちの声もすぐ後ろから聞こえた。

 走って上ったのに結局追いつかれちゃったなぁ。


「カイト見てっ」

「ちょ、ちょっと待って。まだ息が――」

「いいからっ」

「ぐえっ」


 無理矢理顔を上げさせられる。


「……家が三つ?」


 まず左手に二階建て。次に右手に舞台のようなでっぱりがついた平屋。

 そして正面には、華樹との一体感のある立派な建物。

 どうして三つも家が? これじゃあどこに行ったらいいのか。あっ、そうか。

 僕は姉ちゃんに耳打ちする。


「姉ちゃん、僕たち試されてるんだよ。どれが本当の――」

「さて、私たちが住んでいるのはあっちの二階建てのほう……」

「――家かあててみろ……って」


 振り返るとエボシおじさんと目が合う。ほんの少しだけ気まずい空気が流れると、エボシおじさんの目線がスーッと斜め上にズレていく


「――なんだけど。さて、私たちが住んでるのはどーこだ?」

「もう遅いよっ!」

「カイト考え過ぎなんだから」


 少しだけばつが悪そうに笑うエボシおじさん。僕はせっかく当ててみようと思ったのを邪魔されてプーっと膨れると、姉ちゃんが茶化すように僕のほっぺをつついたのだった。



 ◇◆◇



「ただいま。チハヤたち連れてきたよ」


 横に滑る扉を開けて家の中に入る。ウルブ村ではあんまりないタイプの扉

 ドアノブがないなんて斬新。


「変わった扉だねぇ」

「そうだなぁ、じっ様の道場くらいだもんなぁ」

「えっ! あそこ扉あったんだっ? そうか、こういう扉が周りについてたんだ。ずいぶん風通しがいいと思ってたんだ」

「さすがにちょっと良すぎだな」


 父さんがクックックと声を抑えながら笑う。雨が降った日とかは閉まってたりしたけど、丁度いい板をはめてたんだと思ってた。普通の扉と違って扉を抑えなくても風で動かないしね。

 よく考えられてるんだなぁと思って感心していると子供の走ってくる足音に気がついた。


「おかえりなさい、お父さま」

「ただいま、アズサ」


 小さいツインテールの女の子がエボシおじさんに飛びつく。エボシおじさんの子供かな? 真っ白の髪に真っ白い狐の耳と尻尾だけど、ちょっと姉ちゃんに顔が似てる。ちょっと姉ちゃんを幼くした感じだから僕と同いどしくらいだろうか。


「アズサは今日もかわいいね。ははは、んー」

「もうお父さま、今朝もそう言ってた」

「あらあら、そういう事ね」


 エボシおじさんが女の子のほっぺにチューをしまくる。母さんは一人納得したように頷いてつぶやいた。

 父さんは少しうらやましそうに見ると、姉ちゃんに向かって両腕を広げる。


「よし、ソーラっ」


 すごい期待感の溢れる笑顔でいる父さん。姉ちゃんは真逆に少し呆れた目線を浴びせる。

 ――――まぁ、こうなるよね。


「……しょうがないんだから」

「え?」


 そう思っていると、姉ちゃんが一息ため息をついて僕の予想してなかったセリフとともに大げさに肩を竦める。

 父さんの顔がぱぁっとものすごく明るさを放つ。


「はいカイト」

「え?」


 あっけにとられてる間に、姉ちゃんは僕の両脇を抱えて父さんの前に抱え上げられる。父さんの腕の中にすっぽり納められる僕。

 ――――やっぱり、こうなるよね。

 父さんをちょっと不憫に思って頭を撫でてあげる。


「父さんドンマイ」

「ソーラが冷たいっ! 俺の味方はお前だけだぁぁぁカイトぉぉぉ」

「いたっ! ねえっ、今朝髭剃ってないでしょっ!」

 

 父さんが滝のように涙を流しながら僕にほおずりする。


「おやおや、リックくんは娘とのコミュニケーションも満足に――」

「なんて力強い。ワイルド――。ステキ」

「え? アズサ?」


 女の子がエボシおじさんの腕の中から飛び降りる。


わたくしの名前はアズサ。お姉さまは?」

「あたしはソーラよ」

「あたし……、ソーラ……。ソーラお姉さま」


 アズサちゃんは反芻するように嬉しそうにつぶやく。


「よろしくお願いします、ソーラお姉さま」

「僕はカイト。よろしくねアズサちゃん」

「……よろしくね」


 あんまり関心なさそうに一度だけ僕を見ると、アズサちゃんは姉ちゃんの方に振りなおり手を取る。


あたしがお部屋の案内しますわっ。ソーラお姉さまっ。たくさんの話もしましょうっ」

「えっ? えっ? あっ、よろしく?」


 アズサちゃんの勢いにあっけにとられたまま姉ちゃんも手を引かれていく。

 女の子同士のほうがうちとけやすいだけだよね……?

 ちょっとだけ僕は不安を感じるのだった。




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