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「ありがとね」

 ◇◆◇


 沈んでいた意識が浮かび上がる。

 さっきまでなんか見ていた気がするけどなんだったっけな?

 そういえば僕は死んだんだったかな……


「……ん、んー?」


 眉を少し潜めながら目を開ける。

 目に飛び込んだ空は大きな木の枝にほとんど覆われていた。

 僕はというとさっきみたいな草むらのなかじゃなくて、なんとなくふかふかした敷物の上に寝かされていた。

 シャラシャラシャラとゆっくり慎ましやかに流れる川の音。

 キレイな小鳥たちの歌声。

 そよ風と一緒に甘い花の香りが僕の胸を一杯に満たす。

 ここは天国なのかな?


「カイトっ! 起きたのっ?」


 ぼけーっとしていると姉ちゃんの顔が飛び込む。

 なんとなくデジャヴュ。


「えーと、えーと? あれ?

 ……姉ちゃんも一緒に死んじゃったの?」


 僕は死んでるはず。だったら、姉ちゃんが居るってことはそういうことなんだろう。

 そっか、ダメだったんだね。

 一緒に死んじゃったのは残念だけど、また姉ちゃんと一緒に居れるのは悪くないかな。

 それに、なんかわからないけど無性に会いたいなって思ってたんだ。

 僕はそう思うとちょっとだけ微笑むと、姉ちゃんの方に手を伸ばしてみる。

 姉ちゃんはそれを乱暴にバシッって掴んで握ると怒鳴る。


「バカっ! 何を言ってるのよっ、生きてるのよっ。エリンちゃんも無事なんだからっ!

 カイトが守ってくれたんだからっ」


 なんだってっ?


「えっ? 僕、死んでないのっ? アラッ――?」


 びっくりして急いで体を起こそうとするところで血の気が引く。僕が崩れそうになると、姉ちゃんが「あっ」と抱えてくれた。


「もう、無理しないでよ。血いっぱい出てたんだから……」

「あははは、あれは痛かったなぁー。もうごめんだね」


 ほんと、あんなのもうヤなもんだね。

 僕は姉ちゃんから視線をそらして少しだけ下を向いて笑う。

 そしたら姉ちゃんがそっと体を寝かしてくれた。


 ――と思いきや、そのまま僕の上に四つん這いになってまたがる。

 ジッと僕と目を合わせてくる。

 青くて長い髪が垂れてきて僕の顔に少しだけかかる。

 こしょばい。


 しかし、どうしたって言うんだろう。

 なんだかよくわからないけど、これは困ったな。

 そう思って目を泳がしながら少し顔をそむけようとする。


「むぎゅ」


 姉ちゃんの手が僕のをほっぺたを挟んで無理やり目を合わせる。

 さらにおでこがくっつきそうなくらい目を会わせながら近づいてきた。

 えっ? えっ?


「どふぃたのぉ?」

「……カイトはもうあんなことしなくていいんだからね」


 姉ちゃんらしくない少し低めのトーンの声がポツリと僕の耳に反響した。

 姉ちゃんの手が僕のほっぺを開放すると、今度は目を閉じておでこを合せてくる。


「え?」

「今度は、カイトのことはあたしが守るから」


 そう呟くと、今度は緑色の目をしっかり開いて僕の目を見ると語気を少し強める。


「もっとあたしが強くなってカイトを守るんだからっ! ……約束」

「え? え?」

「やーくーそーく! カイトっ、返事っ!」

「え? え? え?」

「約束なのっ! 返事はハイっ!」


 あっ、あれ? それって僕の返事がいるの? しかもハイなの?

 そう思ったけど、姉ちゃんが収まりそうにないので一応返事する。


「は、はぃ……」

「もっとちゃんと返事してっ!」


 姉ちゃんが僕にかじりつきそうな勢いで目の前で怒鳴る。


「はいっ!」

「よしっ!」


 背筋を伸ばしてしっかり返事をすると。姉ちゃんが満足そうに目の前でニカッとする。どアップでその笑顔は破壊力抜群だけどさすがに今回は少し不満。

 僕、怪我人なんだから、もうちょっと優しくしてほしいよね。

 まったく、ひどいもんだ。

 なんて思ったりすると僕の顔の右横に姉ちゃんが顔を沈めてきた。



 チュッ


 そんな音と同時にほっぺたに柔らかい感触を感じた。


「ありがとね」


 姉ちゃんがぼそっと呟いてから顔をあげるとまたニカッとして僕の上からのける。

 ちょっとだけほっぺが赤かった気がした。


 僕は姉ちゃんの方と逆の方に顔を向ける。

 僕、なんだか顔が熱くなってきて溶けそうだよ。

 口元がゆるゆるになっているのはそのせいに違いない。姉ちゃんに見せれられないね。


 えっ? 不満に感じてたのはどうした?

 そのような事あったっけ?


 僕はほっぺに手をあてながら一回目を閉じて顔を横に向けながら余韻をちょっと味わう。


 いやー、なんというか。いやー、いやいやいや。

 僕はなんとも言えない気持ちのドキドキと一緒に目を開く。


 今度はこげ茶色の瞳の人と目が合う。


 緑の妖精さん。シイ様でした。

 すぐ近くでエリンちゃんに膝枕しているシイ様。

 シイ様ってばすっごくニヤニヤしてる。


 あぁ、スッゴい見られてたんだ……

 イヤッ! なんかスッゴい恥ずかしい。

 僕は蒸発しそうなくらい顔が真っ赤っかになる。


「いやいやいやいや、お主らほんと仲がええの。アチチじゃの」


 でも、シイ様そんなことを言った後で凛と表情を引き締める。


「今度の事は本当にありがとうな。本当に、ありがとうな」


 シイ様がぐっと頭を下げる。

 僕はゆっくり体を起こそうとすると、姉ちゃんが後ろから支えてくれた。


「そんな、これでよかったんだと思います。みんな大丈夫だったんだから」


 僕はやめてくれと首を軽く横に振って答える。

 シイ様に頭下げられちゃうとなんか逆に困っちゃう。


「ふっ、そうか。カイトはええ男じゃな」


 シイ様は顔をあげると軽く微笑んだ。

 そしてエリンちゃんの方を向いてトントンと軽く肩を叩く。


「ほれ、エリンや。起きるがええ」

「……。」? ゴシゴシ


 エリンちゃんが起きると目をこすりながらシイ様を見上げる。

 ちょっと涙の跡が見える。泣き疲れて寝てたのかな?


「ほれ、カイトが起きたからの」

「……。」ッ!!


 エリンちゃんが僕を方をバッと振り向くと全力で僕の胸に向かって飛び込んできた。

 全力でといっても、エリンちゃんがぶつかってきたくらいじゃ全然衝撃ないけどね。


「……。」わーんわーん


 エリンちゃんが僕の胸の中で泣きだした。


「おはよう、エリンちゃん。うーん、心配かけちゃったかな?」

「……。」フルフル


 エリンちゃんは首を振る。そのあとに僕の方を見て「ゴメンネ」って言ったような気がした。


「いいんだよ。みんな大丈夫だったんだったから。それより、また一緒に遊ぼうね」

「……。」コクコク


 エリンちゃんはうんうんって頷いた後に僕の顔の左の方に来た。


 チュッ


 エリンちゃんの小さな唇が僕の左のほっぺたに触れる。

 うわわ、エリンちゃんにもチューされちゃった。

 すごいな、今日はチューの日だね。

 これは毎年祝わないとだめなんじゃないのかな?

 じゃないかな?



「おいっ、ドライもうちょい気合いいれて担げっ!」

「ひー、精一杯ですぅ」


 この広場に続く橋の向こうから声が聞こえてくる。

 一人は父さん。

 もう一人は男の人っぽいけど……。だれだろ?


「ドライくん、大丈夫?」

「いえっ、ぜんっぜんですよチハヤさん。俺にかかればドンと来いって感じです」

「チハヤと話すときだけ調子いいな……。俺の話す時でもそれくらいカッコつけてくんない?」


 父さんのあきれるような声と同時に橋から母さんが出てきた。


「カイトっ!」


 母さんが僕が起きているのに気がついたみたい。駆けつけて僕を抱きしめる。


「カイトっ……。あぁ、よかった」


 母さんが少し涙ぐみながら僕のおでこにほっぺをくっつけてくる。

 良い匂いがする。


「ごめんね。心配かけたかな」

「本当よ。でも、よかった」


 母さんが少しの間僕をギュっとしてから放すと、いつの間にか父さんが近くにいた。


「へへっ、カイトよくソーラとエリンを守ったな。さすが俺の子だ」


 ニカッと笑いながら僕の頭をグリグリ撫でる。ちょびっと力が強いから痛いけど嬉しい。

 でも、ちょっと気になることが僕の目に写った。


「父さん」


 僕が呼ぶと父さんが一瞬目を丸くする。


「お? おお? おほほ。ホッホッほー」


 変な笑い声をあげると、なんだか凄く嬉しそうな笑顔になって、今度は両手で僕の頭をワシャワシャと撫でだした。


「いやー、やめてー。あはははは」


 父さんと遊んでもらってるみたいでなんだか僕も嬉しい。

 ……んだけど、さっき気になった方を見ると状況が悪化してる気がする。


「ねぇ、父さん」

「んふー、なんだー?」


 また僕が呼ぶと凄く嬉しそうな顔をする。

 僕が「父さん」って呼んでるだけなのに、どうしてそんな嬉しそうなんだろうね。

 まぁ、それはおいといて。

 僕はさっきから気になっていた方に指差す。


「あの人、大丈夫なの?」

「あっ……」


 僕が指差した先にいる人はちょうど橋を渡りきった辺りにいた。

 顔を真っ赤にしながらパンパンに膨れた冒険者用のバッグを背負うと言うか、担いでいた。

 あのバッグがあんなに膨れたの初めてみるよ。


「リックさん……、ひどい……」


 それだけ言うと、その人はズシーンって軽く地響きをさせてバッグの下敷きになって倒れる。キューって目を回しちゃた。

 ……それにしてもズシーンって何入ってるのさ。


「あっはは、わりぃわりぃ」


 父さんは頭をポリポリかきながらあんまり悪びれる様子もなく謝りながらその人を助けに向かった。



「カイト、具合はどう?」


 心配そうに聞く母さんに僕は顔を振り向く。


「ちょっとクラクラッてしそうになるときはあるけど大丈夫だよ」


 今なんか背中にちょびっとだけ違和感を感じるけど、こうして体を起こすのもできる。

 あの時は夢中だったから、背中が大変なことになっていたような気がしたんだけど、今の感じからすると思いすごしだったのかなぁ。


「僕の傷って大したこと無かったのかな?」


 僕は少し首をかしげる。


「カイトいっぱいいっぱい血が出たよ。背中がバアって真っ赤っかに血まみれだったよ。あたし……、死んじゃったかと思っちゃったんだから」


 姉ちゃんがグスグス泣き出した。

 僕は姉ちゃんの頭をよしよしって撫でながら慰める。

 うーん、いつもと逆だねぇ。こんなこともあるんだなぁ。


「傷は通りかかった闇の精霊が塞いでくれたみたいだけど、血は足りてないからね。今日は安静ね」

「あれが闇の精霊かぁ。あんな感じなんだね」


 なるほど、精霊が傷を治してくれたから平気なんだね。


「……えっ? カイト、闇の精霊みれたの? どんなだった?」


 姉ちゃんが少し落ち着いたみたいで聞いてくる。

 姉ちゃんも見たことないんだね。他の精霊と違ってスゴく見付けづらいらしいしね。


「僕もすぐ寝ちゃったから少しだけしか見れなかったけど、精霊だから丸い体は一緒だけど。黒くてね、ウサギみたいな耳がミョーンってついてたよ」

「すごいっ! ウサ耳なんだっ? かわいいっ!」


 姉ちゃんが手を叩いてわあっと明るい顔になる。

 僕も気を良くして頭に手を立ててウサ耳のミョーンを表す。

 姉ちゃんも同じように狼の耳の上に手を立ててミョーンってする。

 あはは、なんかいつもの会話って感じ。さっきまで血だらけになってたなんて嘘みたい。


「さて、カイトのために精のバッチリつくものを取ってきたし準備をしましょうか。シイ様、ここで晩御飯の準備をしたいと思いますの。よろしいですか?」

「構わんが調理道具なんか持ってきとるのか? わしは金属製の物はあんまり持っとらんが?」


 母さんがあって小さく言った後に眉をひそめた。


「精のつくものってあれじゃろ?」

「ええ、あれですわ」

「土鍋ならあるがな。あれなら鍋がベターなんじゃろうが。夏じゃしちと暑いのう」


 母さん達が「あれ」だけで話を進める。

 シイ様土鍋持ってるんだね。妖精もお鍋をつついたりすることもあるんだなぁ。


「おお、そうじゃ。ならこれでどうじゃ」


 シイ様はポンと手を打った。



 

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