生姜焼きの付け合わせ
冷蔵庫から豚肉を取り出し、ボールに入れてみりん・醤油・しょうがを加える。軽く揉んでまた冷蔵庫へ。ここまでの手順を本で確認。よし、分量オッケー。
次にジャガイモの皮をむいて小さく切って、ラップをかけてレンジでチン。ついでに冷凍のミックスベジタブルも一緒に。柔らかくなったジャガイモをフォークでつぶして(マッシャーなんておしゃれなものは生憎家には存在しなかった)、ミックスベジタブルとマヨネーズと塩を入れて混ぜる。これでポテトサラダの完成。
あとはキャベツを千切りにして、ごはんをお弁当箱に詰める。
そもそも、なぜか堀田君とお弁当交換をすることになってしまったが、私は決して料理上手というわけではない。厳密に言えば味付けが少しおかしいらしい。今まで付き合った人の中で、何人かに手料理を振る舞う機会があったが、その誰もが「なんでこれをここに入れた?」という意見だった。
どうやら私は基本の味付けにプラスして余計な一手間を加えてしまうらしく。なぜと言われてもそれが母の味だったからとしか言いようがないのだが、世間一般では変わった味付けと認識されてしまうようだ。まあ育ってきた環境は人それぞれだから、それは仕方ないとあきらめた。いつかそれを受け入れてくれる人が現れるかもしれないしね。
しかし今回に関しては、一般的な味付けでこなすべきだろう。相手が彼氏云々ならともかく、彼はただの後輩だ。先輩としてのプライドがあるので、なるべく無難なお弁当を作ろうと思う。というかまどかにも「紗代さん、まずは基本の味付けからだよ。」と「お弁当100選」というレシピ本を手渡された。
そんなわけで、レシピ本とにらめっこしながら調理中なわけ。
そろそろ味が染みただろうお肉を取り出し、フライパンに油をひいて投入!ジューッとお肉の焼ける音と香ばしい匂いが広がる。ああ幸せ…。この瞬間が大好き。
あとはお肉を入れるだけだったお弁当箱にできたての生姜焼きを詰め込む。堀田君もお肉が好きだって言ってたから、多く入れて失敗することはないだろうと遠慮なく。そして余った分は私の朝ごはんに。
よーっし、完成!レシピに忠実に作ったこの生姜焼き、文句は言わせない!
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そして待ちに待ったお昼。先日と同じメンバーでテーブルを囲む。
さっきからそわそわと大きな体を動かしていた堀田君に、渾身の作であるお弁当を渡す。
「レシピ本見て作ったから味は大丈夫…だと思う。他にも何か気付いたこととかあったら教えてほしい。」
「ありがとうございます!これ、俺が作った弁当です。どうぞ!」
女性サイズのお弁当箱を受け取り、早速蓋を開けてみる。…おお、おいしそうな生姜焼き。だけど全体的に茶色いぞ。
「堀田…お前は彩りというものを知らないのか?」
まどかの旦那の言うとおり、堀田君作のお弁当は、どうにも彩りに欠けていた。
生姜焼き、はまだいい。これはもとから茶色だから。だけど、他のおかず…きんぴらごぼう、付け合わせのもやし炒め、そしてごはんの上にはおかかふりかけ。せめて一つでもいいから緑があればもっとマシだったはず…。
「へえ、堀田君は生姜焼きにはもやしなんだ。私の実家と一緒だねー。」
にこにこ顔のまどかが言うが、今は付け合わせ云々より色について言いたい。だって、堀田君は受付のあの子にお弁当渡したいんだよね?女の子受けするお弁当を作りたいんだよね?!なんかこう、うまく説明できないけど…なんか、ねえ?!
「なんでおかかふりかけにしたの?」
とりあえず一番気になるそこを聞いておいた。すると堀田君は居心地悪そうに、微妙に目線を逸らしながら…
「たまたま家にあるのがそれだけだったんで…。」
なんて言ってくれた。いやいや買おうよ、お弁当にふりかけって結構大事でしょ。ちなみに私は大好きなあの黄色いたまごふりかけだ。ミックスベジタブルで赤や緑も補い、彩りとしては及第点だと思う。
「そこにミニトマトとかブロッコリー入れるだけで全然違うよ。」
先生役のまどかが堀田君にアドバイスし、それを「なるほど!」と頷きながら聞き入れる彼。まあ最初だしね。これからの成長に期待ってことで。
「いただきまーす」と手を合わせていざ!
まずは生姜焼きを。…おいしーい!味もしっかりついて、甘辛い味でごはんが進むね。もやしと一緒に食べてもあっさりしておいしい。この組み合わせは初めてだけど、結構好きかも。今まで生姜焼きの付け合わせといったらキャベツだと思ってたけど…やっぱり何でも人それぞれなんだな。
堀田君は堀田君で、ポテトサラダが気になるみたい。
「うちのポテトサラダはきゅうりとハムだったんですよ。でもミックスベジタブルって手軽に使えそうだし、こうやって彩りも良くなるし、いい材料ですね!勉強になりました。」
「家庭によって具が変わるっておもしろいよね。私も今思ってたんだ。」
「ですよね!ていうか、長岡さん料理はあんまり、みたいなこと言ってましたけど、そんな謙遜しなくてもいいじゃないですか。美味かったです。肉もたくさん入れてくれてありがとうございました。ご馳走様でした!」
そうして空になったお弁当箱を交換して、初日は無事終了した。
これなら頑張れるかも…?
次の肉料理は何にしよう…迷います。