第六十一話 仕掛けられた罠
「ど、どうしたらよいのだ……。みな、どこへ……」
「わからねぇ。どうなってやがるんだか……」
光焔も、笠斎も困惑気味の様子だ。
何が、起こっているのか、事態が把握できていないのだろう。
どこを見ても、柚月達の姿は見当たらない。
本当に、術によって転移してしまったようだ。
「とにかく、今は、あいつらを信じて、行くしかねぇさ。あいつらは、強そうだしな。そのうち、合流できるだろ」
「そ、そうか……」
笠斎は、冷静さを取り戻し、光焔に、先に進むよう促す。
彼らは、どこかへ転移しただけだ。
無事であるはずだと信じるしかない。
それに、笠斎は見抜いていたようだ。
柚月達の強さを。
光焔は、未だ、困惑しているが、笠斎の指示に従った。
「行くぞ、光焔」
「うむ!」
光焔は、笠斎と共に、奥を目指す。
柚月達と合流できることを信じて。
朧、九十九、綾姫、美鬼は、どことも知れぬ場所へと転移されてしまう。
光焔と笠斎、そして、柚月達の姿を見つけられず、彼らもまた、困惑していた。
「ど、どうなってやがるんだ?」
「わからない。戦力を分断させようとしていたのか?」
「そういうことになるわね」
朧達は、徐々に、事態を把握する。
罠をはまり、柚月達と別れてしまったのだと。
おそらく、妖達は、柚月達の戦力を分断し、隙を狙って、朧達を殺そうとしていたのだろう。
やはり、ここの妖達は、柚月達を敵とみなしているようだ。
「ちっ。俺達を殺すつもりか?こんなので、死ぬかっつうんだよ。かかってくる奴らは、みんな、ぶっ殺してやる」
九十九は、笑みを浮かべて、呟く。
好戦的なところは、相変わらずと言ったところであろうか。
いや、久しぶりに復活したためか、血がたぎってきたのかもしれない。
「九十九、今は、そのような事を言っている場合ではありません」
「うん。兄さん達と合流しないと」
美鬼は、あきれた様子で、冷静に、九十九を諭す。
今は、柚月達と合流することの方が先決だ。
もし、妖達と遭遇し、交戦することになれば、妖達の策略にはまってしまうだろう。
先ほどの戦いのように、ここの妖達は、一筋縄ではいかないはずだ。
ご丁寧に、罠まで仕掛けてあったのだから。
「そうよ、九十九」
「……わかってるよ」
綾姫にも、諭されてしまった九十九は、舌打ちはしなかったものの、どこか、不服そうだ。
久しぶりに、暴れられると期待していたのだろうか。
朧は、そんな九十九に対して、内心、あきれつつ、同時に、相変わらず頼もしいと心のどこかで思ってしまった。
「行こう」
朧達は、進み始める。
一刻も早く、柚月達と合流するために。
足早に、深淵の界を駆けていくのであった。
柚月、千里、瑠璃も、どことも知れぬ場所に、転移され、柚月達は、互いに顔を見合わせていた。
誰もが冷静さを保ったまま。
「皆、大丈夫か?」
「うん、問題ない」
「俺もだ」
「そうか」
柚月達は、互いの無事を確認し、あたりを見回している。
やはり、状況を把握していないようだ。
困惑した様子で見ていたのであった。
しかし、何度、あたりを見回しても、朧達の姿はなかった。
「……朧達がいない」
「おそらく、妖の罠にはまったんだろうな」
「俺達を殺すつもりかもしれないな」
朧の姿を見つけられず、不安に駆られる瑠璃。
朧の身を案じているのだろう。
続いて、千里が、状況を把握する。
自分達は、妖達の罠にはまってしまったのだと。
自分達の戦力を分断するために。
柚月も、状況を飲みこみ、推測する。
おそらく、自分達を殺すために、罠にはめたのだろうと。
「柚月、これからどうする?」
「……このまま、先へ行く。朧達もそうしているはずだ」
「了解した」
千里は、柚月に問う。
柚月に判断をゆだねたようだ。
柚月は、冷静に答える。
先に進み、朧達と合流すると。
今は、そうするしかない。
一刻も早く、深淵の囚人を殺さなければならないのだから。
瑠璃は、静かに、うなずき、承諾した。
しかし……。
「待て、誰かいるぞ」
千里が、何者かの気配に気付き、柚月達を制止させる。
柚月達は、立ち止まり、警戒すると、次々と妖達が、現れ、柚月達を取り囲んだ。
それも、唸り声を上げ、威嚇しながら。
彼らを逃がすつもりはないらしい。
殺そうとしているようだ。
「妖か……。やはり、俺達は、敵とみなされてるのかもしれないな」
妖の様子を目にした柚月は、鞘から草薙の剣を抜き、構える。
前に進むためには、妖達と対峙しなければならないようだ。
千里は真月を、瑠璃は白桜を手にし、構えた。
その直後、妖達が、一斉に柚月達に襲い掛かる。
柚月は、草薙の剣で妖を攻撃を受け流し、、瑠璃は舞を踊りながら、妖達の攻撃を防ぐ。
千里はも、薙ぎ払うように、妖達をひるませる。
やはり、柚月達の実力は、妖達を上回っているようだ。
劣勢を強いられた妖達は、柚月、瑠璃へと容赦なく、向かっていく。
だが、柚月と瑠璃は、傷を負うことなく、妖達の攻撃を防ぎきった。
――この妖達。様子がおかしい。柚月と瑠璃を狙ってるのか?
妖達の様子にに気付いた千里。
妖達は、柚月と瑠璃ばかりを狙っているのだ。
自分は、狙われていない。
柚月と瑠璃に迫りくる妖達を切り裂いているだけだ。
なぜ、彼らは、自分を狙おうとしないのだろうか。
思考を巡らせながら、刀を振るう千里。
すると、千里は、なぜ、妖達が、柚月達を狙っているか、察した。
「……一か八かだ」
千里は、ある行動に出る。
それは、一斉に襲い掛かる妖達に対して、千里は、柚月と瑠璃の前に出て、構えることなく、無防備のまま立った。
柚月と瑠璃を守るように。
「千里、何をやってるんだ!」
柚月は、危機を察知し、千里を下がらせようとするが、千里は、一歩も動こうとしない。
妖達が、着々と迫っているが、千里は、引き下がることなく、妖達の前に立ちはだかった。
柚月と瑠璃を前に出させようともせず。
しかし、寸前のところで、動きを止める。
しかも、体を震わせて。
「妖達が……」
「千里を殺そうとしない?」
柚月も、瑠璃も、目を見開いたまま、動揺する。
妖達は、千里を殺そうとしなかったのだ。
なぜ、千里を殺そうとしないのだろうか。
柚月も、瑠璃も、見当がつかず、困惑していた。
「なぜ、人間をかばう?」
「柚月達は、俺達妖の敵じゃない」
「敵だ」
「違う」
妖が、千里に尋問する。
信じられないのだろう。
千里が、妖達の敵である柚月達をかばった事が。
千里は、冷静に答える。
柚月達は、妖の敵ではないと。
だが、妖達は、千里の言葉でさえも、信じられないようだ。
柚月達の事を敵だと認識しているらしい。
それでも、千里は、首を横に振った。
「俺達は、お前達を殺しに来たわけじゃない。和ノ国を、お前達を救うために、ここへ来た」
「信じられるか!人間をかばうなら、お前も、敵だ!」
千里は、説得を試みる。
だが、妖達は、千里の言う事を聞こうとせず、怒りを露わにした。
理解できないのだろう。
千里が、なぜ、人間を信じるのか。
妖達は、苛立ち、ついには、千里に襲い掛かり始めた。
柚月達、人間達に味方する千里でさえも、敵とみなして。
「千里!」
柚月は、千里を強引に引き下がらせ、前に出る。
だが、柚月は、草薙の剣で妖達を切り裂こうとせず、両手を広げた。
妖の刃が、柚月の頬を切り裂き、柚月の頬からは、血が流れ始めた。
それでも、柚月は、反撃をしようとしない。
妖達は、理解できず、戸惑った。
「柚月!」
瑠璃と千里は、驚愕し、柚月の元に歩み寄る。
柚月の身を案じて。
だが、柚月は、動じることはなかった。
何があっても。
「なぜ、刀を使わぬ?」
「敵じゃないからだ」
妖は、柚月に問いただす。
なぜ、敵である彼は、刀を使うことなく、ただ、自分達の前に立ったのか理解不能だからだ。
柚月は、妖の問いに答えた。
妖達の事を敵だとみなしていなかった。
「俺達は、お前達を殺すつもりはない。人間と妖は、共に生きることができるはずだ!」
柚月も、説得を試みる。
人間と妖は、共存することができる。
そう、信じているからだ。
だからこそ、妖達を斬り捨てることはしなかった。
しかし……。
「信じぬ!絶対に!」
「柚月!」
妖達が、いきり立って、柚月に襲い掛かる。
このままでは、柚月の身が危険に晒される。
もう、斬るしかない。
妖達を、同胞を殺すしかない。
千里が、覚悟を固め、柚月を守ろうと、真月を握りしめる。
だが、その時であった。
――千里!
「っ!」
しゃがれた老婆の声が聞こえる。
龍のように力強さを感じて。
だが、どこか、優しく懐かしい。
千里が、そう感じた時、異変が生じた。
自分の体が熱く感じ、光を発したのだ。
「な、なんだ!?」
まばゆい光は、妖達を包み込む。
妖達は、眩しすぎる光に耐え切れず、きつく目を閉じた。
だが、その光は、決して、妖達を殺そうとも、浄化しようともしない。
ただ、優しく、包みこんだ。
柚月も瑠璃ものあまりの眩しさに、目を閉じていたが、光が止んだようで、ゆっくりと目を開けた。
その瞬間、柚月達は、目を見開き、驚愕した。
「お、お前は……」
「龍神王?」
柚月達の前にいたのは、千里ではない。
かつて、千里の為に、闇の力を与えてくれた優しき龍神。
あの龍神王であった。




