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彼は青春ラブコメの主人公である……らしい  作者: 椿


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俺はラブコメの主人公

 「宗像君っ……! 好きです、付き合ってください!」


 それは理想的なシチュエーションだった。夕焼けの照らす、二人きりの空き教室。少女……藤原冬子ふじわらふゆこは、一人の男子生徒へ告白を行っていた。


 宗像歳三むなかたとしぞう。身長190cmはあろうかという巨体に黒髪、起伏の少ない表情。人によっては無愛想と捉える人も居るが、冬子にとってはそれもまたクールでかっこいいと思っていた。


 出会ってから一年。色々なことがあった。クラス委員で一緒に仕事をしたり、林間学校では同じ班でカレーを作ったり……えっと、他にも色々、思い出せないけれど色々あった。


 そして意を決した、3月の終業式。冬子はついに、歳三を呼び出してその想いを伝えた。顔が熱くて燃えそうだった。心臓がバクバクとうるさくて、破裂してしまいそうだった。


 「ふつつかものですが、どうぞよろしくお願いします!!!」


 言った。言ってしまった。冬子はその眼を瞑ったまま、開けられなかった。


 どんな反応をしているのだろう。いつもの無表情? それとも、案外赤面していたり? え、何ソレ見たい。写真撮っても良い?


 そんな冬子の肩をがっちりと掴む両腕。ビックリして、冬子は瞳を開けた。


 ──そこには、涙を滝のように流す歳三が居た。


 「ありがとう……! 本当にありがとう! 委員長!」


 「…………へ?」


 「君には見込みがあると思っていたんだ! 本当に嬉しいぞ!」


 見込みとは、一体何だろうか? いやそれよりも近い! ちょっと辞めてそんなに顔を近づけられたら普通に正気を失な──


 「俺の青春ラブコメも、ようやく始まりを迎えたんだな! ハーレム完成も夢じゃない!!!」


 「ちょっと待てコラ。お前今なんて言った?」


 スン、と。上気して赤くなった顔が一瞬にして冷めた。この男、今なんと言った? 冬子はその顔に怒気を巡らせながら、歳三の腕を掴んだ。


 「君には見込みがあると言ったぞ」


 「その一個先!」


 「俺の青春ラブコメが、始まりを迎えたと。ハーレム完成も夢じゃないと言った」


 マジか、この男。冬子は絶句した。


 それは、あまりにキラキラとした瞳をしていたからだ。青春ラブコメというのは、まぁ良い。冬子もまた、そういった青春ドラマは好きだ。


 だが、ハーレムとは何だ? そんなの、告白してきた女性に向かって、俺はこれから他に女を作りますと言っているようなものだ。普通はありえない。


 信じたくなかった。自分が好いた男が、こんな簡単に二股三股をすることを公言するような男であるとは。


 「嘘、だよね……? 宗像君」


 「ん? 何がだ?」


 「わ、私の告白、受けてくれたんだよね!?」


 「あぁ、もちろんだ!」


 「じゃあ、どうしてハーレムがどうとか言ってるの!? 意味分かんない!」


 歳三はそんなことかと、軽く笑った。その顔は自信に満ちあふれ──そして僅かに口角を上げながら、声高々と言った。


 「決まっている――それは、俺がラブコメの主人公だからだ!」


 「一回死ねぇ! クソ男!!!」


 「ぐぼぁあぁあ!?!?」


 冬子の腰の入った右ストレートが、歳三の鳩尾へと深く決まった。


            1 


 「はぁ……今日から学校かぁ。嫌だなぁ」


 今日は高校二年となる最初の日。そんなハレの日に、冬子は通学路を歩きながら一人ぼやいた。原因はもちろん、あの日の悲惨な告白だった。


 あれから2週間ほどが経っている。終業式の日に告白したのは、もし失敗した時、次の日にまた顔を合わせることが無いように配慮した結果だった。


 だから、歳三とはあれから会っていなかった。当然、連絡先の交換などもしていない。あのまま悶絶する彼を置いて、冬子はそのまま帰宅していた。


 宗像君に会ったら、あの告白は無かったものにしてくれと言おう。勝手に告白して、勝手に失望したのは失礼かもしれないが、流石にアレは無い。あり得ない。


 そう決めていても、気まずいものは気まずかった。これから2年間、同じ学校で顔を合わせることもあるだろう。その時のことを考えると、本当に気が重かった。


 はぁ……私の知っている宗像君は、あんなゲスい人じゃなかったのにな……


 「おはよう、委員長」


 「あぁ、おはよう、宗像く──宗像君っ!?」


 気がつくと、横に宗像君が居た。え、怖。何の気配もしなかったんだけど。ていうか、なんで此処に宗像君が居るの!?


 「宗像君、電車通学でしょ!? なんで居るの!?」


 「委員長の最寄り駅で降りた。後は委員長が来るまで、あそこの公園で待機していたんだ」


 え、怖。この人、本当にヤバい人なのでは? 冬子の脳裏に、ストーカーという単語がよぎった。


 「というか待って??? 何で私の家の最寄り駅知ってるの???」


 「あぁ、委員長が帰った後、君の後を尾けて──」


 「ド犯罪! 宗像君キモすぎるよ!?!?」


 「き、キモ……キモい、か……」


 「あっ、ご、ごめん……あまりにも気色悪かったからつい」


 「ぐはっ……!」


 歳三は胸を押さえ、その場に崩れ落ちた。あ、どうしよう。絶望した顔の宗像君、ちょっと可愛いかも。


 「──って、そうじゃなくて! ご、ごめんね宗像君! 少し言い過ぎたよ!」


 「いや……委員長の言うことは最もだ。彼女と一緒に通学するというイベント欲しさに、俺は重要なものを見落としていた……! クソッ!!!」


 宗像君はそう言って、大袈裟に地面を叩いた。さながら、甲子園出場の決勝戦に敗れた野球児のようだ。そういう場面は見たことないけど、多分こんな感じだ。


 それよりも、重要なことを訂正しなければ。冬子は今にも泣き出しそうな歳三に、若干の申し訳なさを感じながら伝えた。


 「む、宗像君。そのことなんだけど……あの告白、ナシにして貰えない?」


 「な、何故だっ!? 俺のことが好きだと言ってくれたじゃないか!?」


 「ふみゆぅ!? ち、近い近い近い──!!!」


 「頼む! そんなこと言わないでくれ!」


 あぁもう! やっぱり宗像君、顔は良い!!! 冬子の鎮火していた恋心に、再び火が灯る。


 本人は否定するだろうが、彼女は未だ歳三に恋をしていた。一度は冷めた煩いも、少しのきっかけがあればまた舞い戻る。冬子はまた、やっぱり付き合っても良いかも、と思いかけていた。 


 「せめてもう一人、いや二人くらいはヒロインが出てくるまで、俺と良い関係を維持してくれないと困る!」


 「私の心でサウナしないでよ。そんなことしても整わないって」


 一気に冬子の恋心は鎮火した。今度は完全に、その熱が消え去った。もはや、彼の顔を見ても何とも思わない。


 むしろ、面が良いのがムカついてきた。この男、イケメンだからって何言っても良いと思っているのか? そんなの大間違いだからな?


 「ふざけてなんかいないぞ! 俺は本気で、委員長ともっと付き合っていたい!」


 「その心は?」


 「ハーレム要員は多い方が良いからな!」


 「死ね!!!」


 藤原冬子渾身の蹴り上げ! それは深々と歳三の金的を穿ち、そしてダウンさせた。いくら巨体に恵まれようと、そこが人体の急所であることは変わりなかった。


 「じゃあね、宗像君。ハーレム作り、頑張ってね」


 「ま、待ってくれ……! 頼む委員長! 話を聞いてくれ!」


 蹲りながら、歳三は必死に叫ぶ。もはや、冬子には届いていなかった。


            2


 「おはよ~。久しぶりぃ、冬ちゃぁん」


 「重いっ……! 自分で歩いてよ、まお……!」


 学校に辿り着くと、見知った重さが背にのし掛かってきた。友人である、聖園猫みそのまおだった。


 短いスカートから見える長い脚、着崩した制服、緩くパーマのかかった茶髪。冬子と猫の通う暁花高等学園の校則が緩くなければ、許されない格好だった。


 まおを見る度に、冬子は嘆く。何故、自分の身体はこうはならないのか。何故、自分の身長は小学生と大差無いのか。本当に悲しい。


 「ねぇねぇ。なぁんで告白が成功したかどうか、教えてくんないの~?」


 「諸事情があってね……聞かないでくれると、助かるかな」


 「ふ~ん……? まぁ、別にどうでも良いけどねぇ」


 そんなことは無かった。この少女、頭の中では狂喜乱舞していた。


 (やったぁ!!! 冬ちゃんに彼氏なんて必要ないもん! 冬ちゃんにはあたしさえ居れば、それでいいもんね!)


 聖園猫という少女は、冬子に対して親友以上の情愛を持っていた。


 その愛らしい姿、艶やかな黒髪、清楚な見た目からは想像も付かない戦闘力! その全てが、彼女の癖にぶっ刺さった。


 そんな猫には、ずっと気に食わないことがあった。冬子が、あの男に夢中になっていたことだった。


 普通に許せることではない。極刑だ。何度始末しようかと迷ったことか。だが、そんなことをしたら愛しい冬ちゃんが悲しむ。だから、今の今まで呪うことはあっても、直接手を出すことは無かった。


 だが、この様子では何もせずとも、上手くいかなかったようだ。良かった良かった! 流石に殺人は色々とマズイ。この手を汚さなくて済んだのは僥倖であった。


 (これからは、私と冬ちゃんで百合の園を作ろう! もう、誰にも邪魔なんてさせ──)


 「うぉおおおお!!! 委員長! 待ってくれぇ!!!」


 「む、宗像君っ!? ちょ、声大きいから!」


 「頼む! もう一度考え直してくれないか! 委員長は絶対、ハーレムに必要な人──」


 「ちょっと黙ってくれるかな! ここ、学校だから!」


 「むごご……! わ、悪い……! 興奮し過ぎた」


 (──ハァ? 何、アレ? なんで冬ちゃんとあのゴミカスが、普通に喋ってんの?)


 己の中で爆発しそうな黒い感情を押し留めながら、猫はその顔に笑顔を貼り付けた。まだ駄目だ。こいつをヤるには、情報が少なすぎる。もう少し探るべきだろう。


 「む な か た くーん? 随分と、冬ちゃんと仲が良いんだねぇ?」


 「あぁ、おはよう、聖園さん。実は俺たち、つい先日付き合うことになったんだ」


 はいギルティ。ぶちりと、堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がした。

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