天使と悪魔がやってきた
対戦、お願いします!
私、佐藤深和はもうすぐ、死ぬらしい。
それをおせっかいにも教えてくれたのは、
私の前へ舞い降りたやけに筋肉質な天使と、紳士な姿の悪魔だった。
「お前はもうすぐ死ぬ」
「あなたの魂を迎えにきました」
彼らはそう言って私に手を伸ばす。
手を取れという意味かな?
って!
「いや、そう言われても困るし!?
だいたいもうすぐっていつよ!?」
私は2人の手をはたき落した。
「………さあ?」
首を傾げる天使エリオル。
「いつか、です」
目を逸らしながら悪魔ゼルヴァ。
「知らないんかいっ!!」
役に立たないな!
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
ゼルヴァは私に尋ねた。
「僕と一緒に行けない理由はなんですか?」
「彼女は俺と一緒に天界に行くからだ!」
エリオルが割り込むが彼は無視した。
「なにか未練でも?」
赤い瞳で私を見つめる。
私はぐっと息が詰まった。
私には好きな人がいる。
同じ会社の鈴木健先輩、確か3歳上の28歳。
すごく仕事のできる頼りになる先輩。
片思いだけど、彼を見つめていられるだけで幸せだし、話しかけれた……それがただの挨拶や業務連絡だったとしても、天にも昇る気持ちだった。
「天にも昇るだとよ、深和は天界に行くことを望んでいるぞ」
「比喩でしょう?」
エリオルが勝ち誇り、ゼルヴァは呆れた様にツッコミをいれた。
「魔界の空気の方が落ち着けます」
「死んでもいいと思っても、ほんとに死にたいわけじゃないからねっ!」
私が言うと、なんで?と、まるで理解できないという顔で2人がこちらを見る。
しばしの間。
エリオルが溜息をついた。
「つまりだ、その男が気になって成仏する気になれないと…」
「成仏って仏教用語では?」
おもわずツッコむ。天使が使う言葉じゃない。
あ。と、エリオルは口をパクパクし、ゼルヴァは視線を逸らした。
「そ、それはあれだ!天界も多様化の時代なんだ!グローバル化だ!」
大きな翼をバサバサさせてエリオルが言うが、すっごく怪しかった。
「とーにーかーく」
ゼルヴァが声を上げた。
「あなたには未練なく魔界に来てほしいのです」
「いや、そもそも魔界とか行きたくないし」
「なんでっ?!」
当たり前だ。
魔界だよ?
行きたい人いると思う?
「普通は天界とか魔界とか選べるなら、天界でしょっ!?」
「だよな!じゃあいくか!?」
割り込むエリオル。
「「うっさい!お前は黙ってろ!」」
「なぜだ!?」
私は頭を抱えた。
死ぬって言われた時点でも十分困っているのに、なんで死後の就職先まで選ばされているんだろう。
「彼氏できるまで、絶対に死にません!」
きっぱりと私。
決まった!
「わかりました」
ゼルヴァは咳払いひとつ。
「私が彼氏になりましょう!そして共に逝きましょう!」
「だれがいくかっ!!」
ハリセンが欲しい。大きいやつ。
スパーンっ!ってやりたい。
「そうだ!男は顔より筋肉だっ!」
そして当然の様に割り込むエリオル。
「「お前は黙ってろっ!!」」
はぁはぁと上がった息を深呼吸して落ち着ける。
「なら簡単じゃないか、告白すれば良い!」
エリオルは歯磨き粉のCMのような白い歯を見せて、いい笑顔で言った。
「それができれば苦労しないよー」
クッションを抱えて私は答える。
恥ずかしくてバレンタインのチョコすらまともに渡せないのだ。告白などとてもじゃないができる気がしない。
「ではまず、情報を教えてください」
真面目な声でゼルヴァ。彼は「まずは外堀を埋めるのが常識でしょう…」と言い
「つまり、落とすべきは上司!」
「落としてどうするーっ!!!」
あまりにも自信満々の彼をクッションで殴った。
ああ、ハリセンが欲しい。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
こうして、天使と悪魔と私の奇妙な生活は始まった。
とは言っても、夜はちゃんと出ていってくれるので、そこだけは紳士だ。
ただ、昼間がうるさい。
起きた時にはもう部屋にいて、騒ぎ、
仕事にもついてくる。
私にしか姿が見えないので大きなトラブルに放っていないけど、たまに全力でどつきたい時もある。
たとえば……今だ。
昼休み、デスクで食事をとっている鈴木先輩にエリオルとゼルヴァは近寄っていった。
そして、見えないのをいいことに、エリオルは後ろから覗き込むように、ゼルヴァは先輩の机の上に腰を掛けて先輩のお弁当を覗き込む。
『こりぁあ…』
『えぇ…』
意味深な2人に、口パクで「なにが?」と伝えた。
『多分だが…いるぜ』
『七割の確率で恋人がいるかと』
確率高っ?!
ーーーなんでよ?
『このお弁当は自作ではありませんね』
『今どきの母親でも、成人男にこんな手の込んだモンはつくらねぇよ』
『このピックは若い女性ですね…』
『付き合って、まだ日は浅いな…』
私の席からは見えないが、相当手が込んでるようだ。
にしても詳しいな!弁当鑑定団かっ!
『…それに比べて深和の弁当は色気がないな!』
わっははと笑うエリオル。
殴りたい。あの顔面を。巨大なハリセンで思い切り。無駄なイケメンがボコボコになる位。
『まあ、七割ですから。残り三割に賭けましょう』
『そんな落ち込むなって』
そう言われても…と私は落ち込んだ。




