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果てしなく続く物語の中で  作者: 野木ノキ
エピソード 侵略の箱庭 地の底
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第21話 報酬と帰還



 気持ちよさそうに撫でられる白銀の狼、ルフリアから手を離して、どこか知性を置いてきたような瞳を見詰める。


「ところで、なんで狼の姿で寝てるの?」

『気持ちよくてつい……シンヤ様もこの姿だと撫でてくれますし』


 ぼそりと付け足された理由は聞かなかったことにした。

 狼の体は光に包まれ、僕の前に小さな影が降りたつ。

 ちゃんと服を着た、いつもの背格好のルフリアだった。



『ルフリア 女 2203歳

 関係:眷属 感情:心服 状態:健康 精神:幸福

 技能:薬術LV85 生命術LV81 精神術LV75 守護LV65 魅了LV81 読心LV71 看破LV50 気配察知LV67 飛行術LV55 大樹の理LV76 氷雪の理LV41 武術LV50 弓術LV77 頑強LV78 生命強化LV67 精神強化LV81 再生LV73 心眼 不老 千変万化 三位一体 半霊半身 特殊技能制限解除 感覚技能制限解除 身体技能制限解除

 称号:転変の原初の生命 妖精族の守り人 秩序の支配者

 箱庭が生まれたその瞬間に誕生した原初の生命。

 故郷を追われた妖精族の嘆きにより、その身を変性させた。主と共に歩むため二度目の変性を果たす。→

 三度目の変性で完全な力を取り戻し、秩序を司る力を内包する→』


 これが地竜の核を吸収して得た彼女のステータスだ。

 彼女は三位一体という新たな技能のおかげで、人間形態、狼形態、あともう一つの形態になれる。

 人間の姿の彼女は以前より更に美しさに磨きがかかり、魅了までレベルアップしてるから、もう歩くメガトン級恋愛デストロイヤーではないだろうか。千変万化はもっと仕事しろ。

 技能も弄れるし体も変えられるし、原初の生命の中でルフリアが一番ぶっ飛んだ存在になってしまった。


 それとは別に、伏せとか、お座りとか、犬のような恰好されると人間の姿のルフリアに置き換えて、罪悪感というか居た堪れなさが湧いてくるんだよね。

 おまけに狼形態でベロベロ顔中舐められたりもしたし。

 それを目撃して怒り出したベリエルと、壮絶な喧嘩を始めたから有耶無耶になったけど、成人女性として色々アウトだろ。

 狼の意識に引っ張られたと言っていたけど、瞳に理性があった気がする。思い過ごしかなあ。

 さっきみたいに犬みたいな返事や仕草をするし、やはり引っ張られていたというのが正しいのだろうか。

 

「シ、シンヤ様、大陸を移動するならお早めの方が宜しいかと。もう直ぐ日も暮れますし今が頃合いでは……」

「ん?ああ、そうだね。よろしく」


 僕の疑念の視線に目を泳がせていたルフリアが提案してきて、本来の目的を思い出した。

 再び狼に戻ったルフリアの背に乗って、一路別大陸を目指す。

 僕が交わした最後の約束を果たしてもらうために。





 夜の闇に紛れて空を飛び、前に天竜に降ろしてもらった首都の近くに同じく降り立った。

 1年ではそう変わるものでは無く、まだ宵も浅いので街の明かりは煌々と焚かれている。

 

 ルフリアは人間形態に戻り、足に括り付けていた荷物を背負う。

 僕も同じく荷物を背負って、首都に向けて歩みを進めた。

 門まで辿り着いたとき、前に城で貰った手形を出そうかと考えたけど、どうにも厄介になる気がする。

 使えるか分からないが、北方へ向かう前にユーゼフさんに発行してもらった流民用の通行書を取り出した。


「すいません、街に入りたいんですが」

「こんな時間にか?ふむ……旅人か」

「知り合いを訪ねてきました。商人のユーゼフという方です」

「少し待て……確かにいるな。身分を示すものはあるか?」

「以前その商人から割符を貰ったのですが」

「……問題ないか。よし、通っていいぞ」


 ずいぶんあっさり通されたな。ルフリアなんて顔隠してるのに一瞥されたくらいだ。

 通行書が使えるか半信半疑だったけど問題なかった。

 ユーゼフさんの拠点はここじゃないからいないような気がしたけど、まだ暮らしているのだろうか。


「以前とは違いますね。流民に対しての扱いが良くなっているように思われます」

「だね……意識改革でもあったのかな?」


 よく分からないけど運が良かったと思っておこう。

 夜の街を進み、約束を果たす前に以前みんなで暮らしていた屋敷まで辿り着いた。


「明かりがついてるけど、流石に別の人だよね」

「いえ、中からユーゼフさんの気配がしますね。他にも4人の人間がいます……これは」


 眺めていると突然屋敷の玄関扉が開き、驚いた顔をした二人が顔を見せた。

 日焼けが薄くなったユーゼフさんと、全体が引き締まったテンジンさん。

 あまり懐かしく感じない、良く知った顔だった。


「「坊主、お嬢ちゃん!!」」

「ただいま帰りました」


 呑気に挨拶を返せば、驚いた顔がクシャリと歪められ突撃される。

 思いっきり抱きしめられて、あらゆる液体を擦り付けられた。

 おっちゃん汁きちゃない!

 

 

 

 屋敷の中に引き摺り込まれて、根掘り葉掘り聞かれ、僕の方からも二人の近況を聞いた。

 ユーゼフさんの奥さんと孫たちは、僕らに遠慮して別室にいるのでこの場には居ない。

 ユーゼフさんは首都でお店を開き、テンジンさんは怪物退治の旅をしていたようだ。

 何故二人が揃っていたかというと、旅帰りのテンジンさんがたまたまユーゼフさんの元に立ち寄ったからだ。

 そして僕らの気配を感じて、屋敷の外に飛び出して再会したという流れだった。凄い偶然。

 

 僕らのことについては、ある程度正直に話している。

 北方の怪物を南下させないため戦ったこと。

 半覚醒状態の地竜と対峙したこと。

 地竜の目覚めに反応して天竜が現れ、協力して地竜を退けたこと。

 その天竜の縁で別大陸に行き、体を治療していたこと。

 

 完全な本当のことは言えないけど、嘘は少なく話した。

 ここに至っては、僕らの実力が人外のそれと理解されただろうけど、二人は理解の色を示すだけで、その態度は変わることが無かった。

 

「すげえ話だな……俺も北の果てに行って、世界の終わりみたいな破壊跡見たからなあ……信憑性はあるが、普通の奴が聞いたら妄想って決めつけられそうだ」

「そうだな……良く生きて帰ってきたなあ……」


 ユーゼフさん、僕の右腕に視線を向けてまた泣きそうになってる。テンジンさんもつられて泣きそうというか、しんみりしている。

 どうやら僕の右腕が発見されたようで、生存が絶望視され予想以上に心配を掛けたようだ。

 居たたまれないので話しそらそう。


「積もる話は色々あるんですけど、二人に会いにというより、約束を果たしてもらいに首都に来たんですよね」

「そうですね。首都でお二人に会えるとは思っていませんでしたので」

「約束?……もしかしてこれか!」


 テンジンさんは小指を立ててニヤリと笑う。

 ルフリアはその指の意味は知らなかったようだけど、読心で読み取ったのだろう、テンジンさんを絶対零度の目で射抜いた。

 テンジンさんは氷のように固まり、ゆっくりと小指を下げる。

 新たに獲得した氷雪の理が発動した訳でもないのに、霜が降りそうな冷気を感じるよ。


「ゴホン、怪物退治の報酬の件ですよ。お城のご飯お腹いっぱい食べさせてくれるって約束していたので。この際だからユーゼフさんたちも一緒に行きましょうよ。それが許される働きはしたと思いますし」

「い、いや、城どころか国が貰えるくらいの働きはしたと思うぞ。坊主らがいなけりゃ、北方どころかここも怪物の群れに飲まれていたかもしれんし」

「そうじゃな。謙虚というか、食い意地が張っているというか。坊主は変らんなあ……」

 

 何やら変な納得のされ方をしているが、美味い飯の前にはどうでも良いのだ。




 その日は屋敷に泊めてもらって夜遅くまで話をした。

 二人は興奮していくらでも喋り続けそうだったけど、いつの間に同じ部屋で雑魚寝してしまった。

 

 夜中の話では、ユーゼフさんが城に取り次いでくれるということだった。

 何でも手順を間違えるとえらいことになるらしい。ユーゼフさんが。

 理由が結びつかず首を捻ったが、余りに真剣なのでお任せすることにした。





「なう!」

「え、ぐへっ!?」


 しかしユーゼフさんの思惑はあっさり破れたのだった。

 早朝、ほとんどの人が寝ている時間にランニングしてたら、黒い巨体がタックルしてきて尻餅をついた。

 喉を鳴らしてすり寄って来るその生物は、懐かしいモフモフだった。


「シャーミイ?どうして首都にいるの?」

「なうなう……」

「ああ、アルメイア様と一緒に来たんだ」

「なう」


 会話みたいになっているが僕に猫語は分からない。どっちかと言えばシャーミイが僕の言葉を理解している感じ。

 まさか、猫に知能で負けている、だと。

 

「シャーミイ!知らない人に飛び掛かっては駄目よ!あなた、大丈夫、で…………え?」

「おはようございます、アメル様。いい朝ですね」


 寝巻にガウン姿のアメル様を、シャーミイに押し倒されたまま見上げる。

 知り合いに会えるとは思わず普通に挨拶返したけど、ユーゼフさんの話だと僕死んでることになってるんだよね。

 おまけに白髪赤目で誰か分かんないんじゃないかな。

 やべえ、どうなるんだこれ。シャーミイに乗っかられてるから逃げれないし。

 

「う、嘘、えっ?でも……アルメイアの話は、本当だったの?」

「お姉様、シャーミイはいました?あ………」

 

 アメル様だけではなく、続々と知り合いが集合してきた。

 アルメイア様、護衛の人、ホーツマスの領家の当主夫婦。兄弟らしき人もいる。


「お久しぶりです。えーと、帰ってこれました……あははは……ははは……」


 ごめんユーゼフさん、台無しだよ。




 その後はホーツマス家の屋敷に拉致られ、これまた根掘り葉掘り聞かれた。

 取り敢えず城で詳しいことを報告してからということで納得してくれたが、ホーツマス姉妹の空気が妖しい。

 涙ながらに再会を喜んでくれたが、直ぐに獲物を狙う肉食動物みたいな雰囲気で、物理的な距離を詰めきた。

 アメル様は変わんないけど、アルメイア様ってもっと大人しかったような。

 幸いシャーミイが僕の傍で目を光らせてくれているから事なきを得ている。


 メスだけど男前だぜ。

 そんなことを思ったら足をガブリと噛まれたけれども。




 城に行くまでの間、様々な人がホーツマス家に訪ねてきては追っ払われていた。

 北方や西方や王家の関係者たちらしいけど、大家の人間関係っていつもこんなに忙しいのだろうか。


 午後にはユーゼフさんたちもホーツマス家に合流して、一緒にお城にドナドナされている。


「間が悪いのお……今日が儂の命日になるかも……」

「骨は拾ってやるぜ、旦那」

「お前は道連れじゃ」

「マジカヨ……」


 昨日のテンションは何処へやら、暗いユーゼフさんをテンジンさんが茶化している。

 ルフリアは責めるように僕を無言で見て来るし。最近目で語るのにはまっているのだろうか。ご要望、ご不満は口で言って欲しい。

 

「はあ……きっと各方面に情報が流れとるんじゃろうなあ……もう腹を括るしかあるまいて」

「坊主、くれぐれも頼んだぞ。お前に俺たちの明日が掛かってるんだからな」

「善処します」

「絶対分かってないだろ」


 何だかすっかり元に戻ったみたいなやり取りをしつつ、お城へと通され、すぐさま着替えさせられた。

 パーティーの時とは比べ物にならない厳粛な雰囲気の中、僕だけが正面の扉から謁見の間に通される。

 ファリファスさんに報告して、豪華なご飯をたかりに来ただけなのに、どうして?


 謁見の間に集った人々のどの顔も、驚きやらなにやらで、感情が表に出ていた。戸惑っているのは僕だけではないらしい。

 僕は既定の距離で跪き、言葉を待った。


「流民の戦士シンヤ、君はかつて闘技大会で優勝したシンヤで相違ないか」

「はっ、相違ございません」

「で、あるか……」


 沈黙とざわめきが流れる。北方に行くときはあっさりだったけど、帰って来たら何でこんなに面倒くさいのだろうか。


「詳しい報告は後で聞くものとして、まずは貴殿の帰還を喜ぼう。よくぞ北方の怪物どもを退けてくれた。感謝しよう」

「勿体なきお言葉。ただ、私は騎士ファリファス様の命により動いたまでのことです」

「ああ、存じておる。勿論騎士の英断にも相応の報酬を用意するが……貴殿は何を望む。王として、国として、望むものを用意しよう。財宝、城、……人でもな」


 人と言った時、目線が露骨にアレイシア様の方を見た気がしたけど、気のせいだろう。


 うーん、それにしても困った。

 これ、闘技大会と同じパターンだ。

 なんか貰わないといけない流れか。


 前は自由を貰った。

 その次は別大陸の侵略の防止。

 復興の援助は普通に政治的なものだし、僕が発言することでもないだろう。

 端的に言えばネタ切れです。


「望むものはありません。私は自分の行為に価値が付くことは望みません。私が命を賭けて戦ったのは報酬のためではなく、ただ苦しんでいる誰かを放って置けなかっただけです。前にお伝えした通り、私は私が救われた分だけ多くの人を救いたい、ただそれだけの為に生きていますから」

「うむ……であるか……」


 綺麗ごとだが初志貫徹。

 まさかお城ご飯まで無くなったりしないよね?暴動も辞さんぞ。

 王様がシンシア様の方をチラリと確認するが、シンシア様は僕を見ていて気付いていない。というか気付かないふりしてるな。


 アレイシア様もずっと見てくるけど、こっちは熱線が放たれそうなほどのガン見だった。瞬きしてなくない?

 誰にも意見が貰えず、仕方なさそうに王様は頷いた。


「……そなたの生き方には余計な真似であったな。よいだろう、この話は終わりだ。無粋なことを申したな」

「お心遣い痛み入ります」


 謁見は終わったが、ファリファスさんを含め、関係者が集められてその場で報告をしなくてはいけない。

 集められた部屋には王様を始め、王家や領家の代表がいた。

 謁見の間の10分の1くらいの人数だけだが階級は高そうだ。関係者としてユーゼフさんたちもいる。


 今日の早朝に報告が挙げられたからか、地方の人間はほとんどいない。

 ホーツマス家は良く首都に来ていたらしい。

 シャーミイまで連れてきてたし、領地に野盗が居なくなってアグレッシブになったのかな。


 僕は昨日ユーゼフさんたちに聞かせた話と同様のことを話した。

 懐疑的な人もそれなりにいるけど、理解を示してくれた人もちゃんといる。

 そんな中で、難しそうに眉間にしわを寄せているファリファスさんが口を開いた。


「話の中に出てきた天竜が別大陸にいるのは分かったが、地竜はどうなったんだ?退けたとは聞いたが、特に亡骸は……」

「別大陸にいますよ。天竜からしごかれています。地竜本人も別大陸に居場所を移したので、この大陸に戻ってくることは無いですよ」

「……しごかれ?」


 核は小さくなったが、それでもアバダンのステータスはベリエル並だった。

 おまけにずっと寝ていたせいで碌に力の使い方も知らないから、ベリエルが直々に指導している。


 同じ技能LVでも強さは雲泥で、毎日ボコボコにされていた。

 会う度にここに居てくれと泣きつかれている。

 僕がいるとちょっとベリエルが手心を加えてくれるらしい。

 僕が見てても手足が消し飛んだりしてたけど、普段どれだけヤバイのだろうか。

 

 ついでにベリエルから頼まれたので、アバダンも眷属にもした。

 アバダンもベリエルを従え、自分の核を破壊した僕のことを上位者と認識しているようなので異論はなかった。


 眷属になった直後はへりくだり過ぎて、天竜に誇りを持てとぶっ飛ばされていた。

 勿論そんなことはここで言うつもりもない。


「うむ……ではこの大陸に地竜がいないのなら、今後は怪物の心配はしなくてもよいのか?」

「断言は出来ませんが、確実に影響は少なくなります。ただし、地竜の眠っていた大穴には大きな力の流れがあるらしいので、その影響で生物が怪物化する可能性はまだあるかと」


 北方領家の代理人の質問に答える。

 こればっかりは何十年、何百年後でないと分からない。

 原初の生命である地竜が特別なのは分かるが、普通の動物に同じことが起きないとも限らない。


「いい方向には向かっていく、そう解釈しても構わないのね」

「そうだな。受けた被害を考えれば諸手は上げられんが、悪いことばかりではなかったわけか」


 シンシア様と王様の会話で話し合いは締めくくられた。


 しゃあっ!難しい話が終わったら飯だ、飯!無礼講のお食事会だぞ!

 ずっと心残りだったお城ご飯がようやく食べられる。

 今日いきなりは流石に無理だろうけど。


「シンヤ、少しいいかしら」

「よくな、いえ、なんでしょうアレイシア様」


 内心のテンションの所為で、思わず本音が漏れかけたが何とか取り繕う。

 各々が退出する中、目の前に立った高貴な美女であるアレイシア様に、急速に苦手意識が湧いて出てくる。

 最後の方はマシになったのに、一年で耐性が無くなったようだ。

 というかこの場にいたのか。記憶では政治とか興味ある感じでもなかったけど。


「部屋で話をしない?ここは人の耳が多いわ」

「……え、えーと……」

「姫、申し訳ございませんが、彼と先約がございます。火急の用ですのでご遠慮いただければと」

「……そう。分かったわ、所用を済ませてからゆっくりと話しましょう、シンヤ」


 ファー!ファリファスさんナイスっす。変わらない気遣い痛み入ります。

 王家と言えど口を挟める騎士とか痺れますわ。

 苦虫をかみつぶした顔を一瞬見せたが、何でもなさそうに僕に笑いかけてアレイシア様は去って行った。

 どっと力が抜ける。ファリファスさんはちょっと口元を抑えて笑みを噛み殺してから、真面目な顔で向き直った。


「さあ、執務室に行こうか。ユーゼフ殿、テンジン殿、従者殿も来られるといい」


 通された執務室の椅子に各々が座り、エドガーさんはファリファスさんの後ろに控える。


「シンヤ君には大変なことを任せてしまったな。私の先見の無さを恥じ入るばかりだ。済まなかった」


 深く頭を下げるファリファスさんに慌てる。


「頭を上げてください、どちらかと言えば先見の明が国で一番ありましたよ。事実、天竜の介入からの展開は、僕でないと難しかったでしょうから」

「そう言ってもらえると助かるが……本当に報酬はあのままで良かったのか?」

「寧ろそのために大陸を舞い戻ってきたぐらいです」

「……クハハハハハッ、それを聞くと、何というか、ククッ、凄まじい褒賞を用意していた気にさせられるな」


 ファリファスさんツボってる。そこまで笑えることだっただろうか。

 でもファリファスさんの態度はありがたい。

 敢えてなのか、軍人としての慣れなのか分からなけど、見掛けの変化や右腕のことに触れて来ないのも助かる。


「贅沢な報酬だと思いますよ。独り占めではないですけど、王様くらいの権限がないと無理な要望じゃないですかね」

「確かにな。では慎ましくも豪華にしようではないか。諸々準備もあるから、予定は3日後で構わないか?」

「大丈夫です。お腹を空かせておきますのでご心配なく」

「心得た。ところで、北方の怪物や地竜との戦いを詳しく聞かせてくれないか?」

「ああ、それはですねえ……」


 ファリファスさんも色々聞きたいことがあるみたいで、しばらく話し込んでからユーゼフさんの屋敷に帰った。

 アレイシア様?ガチで忘れてました。

 勿論ファリファス大明神が取りなしてくれたのでセーフです。




 予定としては、王都で3日間過ごして、晩餐会の後に旅立つ名目でモラスティア大陸に帰り、お土産を渡してから元の世界に転移する。


 勿論この大陸での滞在はこれで最後ではなく、時間が空いたらまた知り合った人々に会いに行くつもりだ。


 短くとも、多くの人の縁を紡いだ箱庭の旅路は、こうして終わりを迎える。

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