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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第五章 深淵で生きる者
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第六十一話 仕掛けられた罠

「ど、どうしたらよいのだ……。みな、どこへ……」


「わからねぇ。どうなってやがるんだか……」


 光焔も、笠斎も困惑気味の様子だ。

 何が、起こっているのか、事態が把握できていないのだろう。

 どこを見ても、柚月達の姿は見当たらない。

 本当に、術によって転移してしまったようだ。


「とにかく、今は、あいつらを信じて、行くしかねぇさ。あいつらは、強そうだしな。そのうち、合流できるだろ」


「そ、そうか……」


 笠斎は、冷静さを取り戻し、光焔に、先に進むよう促す。

 彼らは、どこかへ転移しただけだ。

 無事であるはずだと信じるしかない。

 それに、笠斎は見抜いていたようだ。

 柚月達の強さを。

 光焔は、未だ、困惑しているが、笠斎の指示に従った。


「行くぞ、光焔」


「うむ!」


 光焔は、笠斎と共に、奥を目指す。

 柚月達と合流できることを信じて。



 朧、九十九、綾姫、美鬼は、どことも知れぬ場所へと転移されてしまう。

 光焔と笠斎、そして、柚月達の姿を見つけられず、彼らもまた、困惑していた。


「ど、どうなってやがるんだ?」


「わからない。戦力を分断させようとしていたのか?」


「そういうことになるわね」


 朧達は、徐々に、事態を把握する。

 罠をはまり、柚月達と別れてしまったのだと。

 おそらく、妖達は、柚月達の戦力を分断し、隙を狙って、朧達を殺そうとしていたのだろう。

 やはり、ここの妖達は、柚月達を敵とみなしているようだ。


「ちっ。俺達を殺すつもりか?こんなので、死ぬかっつうんだよ。かかってくる奴らは、みんな、ぶっ殺してやる」


 九十九は、笑みを浮かべて、呟く。

 好戦的なところは、相変わらずと言ったところであろうか。 

 いや、久しぶりに復活したためか、血がたぎってきたのかもしれない。


「九十九、今は、そのような事を言っている場合ではありません」


「うん。兄さん達と合流しないと」


 美鬼は、あきれた様子で、冷静に、九十九を諭す。

 今は、柚月達と合流することの方が先決だ。

 もし、妖達と遭遇し、交戦することになれば、妖達の策略にはまってしまうだろう。

 先ほどの戦いのように、ここの妖達は、一筋縄ではいかないはずだ。

 ご丁寧に、罠まで仕掛けてあったのだから。


「そうよ、九十九」


「……わかってるよ」


 綾姫にも、諭されてしまった九十九は、舌打ちはしなかったものの、どこか、不服そうだ。

 久しぶりに、暴れられると期待していたのだろうか。

 朧は、そんな九十九に対して、内心、あきれつつ、同時に、相変わらず頼もしいと心のどこかで思ってしまった。


「行こう」


 朧達は、進み始める。

 一刻も早く、柚月達と合流するために。

 足早に、深淵の界を駆けていくのであった。


 

 柚月、千里、瑠璃も、どことも知れぬ場所に、転移され、柚月達は、互いに顔を見合わせていた。

 誰もが冷静さを保ったまま。

 

「皆、大丈夫か?」


「うん、問題ない」


「俺もだ」


「そうか」


 柚月達は、互いの無事を確認し、あたりを見回している。

 やはり、状況を把握していないようだ。

 困惑した様子で見ていたのであった。

 しかし、何度、あたりを見回しても、朧達の姿はなかった。


「……朧達がいない」


「おそらく、妖の罠にはまったんだろうな」


「俺達を殺すつもりかもしれないな」


 朧の姿を見つけられず、不安に駆られる瑠璃。

 朧の身を案じているのだろう。

 続いて、千里が、状況を把握する。

 自分達は、妖達の罠にはまってしまったのだと。

 自分達の戦力を分断するために。

 柚月も、状況を飲みこみ、推測する。

 おそらく、自分達を殺すために、罠にはめたのだろうと。


「柚月、これからどうする?」


「……このまま、先へ行く。朧達もそうしているはずだ」


「了解した」


 千里は、柚月に問う。

 柚月に判断をゆだねたようだ。

 柚月は、冷静に答える。

 先に進み、朧達と合流すると。

 今は、そうするしかない。

 一刻も早く、深淵の囚人を殺さなければならないのだから。

 瑠璃は、静かに、うなずき、承諾した。

 しかし……。


「待て、誰かいるぞ」


 千里が、何者かの気配に気付き、柚月達を制止させる。

 柚月達は、立ち止まり、警戒すると、次々と妖達が、現れ、柚月達を取り囲んだ。

 それも、唸り声を上げ、威嚇しながら。

 彼らを逃がすつもりはないらしい。

 殺そうとしているようだ。


「妖か……。やはり、俺達は、敵とみなされてるのかもしれないな」


 妖の様子を目にした柚月は、鞘から草薙の剣を抜き、構える。

 前に進むためには、妖達と対峙しなければならないようだ。

 千里は真月を、瑠璃は白桜を手にし、構えた。

 その直後、妖達が、一斉に柚月達に襲い掛かる。

 柚月は、草薙の剣で妖を攻撃を受け流し、、瑠璃は舞を踊りながら、妖達の攻撃を防ぐ。

 千里はも、薙ぎ払うように、妖達をひるませる。

 やはり、柚月達の実力は、妖達を上回っているようだ。

 劣勢を強いられた妖達は、柚月、瑠璃へと容赦なく、向かっていく。

 だが、柚月と瑠璃は、傷を負うことなく、妖達の攻撃を防ぎきった。


――この妖達。様子がおかしい。柚月と瑠璃を狙ってるのか?


 妖達の様子にに気付いた千里。

 妖達は、柚月と瑠璃ばかりを狙っているのだ。

 自分は、狙われていない。

 柚月と瑠璃に迫りくる妖達を切り裂いているだけだ。

 なぜ、彼らは、自分を狙おうとしないのだろうか。

 思考を巡らせながら、刀を振るう千里。

 すると、千里は、なぜ、妖達が、柚月達を狙っているか、察した。


「……一か八かだ」


 千里は、ある行動に出る。

 それは、一斉に襲い掛かる妖達に対して、千里は、柚月と瑠璃の前に出て、構えることなく、無防備のまま立った。

 柚月と瑠璃を守るように。


「千里、何をやってるんだ!」


 柚月は、危機を察知し、千里を下がらせようとするが、千里は、一歩も動こうとしない。

 妖達が、着々と迫っているが、千里は、引き下がることなく、妖達の前に立ちはだかった。

 柚月と瑠璃を前に出させようともせず。

 しかし、寸前のところで、動きを止める。

 しかも、体を震わせて。


「妖達が……」


「千里を殺そうとしない?」


 柚月も、瑠璃も、目を見開いたまま、動揺する。

 妖達は、千里を殺そうとしなかったのだ。

 なぜ、千里を殺そうとしないのだろうか。

 柚月も、瑠璃も、見当がつかず、困惑していた。


「なぜ、人間をかばう?」


「柚月達は、俺達妖の敵じゃない」


「敵だ」


「違う」


 妖が、千里に尋問する。

 信じられないのだろう。

 千里が、妖達の敵である柚月達をかばった事が。

 千里は、冷静に答える。

 柚月達は、妖の敵ではないと。

 だが、妖達は、千里の言葉でさえも、信じられないようだ。

 柚月達の事を敵だと認識しているらしい。

 それでも、千里は、首を横に振った。


「俺達は、お前達を殺しに来たわけじゃない。和ノ国を、お前達を救うために、ここへ来た」


「信じられるか!人間をかばうなら、お前も、敵だ!」


 千里は、説得を試みる。

 だが、妖達は、千里の言う事を聞こうとせず、怒りを露わにした。

 理解できないのだろう。

 千里が、なぜ、人間を信じるのか。

 妖達は、苛立ち、ついには、千里に襲い掛かり始めた。

 柚月達、人間達に味方する千里でさえも、敵とみなして。


「千里!」


 柚月は、千里を強引に引き下がらせ、前に出る。

 だが、柚月は、草薙の剣で妖達を切り裂こうとせず、両手を広げた。

 妖の刃が、柚月の頬を切り裂き、柚月の頬からは、血が流れ始めた。

 それでも、柚月は、反撃をしようとしない。

 妖達は、理解できず、戸惑った。


「柚月!」


 瑠璃と千里は、驚愕し、柚月の元に歩み寄る。

 柚月の身を案じて。

 だが、柚月は、動じることはなかった。

 何があっても。


「なぜ、刀を使わぬ?」


「敵じゃないからだ」


 妖は、柚月に問いただす。

 なぜ、敵である彼は、刀を使うことなく、ただ、自分達の前に立ったのか理解不能だからだ。

 柚月は、妖の問いに答えた。

 妖達の事を敵だとみなしていなかった。


「俺達は、お前達を殺すつもりはない。人間と妖は、共に生きることができるはずだ!」


 柚月も、説得を試みる。

 人間と妖は、共存することができる。

 そう、信じているからだ。

 だからこそ、妖達を斬り捨てることはしなかった。

 しかし……。


「信じぬ!絶対に!」


「柚月!」


 妖達が、いきり立って、柚月に襲い掛かる。

 このままでは、柚月の身が危険に晒される。

 もう、斬るしかない。

 妖達を、同胞を殺すしかない。

 千里が、覚悟を固め、柚月を守ろうと、真月を握りしめる。

 だが、その時であった。


――千里!


「っ!」


 しゃがれた老婆の声が聞こえる。

 龍のように力強さを感じて。

 だが、どこか、優しく懐かしい。

 千里が、そう感じた時、異変が生じた。

 自分の体が熱く感じ、光を発したのだ。


「な、なんだ!?」


 まばゆい光は、妖達を包み込む。

 妖達は、眩しすぎる光に耐え切れず、きつく目を閉じた。

 だが、その光は、決して、妖達を殺そうとも、浄化しようともしない。

 ただ、優しく、包みこんだ。

 柚月も瑠璃ものあまりの眩しさに、目を閉じていたが、光が止んだようで、ゆっくりと目を開けた。

 その瞬間、柚月達は、目を見開き、驚愕した。


「お、お前は……」


「龍神王?」


 柚月達の前にいたのは、千里ではない。

 かつて、千里の為に、闇の力を与えてくれた優しき龍神。

 あの龍神王であった。


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