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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第四章 炎と闇の復活
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第四十八話 たまもひめ

「妖狐の始祖?まじっすか……」


「知ってるの?真登」


「もちろんっすよ。有名っす!あのたまもひめは、一番最初に生まれた妖狐っす!だから、妖狐にとって、神のような存在っすよ。千年前から、生きてるっす」


 妖狐の始祖と聞いて、真登は驚きを隠せない。 

 どうやら、彼女の事を知っているようだ。 

 柘榴は、真登に尋ねる。

 真登は、たまもひめの事について説明した。

 千年前から生きている妖らしい。

 彼女が、九尾の命火と化して、妖狐達を守ってきたのだろう。


「そのたまもひめが、姿を現したというのは、どういう事じゃろうか」


「わかりません。ですが、柚月様を思いを受け取ったと話していました」


 春日は、たまもひめに対して、疑問を抱き始める。

 なぜ、たまもひめは、柚月の前に姿を現したのだろうか。

 彼を認めたという事なのだろうか。

 夏乃も、はっきりとは、答えられないが、柚月の想いを受け取ったという事は、彼の事を認めたのではないかと予想していた。


「ま、まさか、貴方様が、出てくるとは……」


「この男は、強い意志を持っているという事よ。我を目覚めさせることができるほどにな」


 炎尾は、驚いた様子で、たまもひめに語りかける。

 たまもひめが、柚月の前に姿を現すとは、炎尾にとっては、予想外の事だったようだ。

 たまもひめは、冷静に説明し始めた。

 九尾の命火と化したあと、彼女は、眠りについていたのだ。

 妖狐達を守るために。

 だが、柚月の意思を感じ取り、目覚め、姿を現した。


「この者達は、我らが、想っている以上に、妖の事を大切に思うておる。これで、分かったであろう。炎尾よ」


「はい」


 たまもひめは、柚月を認めていたのだ。

 信じるに値すると。

 彼女も、柚月が本当に信じるに値するか、疑っていたらしい。

 だが、仲間達が、柚月を支え、柚月の強い意志を感じ取った事により、たまもひめも、姿を表わそうと決意を固めたのだ。

 彼らと共に、和ノ国を、人間と妖を守らなければならないと。

 炎尾は、静かにうなずく。

 ついに、彼も、認めたのだ。

 柚月達は、信じるに値すると。


「柚月よ、そなたに、この九尾の命火を分け与えてやろう。持って行くがよい」


 たまもひめは、両手を自分の胸の高さまで上げ、掌から炎を出現させる。

 これこそが、九尾の命火だ。

 九尾の炎の中でも、最も強く、美しい。

 母親の妖狐は、おなかに子を身ごもった時に、たまもひめから、この九尾の命火を受け取ると言われている。

 おなかの子を守るために。

 長く生きられるように。

 まさに、命火だ。

 その命火をたまもひめは、柚月達に授けてくれるというのだ。

 九十九を復活させるために。


「ありがとうございます」


 柚月は、九尾の命火を手に取る。

 先ほどとは違って、痛みを感じない。

 とても、暖かい。

 柚月は、たまもひめたちに、感謝し、九尾の命火を八尺瓊勾玉へと封じ込める。

 これで、九十九は、復活を遂げられるだろう。

 柚月は、そう、確信していた。


「必ずや、我が同胞を復活させるのだぞ」


「はい」


 たまもひめは、柚月達に託す。

 人も、妖も、和ノ国の運命も。

 そして、九十九の事も。

 託された柚月はうなずく。

 朧達は、嬉しそうに、柚月の元へと集まっった。


「良かったわね、柚月……あら?」


「どうされましたの?綾姫」


「火傷が……ないわ」


「ほ、本当ですね」


 綾姫は、嬉しそうに柚月に語りかけ、火傷を治そうとする。

 だが、柚月の手は、火傷を負っていなかった。 

 あれほどの高熱の炎を素手で触れたのだ。

 火傷になってもおかしくなかったというのに。

 初瀬姫も夏乃も、驚いた様子で、柚月の手を凝視する。

 だが、柚月は、火傷を負わなかった理由を知っているようで、自分の手を見て、微笑んでいた。


「たまもひめのおかげなんでしょうね」


「うむ、その通りだ。朧」


 朧も、柚月が火傷を負わなかった理由に気付いたようだ。

 おそらく、たまもひめが、柚月の火傷を治したのだろう。

 彼を認めてくれたから。

 柚月は、害をなすものではなく、自分達を助けようとしてくれていると。

 光焔は、うなずき、答える。

 柚月と朧の予想通りのようだ。

 九尾の命火を手にした柚月達は、喜びを分かち合っている。

 その様子を明枇は、炎尾と共に遠くから見守っていた。


「……私達は、間違っていたのかもしれないな」


――お父上?


「人間という生き物は、自分達の命を奪う野蛮な存在だと思うておった。だが、我ら、妖の為に命をかける者もいるようだ」


――はい。


 炎尾は、考えを改めたようだ。

 人間は、自分達の命を奪う存在だと信じて疑わなかった。

 だが、柚月達の懸命な姿を目にして、理解したのだ。

 人間と妖は、わかり合うことができるのだと。

 そして、共に戦うことができるのだと。

 明枇は、嬉しそうにうなずく。

 炎尾が、柚月達の事を理解してくれたのだと察して。

 嬉しくてたまらなかったのだ。


「さあ、行くがよい。そして、我が同胞を頼む」


「はい、必ず、救ってみせます」


 たまもひめは、柚月達に光城へ戻るよう促す。

 柚月達は強くうなずき、誓った。

 必ず、和ノ国を救うと。

 柚月達は、頭を下げ、たまもひめ達に背を向けて歩き始めた。

 その時であった。


「明枇よ」


――はい。


 炎尾は、明枇を呼び止める。

 明枇は、立ち止まり、振り向いた。


「お前が、良ければ、いつでも、ここに戻ってくるがよい。今度は、九十九を連れてな」


 炎尾は、明枇に優しく語りかける。

 父親のように。

 明枇の事も許せるようになったのだろう。

 だから、戻ってくるように、告げたのだ。

 今度は、孫の九十九を連れて。

 しかし、明枇は、悲しそうな表情を浮かべてうつむく。

 炎尾は、その理由が、理解できなかった。


――……それは、できません。


「明枇?なぜだ?」


 明枇は、重たい口を開ける。

 戻れないと告げたのだ。

 炎尾は、困惑した様子で問いかける。

 なぜ、戻れないのだろうか。

 何か理由があるのだろうか。


――もう、私が、ここに来る事は、ないでしょう。


「お前、まさか……」


――もう一度、会えてよかった。


 明枇は、炎尾の質問に答えることなく、話を続ける。

 だが、炎尾は、悟ってしまったのだ。

 なぜ、明枇が、里に来る事はないと言ったのか。

 明枇は、優しい笑みを浮かべていたが、何か覚悟を決めたようにも見える。

 九十九の為に。

 明枇は、炎尾に告げた。

 会えてよかったと。

 炎尾は、これ以上、何も言うことができなくなってしまった。


――ありがとうございました。


 明枇は、頭を下げ、そして、炎尾に背中を向けて歩き始める。

 振り返ることなく、ただ、静かに。

 炎尾は、ただ、彼女の背中を見つけるしかなかった。

 声をかけることなく……。


「そうか、お前は、覚悟を決めておるのだな」


 炎尾は、悟った。

 明枇が、何をするつもりなのかを。

 炎尾は、柚月達の姿が見えなくなると涙を流した。

 最後に、もう一度、明枇と出会えたことに対して、喜びをかみしめ、そして、もう、会えなくなる事に対して、悲しみを覚えて。



 明枇と炎尾が、そのようなやり取りをしているとは、知らない柚月達は、光城へと帰還した。


「戻ってきた」


 瑠璃が、柚月達が帰還したことにいち早く気付き、美鬼達と共に柚月達を出迎える。

 柚月達が、炎の力を得られたのだと察知して。


「お帰り」


「ただいま帰った」


 景時は、にこやかな表情で柚月達に話す。

 柚月は、穏やかな表情で、言葉を交わした。


「その様子だと、炎の力を手に入れたようでござるな」


「ああ」


 彼の表情を目にした要は、炎の力を得たのだと確信を得た。

 柚月も、静かにうなずく。

 これで、九十九が、復活する。

 誰もがそう思っていた。

 嬉しそうに目を合わせる柚月達。

 だが、明枇だけは、どこか、複雑な感情を抱いた様子で、うつむいていた。


「では、さっそく」


――待って。


 柚月は、八尺瓊勾玉を手にして、発動しようとする。

 九十九を復活させるために。

 だが、その時だ。

 明枇は、柚月を呼び止めのは。

 驚いた柚月達は、明枇の方へと視線を向けた。

 明枇は、真剣なまなざしを柚月達に向けた。

 

「明枇?どうしたんだ?」


 ――……まだ、足りないわ。


「足りない?」


――それだけじゃ、あの子は、復活させられない。


 明枇は、衝撃の事実を柚月達に突きつける。

 なんと、神の力と九尾の命火だけでは、足りないというのだ。

 それは、どういう意味なのだろうか。

 柚月達は、見当もつかなかった。


「どういう意味?九十九は、復活できないのか?」


――復活はできる。でも、以前と同じままなの。


「以前と同じって?」


 朧は、明枇に問いかける。

 九十九は、まだ、復活できないのではないかと不安に駆られたのだろう。

 だが、明枇は、静かに首を横に振る。

 復活はできるが、何も変わらないと言いたいのだろう。

 だが、その意味を理解できない。

 どういう事なのだろうか。


――今、復活させても、あの子は、半妖のまま。だから、九尾の炎を発動したら、同じことを繰り返してしまう。

 

「確かにそうだな。神の力と九尾の命火を組み合わせても、本質を変えられることはできない。いや、足りないといった方が正しいのだろう」


 以前と同じと言うのは、九十九は、半妖のままだという事だ。

 それでは、意味がないと言いたいのだろう。

 今後の戦いは、激しさを増す。

 必ずや、九尾の炎が必要となるはずだ。

 だが、それを発動してしまったら、九十九は、再び、命を削って、消滅してしまうだろう。

 光焔は、冷静に答える。

 神の力と九尾の命火は、強力だ。

 九十九を復活させる力となる。

 だが、それだけなのだ。

 神の力は、九十九の体を形成し、九尾の命火は九十九の寿命を伸ばすだけ。

 強力な力を得て、長寿の体となる事はできるが、半妖から、妖に変えることは難しいのだ。

 魂が、半妖として形成されている為に。


――でも、方法はあるわ。あの子を妖として復活させられる方法が。


「どうすればいいんだ?」


 明枇は、九十九を妖にすることができる方法があるという。

 柚月は、藁にも縋る思いで明枇に問いかけた。

 明枇は、意を決したように、柚月達に方法を告げた。


――私の魂を吸収してください。


 明枇の口から発せられたその言葉は、柚月達にとって、残酷であった。


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