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Secret Workers  作者: 悟一品
1/3

A-1

序章「異の少年、正の少年」


 暗い部屋の中、人間らしき姿が二つ。一人は少年のような姿。もう一人は机に座っている。何か話あっている様子だった。

「ユクロン、お前に任務だ。レベルA、報酬は能力限定の解放だ。受けてくれるか?」

 男がそう持ち掛け、少年は驚き――

「本当ですか!?コクロン司令官!」

 少年は嬉しそうだった。

「成功した場合だけどな、内容を聞くか?」

「はい!!」

 少年は元気いっぱいの返事で答えた。そして、内容を話され少年は驚きながらもその任務を受理した。



 ここは黒時町くろときちょうと呼ばれる町である。

 少年は夕暮れの中歩いていた。

 少年の名は金原かねばらさとる。高校二年生、私立黒時高等学校に通っている。

 覚は学校にいるときは気配を消して過ごしていた。校外に出ても気配を消している。その恩恵かはたまた因果なのか相手の気配を読めば誰だかわかるようになった。

 ――今日も誰もよりつかなかったな、よしとしよう。

 そう思っていたからなのか、後ろに近寄ってくる影に気づいていなかった。

「よう、覚」

「……」

 ――まけなかったか。

「無視するな!」

「そうだそうだ!ケンさんを無視するな!」

 後ろから話しかけてきたのは花田はなだけん、そして覚の前に二人、健の取り巻き二人が前に立った。

 ――うるさい連中だ、俺に関心を持つな。

 そう心の中で呟いていると健は話し続ける。

「うるさいと思ったか?生意気な奴だ!」

「生意気で結構。じゃあな」

「そうはさせねぇ!」

 健と取り巻き二人は覚を中心に囲む。その時――

「ねぇ、君たち。その人は僕の大切な人だ。放してあげたら?」

 その声に四人が振り向くと一人の少年が立っていた。

「大切な人だと?ハッ!初めて聞くよ。おめぇは誰だ?」

「…僕の名前は秘労ひろう真悟しんご、同い年だよ、君たちと」

 はぁ?と三人の声が合う。

「もう一度言います。その人を放してください。最後の警告です」

 すると真悟の体から赤色のオーラが出た!

 …!こいつは何者だ!?今まで出会った人の気配が違う!

 覚は驚愕していた。三人もそう思ったのか――

「くそ!覚えておけ!」と捨て台詞をはいて逃げていった。

 そして問題はここから始まった。

「君は金原覚君だね?」

「そうだ。あんたは誰だ?ここの町の人じゃないだろ。いや、人間でさえもない!」

「…!なんだ、オーラ出したら気づかれちゃったか。そうです、僕はこの町の人でなければ人間ではないです。秘労真悟は偽名です。Secret Workersシークレット・ワーカーズ所属、兵士部特攻隊員兼科学部名誉隊長、サトル・ユクロン。同じサトルとしてよろしくお願いします!」

「Secret Workers――!」

「なんだ、知って」

「知らないな、そんな組織」

「へ?」

 サトルは当然知っていると思っていたから、返事がこれで驚くよりも度を越して唖然としていた。

「あれ?手紙送ったはず…」

 手紙?

「何のことだよ?」

「あの、手紙が事前に送られたはずですが…?」

「手紙…………?ポスト見てないからな。最近、忙しくて…!?」

 次の瞬間サトルからまた赤色のオーラが出てきた。

「知らない…?司令官からの手紙を見ず…?しかもポストを見てない?」

「いや、あの…睨まないでくれ。すごく怖い」

「…!」

 自分の状態を気づかされたのか、笑顔をとっさに作っていた。…すごくひきつっている。

「おーい!さとるぅ!!」

 この声は!!こっちに走ってくる女子高生だった。

「絵理!こっちに来るな!!」

 今は危ない状況、人間じゃない奴が…?

「あれ…いない!?」

 いつの間にか奴は消えていた。

「何よ!何かあるの?」

 と絵理は近くにいた。来るなと言ったせいか、少し不機嫌になったが。

「何か隠しているの?覚」

「隠さねぇよ。危ない奴がいた。それで絵理に注意した。来るなって」

 事実、危ない奴だった。覚は危険がなくなったか確認するため意識を集中していた。

「そ、そうなの……でも幼馴染の前でそれはやめてって」

 そう言いながら彼女は覚の額にデコピンをくらわす。

「いてぇ!」

「そうするのが悪いでしょ!……そんなに痛かった?ごめん」

 そう言ったのは覚が頭を抱えていたからだった。

 ――気配を探しているときは、デコピンでも激痛が走る。

「ねぇ、ホントに大丈夫?」

 絵理は深く反省していた。覚は気まずくなるが、平常を装った。

「…ちょっとな…でも俺たちの気配しかないから大丈夫だ」

「そう…でもその能力、まだ消えないの?」

「まだな」

 覚は溜息をつく。

この幼馴染、藤原ふじわら絵理えりはかなりのお節介だがいい人だ。

 俺のこの能力、『気配感知オーラセンサー』――絵理に名付けられた――はある出来事によって発現した能力。幼いころ、俺は黒時町に来る前、田舎にいた。山を登っていた中、滑って頭から落ちて重傷を負った。遠のく意識の中で誰かに呼ばれ言われたのだ。

 

 ――お前に力を貸そう、誰もが恐れ、誰もが敬う力を――

 

 その謎の声を聞き目覚めたとき病院にいた。その翌日、医者からこう宣告された。

『脳に異変がありますね』と言われた。

 脳の活動には何の支障もなかった。しかし欠落したものがあるそうだった。いや、正確には進化してしまったといったほうが正しい。それが『気配感知』の発現、発見だった。

 こんな中二病みたいなことになるなんて思わなかった。

「強くなってるんじゃないの?最近頭が痛くて保健室の常連になっているって噂」

 絵理に心当たりがないことを言われる。

「それ、どこの噂だよ。ったく…帰ろうぜ。もう暗くなっている」

「そうね」

 二人は歩き出した。そのあとに人影が降り立った。

「ふぅ、危なかった」

サトルだった。

「司令官に、対象以外の人間に見つかるなって言われているからなぁ。でも……金原覚があの方の力を受け取ったのは間違いないね。……わかっているよ、同じ失敗は二度としないよ。朱雀すざく青竜せいりゅう玄武げんぶ白虎びゃっこ。先回りしますか」

 サトルはそう言ってフッと消えた。

 これが金原覚とサトル・ユクロンの出会いだった。






















第一話「覚とサトル」


 同日、夕方――

 俺は戸締りをしたのかどうかさえ忘れているのかもしれない。

 覚がそう思っているのは、自宅に侵入者がいたからだ。

「お前、どうして俺の部屋にいるんだ?」

「あれ?手紙まだ読んでないの?」

 今は俺の部屋……マンション〈くろとき〉105号室のドアを開けてその目の前にいたのが夕方で出会ったSecret Workersのサトル・ユクロンがいた。

「部屋に入ったら読むつもりだった。出ていけ」

 ここは玄関で彼を追い出せることができるのだが――

「いいや!出ていかないね、手紙を読むまでは!」

 頑なに手紙を読めとの催促。

 だったら、こういう攻めもあるよな。

「…玄関で読んだらまずくないと思わないか?」

「ん?何が?」

「人間じゃないってことばれるから」

 事実、俺は奴が人間ではないことを知っている。

 奴は少し考え、俺の部屋の中に入っていった。

「結局入るのかよ!?まったく」

 俺も入りドアの鍵を閉めた。中はあまり広くないが気に入っている部屋だ。居間に行き荷物を下ろしてサトルに話しかける。

「……この黒い手紙だな?」

 正確には黒い封筒に白色の文字が書かれている。

「そうです。僕がなぜここにいるかわかる手紙です」

 封をきり中身を出す。そこに書かれていたのは――

 

 拝啓 金原覚様

 私の名前はコクロン・ユニバー兵士部司令官です。あなたに危険が迫っているので早急にサトル・ユクロンを送りました。

 

「俺に危険?」

「続きを読んで」


 危険というのはあなたの能力、『気配感知』を何者かが狙っていることです。日に日にその能力は強くなっているのを感じませんか?私達、Secret Workersはあなたのことを熟知しています。なぜなら、サトルが人間でないように私達も人間ではないからです。強くなっているのはそろそろその能力を返してほしいからです。

 

「返せるのか……」

 手紙は続く。


 能力はサトルの吸血でなくなります。能力の最高値を超えた場合、前述の吸血で吸出し元の人間に戻ることができます。よってサトルの滞在を認めていただきたいのです。

 

「…吸血!?」

 とんでもない方法で返さなくてはならないそうだ。

 ――何だろう?中二病っぽいなぁ。

 それに、本当に人間じゃないんだな。

「そうです。血を吸って能力を消します。それで手紙は終わっていると思います」

「まぁ、たしかに終わっている。でも滞在って――男どうしだとなぁ。むさくるしいだけだ」

 それに、変な噂が立ってしまう。最近は変人と不良の噂が混じっている。

 そこに同感したのか、奴は言った。

「そうですよね。そこで提案ですが、僕の性別は今の時点で男です」

 何を言い出しているんだ?

「そうだな……何かやるのか?」

 まさか――!?

「女になるなんて言わないよな!?」

「違います!……人間じゃないからってそういう意見とは…想像力が足りませんよ」

「いや想像がつくと思うけど」

 人間の想像力はなめないほうがいい。

「僕たちの場合は生まれたときから能力は決まっています。…まぁ、僕は…」

 最後は聞き取れなかった。声を小さくしたから聞かなくていいものだろうか。

「まぁ……僕が女性を呼んで毎晩交代で覚さんを守ります。彼女たちは強いので護衛にも最適のはずです」

 そう言いながら武器を取り出してきた。槍が一つ、剣が二つ、そして刀一つ出てくる。

「お前、武器持ちすぎだろ!?よく警察に捕まらなかったな!?」

 俺の言ったことを気にせずに続ける……サトル。

「どっちがいいですか?みんないい人たちです。さぁ」

「じゃあ――」

 目に留まったのは朱色の鞘に収まっている刀。なぜかこの刀に目が惹かれた。

「この刀」

「朱雀だね。ちょっと待ってね……」

 サトルは刀を自分の顔に寄せて何か言った。すると刀が光り始めた。その輝きに目がくらんでしまった。光がなくなったとき覚と同じ年代の女性が立っていた。

「主人、私が護衛するのは――この男ですか」

 俺を軽蔑するような目で見る女性。

「そうです。彼を護衛してください。この夜から翌日の夜までです。そうしたらほかの人たちに交代です」

「わかりました。主人、例の手続きお願いしますね。わくわくしています」

「わかりました。じゃあ僕はこれで出ていきます」

「ちょ!?この子と一緒に!?ってあれ!?いねぇ!?」

 サトルは消えた。…どうする!?女と二人っきりっていう展開読めなかった。まさに奴は予測よりも斜め上にいく、あれ!?

「……」

「……」

 二人の間に沈黙が流れる。…どう話題を振ったらいいのかわからない。覚はそれに悩む。絵理だったら何ともないが他の女と話すのは緊張する。あいつわかっているのか?

「…金原だったな」

 女性から沈黙を破った。

「あ……あぁ」

「自己紹介をしよう。僕は朱雀」

 朱雀は名前だけの紹介だった。俺のことは大丈夫だろう。

 朱雀は続けて言った。

「主人のことを非難しないでほしい。主人はああいうふうに見えて優しいのだ。それを理解してほしい」

「そうなのか、あんたを置いていって優しいっていうのは違うと思うが」

 女性もそう思っているのか、少し、頷いた。

「…まぁそうだけど…じゃあ、主人のことを話します。そうしたら理解してくれますか?」

 朱雀は真剣な顔をしてそう言った。

「わかった」

 覚はその顔にふざけは無いとして話を聞くことにした。

 それに――

「俺もあいつのことを知りたい。この能力も」

 能力と聞いて、朱雀の顔に真剣さが増した。

「……ありがとう。では主人が人間だったころのことから話します」

 手をかざし覚の額に手をあてた。

 そこから頭の中に画像が流れ朱雀の声が響いた。

「主人の本当の名前はサトルェン・リアス・ユクロン。西暦千五百四年十月十三日に生まれました」

 そこに現れたのは幼いサトル、サトルェンだった。

「主人は吸血鬼の父親と魔法使いの母親の間に生まれた子どもでした。生まれてから十三年後、ある事件が起きました」

「事件?…この展開だと恐ろしい事件か?」

「その通りです。事件というのは住んでいた屋敷を焼打ちされたことです。主人は悪魔に憑りつかれているというデマが流れたんです」

 場面は変わり炎が渦巻く屋敷に呆然と立ち尽くしていたサトル、その横には朱雀と青いドレスを着ている女がいた。二人はサトルを引っ張り屋敷から逃げ出しその後、屋敷は爆発した。

「この事件があって主人は人間を信じることはなくなり、吸血鬼として覚醒しました」

「吸血鬼……」

 そこで画像は切れて元の部屋に戻った。

「でも吸血鬼は…」

「太陽の光を浴びれば死ぬ…はずでした。主人は意を決して太陽の光を浴びました、それでも死ぬことはありませんでした」

「魔法使いとしての覚醒もあったんじゃないのか」

 そう朱雀に聞くと朱雀は首を横に振った。

「関係はありませんでした。何故か、吸血鬼の血が強かったのか、魔法使いとしては覚醒しませんでした。原因は今も不明です。そこで主人は自ら体と魂を封印しました。あの時は私と青竜――姉さんは悔しかった。何もできなかったことに対してです」

 気づくと朱雀は涙を流しながら話していた。


 マンション〈くろとき〉から遠いところにサトルはいた。鉄塔の電線に座っていた。

「…師匠…どこにいますか…」

 その時――

 ピロリンピロピロピロ……と、ブレスレットらしき物から音が発した。

 ピッと音が止み空中ディスプレイが現れる。秘匿回線と書かれていた。

「もしもし?」

「サトルか?コクロン・ユニバー司令官だ」

 秘匿回線から自分の上司の名前と声が聞こえた。

「どうしました?」

「護衛をしているかの確認だ。護衛対象には会えたか?」

「会えました。同じサトルとして挨拶をしました。今は朱雀と一緒にいます」

「そうか。ならいい。…そっちに敵が現れた。ALKATONESSアルカトネスだ。連中は二人。こちらに来るぞ」

「了解、迎撃します」

 ピッとディスプレイを切り電線から降り立つ。降り立った瞬間、黒い閃光が二つサトルに迫ってきたがその動きはサトルの十メートル外の距離で止まった。

「貴様か、我々の邪魔をするものは」

「邪魔?君たちがしているではないですか。彼を渡しません」

「そうか。敵対するというのなら」

 一人は剣を抜き、一人は銃を二挺持つ。それに対してサトルは武器を持つわけでもなくただ観察をしていた。

「アルヴァ、やるぞ!」

「おうよ!」

 二人は身構え人間よりも速い速度でサトルに接近。アルヴァは発砲、もう一人はサトルを斬った…はずだった。

「こ、こいつは残像?!」

「それぐらいですか?」

 その声をたどると上空にサトルは浮いていた。

「君たちの『科学魔法サイマ』はその程度ですか?こちらからいきます」

 サトルは上空から急降下、一本の剣をすでに抜いていた。その名は――

玄武げんぶ真現しんげん

 その瞬間どぉんと鈍い音が鳴りそこには小さいクレーターと襲い掛かってきた二人が気絶していた姿だった。

「峰打ちです。感謝しなさい。殺されないだけで済むんだ」

 ピロピロピロ……ピ

「今からゲートを開ける、大丈夫だろうな?殺したら任務は失敗だぞ」

「殺してませんよ。下っ端程度だったから情報は期待できそうにないです」

 その時、ブゥゥゥゥンと次元が切り裂き丸い歪みが現れる。……ゲート展開確認。

「ようし」

 サトルは気絶した二人をその歪みの中に投げ込んだ。そのあとゲートはブゥンと鳴って消えた。……ゲート閉鎖確認。

「これであと何人になりますかね?」

「あと五十人だろうな。……今、送られてきた。感謝する。では任務続行してくれ」

 プツンと切れてディスプレイは消える。

「はいはい。任務続行ぞっこん……さて、サプライズ計画を進めますか。開いているかな?まぁ、行ってみないとわからないよね」

 サトルはまた音もなく消えていた。


 翌日、朝――

 翌日、覚は驚いていた。朱雀がいなくなっていたのだ。昨日は夕食を一緒に食べたのだが、彼女は――

『鉄をくれ!』

 と言ったので鉄はないと言うと――

『なら普通の料理でいい!』

 と不満そうにしながらも作った料理は全部食べ――

『シャワーを借りる、いいな?』

 と凄味をきかせた睨み顔でシャワーを借りていった。そこまでは覚えている。だが、いろんなことがありすぎてすぐ寝てしまった。起きた直後に朱雀がいないことに気づいたのだ。

「げっ、学校に遅れる!」

 すぐに着替え鞄を持ち、靴を履き外へ。もちろん朝食は食べていない。学校の門が閉まるぎりぎりのところで遅刻は免れた。

(朝食食べときゃよかった。今頃になってくるとは)

 そう思っていると担任が入ってきた。担任は草部くさべ、影が薄いことで有名だがかなりのイケメンでもありしっかりとしている。担任が告げたのは――

「今日、転入生がうちのクラスに入ります」

 教室がざわめく、しかし俺には関係ない。そう思っていたのだが……なんだろう、あれが告げている。まさか、まさか――!?

「では入ってきてください」

 その声が合図に転入生が続々と入ってきた、合計五人。やっぱりあいつだったか!

「では自己紹介をしてください、順番に」

「私は鈴木すずき朱夏しゅかです。よろしくお願いします!」

 朱雀ぅぅぅぅうううう!!!???

「私は青木あおき奈々(なな)、よろしくお願いします」

 さわやかに挨拶をした女……青竜?

「やっほー!うちは黄空おうくうらん!よろしく!」

 あれは……知らない。あっ……うん、わかっている……白虎びゃっこ。睨んできたのだ。

「…黒井くろい英子えいこです。…よろしく…お願いします」

 …消去法で玄武だな…あいつか!あいつがぁ!!

「秘労真悟です、なじめるよう頑張ります。あっ覚君。また会えたね」

 ざっと転入生と担任以外の全員が振り返る。知ってるの?っていう視線が全方向からさしてくる。これは恥ずかしいやらなんやらってものだ。視線を逸らすが――

「あっ無視しないでくださいよ。金原覚君!河原で語った仲じゃないか」

「語ってねぇぇえ!無理やり設定を押し付けるな!」

 つい、大声でツッコミをしてしまう。

 その反応を冷やかに見た担任は――

「知っていたんですか?金原君、なら校舎の案内を任せますね」

「えっ!?」

「いや、知っているなら頼みますよ。それでは鈴木さん、青木さん、黄空さん、黒井さん、秘労君は空いている席に座ってください」

「「「「「はい」」」」」

 五人そろって同じ返事をした後それぞれの席に着く。……って――

(俺のまわりじゃねえか!どうして空いているんだ!?)

 その問いを察したのか、はたまた伝えるのを忘れたのか、担任がこう告げた。

「さっき席替えをしたんですよ、金原君。君以外の席はすべて変えました。伝えるのを忘れていました。すいません」

「そ、そうですか……」

 驚きのあまり言葉が出ない。なんていう日だ!さっき来た五人の視線が集中していた。そして、サトルの気配からこんな言葉を感じた。

(まぁ、だいじょぶ、だいじょぶ!)

「大丈夫じゃねぇよ……」

 そう呟いてガクッとうなだれる。毎日続くんだろうか、この日々が……。

 転入生の紹介が終わったあとショートホームルームが始まり担任からの連絡が終わりショートホームルームの時間が終わった。直後、サトルのもとには女子、四人のもとに男子が集まり話しかけていた。その間を縫って教室から出た覚は担任を追い捕まえる。

「草部先生、どういうことだ?俺は」

「金原君、俺ではなく僕は、ですよ」

 早速注意を受ける俺。すぐに言い直した。

「……僕は何であの五人の相手をしなければならないんですか?ほかの人にも任せられるでしょう!?」

「そうしたいんですが、自己紹介の打ち合わせの時、秘労君から『金原覚君に任せてあげてもらえませんか』と自己申告がありまして……それで君に任せると職員一同賛成という形で打ち合わせも終わったんです」

 は?

「職員一同?まさか」

「教師全員、金原君に一任するそうです。これで質問回答は終わりです。さぁ教室に戻りなさい。授業が始まります。……私も急がねば」

 足早と去って行った。チャイムが鳴り、覚は仕方なく教室に戻っていった。



 授業が終わり昼時間、学食に行こうとした覚だが――

「覚君、一緒に食べましょうか?」

 早々に阻まれてしまった。

「真悟、俺にはかまうな。自分の弁当があるだろ」

「ないよ?」

「その手に持っているのは弁当の包みだろう!?」

 重箱を三つほど抱えているからわかる!その時――

「覚――!」

 呼ばれたので振り返ると絵理がいた。手を振っている。救世主が現れた!

「おう、え……藤原!それでは」

 これで、サトルから逃れることができる!

「藤原さ―――ん!こっちで一緒に食べましょう!」

 サトルは絵理を大声で絵理を誘っていた。

「あっ!真悟く―――ん!」

 希望が絶たれた。そんなことを思った。絵理は駆け寄っていた。

「噂の真悟君だね!?だよね!?」

「噂?こいつに何かあんのかよ」

「噂っていうのは、あの三年のイケメンサッカー部員、徳島とくしまひろし君よりイケメンっていう噂。知らなかった?」

 そんな噂が流れているのか、転入初日で?何かしたのではないか……?

「えぇっと……藤原絵理さんですか?」

「ん?……私のこと知ってるの?!きゃあ、うれしいなぁ!あははは」

 絵理は心底嬉しそうだ。まぁ、そうだよな。イケメンに言われたら――

「はい、覚君にききました。元気で可憐な女の子だと」

「えっ……そ、そう言ってくれたんだ……なんか見直す……」

 絵理は顔が赤くなり言葉が出なくなる。…言ってないと言えば…死ぬだろうな。回避しよう。何となく感じ取った覚だった。

「しゅ…秘労、屋上が空いていました。そこに…ん?…秘労、その方は誰ですか?」

 一瞬、主人と言いそうになった朱雀。この場では普通の女子高生だ。

「鈴木さん。こちらは藤原絵理さん」

「初めまして、藤原です、よろしくね!」

「鈴木です。よろしく……」

 ……?朱雀が嫉妬している……あぁ聞いたことがあった、サトルは女性が苦手だと。

「じゃあ、お昼は一緒に食べませんか?藤原さん」

「えーと…弁当持ってきてないの。それで覚君におごらせてもらおうかなぁって」

「そんなことを考えていたのか!?くぅっ!」

 ここの学食、うまいが値段が高い。

「いえ、それならご心配なく。こうなることも予想して」

 サトルは持っていた重箱を出した。

「これを食べてくださいな。さぁ、屋上にレッツゴー!」

 と、サトルと朱雀は歩き出した。

 ――あいつ屋上ってわかるのか?

「じゃあ、行こう?覚」

「そうだな……」

 絵理と覚は先に行った二人について行った。ここ、私立黒時高等学校は古い旧校舎と増築された新校舎がある。旧校舎の屋上に行くのは禁止だが新校舎の屋上は開放されている。

 …まぁあまり人は来ないんだが。

 屋上につくとそこには。…青竜、白虎、玄武が待っていた。

「遅いよ、も〜……先に食べちゃうよ」

「ごめんね、黄空さん。金原君を探すのに手間取っちゃってね」

 そう返事したのがサトルだった。

「…その人は?」

 黒井さん――玄武が絵理を見て言った。

「ん?あぁ、この人は藤原さん。藤原さん、順に紹介するね。青い髪が青木さん」

「どうも」

「黄色い髪が黄空さん」

「よろしくね!」

「で、最後が黒髪の黒井さん」

「……よろしく……」

「藤原絵理です。よろしくね」

 まとめて挨拶する絵理。覚は知らんふりをしていた。……まさか、これからも絵理を誘うのだろうか。困ることはないが――

 そうこうして昼食の時間が終わって授業。そして放課後になった。


 同日、夕方――

「さて、帰るか。(あいつらに捕まらないように)」

 あいつらというのは花田健たちのことであった。『気配感知』で居場所を探ってみた覚だが……もう階段まで来ているな。気配を消そう。

「金原君」

 サトルが後ろから現れた。

「なんだよ?」

「いい方法がありますよ」

「何のことだ」

 笑ってこう言った。

「花田君たちが来てるんでしょう?君の顔を見ればわかります。そこでいい方法があるんです」

 そう言いながら出したのが……リモコン?

「おい!覚!!…いねぇ……」

 覚たちはすでに消えていた。その頃、屋上で丸い歪みが現れ。

「ぬわぁ!!」

 ドサッと倒れこむ覚と華麗に着地した五人がいた。

「なんだよ、それ!?」

「ゲートです。僕たちの移動手段です、どうでしたか?」

「何とも言えないが助かった気はする。ありがとう」

「まぁ、いいけど」

 話している間にゲートは閉まっていた。数十秒前、サトルがリモコンを取りだし。

『ゲーターです』

 と言い、そのスイッチを押してゲートが現れた時、覚はサトルに投げ込まれほかの五人も続いて入りゲートが閉まった後、花田たちが来たのだ。

「移動したのはいいが、絵理を置いて行っては意味がない」

「ご心配なく、ある地点で合流すると約束しました。……ところで気になったのですが、何で花田君に追われているんですか?」

「ちょっとな。これだけは言えない。俺の問題だ」

 …事実、俺の問題だ。花田――健は絵理と同じ幼馴染だ。あるとき…中学生の時、誰かが窓を割った事件があった。現場にいたのは俺と健。二人だった、先生が駆けつけて犯人は健と決めつけた。あの頃の健は素行が悪かった。俺の能力の理解者の第一人者でもあった。そのことがあり、健とはあれから仲が良くない。あったら喧嘩という日々になってしまった。…逃げることじゃないんだけど。

「真犯人っていうのはもしかして覚君かな?」

「…!何がだ?」

「窓を割った真犯人。心を読みました」

 その顔は咎めるつもりじゃないと言っているようだった。

「…お前の前では…ごまかせないのか?」

「絶対です」

 そう、真犯人は俺だ。

「絶望をすることはないですよ。花田君の心も読みました。彼は君との仲を取り戻したいようですよ」

 俺にとっては心外だった。

「そんなこと、あいつが望んでいるはずがない!」

「そうですか?彼は不良じみていますが、そこまでは堕ちていませんよ。取り巻きから抜け出すことができるのは彼と」

 サトルは覚に指をさして――

「君だけです」

 そう言われたとき、覚に形容しがたい感情と葛藤が渦巻く。俺だけ――

「解決できるのか?俺と健のしがらみを」

「手助けはしますが、あまり期待しないように……いいですね?」


「おい、花田健よぉ」

「てめぇら、何しやがる!?」

 花田健は危機に陥っていた。覚を捕まえることに失敗し、取り巻きから責められ、不良の親玉、細田さいだ剛太郎ごうたろうに呼ばれ、今に至る。

「金原を捕まえて来いって言ったよなぁ!?」

「ぐぅっ!」

 健の腹に蹴りが入る。

「健!逃げて!」

 そこには絵理がいた、絵理はサトルに指示された場所で待っていると健が連れて行かれるところを見て尾行。そして隙をみられて捕まえられた。

「ふん!よく言えるな、この女。おい、健をやったらその女好きにしていいぞ」

「何っ!?絵理に手を出すな。ぐっ」

 健は殴られ蹴られている。この倉庫は黒時町から離れた海岸沿いにある。以前使われていた跡があるが廃倉庫になっている。不良が集う場所としては都合がいい。

「ははははっ!よしそこまででいいぞ。次はその女だ」

「うっ……絵理……すまん、覚……俺は……」

 そう言ったとき倉庫の扉が吹っ飛んだ。そこには――

「なんだ!?」

「そいつと彼女を放せ!!俺が金原だ!」

「「覚!!」」

「ヒーロー登場ってか?こっちは……おい!出て来い、野郎ども!!」

 その合図で三十人以上かそれ以上の人間が出てきた。

 ……おいおい、こんな展開になるのかよ!

 サトルに言われたことを思い出す。


『力は三回しか使えませんよ』

『三回!?どこで使うんだよ?』

『使いどころは登場、撃破、破壊です』


 ……そんなこと言われたってわかるか!?でも登場は使った……でも手は痛くないな、すごい威力だけど。次は――

「お前を倒す!細田!!!」

 勢いで走り出す覚。それと同時にあっちからも走りだしてきた。気配を消し人の間を縫うように走る。…あともう少し!そして細田のもとにたどりつき気配を出す。

「いつの間に!?」

「うおおおおお!!この拳がお前を倒せと轟きさけぶぅ!!ハァッ!!」

 昔、習っていた空手のことを思い出す。そう繰り出すのは正拳突き!

 顔面に直撃した細田は拳にめり込まれながら――

「ぐあああ!!!」

 その正拳突きに吹き飛ばされ細田は鉄骨にのめりこむ。

「親分!!てめぇ!!」

「くっ、ここまでか」

「上出来ですよ。覚」

 その声が響いた後、天井をぶち抜けてあいつが来た!

「真悟!」と、俺。

「真悟君!?」と、絵理。

「なんだ……あいつは……」

 状況が呑み込めない健。

「……?リアクションはそれだけ?まぁいいけどさ」

 その時、サイレンが鳴り響きながらパトカー二台が突撃。

「逃げますよ。覚君、藤原さん、花田君」

 三人の手を取りシュッっという音とともに消える四人。そのあと警官たちによる制圧が始まった。

 そこから遠く離れたところに四人はいた。覚と健は顔を合わせていない。

「助けたんだから、感謝ぐらいしろ」

「頼んでねぇ」

 俺と健の喧嘩が始まった。それを見かねた絵理は――

「……あんたたち、いつまで続けるの!?過ぎたことじゃない!」

 絵理の言う通りだ、もう過ぎているが――

「譲らない……というより譲りたくないといったほうが正しいでしょうか」

 サトルはそう言った。

「でも、真悟君はどうしてあの倉庫の天井から来たの?すごい高さだと思うけど?」

 ……絵理、鋭いな。正解だ、さぁ、あいつを追い詰めろ。もっと!!

「……隠せませんね。実は、僕は秘労真悟ではありません」

 あいつ、あっさりと正体をばらそうとしている。

「えっ?」

「僕の本当の名前はサトル・ユクロン。Secret Workers、S.W.(スウ)ともいう。よって僕は黒時高校に来た転入生でもなければ、人間でもない…理解してくれるとは思わない」

「そうなんだ…だから違和感があったんだ」

「違和感?」

 …!絵理はすでに気づいていたのか!?

「覚と同じ雰囲気出してたから」

「雰囲気?……人間嫌い、ですか?」

「そんな感じ!近づこうとしても、遠くにいるような……なんて言うのかな?」

「一人ぼっち……って言いたいのか?絵理」

 少し不機嫌になりながら言ったのが、覚だった。

「そうですか。一人ぼっち……ですか」

 どうやら正解じゃないらしい。人間嫌いが正解なんだろう。

「でも、ここに来て友達とか増えた?」

「それなんですが、うまくいきません。話しかけてはくれるんですが・・・」

「でも、覚をいじって喜ぶよね」

「何をいうか?!」

 そんなことして喜ぶ奴がいるか!

「あぁ、そうですね。それは否定しません」

「否定しろよ!」

「はぁ……覚」

 と健が話し出した。……何だ?急に

「ちょっと変わったんじゃねぇか?そのサトルによって」

「何を言い出すかと思えばそんなことか…お前、絵理をかばってボロボロにされたんだろ」

 その発言に健はうつむいた。…当たりか。

「そろそろ暗くなりましたし、それぞれの家に送りますよ。あと覚君の手を手当てしなければなりません」

「それって……痛っ!!」

 突然来た激痛に顔を歪ませる覚。右手が赤く腫れていて血が流れ出ていた。

「力の副作用です。早めに治さないと……変形します」

 おどけた声から真剣な声に変わるサトル。

「いてて……じゃあ、早く家に帰ろうぜ。変形する前に」

 そのあと、サトルはゲートを開き、絵理、健は家に送られ、最後に覚の部屋に来たところで治療を開始した。







――エクストラストーリーA――


 日本から遠く離れた島がある。そこはサトル・ユクロンが所属している、Secret Workersがある島、トスカ島である。

 ここは不可視結界によって守られている島――つまり誰にも発見されていない島である。島の構造は大きい島のほうが住宅街、そして橋が架けられている小さな島に大きな現代的なビルがある。その中の一室にコクロン・ユニバーと一人の女性がいた。

「統括、そろそろサトルの前に現れたほうがよろしいとは思いますが」

 統括と呼ばれた女性は微笑み、首を横に振った。

 ――まだ、その時期ではないというのか?

「コクロン……いや、ユニバー。私がサトルの前に現れたら……あの子、このSecret Workers本部を破壊しちゃうかもしれないのよ?」

 統括はサトルことを危険視、いや本当に知っているのだろう。

「……確かに、あり得ますね。あいつに反乱の意思があればすぐにここを破壊できる」

 ユニバーも同意の意見を発した。事実、数年前、サトル・ユクロンはビルを半壊しただけでなく、この組織で一番強い機動部隊長、アブルス・ククスを全治一年の重傷を負わせた。そして、サトルを止めたのがユニバーだった。

「でも、あの子の利用価値は上がったでしょ?もともと人間でありながらヴァンパイアの血と魔法使いの血も覚醒。そして、師匠である私が剣術や吸血のやり方を教えた」

 サトルが探している師匠とはこの統括自身だった。

「それですべてを教え終わった後この本部を襲撃し、兵士部統括に成り上がった……」

 ユニバーは当時のことを覚えていた。彼が新米司令官だったときに現れたのだ。

「あら、私のことを知ってるじゃない」

「すべて極秘の情報ですからね。……サトルの報告がまだ来ていない」

 ユニバーは机にむかい、キーボードを操作して空中ディスプレイを呼び出しコードを入力。そして待つこと数十秒。

「もしもし、サトルです」

 入力したコードはサトルの連絡先だった。

「報告がまだ上がってなかったから、こちらから連絡した。それとも、やりすぎたことを隠してわざと連絡してこないのか?こちらからすべて見ていたぞ。あんなことをして」

「……あんなこととは?」

 統括がクスクスと笑い、ユニバーは失笑した。

「『科学魔法』の攻撃的術式を護衛対象にかけて不良どもの親玉を沈めたことと二人の人間に自分の正体を明かしたことだ!」

 そこから無言が続いた後、溜息がもれていた。

「仕方なかったのです。護衛対象の幼馴染であれば慣れているだろうと推測しまして」

「そうか……。能力解放の件はなしにしようかと、統括に相談していたところだ」

 ユニバーは嘘をついた。統括は後ろにいるのだから。

「ちょっと待ってくださいよ!!次からは気をつけます!だから、その件だけは!!」

 彼も反省しているようだ。もういいはずだ。

「……わかった。次からは気をつけろよ。定時報告を忘れないように!」

「はい!」

 そうして通信が途絶えた。

「はぁ……また他の部に目をつけられる……」

「大丈夫よ、この統括……ララ・スクリアッドに任せて」

 ララはそう微笑んで言い放った。























第二話「黒のメカロイド」


 翌日、黒時町。この日は休日。覚は寝ていた。覚はある夢を見ていた。

 その夢は子どもの頃の夢だった。

 ……俺と絵理と健の三人で山を登った……あぁそうだ、そこで転んで頭を打ったんだな……ん?どうして二人のほかに女がいる?あそこには俺たちしか……!?あいつら、なんであの女が見えないんだ?!

「あぁ!!」

 その夢に恐怖を覚え目が覚めた。

 ――昼か、寝すぎたな。

「大丈夫……ですか?」

「……大丈夫だ……あいつは?どこにいるんだ?」

 そこにいたのは玄武だった。昨日、あいつからまた選べ、と選んだのが小ぶりな剣……それが玄武だった。

 あいつがどこかに行った後、玄武のサトルについての授業が始まったことは覚えている。問題は玄武の声が眠気を誘いそのまま寝てしまい、夢を見て起きたところだ。……玄武がなぜか睨んでいる、寝てしまったことを怒っているのだろうか。

「じろじろ……見ないで」

「すまん」

 見ていたことを気に入らなかったようだ。まぁ、じろじろ見られるのは気分がいいものじゃない。

「…金原……もしくは覚…」

「呼び方はなんでもいいさ。覚って言いたくないなら……」

「じゃあ……」

 玄武は考え始めた。……どんなふうに呼ばれるんだろうか……。

(一番、最悪だったのは気配感知君だ。そのときは、拳と拳の会話で覚と呼ばせたっけ)

 もちろん、健の取り巻きだった奴らだ。

 玄武が考え終わったのか、こう言った。

「……変態」

「なんでそうなる!?俺、何かしたか!?」

 とんでもない言いぐさである。断固、改善を要求する!

「……した」

 玄武が顔を赤くしながらうつむいた。……やばい……寝ている間に何か起きたんだろうか?警察に御用となるんだろうか……。

「…嘘」

「嘘かよ!?」

「……面白い…ふふっ」

 そんな玄武の微笑みを見たとき、なんだか熱い感情がうずく…。

 無口な女子があまり笑顔を見せないが好きな人だけは……。

 漫画かライトノベルの読みすぎだろうか。それとも、敏感になっているんだろうか、いろんな刺激がありすぎた。

「…笑顔、見せるのは初めて…サトル様以外…あなたは…今までの人間たちよりずっと…いいものがある」

「?」

 玄武はそう言って俺を困惑させた。…ずっといいもの?

「それってなんだ?」

「……熱い心を持っている。誰よりも」

「……熱い心か」

 持っていないはずだけどな。

「だから、ヒートって……呼んでいい?」

 笑顔になってそう言った。

「わかった。そう呼んでくれ」

「仲良くなったね、玄武」

 いつの間にか、サトルがそこにいた。

「……はい、サトル様」

 今のやり取りを見ていたんだろうか。

「玄武を気に入ってもらえたかな?覚君」

「まぁ、いい人って思うぜ。あだ名を考えてくれたし」

「そうですか……じゃあ本格的な自己紹介をしましょうかね」

 そう言うと、腰にさしていた刀と剣、背中に背負っていた槍を順番に置いたサトルは

「みんな、姿を現して」

 武器が眩しく光り、人の姿として現れる。みんな、知っている。朱雀、青竜、白虎だ。

「私たちの自己紹介ですか?主人」

「うん。できるかな?」

 その言葉を聞き、四人はうなずいた。前に出たのが――

「では、私から」

 朱雀だった。朱雀は正座で座り話し始めた。

「私たちは人間ではないことは知っていますね?金原」

「あぁ、ユクロンもだろ。でも、気配が違う。金属の気配を感じる」

「金属……ですか。正解といえば正解だ。私たちはブジンという。この地球の反転世界にあたる『アスクレアス』と呼ばれるところに、本来私たちが住むべきブソウという大地がある」

 朱雀がそこまで言って青竜が続きを言う。

「そこに、魔皇帝軍が現れた。我らブジンは抵抗し、撃退はしたが犠牲が出た。我と妹は地球の日本……そこに連れてこられ見世物にされた。白虎と玄武も同じ境遇で会った。辛かった。このまま生きていたらどうなるかわかっていた。そこに、この主人の父上、ジャン・ユクロンが現れた」

「ジャン・ユクロン?」

 魔皇帝軍って……話が壮大になってくるなぁ。

「うん、僕の父さんが朱雀たちを助けたんだ。当時、父さんも別の世界から来て、日本人として暮らしていた。でも、父さんは諦めなかった。元の世界に戻るために仲間を探していた、それが朱雀たちだったんだ」

 と、サトルが口を挟んだ。……本格的といわれても重すぎる。でも、世界には、別の世界があったんだ。

「続けるぞ。そのまま助けられた我らは、ジャンとともに行動し、トスカという地にたどりついた。そこでバラバラになってしまった。魔皇帝軍が攻めてきたのだ」

「そのとき、僕はすでに生まれていたんだ」

 と、サトル。

「まだ、赤ん坊の主人とジャン、そしてジャンの妻、クリア・リアスと我と妹はトスカから脱出。イギリスへと逃げた。妹から前に話されていると思うが焼打ちされた屋敷がイギリスにあった」

 青竜が話を継いだ。

「知っている。聞いたのは焼打ちされてヴァンパイアとして覚醒したと……」

 サトルが頷いた。

「うん。魔法使いとしても覚醒していた。覚醒した後、魔皇帝軍を朱雀と青竜、白虎と壊滅させたんだ。そのあと、シアナという女性と一緒に暮らした」

 サトルがそう言うと、朱雀と青竜と白虎は険しい顔つきになった。

「主人、その話は話さなくていいです。辛くなります」

「その通りだよ!あんな女のことを思い出さなくても!王子様!」

 その話を阻止しようと朱雀と白虎はサトルに言い寄った。

 ――シアナ?誰なんだ?

「落ち着いてよ。あの呪いはもう消えたはずなんだから」

 呪い!?シアナから呪いの話に移るのか!?……今日は眠れるんだろうか……。

 ふと、あることが口に出た。

「シアナっていうのは白髪のきれいな女か?」

 一瞬だが、空気が重くなった。

「なぁ……夢に出てくる女って――」

 サトルに聞くと――

「……なんだと?おめぇ、シアナを見たのか?」

「お前、口調が変わっているぞ。どうしたんだ!?」

 サトルの目つきが変わり気配でさえも変わっていく。突然だが、俺は『気配感知』によっていろんな使い方が身についていることを話そう。

 一つはオーラを読み取るものともう一つはそのオーラの色や迫力、強さがわかる。

 そう、今のサトルは別人だ。

「グレア!出てくるな!主人の体を返せ!」

 朱雀が警告した。――グレア?

「いいや、この体はサトルェンと俺のものだ。戦う前に、小僧!!!」

 恫喝し覚の服をつかんで問いただす。

「おめぇ、シアナの夢を見たって言ったな!?嘘じゃねぇだろうな!?」

「シアナは誰だか知らないが、お前は誰だ?!サトルじゃあねえだろう!」

 そう聞くと、サトル……もしくは別人格のサトルは唖然とし笑い始めた。

「はっはっはっはっはっは!!!どうして見破れる?姿はたいして変わっていねぇはずなのに?やはり、あの女の力か!おめぇ、昔、俺たちと会ったことはないか?」

「何!?」

 昔、会ったことがある?そんなはずは!?

「そんなことはない!私たちは主人とともにいた!日本で金原と会ったのはこれで初めてだ!」

 朱雀は否定する。だが、お構いなしにグレアは笑い飛ばした。

「いいや、会ったことはある。昔、魂を洗ったときにシアナの呪いはどこかに行き、その呪いが戻ってきたとき能力の一つを失ったことがあった!……ちっ!もうすぐなのにここまでか!名乗っておくぜ小僧!」

 そこまで言って親指を自分の胸にさし

「グレアだ!グレア・デルゼだ!覚えておけ!」

 そう言った後、サトルの体が倒れた。

 ……昔……会ったことがある……?

 覚はその言葉が響き、頭が痛くなる。

 ……なんだ?この感じ。殴られたように痛い……。

 そのまま、覚も倒れてしまった。

「主人!!」

「…ヒート!」

 最後にその言葉を聞きながら、覚は意識を失っていった。


 ――お前の力を強くしてやろう、鋭く感じ、敵を見抜く力を。見たことのない力を発現させよう。


「覚君、大丈夫ですか?」

 気がつくと、サトルは俺を見ていた。

 あいつはいない…いや、奥深くにいる。心の中に――

「あぁ、頭痛がしただけだ…それよりも、お前は大丈夫なのか?グレアっていう奴、あいつは何者だ?」

「……彼は僕のもう一つの人格です。ヴァンパイアとして覚醒したとき、目覚めた人格です。僕より攻撃的で危険人物なんです。シアナ……彼女の呪いも彼に関係しているんですよ」

「シアナって誰なんだ?」

「……僕が守っていた人です。彼女は優しかった」

 そう言ったサトルは遠い目で何かを見ていた。

「ヴァンパイアのことを明かしても彼女は驚かず、逆にお世話になった」

「じゃあ、なんで呪いをかけられるようになったんだ?」

 問うと、サトルは首を振った。

「……それはですね。言えないことです。これだけは見逃してください」

 ――『気配感知』を使わなくてもわかる。触れられたくない傷なんだ。

 サトルはそれ以上聞かれることを避けるかのように――

「僕はそろそろ、いなくなりますね。次は誰にしますか?」

「いや、明日は日曜日だ。お前、今日はここで寝なよ」

 そう言ったら、サトルは呆気にとられた顔をしていた。

 ……こいつ、感情豊かだな。いや、別人格をみたおかげか。

 それに、昼だったのにもう夜だ。

「そうですか。ありがとうございます。では、定時報告の時間ですので、先に寝ていてください。頭痛がしたようなので疲れているはずでしょうから」

「そうさせてもらおう。終わったら、必ず戻ってくるんだぞ」

「了解」

 そして、サトルは音もなく消えて、覚は明りを消して眠りに落ちた……。


 先日、サトルが戦った鉄塔の電線にサトルは座っていた。今から定時報告の時間だからだ。ブレスレットにコードを入力し、相手からの返信を待つ。

「コクロン・ユニバーだ。報告の時間だな。ちゃんと、時間は守っているようだね。・・・護衛対象に変化はないか?」

「僕が気絶しているときに頭痛がして倒れたそうなんです。……グレアの影響でしょう」

 一瞬ためらいグレアと口にした。

「グレア……君と彼はもう仲良くなっていると思っていたが?」

 サトルは一瞬、間を置き、続けた。

「……まぁ、シアナの話になると別です。シアナは僕が殺し、グレアが彼女を愛していた。……ここだけは何も変わらない事実ですかね」

 そう言ったサトルの顔は誰も見たことがない無表情の顔をしていた。

 ……幸いなのは司令官に見えていないことかな。今は音声だけの通信。この顔を見せたら驚くだろう。

「そうか。…深いことは私も知っている。何も言わない。だが、無茶と裏人うらびと行為はするなよ、いいな?」

 裏人――S.W.に対しての裏切りをした者の名称――行為はかつてしたことがあるが、あんな罰は受けたくない。

「はい。もうしませんよ。明日は日曜日らしいので定時報告はなしにしていただきたいのですが」

「ダメだ。休日でも報告は欠かさないこと。明日も待っている」

 プツンと通信は切れてサトルはうなだれる。

「さて、戻ろう。待っている人がいる」

 電線から降りて覚のあの部屋へ戻ろうとした、刹那!

「!!」

 何かが飛んで来たのでそれを避けるとそれが鉄塔にあたり爆発し、鉄塔が溶けた。

「この武器……僕の研究ラボから盗まれた……!プチボム!?」

 ここに来る前に奪われてしまった小型殲滅兵器のことを思い出した。

 飛んで来たところに目を凝らすと、暗い夜でも目立つ白いコートを着た人間がいた。

「お前か。S.W.の科学部名誉隊長……サトル・ユクロン」

「誰だ?……いや、もうわかっている。S.W.を裏切った人……裏人のアック・ステーリア!ALKATONESSに寝返り、僕の研究を盗んだ……!」

 声から自分の部下だった者を思い出す。

 思い出すことを許さないかのように、言葉が出てくる。

「お前の研究は役に立ったよ。とくに――」

「――!」

 アックは左腕を挙げて金色に光るガントレットがついていた。

「メカロイド……完成し、さらに改良を加えて……最強の兵器になった。お前の部下でよかったぜ。この技術を持ち込んで俺は幹部になれた!感謝するぜ」

「もう、完成させたのか!?」

 完成するはずのない兵器。なのに、完成させてしまった。

 これが奪われていたら――最悪な状況に!!

「ステルスモードでお前の報告を聞いていた。お前が来た時からな。金原とかいう奴だろう?細田は失敗したなぁ。あれで金原をさらえることができたのに」

 そう言われ、サトルは気づく。

 ――そうか、あの襲撃もなんだかタイミングが良すぎて気づけなかった。

 自分のふがいなさと予測不可能の事態に愕然とした。

「これで、俺を認めてもらうぞ!サトル!」

「認めないよ!兵器に転用しようとする君を今も認めない!メカロイドも最初は違うものだったのに!みんなが笑える未来ができると信じていたのに!君は!!」

「まだ、認めないつもりか……なら、ここで決着をつける!」

 アックは左腕を前へ出し――

「アルティメット・システム、発動!!」

 その瞬間、ガントレットが光り輝きエネルギーフィールドがアックを包む。その中から金色の装甲が浮き出て、それは徐々にアックの体に合わせて形成される。そのフィールドが消えたときアックは黄金の装甲をまとった姿になる。

「アルティメット…!ここまで…!!」

「来い、サトル。お前も発動し、兵器じゃないと証明しろ!!」

「…くぅ……!」

 サトルはブレスレットに手をかざし――

「ルシフェウス・トリガー、展開!」

 ブレスレットが光り、渦巻き状の歪みが現れる。手をその中に入れ、現代にみられない武器が姿を現す。色は黒。まるで盾のようだが盾ではない。だが表面に三十丸の紋章が刻んでいた。それを構え、グリップの引き金を引く。すると!

「ふん!」

 そこから、ビームが飛び出した。それはアックにめがけてくる。

「それだけか?」

 ビームが当たっても、アックはそう言った。なぜなら、装甲に傷がついていなかったからだった。

「アルティメット……ビームなら破壊できる装甲を何故!?」

「こちらから行くぞ!!」

「!!」

 アックはサトルの前に来ていた。アックは手のひらをサトルに向けた。そこから衝撃波が出てきてサトルを吹き飛ばす。

(主人!!)

 朱雀が叫び、人間の姿になって現れる。それと同時に自分の武器を形成、アックに斬りかかる。

「ほう、武器族を所有していたのか。なら、相手をしてもらうか!!」

「武器族と呼ぶなぁ!!」

 武器族、それは差別的な呼び方である。それに怒る朱雀、対してアックは冷静でいる。

「朱雀!」

 サトルも朱雀の予測していない行動に驚きながらも吹き飛ぶさいちゅうに、態勢を整え空間を蹴りアックに接近する。

「二人がかりか!面白いぞ!!」

 そのとき、サイレンが鳴る音が近づいていた。

 ――助かった。サトルは内心、安心しながらもアックから目を外さない。

「ここまでか…覚えておくがいい!!」

 アックはステルスモードを起動。姿が消える。

「待て!くそ!……朱雀、逃げよう」

「はい!」

 そこから撤退し、警察が来たあと、鉄塔が溶け、小さなクレーターがある光景を見て唖然とした。



 日曜日、朝――

 覚が起きて驚いた。なぜなら、サトルが血だらけで寝ていたから。

「お前、どうした!?血だらけじゃねえか!!何があったんだ!?」

 慌てる覚に玄武が小声で注意する。

「…ヒート、傷が響くから、声を小さくして」

 はっきりと聞こえたその声に従い――

「あっ……わかった。でも、なんで血だらけなんだ?」

 その問いに玄武が答えてくれた。

「……昨日」

「玄武!……教えないこと……痛っ……」

 サトルが起きて、玄武の唇に指をつけて言った。それで玄武は赤くなり黙った。・・・これで黙らせているのか?

 ――なんか、納得いかない。サトルの状態もだ。

「サトル様、その……ヒートの前でこんなことは」

 そうだ。そんなことをやるんじゃない!!

「……ごめん。でもこれは言わないで。僕の問題だ」

「……しゃべりたくないなら、無理して言わなくていいぞ。それより」

「ん?」

「玄武にそんなことをするな。お前にとどめをさしたくなる」

 今の俺なら、玄武を守れそうな気がする。

「……ヒート、それはやめて…」

 その時、ピンポーンとチャイムが鳴る。

 客か?でも、その前に――

「お前、押し入れの中に隠れろ。今の状態を見せるとまずい。血も拭かないと、殺人現場を見せてしまう。扉を開けている間に済ませろよ」

 苦肉の策だが、仕方がない。

「わかった。ありがとう」

 それにかまわず、扉へと急ぐ。待ってくれているだろうか。

「はーい」

 扉を開け、そこにいたのは――

「やっほー。遊びに来たよ。覚」

 絵理だった。

「絵理か、遊びに来たのか。今は、取り込み中だ……あとに」

「いやいや、遊びに来たんだけど違うの」

 ――違うのか、何で来たんだ?

「テレビ見られるかなぁって、すごいニュースがやっているんだよ」

 すごいニュースか。まぁ、いいんだけど――

「そうか、まぁ……上がれ。健も」

「……ちっ」

 さっきからちらちら見えていたぞ。ったく……。

 健が絵理の隣に来た。

「じゃあ、上がらせてもらうぜ」

「あぁ、来い」

 先に部屋に戻り様子を見る。

 ――うん、隠れているな。そうこうして二人も入ってくる。

「お邪魔します」

「邪魔するぜ……血のにおいがするな」

 撤回。一人、野獣がいた。それなら美女も気づくはず。

「そう?私は……あれ、血のにおいがする!?」

 やっぱり気づいた。

「いや、気のせいだろ。気のせい」

 こんなところで勘が鋭いところを見せてくれる。

 絵理、恐ろしい。いや、そう言っている場合じゃない。

「魚でも切っていたのか?」

 魚を切っていたか――助かった。

 しかし、俺は大量に朝から魚をさばく時間は無い。技術も。

「まぁ、そんなところだ」

 とりあえず、それでごまかそう。

「リビングで?」

「……」

 絵理が鋭い指摘を入れた。匂いがリビングまで来ているのだ。

 鋭い。その返事に困っていたとき――

「まぁ、いいんじゃねぇか?こいつがリビングで魚を切ろうがな」

 健、いつかお前にも同じ状況を創り出してやる!

「そうね。覚、早くテレビをつけて。見せたいものがあるの」

「わかった」

 絵理が押し問答を切り上げ、急かす。

 テレビの電源がつくと、そこには驚きの光景が広がっていた。溶けた鉄塔、小さなクレーター。繰り返される空中からの画像に、俺は驚愕していた。

「……真悟君が関係しているんじゃないかなって思って……だって、普通こんな光景、人間じゃつくれないでしょ?……覚、どうして目を逸らすの?」

「いや、逸らしてねぇよ?」

 どうしてサトルを真悟君と絵理が呼んでいるか。

 それは一昨日のこと、絵理を送ったとき、こんな会話があった。


『えぇっと、送ってくれてありがとう……』

『こいつのことはサトルって呼べよ』

『それだと、なんか混乱しちゃう…』

『今まで通りに真悟君と呼んでください。サトル・ユクロンの名前は助けを呼ぶときに使ってください。お願いします』

『うん、わかった。真悟君、改めてよろしくね!』


 それにしても、絵理はどうしてこんなに鋭いんだ?どこかで修業をしたんだろうか?

「絵理、聞いてもいいか?」

「鋭くなっていること?」

 一発的中。何も言えなくなる。しかし、聞かなければならない。

「……なんでわかった?」

「私も覚と同じように思考が読めるようになったの」

 健も思い出したように――

「俺もだ、覚。一昨日のあの件から何かおかしくなったようだ。絵理と俺は」

 ……そんな。それでは俺と同じ存在になった?

「まさか、昔の夢を見たとか言うんじゃないだろうな!?」

「「そうだけど?」」

 二人は息ぴったりで返してきやがった。

「おめぇらもシアナを見たのか?」

「ん?覚、何か言った?」

 その時バンと押し入れの襖が蹴られてずれてサトル、登場。

 しかし別人格である。そのことを知っているのは俺だけだ。

 ――血まみれであることを知っているのも俺だけだ。

「きゃぁああ!?真悟君!?血まみれよ!?どうしたの!?」

 絵理の当然の反応に――

「そんなことはどうでもいい!」

 サトル、もといグレアは二人に詰め寄り質問した。

「その夢に女は出てきたのか!?どうなんだ!?」

「……あなた、誰!?真悟君じゃないみたいね!名乗りなさいよ!」

 俺の説明がいらないみたいだ。

「はっ……そうだな、名乗るとするか!俺はグレア・デルゼだ。サトル・ユクロンのもう一つの人格だ。それよりも生娘、俺を見抜くとは……いい女になるぜ」

 生娘……。何ということだ。

 どういう結果を招くか知らないが。

「えっ」

「どうだ!俺の嫁にならないか!?」

 ――おかしなことを聞いているな、グレア。その言葉を口にしたことを後悔したほうがいいぞ。

 なぜ、そう思うのか。それは――

「嫁になれ…?はい、なります……って言わないわよ!!」

「ぐぁっ!!??」

 絵理のパンチに跪くグレア。

 絵理は一方的にものを言われることが嫌いなんだ。前にナンパしてきた男に対して、まわりが止めようとするほど凶暴になり、その男を病院送りにしたらしい。その後、その男が自分の仲間を呼び絵理に襲ったとき、俺が助けに入り守った。

 ……本当に男運が悪い。本人もこのことを気にしている。

「いいパンチだ。でも質問に答えてくれ、お嬢さん」

 重傷なのに話し続けるグレア。哀れに思うのは俺だけなのだろうか。

「女が夢に出てきたかどうかでしょ?出てきたわよ。怖かったし、あの夢」

「俺もだ……というより、お前は大丈夫か?その体で」

 珍しく健がグレアを心配している。同じ波長を感じたのか?

「……大丈夫じゃねぇよ………」

 顔がうつむき目を閉じたようだ。

「どうした、グレア?……大丈夫か?」

「……大丈夫ですよ、覚君」

 『気配感知』を使わなくてもわかる。サトルに戻った。

「真悟君、大丈夫?あの悪い人格、何様?」

「グレアは…ちょっと口うるさいし、女性に失礼なことをしますけど・・・いい奴なんですよ。それだけはわかって…ほ…し…くて」

 サトルはその場で意識を失い――

「真悟君!?」

「絵理、騒ぐな。静かにしてあげてくれ。こいつ、昨日何かあってこの状態なんだ。わかってくれ」

「……うん。わかった」

 絵理も納得してくれた。ところで、健。

「お前、何してるんだ?」

「いや、魚を探そうと」

 あれはごまかしのはずなんだが。

「魚を切っていないぞ。あれはこいつの血のにおいを紛らわせるための嘘なんだ」

「…魚はないのか…」

 本当に残念がっている。……そんなキャラだったか?

「そうだな、それでどうする?」

「「何が?」」

 忘れているのか?

「…遊びに来たんだろ?何かするか?」

 すると、俺の言葉で二人の表情がガラリと変わる。

「…覚、この状況で…遊ぶつもりだったの?」

「…変だぞ」

 二人から白い目で見てくる。話題を逸らそう。

「さっき、鈴木さんと青木さんと黄空さんと黒井さんを呼んだんだ。もう少しで来るって言ってた」

「転入生たち?どうして、連絡先知ってるの?」

 痛いところを突っ込んでくるが、予想の範囲内だ。

「草部先生に言われたんだよ。五人は同じ学校から来ていて真悟……サトルのことを知っているから、何かあったときは連絡するようにって連絡先を渡されたんだ」

「…鈴木さん、来るのか?覚」

 健が鈴木さんを気になっているのは知っている。

 『気配感知』で鈴木さんの名前を聞いたとき、オーラが穏やかになったからだ。

 そのとき、ピンポーンとまたチャイムが鳴る。俺はすぐにドアに行き、開けた。

「秘労がけがしていると聞いた。医者も連れてきた。あがってもいいかな?」

「上がってくれ」

 ぞろぞろと入っていく朱雀、青竜、白虎、玄武。最後に老人が入り、ドアを閉めた。

「さて、患者はどれだね?」

 その時、絵理がその医者を知っていたのか、声をかけた。

「あっ…佐藤先生。お久しぶりです」

「おや、絵理ちゃんじゃないですか。大きくなりましたね。健君も大きくなりましたね」

「あ…あぁ…はい、お久しぶりです」

 健は覚えていなさそうだ。

「むっ!血だらけではないですか、放置してはいけませんよ。意識も失っているし、顔色が悪い…輸血をしないと…えぇと、絵理ちゃん、健君、覚君は外に出てください。十分ぐらい外に出ても構いませんよ」

 そう言われ、俺を含めた三人は外に出ることになった。

 あの老人は絵理と健も知っている。佐藤さとう源五郎げんごろう、佐藤クリニックの院長先生、年齢は六十代。はげてはいないがたくさん白髪がある。なぜ、呼んだのか。

 あの人もS.W.だ。厳密には、日本に来たS.W.のサポートをする黒服くろふくという支援組織に入っている。どうして知っているのか。

 あの人が、俺の手を治してくれた人だからだ。一昨日、佐藤クリニックに連れて行かれた時、驚いた。この人も人間ではないのか……と。

 しかし、手当てしてくれたときに答えを教えてくれた。

 ちなみに、答えは――


『人間ですよ。覚君。私は家の事情でS.W.たちをサポートするだけですから』


 これを聞いて安心した。俺のまわりはもしかして怪物だらけかと思ったからだ。それにしても、絵理と健が不思議がっている。

「あの人、真悟君と同じかな?」

「そうじゃねぇか?」

「それじゃあ、遊びにいくか?あの事件現場に」

 俺がそう切り出すと二人の顔が曇った。

「あそこ、まだ人いるよ?…それに、まだ遊ぼうとしてるの?覚」

「……じゃあ、ここで待っているか?退屈だ。それとも、あの部屋に行くか?」

「あそこ?いいの!?」

「なら…行きてぇな。いいのか?覚」

「構わないよ。このマンションの管理者が言うんだぜ」

 言い忘れたことだが、このマンションは両親が事務的な管理をして、清掃や空き部屋の管理をしているのは俺だ。父さんは中小企業の社長。母さんは父さんの会社の副社長だ。

 今、両親は海外へ行っている。長い期間海外にいる。時々、連絡をしてきては学校の成績を聞いてくる。

 でも、そろそろ帰ってきてもいいんじゃないか?と思う俺。

「今から開けるよ。まだ空き部屋だから使える」

 複数の鍵をポケットから出し、じゃらっと持つ。…じゃらりじゃらり。

「……変なことはしないでよ。最近、おかしいわよ。佐藤先生に診てもらう?」

 ………。

「………さぁ、来い」

「無視しないでよ!」

 歩いて目的の部屋の扉の前につく。貼り紙が貼ってあり、空き部屋ですと書かれている。事実、俺が書いた。何年たっても誰も住まないのだ。

 その部屋の番号は00……あの有名な作品を思い出す。

 まずい、絵理が白い目で見始めている。これ以上、絵理にとってつまらない冗談を言い続けると平手打ちかグーが来る!

「そんなに凶暴じゃないわよ!!」

 俺の思考を読み、顔を赤くする絵理。

「絵理、怒るな。こいつは真悟と会ってから変わったんだ……変人に」

 変人に!?何といういいがかり!!

「おぉい…健、言うようになったじゃねえか」

 幼馴染の二人が俺を変人のカテゴリーに入れるのはもうすぐなのではないだろうか。そんな気がする。いや、確実になってしまう!ともかく鍵をみつけて鍵穴に差し込む。くるりと回しがチャッと音がした。

「やっと、入れる…変な冗談に付き合わされた…」

「俺もだ」

「…俺、そんなに変になったか?」

 二人ともうなずく。…これからは自粛しよう。この関係を続けるために。

 そして、ドアを開けると涼しい風が当たる。

 …涼しいな…そうか、空き巣か…!!

「誰だ!」

 俺は急いで中に土足で入る。部屋の中に入ると――

「…?」

「…?」

 俺は固まってしまった。こんな空き巣を見たことが無かったからだ。

「待って!覚!…!?覚……」

 絵理の声が心配から冷たさへと変わったのは無理もない。

 中には何も着ていない女がいた。

 巨乳でスタイルがいい……そんな感想を持った。

 死ぬ前の。


「ふぅむ…痛くないかね?サトル?内臓が破裂しているぞ」

 佐藤がそう告げた。

「えぇぇ!?主人、そんなに重傷なんですか!?」

 四人とも驚いているが、朱雀だけ大げさに驚いた。

「騒がないで…朱雀、内臓は破裂しているけど、大したことじゃないから」

 サトルは微笑みながらそう言った。内臓破裂は決して重傷なのは間違いないことだが、彼にとってたいしたことではないからだ。

「すぐに傷を治したい。佐藤先生、あのマシンは持っていますか?」

 あのマシンと言うと佐藤は頷いた。

「持ってきているぞ。本部に申請したらすぐに許可は下りなかったが、サトルと名前を出したらすぐに下りた。君の上司が申請を迅速に許可させたんだろうな」

 言いながら、鞄の中からケースと注射器を取り出した。

 これは、臓器を一から作ることができる装置『セル・メーカー?』……再生医療の最先端の最先端……つまり、人類が今持っている技術では半世紀経っても作ることができない。もっとも、これだけだと治療に時間がかかる。

「司令官か……」

「あまりしゃべらないで。この治療は時間がかかる。良くて二時間後に破裂した臓器と交換できる。その間は眠ってもらう…いいね?」

「わかりました。…朱雀、青竜、白虎、玄武」

「「「「はっ」」」」

「覚君のもとに行きなさい。僕の代わりに守るのです。全快したら、駆けつけ…ま…す………」

 眠りに落ちるサトル。四人は佐藤に頭を下げ、覚――護衛対象のもとに向かった」

「君はいい仲間を持っている。だから、生きるんだ…!」

 佐藤の孤独な戦いが始まった。


 その頃、00号室では覚がボロボロになって横たわっていた。

 コンマ五秒で絵理が覚に正拳突き。

 そして、二十連コンボともとれる鮮やかな技を繰り出し、健をすくませた。

 肝心の全裸の女性は驚きもせずその光景を見て感嘆の声を出していた。

(…絵理、強くなったな。覚と俺…用無しだ)

 健は冷静に分析し、今後は絵理に守ってもらおうかと結論を出そうとしたとき――

「すごいね、君!お姉さん、感激しちゃうかも!」

 全裸の女性は喜んでいるようだ。絵理はそれに怒った。

「あなた、誰なんですか!?なんで、服着てないんですか!?」

「事情があるのよ、ミステリアスな女にはね…でも、この部屋便利ね。エアコンもついていてお風呂とトイレは別になっている。なんていい部屋かしら」

 絵理の質問に答えず、女性は無視した。すると、覚が目を覚ました。

 ――死ぬかと思った。途中、三途の川が見えたが行っちゃダメって声が聞こえた。

 その声に感謝……いや、感謝すべきではない。

 絵理が怒っている。この状況、どう説明する?

「覚、この女何?」

 ドスが効いた声を出す絵理。ピークに達している。

「知らない、空き巣だろう!?」

「違うわよ、坊やたち」

 全裸の女性が口を挟む。

 ――ともかく、何か着てくれないと俺が殺される。

「とりあえず、服があるなら着てくれ。俺の命のためにも」

「そう?男の子ならうれしいシチュエーションだと思ったんだけどなぁ」

 そんなことを言ったら――!!

「………」

 絵理の気配が黒色に変わっていく。

 うれしいというより、戸惑う。それに、最近物騒なのでそのことはやめてほしい。

「わかった。着るわよ、でも、男の子たちは見てもいいよ?」

 まだ、誘惑を続ける女性。それでも俺たちは――

「「撤退する」」

 俺と健の声が合った。うれしいなぁ…。

 立ち上がって、くるりと反転、廊下に向かい歩く。

「私が見張るから…わかるよね?」

 その声が後押ししてくれた。

「「わかってるって」」

 どす黒くなっていく君のオーラに、俺たちは怖いんだ。

 そして外に出て扉を閉める。鍵までは閉めない。

「金原、何かあったのか?」

 今度はあいつの仲間か――!

「何もないよ、鈴木さん」

「…?」

 玄武が不思議そうに見ている。

 全裸の女がいて絵理に殴られた痕だろうか。

 あの二十連コンボ…すごかった。

「…ヒート」

「おい、覚。黒井さんに何をした?」

 玄武のヒートという言葉を聞き、絵理と同じ黒いオーラになる。

 ――許されないことでもしたんだろうか。

 寂しい想いをしていると――

「いいわよー」

 と、絵理の声が聞こえた。

「お前、後で話そうか。よかったな、絵理に救われて」

「…さぁ、みんなも入ろう」

「わかりました、金原。行こう」

 扉を開け、俺、健、朱雀、青竜、白虎、玄武も続いて入る。部屋まで入ると――

「残念、坊やたち。裸の時間はここまで」

「「何も期待していない」」

 また合う俺と健の声。しかし、それにしても――

「暑くないのか?その黒い服」

「まっ、これが私の仕事の正装なんだから、仕方ないんだけど?」

 仕事の制服か。

「あ、あなたは!?」

 朱雀が声を上げる。知っているんだろうか?この空き巣。

「あら、鈴木ちゃん。久しぶり!青木ちゃん、黄空ちゃん、黒井ちゃんも!」

 空き巣も朱雀たちの偽名を知っていた。まさかぁ。

「どうして、ここに?」

 朱雀がすかさず尋ねた。……嫌な予感しかしない。

「私、ここに引っ越してきたの。でも、この子がねぇ」

「何ぃ!?ここの住人!?」

 絵理の怒りが再起動した!

 知らない!まったく知らない!!

 ――まさか、知らされなかったのか?それとも、まだポストの中に手紙が入っているんだろうか?

「自己紹介、しないとね。私はララ・スクリアッド。秘労真悟の上司」

「上司……!S.W.なのか!?」

「うん。しかも、兵士部の統括。司令官の上、副社長と同じ権力を持つ」

 つまり、偉い人なのか!?裸で誘惑していた人が!?どこか、おかしくないか!?

「でも、初登場は刺激が過ぎたかしら?鼻血を出させようと頑張ったんだけどなぁ」

「……はぁ」

 絵理が疲れている顔をしている。説得で疲れたんだろうか。

 ご苦労様としか言いようがない。言ってみよう。

「ご苦労様でした、絵理」

「ありがとう……後でお話しましょう?」

 死ぬかもしれない。

「悪いな、健のアポが入っている」

「お先にどうぞ」

 健……!!



























終章「滅びのカウントダウン」


 トスカ島、Secret Workers 本部――

 建物の外に木に背中を預けた女性がいた。

「はぁ、名誉隊長がいないとローテーションが……」

 溜息まじりに、彼女の大変さが空気でわかる。

「ユクロンはまだ戻れない」

 その声に聞き覚えがあった女性が立ち上がり、敬礼をした。

「コクロン司令官殿!」

「いや、そのままでいいよ。アリス。私がここに来たのは、状況が悪くなったことを知らせるためだ」

「状況――!まさか、名誉隊長が!?」

 アリスは名誉隊長から自分が任務に出ている間は、目の前の人物の命令に従うことになっている。

「敵の新兵器が――メカロイドだ」

「メカロイド!?開発は凍結されたのでは!?」

 メカロイドはある一件により開発が凍結された。

 技術的な面もあるが、何より開発していた名誉隊長の部下が裏切り、データを持ち逃げされたのだ。

「敵の技術の方が上だったというわけだ。緊急事態として、君たちにもメカロイドを開発してもらいたい。いいだろうか?」



 ――ここは寒くて、暗い。どうしてここにいないといけないのかな?


「大丈夫だ。もうすぐ出してあげよう」

 その声はアックだった。カプセルの中身を安心させようとした。

 来るべき最終戦争に備えて。

 もう、仲間もいないからな。

 思い出させてやるぞ?


 サトル・ユクロン!!



没ネタ小説ですがよろしく。

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