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「絶対よー」



「さっ、ソーラ、カイト。東法術のお勉強しましょっ!」


 朝ごはん食べた後すぐにニコニコしながら言う母さん。あの後からずっとこんな感じ。いろんな事を知れるし、母さんもすごく嬉しそうに教えてくれるから僕も楽しい。法力解放の業はちょっとあれなんだけどね。

 でも、そろそろ。


「母さん。僕ね、今日はヴォルクス様のところへ行こうと思うんだ」

「あら? どうして?」

「西魔術教えくれないかお願いしにね」


 口に手を当てるハッとする母さん。

 ……すっかり忘れちゃってたんだね。


「あっ、忘れてないわよカイト。魔法使いになるんですものねっ、西魔術も使ってこそよっ。わかったわ」

「……じっ様に西魔術をねぇ?」


 僕が何を考えてたのか察した母さんが慌てて取り繕う。まっ、いいけどね。

 だけど、隣で腕を組んで首をかしげる父さんが気になる。


「あら、どうしたの? ヴォルクス様なら西魔術も達人級よね? 気難しい方ではないし……。ちょっと変わってる方だけど」

「確かにじっ様は、“ワシは弟子はとらん主義じゃ”とか言って無理難題吹っ掛けてくるような人じゃねぇよ。変な人ではあるがな」


 だよね。ヴォルクス様って面白いおじいさんだもん。じゃあ、どうしたんだろう?


「多少偏ってるが西魔術の達人にも違いねぇんだ。≪幻双剣≫の由来でもあるしな。ただ……。うーん、まぁカイトは妙に理解が早かったりするから案外いけるかも……、なぁ?」


 なぁ? って言われてもなぁ。えっと、何かあるのかな?

 僕はちょっとだけ心配になったけど、父さんがポンと膝を打った。


「よっしゃ、俺とじっ様のとこへ行くか」

「うんっ!」


 父さんが僕の頭をワシワシ撫でる。父さんと二人でお出掛けなんて久しぶり。


「ふーん、じゃあ久しぶりにお母さんはあたしが独り占めねっ」

「ふふ、そうね」


 母さんに抱きつく姉ちゃん。母さんはゆっくり姉ちゃんの髪を撫でる。

 じゃあ決まりだねっ!

 そう思ったところで家に駆け足で女の人が来た。


「マスター、マスターリックっ!」


 さっ、三丁目のお姉さんっ!

 今日もおキレイですねっ! 全力で走って髪の毛を乱してもっ!

 ――って、様子がおかしいね?


「うっ、マスターはやめて。で、どうした?」


 一瞬父さんがむず痒そうな顔をしたけど、すぐ真剣な顔になる。キリっとした男の顔だ。


「応援要請です。パーブル村が、魔人の襲撃にあっています」


 淡々と話す三丁目のお姉さん。これは事件みたいだね。


「パーブル村か、ちょっと遠いな。規模と状況は?」

「規模はおよそ百体。魔人はシャドウウォーカー。日の出に強襲を受けたようです。村の狩人十名で対応して今は硬直状態となってます」

「日の出の一番影が長い時に来たんだな。わかった。

 スマンカイト、ちょっと行かなきゃなんねぇわ」


 片手を顔の前でちょこっと立てて謝る父さん。


「ううん、いいよ。村の人たち助けてあげて」

「オッケ、まかせとけってな」


 父さんがニカッとしながらグリグリ僕の頭を撫でる。力が強くてちょっと痛いけど、頼もしいね。


「パーティーは編成しますか?」

「いらねぇ、俺一人で行った方がずっと早くつくしな。ちょちょいと引っ掻き回したら後は向こうの人がやってくれらぁ」

「リック、大丈夫なの? 規模に十倍の差があるわよ? 私も行きましょうか?」

「あっちの人、小さい村だけど練度高ぇんだ。硬直っつっても被害出さないために無理してないだけだよ。最初の襲撃で一人も減ってないのが証拠だし、応戦に狩人しか出てないしな。決め手さえやったらすぐ終わるさ」


 なんだかよくわからない。けど、何だか父さんがすごくかっこいいっ!

 部屋の角にある冒険者バッグを担ぐ父さん。


「じゃ、行ってくるわ。シャドウウォーカーならこっちだなっと」


 ショートソードを手に取って、あっという間に飛び出す父さん。

 父さんが行ったなら向こうの村の人ももう安心だね。


「あっ、ふぅ。朝から緊張したあ。皆さん、団らん中おじゃまさまでしたっ」


 さっきの淡々としたお姉さんじゃなくて、いつものお姉さんになる。


「いえいえ、緊急ですもの。それより、ギルドのお仕事は慣れましたか?」

「あははー、おかげさまでー。って言っても村の狩人さんくらいしか来ないですからね。知った人ばっかりですよぅ。冒険者ギルドじゃなくてハンターギルドって言った方がしっくりきちゃいますよぅ」

「ふふふ、そうねぇ」


 三丁目のお姉さんってすごく大人なイメージだったんだけど、母さんと話すとまた違うんだなぁ。

 ふむふむ、そういった一面もあるんだね。

 なんかいいネっ。


「あっ、とっ。じゃあ私、書類まとめないとなんで戻りますっ」

「はい、がんばってね」

「あははー、頑張っちゃいます。じゃあソーラちゃんカイトくん、またね」


 母さんにお辞儀すると僕たちの方に手を振る。


「はーい、またね」

「あっ、は、はい、また」


 元気よく挨拶する姉ちゃん。それに対してうまく言えない僕。

 緊張してしゃべれないよっ。なんて情けない僕っ!


「あら? カイトくん顔まっかだよ? うふ、いつもかわいいわね」

「……あ、あ、ありがとぅ」


 何故かお礼を言ってうつむく僕。

 ひゃぁぁ、恥ずかしくて顔あげれないっ。


「じゃあね」


 出ていくお姉さんに、ニコニコ笑顔で手を振る姉ちゃん。僕はあわててアッと顔をあげる。

 三丁目のお姉さんが出ていくと、くるっとこっちを向いてニコニコする。

 ニコニコしながら近づいてきて、僕の目の前まで来る。

 ニコニコしてるけど、足音はズンズンズンって感じの異様な雰囲気。


「ね、姉ちゃん……。どうしたの?」

「カイトさぁ、かわいいってあたしが言ったら怒るのに、どうして三丁目さんだとありがとうなの?」

「三丁目さんっ? 三丁目さんはどうか――ふぁ」


 姉ちゃんが両手で僕のほっぺを摘まむ。


「あたしの納得いく説明をしなさい。でないと、このままひっぱるんだから。それも超です」

「はっふぇっ! ほほははひゃうはふははへ――(まってっ! このままじゃうまく話せな――)」

「何言ってるかわかんないっ!」

「ぎゃー」


 問答無用で超引っ張られる僕のほっぺ。

 理不尽っ!


 僕のほっぺは違う意味で真っ赤っかになった。



 ◇◆◇



 少しして僕のほっぺがもとに戻る。悲しいけどこれ、日常なんだよね。まぁ、でも大概やりすぎたかなってときにはごめんね、って後でボソッと言って来るから許しちゃうんだけどね。

 ……あれ? これってなんかディーなんとかのパターン? ハハハ、まさかね。


「リック行っちゃったし、カイトも今日は東法術ね。残念ね」


 言葉と裏腹にウキウキしてる母さん。


「えーっ、せっかくお母さん独り占めだったのになぁ」


 口を尖らせながらも尻尾をパタパタ左右に振る姉ちゃん。テーブルの下で両手で僕の手をとって“ごめんね”って僕の手のひらに指でなんども書く。

 二回くらいでわかったから許すよって意味で姉ちゃんの指を軽く握って返す。それでも通じてないのかやめずに何度もしてくるからくすぐったい。

 なんか姉ちゃん、バレないように謝りたいのか知らないけど、こっそりやるから僕も笑わないように必死に我慢してほっぺと唇を噛む。

 っていうか、だんだん指増えてってるし。それくすぐってるだけじゃないっ?


「本当、仲良しねぇ。ソーラもちゃんと謝ってえらいわ」

「えっ、あっ、うん。えへへ、バレてたの?」


 母さんが優しく言うと、顔を赤くして俯いてからそのまま母さんの顔を見上げる姉ちゃん。


「カイトも許してあげて優しいわね」


 穏やかに僕に言う母さん。

 母さんは何でもお見通しだなぁ。


「うん、まぁね。あっ、母さん」

「なぁに?」

「僕ね、一人でヴォルクス様のところに行ってみたいんだ」

「「えっ?」」


 二人の声が僕に同時に届く。

 ぎゅっと僕の手を握る姉ちゃんの手に力が入る。


「一回ね、一人でお出掛けもできなくちゃってね」

「そうねぇ、ヴォルクス様のところならそんなに遠くないけど。心配ねぇ……」

「そうよっ! カイトったら、かけっこしてあたしと離れるだけで泣きそうになるじゃないっ!」

「それはおいてけぼりにするからだよ……」

「うっ……」


 ジトーッと姉ちゃんを見て言うと、言葉につまる姉ちゃん。一人でいくのと一人にされるのは違うと思うの。

 まぁでも、あんまり姉ちゃんイジメたら後がこわ――

 かわいそうだから目線を母さんに一回うつす


「僕ね、さっき父さん見てかっこいいと思ったの。まだあんなには無理だけど、僕もかっこいいになるんだ。三丁目のお姉さんにだってかわいいって言わせないよっ。だから、まずは一人でお出かけくらいはね」


 僕は目線を落としてから姉ちゃんの手をちょっと強く握り返すと、顔を見上げてニコッて笑って返した。


「カイト……。はっ! カイトのくせに生意気なんだからっ!」

「いだだだっ! なんでーっ?」


 姉ちゃんが力一杯僕の手を握ると、力任せに引いて僕を抱き締める。


 えー? なんでー?


「カイト、素晴らしいわ。そうよ、あなたならかっこいいになれるわ。お母さんカイトを信じるわ。カイトなら一人でお出かけだってできる」

「うんっ! いけるよっ」

「かっこいいは寄り道しないの。まっすぐヴォルクス様の家にいけるわね?」

「うんっ、寄り道しない」

「かっこいいはお昼御飯までに一回帰ってくるのよ」

「うんっ、お昼までに帰るよっ」

「素敵よカイト。これが守れたらかっこいいに一歩近づけたことになるわ」

「守れるよっ」


 かっこいいの道もこういう積み重ねなんだね。

 この辺りは考えたこともなかったよ。



 ◇◆◇



 軽く準備を済ませて玄関へ。

 あー、ドキドキしてきた。


「いい、カイト確認よ。かっこいいの第一歩は?」

「一人でお出かけができて、寄り道しない。お昼までに帰る」

「完璧よカイト。あと、これも覚えていて。ダメだと思ったら無理せず帰る事」

「あきらめちゃうの? それはかっこいいじゃないんじゃない?」

「大丈夫よ、かっこいいを目指している人は引き際もかっこいいものなのよ」


 かっこいいはおもったより奥が深いなぁ。もしかして僕が思ってたかっこいいと違う――。

 なあんてねっ、そんなわけないよねっ。


「じゃ、気をつけて行ってらっしゃい?」

「うんっ、行ってきます」

「大丈夫よ、絶対ついていったりしないわ」

「? うん? あっ、そうだね。着いてきたら一人でお出かけじゃないもんね? じゃあ行くね?」


 ヴォルクス様のところに向かう僕。姉ちゃんと母さんが見送ってくれる。


「絶対ついて行ったりしないわー」

「はーい」

「絶対よー」

「わかってるってー」


 少しいったところで母さんが手を振りながら言う。

 そんなにいわなくってもいいのにね。



 なんにせよ、一人でお出かけだよっ。

 これって冒険……


 かもねっ!


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