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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第五章 深淵で生きる者
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第六十二話 龍神王とたまもひめ

「りゅ、龍神王が、なぜ……」


 先ほどまで、千里がいたというのに、今は、龍神王が目の前にいる。

 これには、妖達も、騒然としているようだ。

 やはり、龍神達を束ねる者だけあって、深淵の妖達も、恐れおののいているようであった。


「怒りを鎮めなさい。彼らは、敵ではありません」


「し、しかし……」


「鎮めなさい」


 妖達に、命じる龍神王。

 妖達は、戸惑いつつも反論するが、龍神王は、再度、命じる。

 それも、低い声で。

 妖達は、龍神王には、逆らえないのだろう。

 それほどの力と影響力を彼女は持っているという事だ。

 妖達は、不服な顔をしながらも、龍神王の命令に従い、跪いた。


「この者達が、言っている事は、まぎれもない真実。和ノ国を守り、妖達と共に生きたいと望んでいるのです。我らも、この者達に助けられました」


「本当、に?」


「はい」


 龍神王は、老婆のように、優しく、語りかける。

 柚月達の意思、そして、龍神王も、柚月達に助けられたことを。

 妖達は、目を見開き、龍神王に問いかける。

 信じられないのだろう。

 人間が、妖を助けたなどと。

 だが、それは、まぎれもない事実。

 龍神王は、静かにうなずいた。


「……そうですか。ならば、信じましょう」


「信じてくれるのですね」


「あなたの言葉は」


「ありがとう。彼らをよろしくお願いします」


 どうやら、妖達は、信じる気になったようだ。

 と言っても、信じられるのは、柚月達ではなく、龍神王だという。

 未だ、柚月達を受け入れられないのだろう。

 それでも、自分の言葉を信じてくれるという事は、柚月達に刃を向けることはしないはず。

 龍神王は、そう察し、微笑みながら、柚月達の事を妖達に託し、千里に体を開け渡した。


「千里!」


「大丈夫?」


「あ、ああ。体を貸していただけだ」


 柚月達は、千里の元へ駆け寄り、身を案じる。

 だが、千里は、龍神王に体を貸していただけ。

 特に、体に異常はない。

 千里は、自分の体が、正常の動くことを確かめるように、手を握り、開くの動作を繰り返した。


――まさか、龍神王の声が聞けるとはな。


 内心、千里は、驚きを隠せない。

 龍神王の声が聞こえるとは、思ってもみなかったのであろう。

 千里は、集落を出てから、一度も、帰還していない。

 ゆえに、龍神王の声を聞いたのは、六百年ぶりなのだ。

 だが、今にして思えば、不思議な事ではない。

 龍神王は、自分の力を千里に分け与えてくれたのだ。

 千里を復活させるために。

 その力を通して、龍神王は、深淵の界で、具現化することができたのだろう。


「あの龍神王が、お前達に助けられていたとはな」


「これで、信用してもらえるか?」


「それは、お前達次第だ」


 妖達は、半信半疑のようだ。

 人間の事は、信じられない。

 だが、龍神王は、柚月達に助けられたことは、間違いないのであろう。

 だからこそ、柚月達の行動次第で、人間を信じるに値するか、見極める必要があると判断し、怒りを鎮めてくれたのだろう。


「それで、ここへ何しに来た」


「……奥に、深淵の囚人がいるはずだ。俺達は、そいつを殺しに来た」


 妖は、問いかける。

 そもそも、何の目的で、深淵の界に、入り込んだのかが、わからない。

 いや、龍神王と会話を交わすまでは、柚月達は、自分達を討伐するつもりなのではないかと考えていたようだ。

 笠斎も、騙されているのではないかと。

 それゆえに、妖達は、柚月達に、攻撃を仕掛けたのであった。

 だが、それは、間違っていたようだ。

 柚月は、ここへ来た理由を明かす。

 すると、妖達は、目を見開き、驚愕していた。


「いいのか?同じ人間を殺せるのか?」


「やらなければならないんだ。あいつは、危険だ」


 妖達は、疑問を抱く。

 深淵の囚人は、妖ではなく、人間だ。

 その人間を殺せるのだろうか。

 柚月は、自分の意思を告げる。

 和ノ国を滅ぼさんとするものは、たとえ、人間であっても、食い止めなければならない。

 罪人と罵られても。

 柚月は、覚悟を決めて、ここに来た。

 そう、妖達は、察した。


「いいだろう。俺達も一緒に行く。お前達の事、見極めさせてもらうぞ」


「ああ」


 妖達は、共に行くことを宣言する。

 本当に、彼らが、和ノ国を守ろうとしているのか、自分達、妖達を助けようとしているのか、見極める必要があるからだ。

 深淵の囚人を殺す事で。

 柚月達は、同行を反対することなく、承諾した。


「柚月、妖達は、私達を認めてくれた?」


「かもしれないな」


 瑠璃は、小声で柚月に問う。

 妖達は、本当は、認めてくれたのではないかと。

 柚月の覚悟を感じ取って。 

 柚月も、確証はない。

 だが、柚月の目からも、そのように思え、うなずいた。


「行くぞ」


 柚月達は、再び、進み始める。

 妖達と共に、深淵の囚人がいる最深部を目指して。



 朧達も、柚月達と同様に、最深部を目指していたのが、妖達に、取り囲まれてしまい、交戦せざるおえなくなった。

 と言っても、妖達を殺すつもりはない。

 妖達の攻撃を防ぎ、受け流し、妖達を説得する機会をうかがっていた。


「おらあっ!」


 九十九が、回転しながら豪快に紅椿を振り回す。

 妖達は、とっさに、回避するが、少しでも、遅ければ、九十九の刃に刻まれていたであろう。

 だが、九十九は、気にも留めず、構えた。

 久々の戦いで、興奮しているらしい。


「九十九、乱暴なことはしない!」


「んなこと言ったって、こいつら、殺しに来てるんだぞ?」


 朧は、九十九を制止させる。

 殺すために戦っているのではない。

 だが、九十九の言う事も一理ある。

 刀を振るわなければ、殺されるのは、自分達だ。

 もちろん、朧も、ここで、死ぬつもりはない。

 かといって、妖達を傷つけることだけはしたくなかった。


「けど、私達が、危害を加えれば……」


「信じてもらえなくなりますよ」


「ちっ」


 綾姫も、美鬼も、九十九を説得する。

 もし、自分達が、妖達に危害を加えれば、妖達に信じてもらえなくなり、説得の機会は、失われてしまうだろう。

 それだけは、なんとしても避けたい。

 九十九も、事態を把握したようで、舌打ちをしながら、一歩下がった。


――話せばわかるはずだ。きっと……。


 妖と言えど、自分達の意志をわかってもらえば、考えを改めるかもしれない。

 人間と妖は、相容れぬ関係ではないからだ。

 互いを理解し、共に歩んできた。 

 ここにいる妖達は、その事をまだ、知らないのだ。


「話を聞いてほしい!俺達は、お前達を殺すつもりはない!」


「黙れ!」


 朧は、妖達に説得を試みる。

 自分達は、敵ではないと。

 だが、妖達は、朧の言葉を信じず、朧に刃を向けた。


「っ!」


「朧君!」


 朧は、とっさに、後退するが、頬を斬られてしまい、頬からは、血が流れた。

 妖達は、朧の話を聞くつもりはないようだ。

 殺気を朧に向けていた。


「てめぇ!」


「やめろ、九十九!」


「ちっ……」


 親友を傷つけられ、九十九は、怒り任せに、刀を振り上げる。

 だが、朧が、九十九の腕をつかんで、制止させた。

 怒りを鎮めさせるために。

 我に返った九十九は、舌打ちをしながらも、刀を静かに、おろす。

 だが、許すつもりはないようだ。

 九十九は、妖達をにらみつけ、妖達は、恐れおののき、後退し始めた。

 そこへ、朧が、一歩前に出る。

 今度こそ、妖達に信じてもらうために。


「本当なんだ、嘘じゃない」


「信じられるわけないだろ!」


 朧は、再度、説得を試みる。

 妖達に刃を向けることなく。

 妖達には、理解しかねる行動であろう。

 なぜ、刃を向けないのか。

 混乱し、妖達は、朧に襲い掛かろうと迫った。


「朧!」


「やめろ!!」


 綾姫も、美鬼も、息を飲む。

 今にも、朧は、殺されそうだと感じたからだ。

 すると、九十九は、とっさに、九尾の炎を発動してしまった。

 朧を守るために。

 九十九は、我に返るが、時すでに遅し。

 九尾の炎は、妖達を焼き殺そうとしていた。

 だが、その時だ。

 九尾の炎の勢いが止まり、妖狐の姿に変化したのは。


「あ、貴方は……」


「たまもひめ!」


 朧達の前に現れたのは、なんと、たまもひめだ。

 朧達は、あっけにとられ、目を見開いたまま、固まっている。

 まさか、たまもひめが、現れるとは思ってもみなかったのであろう。

 しかも、九十九が、発動した九尾の炎に宿って。

 たまもひめが、九十九に九尾の命火を与えたも同然。

 それゆえに、九尾の命火の力により、たまもひめが姿を現したのだろう。


「たまもひめ?」


「妖狐の始祖ですよ」


「はぁ?」


 九十九は、たまもひめの存在を知らない。

 ゆえに、名を聞いても、ピンと来ないようだ。

 美鬼が、たまもひめについて説明するが、九十九は、ただただ、首をかしげるばかりであった。

 妖狐の始祖と言われても、事態を把握できないのであろう。


「ほう、この者が、我が同胞か。いささか、生意気な顔をしておる」


「だ、誰がだ!」


「威勢がいいのも、また、生意気よの」


 たまもひめが、振り返り、九十九の様子を見て、挑発し始める。 

 九十九は、まんまと、その挑発に乗り、反発するが、たまもひめは、動じることなく、冷静に、九十九に語りかけた。 

 妖の目の前にいるというのに、その様子は、余裕と言わんばかりだ。

 妖達は、たまもひめを警戒し、唸り声を上げる。

 それでも、たまもひめは、冷静さを保ったまま、振り返った。


「さて、我も、混ぜてもらうぞ」


 たまもひめは、構えた。

 朧達を守るために。


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