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世界異世界物語(改稿前版)  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
変わる世界と変わらぬ貴女。 正しいのはどちらでしょうか。 分かりはしないけれど、私は変わらぬ貴女を愛しています。
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茶番劇

「んぅ……先輩……」


 蘇らせてもらってから、気持ちの悪さが抜けずに看病の名目で空亡の家にまで来たが、苛立ちが抜けない。

 当然、赤口の歪みきった愛情、それにより起こる出来事も不快だが……空亡がそれに浸るのも不快だ。

 合法ロリとイチャついてる奴がいるだけで不快なのに、双方が幸せそうではないというのが腹立だしさを五割増しにしている。


「とりあえず、元気そうでよかったよ。

俺はその場で放置されてたから身体中痛いが」


 嫌味を言って赤口を睨むが、彼の目は俺に向くことはない。 愛おしそうな目でベッドの上に寝ている空亡を見て、彼女の頭を撫でる。


「身体は治してやっただろ」

「だからと言って、あの場に一人放置はあり得ないだろ」


 違う。 こんなことを言いに来たんじゃない。

 潰れてから治ったからか、どうにも纏まらない頭が不快。 それを振り払うように彼を問い詰める。


「お前はなんで、空亡を振ったんだ。 好きだったんだろう?」


 空亡の頭を撫でる彼は、小さく見える。 一見すれば子供を愛おしそうに見る青少年だが、彼は隠すように引き締まっていて、瞬きを何度もして涙を耐えている。

 交際することになって、万々歳で両手を挙げて喜べよ。 両想いが叶ったのだから。


「……お前には、関係ないだろ」


 思わず、舌打ちをする。巻き込まれたとはいえ、部外者には変わりはないか。

 それは理解しているが、それだけで済ませれるほど俺は不人情か。


「好きの種類が違うとかか? 妹扱いとか、子供扱いとか」


 机の上に置いてある写真たてを手に取る。 空亡と赤口が映っている写真。

 顔を赤くして伏せている空亡、それをニヤニヤしながら見ている赤口。 制服姿で、後ろにも生徒がいるので学校での撮影だろう。

 見れば分かる。 異性同士だ、どう見ても。


「魅力的な女性だ」


 赤口は表情を変えずに語る。


「少し気が弱い節があるが、情に厚く人思いで貞操もある勇気もある、実は努力家で、それに笑った顔が可愛い」


 写真たてを置き、目を閉じて彼の言葉を聞く。


「そうか、なら良かったじゃねえか、好き同士でさ。 死ねよ」


 苛立ちを彼にぶつけると、がたりと音が出て、目を開けると彼は立ち上がっていた。


「よく、ねーよ。

全部、俺のせいだ」


 赤口の言葉は短く途切れ途切れに変わる。 赤口が何を言っているのかは分からないが、後悔や懺悔といった感情が読み取れる。

 歪みを矯正した表情は素直に泣き腫らす空亡のそれよりも痛々しくて見ていられない。


「何がだよ」

「新が、死のうとしたのも、死ねなかったのも」


 こいつが元凶でありクソ野郎なのは知っているが、振ったから自殺って状況では、こいつが悪いとは言えないだろう。 責任を感じるのも分からなくはないが。

 慰めるつもりこそないが、俺の考えを言おうとする。 赤口は俺を一瞥してから、扉を開けて外に出る。

 ついて来いという意味だろう。


 リビングのようなところで、赤口はソファに腰を掛ける。 座る場所はあるものの、赤口の隣しか空いていないので、そのまま立って彼の顔を見る。


「お前のせいではないだろう。 交際を申し込めば、振られることもあるだろう」


 まぁ、俺から見ても、ずっとイチャイチャしているように見えるから振られると思っていなかったのかもしれないけど。


 この部屋には、二つソファがある。 玄関にも傘が二つあった。 他にも、色々なものが二つずつ、そういうことなのだろう。


「逆なんだよ。 逆なんだ」

「ん?お前が告ったの? いや、そんなわけないよな……」

「さっきの話だ」


 赤口は俺から逃げるように、顔を逸らした。 責め立てるつもりはないが、苛立ちから語気が荒かったのかもしれない。


「俺が新を異性として見ていないわけではないんだ」


 それの逆。 つまり、空亡が赤口を異性として見ていない。


「それなら……交際しようとか、なんて」

「あいつは、見ての通り子供だ」

「見た目は子供だけど、高校生だろ。 子供ってほど子供でもない……はず」


 少し前の記憶。 彼女が赤口に縋っていた姿は、だだを捏ねる子供にも見えた。 それのせいで、断言が出来ない。


「あいつ、心も体も、子供の時のままだ」

「……はぁ?」


 一瞬、わけが分からなくなるが、そういえば「成長が止まった」と言っていたか?


 どうも、空亡の中の世界のことはどうも曖昧な記憶だ。


「俺が、新の成長を止めたんだ」

「あー、そういうのもありなのか」


 逸らした彼の顔をテレビの黒い画面が反射して見える。 泣いている。


「あいつの親が二人とも旅に出て行って、姉が自殺したすぐだった」


 親のネグレクト。 それに姉の自殺か。 部屋を見回しても、そんな様子は見受けられない。 随分昔のことだからか。


「あいつの心は、それを受け入れる前に俺が止めたんだ」

「……んなこと、出来るのかよ」

「知らなかった。 途中で知っても、変わらない新が好きで、止めるのをやめなかった」


 口から声が漏れ出る。


「クソ野郎が」


 彼の声は震えない。 神とやらは随分と器用だ。

 唯一神ではなく、八百万の神といった系統なのだろうか。 威厳なんて感じられない。


「そうだな。 そうなんだよ」

「んで、どうなった」


「新は、両親と姉の代わりを求めたよ。 俺はそれになった」


 ああ、だから……「逆」か。


「そっか、無駄なことを話させて悪かったな」


 リビングから出て、玄関に向かう。 赤口の声だけが、聞こえる。


「どこに、行く」


「家に帰る。 そろそろ飯作って風呂沸かさねえと。

ああ、誰がどう見てもそんな関係には見えないから安心しろよ。 ただのイチャイチャしてるバカップルだ、死ねよ」


 とんだ茶番だったとしか言いようがない。

 世話を焼く必要もなかった。


 少々乱雑に扉を閉めて、夕暮れの道を歩く。 今日は変な体験をした。

 そういえば、あいつらボードゲーム部ってやつに所属してたか。 愉快な奴らだし、また明日行ってみるか。 少し楽しそうだ。


 あいつらは、ほっといてもなんとかなるだろうが、暇つぶしに世話でも焼いてやるか。


 買った覚えのない、ポケットに入っていた十円の飴を取り出して口に放り込む。

 味がちゃんと分かって美味い。


 残った袋を見れば、クジの場所に「あ」の文字が見えた。


「お、あたり」そう思ったが、違った。




「こんなことも出来るんだな。

ありがとうって、ツンデレかよ。赤口は」


 チャチな礼だ。 あれだけ苦労したのに手に入ったのは飴玉だけ。

 まぁ、概ね満足な結果だ。



次完結

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