天使と悪魔とずっと一緒
ーーー死を迎えるその瞬間までに、お決めください
ーーーいつでも迎えに行きます
そう言ったイムの声が頭から離れなかった。
エリオルとゼルヴァが現れた日から知ってたことだった。
失恋して、もうどうでもいいと思ったけど、
「命を大事にしろ」「自棄にならないでください」と言われて、今まで笑えてた。
……すっかり忘れてた。
きっと、残りの時間は少ない。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
朝が来ると我が家には天使と悪魔がやってくる。
「晩飯はなんにする?プロテインか?鶏肉か?ゆで卵か?」
「なんでそのチョイスなのよ!」
「なら僕と食べに行きませんか?そこの駄天使(誤字ではない)など置いて」
「いかない」
メイクをしながら答え、吹き出す。
我が家の日常生活。
あんなに迷惑だと思ってた2人がいない生活など考えられなくなるなんて、出会った頃は夢にも思わなかった。
「ねえ、明日休みなんだけど、行きたいとこある?」
無意識に尋ねていた。
一緒に出かけたい、過ごしたいと思っていたらしい。
「水族館…なんてどうですか?」
応えたのはゼルヴァだった。
「すいぞ…なんだって?」
エリオルはわからないようだ。
「じゃあ、明日行こうか、水族館」
3人で遊びに出るのは初めてだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
翌日、電車を乗り継ぎ、水族館へと向かった。
イムにも声をかけたが、忙しいらしい。
というか、エリオルとゼルヴァが暇しすぎている気もする。
薄暗い館内の壁に埋め込まれた水槽で、さまざまな魚が泳いでいる。
「こんなところに閉じ込めて、何が面白いんだ?」
ふいにエリオルが水槽を覗き込みながら首を傾げた。
「そこがいいんですよ」
ゼルヴァは楽しそうに笑う。
「自分では何もせず、眺めているだけでいい。実に人間らしい娯楽でしょう?」
神だって人間を箱庭に閉じ込めようとしたじゃないですか、と悪魔らしく続けた。
それを聞いてエリオルは、なるほどとうなづく。
「まあ確かに。安全だし、食いっぱぐれはないな」
良かったな?とガラス越しに魚に話しかける。
「……いいの?それ」
思わず呟くと、難しい問題ですねと、ゼルヴァ。
「自由の代わりに空腹や死の危険が常に寄り添うのと、安全が担保される代わりに束縛されるのと、どちらが幸せか…なんて本人にもわからないでしょうね」
いつもバカだと思っていたけど、こういう時、別の生き物なんだな…と思い知らされる。
ちなみにエリオルはタコに怯えたりもしていた。
なぜにタコ?
「イルカのショーもあるって!見る?」
尋ねると2人はノリノリで着いてきた。
すごく楽しい一日だった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
一日遊び倒して、日も暮れて、
じゃあ、帰ろうかと歩き出したその時だった。
信号は確かに青だった。
横断歩道を渡ろうとしたら、眩しいライトを感じた。
長い一瞬だった。
視界の端でエリオルの手が私の手を掴もうとして、空を切った。
ゼルヴァが何か叫んでいる。
ーーーごめんなさい
と口を動かしたかったけど、動かなかった。
ああ、終わるんだ…と理解した。
涙が流れたかもしれない。
ーーーまだ3人で…楽しく暮らしたかったな
最後にそんなことを考えていた。
「それが、あなたの選択ですね」
どこからともなく聞こえたイムの声を最後に、意識は途切れた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「「馬鹿かお前はーーー!」」
天界と魔界、二つの領界で怒鳴り声が上がった。
「「小娘の魂一つ持ってくる様な」」
「「簡単な仕事さえできないとはな!」」
まるで示し合わせているかの様に天界と魔界の主人はいう。
「お前に神罰を与える」
「最後の慈悲だ、受け取れ」
それぞれの場所でエリオルとゼルヴァは瞳を閉じた。
最後に脳裏を横切ったのは、短い間の賑やかで楽しい3人で過ごした時間だった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「ええ、わかりました。それでは《彼らも》うちで預かります。」
そう言ってイムは通話を切った。
天界と魔界から預けられた命。
数日前にこの部屋にきた彼らを思い出し少し笑った。
「まあ、これはサービスということで」
そして愛用のノートパソコンに何か入力し始めた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
深和さんたちの物語はこうして幕を閉じ、
新たな物語が始まりました。
え?それからどうしたかですか?
彼女たちはもう一度出会い、
幸せに暮らしました、ですよ。
当然です。私は仏、ですから。保証します。
対戦ありがとうございました。




